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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
炎の洞窟

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第389話 枠被りの大蛇

 アイギスで炎の洞窟調査用の新装備を受け取ったレオニス。

 店を出てふと上を見上げると、空はまだ明るく夕方になる手前くらいか。

 今日の夜は冒険者ギルド総本部ギルド併設の直営食堂にて、グライフの冒険者復帰祝いをする予定だ。

 時刻としては、直営食堂に向かうにはまだ早い時間である。


 レオニスは、ここから数分歩けばスレイド書肆があることをふと思い出す。そう、実はアイギスとスレイド書肆は同じ大通りにあるご近所さん同士なのだ。

 今日の予定は復帰祝いを除いて全て終えたレオニス。時間潰しがてら、スレイド書肆に向かうことにした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 スレイド書肆の前に立ち、重厚な扉をそっと開くレオニス。

 入口には『店休日』などの看板はなかったので、まだ営業中のはずだ。


「ぉーぃ、グライフ、いるかー?」


 人気のない店内を、そーっと覗き込むレオニス。どことなくおそるおそるといった感じで入っていくのは、先日のグライフからいただいた強烈な肘鉄の余韻のせいか。

 しばし待っていると、奥からグライフが出てきた。


「……おや、誰かと思えばレオニスじゃないですか。いらっしゃい、本日はどういったご用件で?」

「いや、さっきまでアイギスにいたからな。ついでにここも寄ってみた」

「ついでとはまた失敬な。貴方もたまには書籍のひとつも買っていったって罰は当たりませんよ?」

「ま、そのうちな。つーかグライフ、今日の晩の約束、覚えてるよな?」


 自分の店をついで扱いされたグライフ、レオニスの言い種に呆れたような顔で文句を言う。

 そんなグライフに、今日の予定を忘れていないか念押しで聞くレオニス。


「ええ、もちろん覚えていますとも。私なんかのために復帰祝いをしてくれるなんて、ありがたいことですからね」

「そうか、忘れてなけりゃいいんだ」

「何ですか、もしかして私が忘れてても引きずり出すためにわざわざ迎えに来たんですか?」

「いや、ただ単に時間が余ったから暇潰しついでにな」

「暇潰し……レオニス、貴方本当に失敬ですね……」


 またも失敬なレオニスの言い種に、グライフは呆れ返る他ない。

 そこは普通に迎えに来たと言えば可愛げがあるものを、暇潰しと正直にぶっちゃけてしまうのがレオニスクオリティというものである。

 だが、グライフとてレオニスとはそこそこ長い付き合いがある。故にレオニスの性格も重々承知しているので、この程度の失敬は許容範囲内である。


「ま、今日の復帰祝いはお前が主役だからな。祝いの最中はそんなに話もできんだろうし、今のうちにお前の近況でも聞いとこうかと思ってな」

「なら最初から素直にそう言いなさい、全くもう……」

「で?こないだ会った時には『鋭意リハビリ中』とか言ってたが。調子はどうだ?」


 会計用カウンターの前に置かれた椅子にドカッと座り、背凭れの上に両腕と顎を乗せながらグライフに近況を尋ねるレオニス。

 グライフはカウンター内で帳簿を見ながらレオニスの質問に答える。


「まぁそれなりにやってますよ。とはいえ、冒険者ギルドで依頼を受けるのも週に一度か二度程度ですからね、まだまだ本調子とは言えませんが」

「今は何の依頼を受けてるんだ?」

「主にラグナロッツァ近郊のビッグワーム狩りをしていますが、一昨日はイエロースライムの生け捕りをしてきましたよ」


 一昨日レオニスから自身の復帰祝い開催の話を聞いた後に、スライム生け捕り受注を引き受けてきたらしい。

 スライム生け捕りはビッグワームと並ぶ常時継続掲示の二大巨頭依頼だ。捕えたスライムの色により買取価格が変動する。

 イエロースライムはレア度こそ然程高くはないが、黄色のぬるぬるドリンクの需要が高いため買取価格はそこそこ良い方だ。


 だが、新人初心者でも頑張れば狩れるビッグワームに比べて、スライムの生け捕りは難易度が数段跳ね上がる。ただがむしゃらに戦って倒せば良いビッグワームとは違い、『生け捕り』という文字通りに生かしたまま捕まえなければならないからだ。

