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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新年も大忙し

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第322話 アイギスの仕事始め

 ラグナロッツァでも指折りの超一流ブランドショップ、アイギス。

 長めの正月休みも明けて、今日から営業開始である。

 朝十時の開店にも拘わらず、店を開けてすぐに貴族の使いやご令嬢、貴婦人方がひっきりなしに訪ねてくる。



 …………


「先日アクセサリーのお直しを依頼した、イモモ家の者ですが」

「はい、ご注文通り仕上がっております。どうぞ中をお検めください」

「おお、いつ見ても完璧な仕上がりですな!旦那様もさぞお喜びになることでしょう」

「イモモ家の方々にはいつも当店をご贔屓いただき、感謝しております。イモモ御当主様にも、どうぞよろしくお伝えくださいませ」


 …………


「昨年の夏に注文した冬用のボレロ、出来上がっているかしら?」

「もちろんでございます。こちらのお箱に入れてございますが、念の為試着なさいますか?」

「ええ!せっかくだから、ここで着てそのまま帰りたいわ!」

「では、こちらの試着室へどうぞ」


 …………


「このドレスに似合う、とびっきり美しい装飾品を見繕っていただける? 本日の夜会に新しいものが欲しいの」

「そうですね、このドレスのお色でしたらこちらの扇子と髪飾りは如何でしょう? あとは、こちらのプリンセスネックレスとイヤリングのセットもございますが」

「まぁ、どれも素敵!特にこのお揃いの宝石が美しくて、とても気に入ったわ。四点全てちょうだい」

「ありがとうございます。では、全て専用のお箱に入れてまいりますので、少々お待ちくださいませ」


 …………



 店頭の店番と接客はメイの担当だが、さすがに仕事始めから三日くらいはかなりの客が押し寄せるので、カイやセイも接客に回る。

 午前中の混雑もようやく収まってきて、ちょうどいいところで昼休みにする三姉妹。

 店の扉に『休憩中』の札をかけ、作業場の奥の母屋の方で三人してお昼ご飯を食べる。


「はー、今年も仕事始めの日は超忙しいわねー」

「年々忙しさが増していくわぁ」

「こうして服飾で食べていけるようになったことは、とてもありがたいことではあるけどね」


 アイギスの客層は主に貴族が多いので、接客もそれなりにきちんとしなければならない。

 だが、貴族相手だからといって媚びへつらいはしない。

 接客や商品価格、アフターサービス等々、全てにおいて平等に対応するのがアイギスの方針だ。


 ちなみにアイギスが話題になり始めた頃は、勘違いした居丈高な貴族も多かった。

『平民出の店を贔屓にしてやるのだから、ありがたく思え』

『○○家の専属職人契約を交わしてやろう。光栄だろう?』

『当家の嫡男の礼服を作らせてやるから採寸に来い』

 それはもう屈辱的なことを何度も言われてきたものだ。


 だが、アイギスはその手の貴族は一切相手にしなかった。

 他にもきちんとしたまともな貴族はいたから、そうした礼儀正しい貴族のみに自分達の自信作を提供していったのだ。

 そうした姿勢は、貴族の社交界でも徐々に知れ渡っていく。


 アイギスが仕立てた衣装は、貴族の中でも必ず評判になる。

 その美しい衣装を身に着けている者は礼儀正しい常識人、小