 生け捕りにするにはある程度スライムを弱らせなければならないが、瀕死の重症を負わせてもいけない。スライムを持ち帰る間に死なせてもいけないから。

 それらの匙加減が難しい故に、スライムの生け捕りはそれなりの経験者でなければ務まらないのである。


「スライムの生け捕りとは、さすがだなグライフ。その依頼は俺には逆に難しくてできん」

「まぁ微妙な力加減が必要な依頼ですからね。確かに貴方の馬鹿力ではスライムの頭を撫でただけで瀕死になりそうです」

「ぃゃぃゃ、お前こそゴリゴリの拳士職なのに何でスライム捕まえられるの?」

「世の物理職全てが脳筋ではありませんよ? というか、貴方だって魔法を使えるんだから弱めの電撃魔法でも使えばいいのに」

「…………おお、そういやそんな手があったな!」


 グライフにスライム捕獲の秘訣を問うたレオニスに、グライフはふぅ、と半ば呆れつつ己への脳筋疑惑を否定する。

 そして脳筋疑惑を払拭すべく『スライム捕獲には魔法を使え』という秘訣をレオニスに教示する。

 そう、スライムの生け捕りに最も有効なのは魔法攻撃、特に電撃魔法で痺れさせるのが最も効くとされている。

 スライムの身体は水分たっぷりなので、雷で痺れさせて持ち帰るのが一番安全かつ確実なのだ。


「でもなー、俺の場合魔法の強弱のコントロールもあまり上手くなくてなぁ。特殊系や変異系ならともかく、普通の弱いスライムだと魔法でも一撃でやっちまうんだよなぁ」

「レオニス、貴方……物理攻撃だけでなく魔法攻撃でも全力脳筋一直線なんですか?」

「うるせー。俺に繊細な力加減求めんじゃねぇよ」


 生け捕り依頼は魔法攻撃、ここら辺はレオニスも基礎知識として知ってはいる。だが、レオニスはそもそも魔力が高いので魔法攻撃での威力もまた桁違いに強いのだ。

 レオニスの初級魔法は、他の平均的な魔法使いの中級から上級魔法の中間くらいの威力がある。レオニスの場合、弱いスライム相手では初級魔法でも100%の確率で一撃で倒してしまうのだ。

 それ故レオニスはスライムの生け捕り依頼はあまり積極的にこなしたことがない。


「まぁ、貴方の場合スライム生け捕り依頼などしなくても他の依頼で引く手数多でしょうけど」

「……ま、そういうことにしといてくれ」

「ああ、そうだ。ここにいるうちに聞いておきたいことがあるのですが」

「ん?何だ?」

「フェネセンの行方不明の件です」

「ああ、それか……」


 話のキリのいいところで、グライフがレオニスにフェネセンの件を問うてきた。

 グライフの冒険者復帰祝いのために直営食堂に行けば、この話題は口にすることができなくなる。話をするなら二人きりで話せる今のうち、ということであろう。


「ライトからだいたいのあらましは聞きましたが、未だに連絡の返事はないのですか?」

「ああ……あれから毎日魔導具での連絡を試みてはいるんだがな……」

「連絡がつかなくなってから、どれくらい経つんです?」

「もう二ヶ月は過ぎた。普段のフェネセンなら、半年一年くらいほっつき歩くのは当たり前のことなんだがな」

「やはり、八年前のようにどこか亜空間とか異次元にでも閉じ込められてるのでしょうか……」

「そうとしか考えられんが……だが、もしその推測が的中していたとしても俺達にはどうすることもできん」


 レオニスもグライフも顔を顰めた悲痛な面持ちになる。

 友を助けたいのに、救いの手を伸べることもできない悔しさ、もどかしさ。それは、八年前にも散々味わった気持ちだった。

 二人はしばし無言になり、沈痛を伴う静寂が流れる。


 すると、ここでふとグライフが口を開いた。


「そういえば、フェネセンが行方不明になった八年前の三年後、五年前にフェネセンはどこで発見されたんでしたっけ?」

「えーと……確かノーヴェ砂漠のど真ん中に現れて、そこから最も近い南レンドルーの街ネツァクに向かって戻ってきたはずだが」

「ノーヴェ砂漠のど真ん中ですか……日々監視するにはかなり厳しい地ですが、今度時間のある時にノーヴェ砂漠でも行ってみますか?」


 グライフの提案に、レオニスは目を見開きしばし考え込む。

 かつてフェネセンは廃都の魔城の四帝の悪辣な罠にかかり、そこから抜け出すのに三年という月日を要した。

 今回も同じ場所に閉じ込められているとは限らないし、むしろその方が可能性としては低いだろう。

 だが、前例があるならそれを調べるのは有意義だ。たとえ可能性が砂粒一つであろうとも、完全なゼロでなければ調査する価値はある。


「…………そうだな、何もせずにじっと待つだけなのも苦痛だしな。前回戻ってきた場所なら、一度見に行ってみるのもありだな」

「ではその際には私も調査に同行しましょう」

「ああ、近いうちにノーヴェ砂漠に行ってみるか」

「私もそのつもりでリハビリに精を出すとしましょう」

「グライフ、お前ね……まだリハビリとか言ってんの? スライム生け捕りできてりゃもう十分でしょうが」

「金剛級冒険者ともあろう者が、何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?スライム生け捕りとノーヴェ砂漠探索を同列に語るなど、寝呆けてるとしか言いようがありませんね。準備不足の私をノーヴェ砂漠で干上がらせるつもりですか?」

「ぐぬぬぬぬ」


 今日もまたグライフから寝言吐き呼ばわりされるレオニス。歯軋りしながら悔しがるも、グライフの言うことは紛うことなき正論なので反論できない。

 そう、冒険者復帰したばかりのグライフに灼熱地獄のノーヴェ砂漠の探索は実際体力的にかなり厳しいのだ。

 だがそれでも、友のために行くと決めたグライフ。そのためには今以上に冒険者としての勘や体力を取り戻さねばならない。


「さ、そろそろ直営食堂に向かう頃合いですかね」

「おう、そうだな。気の早い奴はもう会場入りしてるだろ」

「では私達も行きますか」

「ああ。今日はとことん飲ませてグライフを潰してやるからな、覚悟しとけよ?」

「上等です。何なら私と酒の飲み比べしますか?返り討ちにして差し上げますよ」


 レオニスがグライフを揶揄うも、グライフは顔色ひとつ変えることなくその挑発を受ける。

 だが、挑発した側のレオニスは何故かここでグッ、と言葉に詰まりがっくりと項垂れる。


「……ごめんなさい、俺明日重要な依頼あるんで深酒できません、返り討ちは勘弁してください」

「ふふっ、冗談ですよ。そもそも貴方、酒などほとんど飲まないでしょうに」

「くっそー、飲めん代わりに爆食いしてやる!」

「私は主賓ですから会費無しですよね?貴方も好きなだけ食べるといいですよ、私も存分に飲ませていただきますから」


 項垂れるレオニスを見て笑うグライフに、レオニスは悔し紛れに爆食い宣言で反撃を試みる。

 だが、グライフとて負けてはいない。冒険者復帰祝いの主役特権『会費無し』をいいことに、飲み放題宣言を高らかに宣う。

 これにはレオニスも本気で焦りだした。


「え、ちょ、待、グライフ、お前が存分に飲むとか洒落なんねぇからやめろ!お前昔っからザル被った蟒蛇(うわばみ)じゃねぇか!」

「ザル被りの蟒蛇とは失敬な。私なんてせいぜい『枠を王冠にした大蛇(おろち)』程度だというのに」

「余計に酷ぇじゃねぇか!」


 そう、このグライフという男、実はかなりの酒豪である。

 どんなに強い酒をたくさん飲んでも、涼しい顔して決して酔うことがない。ラグナロッツァで酒飲み勝負をしたら、グライフの右に出る者はいない、とまで言われるほどの酒豪で知られているのだ。


「冗談ですよ。只酒だからって浅ましく飲むような真似はしませんよ」

「お前のは冗談に聞こえねぇんだよ……普段から冗談なんて滅多に言わねぇくせに」

「おや、では冗談にせずに本気を出していいのですか?」

「やめろ、やめるんだ、やめてくれ……つーか、どうして俺はこうもお前ら血族に口で勝てないんだ、チクショウ」


 そんな他愛もない軽口を叩いているうちに、本日の復帰祝い会場である冒険者ギルド直営食堂に到着したレオニスとグライフ。

 表通りの扉を開けると、そこには既に大勢の冒険者仲間が待っていた。


「おっ、グライフ!ようやく来たか!」

「何だ、レオニスの旦那といっしょに来たのか?」

「皆待ちくたびれて居眠りしちまうところだったぜ!」


 すぐに大勢の冒険者仲間に囲まれたグライフ、あっという間に食堂の真ん中に連れていかれる。

 待ち構えていた仲間が、溢れそうなほど満杯に酒が入ったジョッキをグライフとレオニスに笑顔で渡す。


「さぁさぁ、主役と幹事のお出ましだ!今日はグライフの復帰を祝って、とことん飲もうぜ!」

「「「「おおおおおッ!」」」」


 冒険者の世界から一度去った自分を、こんなにも温かく出迎えてくれるとは―――グライフの胸に熱いものが込み上げてくる。

 グライフは仲間達に代わる代わる肩を組まれ「グライフ、おかえり!」「さぁ、今日は飲むぞー!」と声をかけられ思わず笑顔が溢れる。

 いつも知的でクールなグライフが、照れ臭そうに破顔する様は滅多にお目にかかれない珍しいことだ。

 仲間に囲まれて嬉しそうに笑うグライフを、レオニスもまた少し離れた席から微笑みつつ眺めていた。

 作者が酒飲めない体質だってのは、最近どこかの後書きで書きましたが。

 大酒飲みを表す言葉にもランクがあるのですよね。

 蟒蛇<ザル<枠 だそうで、枠というのはザルの枠、つまり『引っかかる網さえない』という意味だそうで。

 魔法で状態異常を回復できる世界なら、アルコールの分解や二日酔いなども瞬時に治せちゃいそうですよねぇ。でも、そんなのに頼ってまで酒飲むのもどうかとは思いますが( ̄ω ̄)

 あーでも魔術師ギルドの呪符ラインナップに【二日酔いに効く呪符】とかありそう。あったら絶対にバカ売れすること間違いなしですよね!

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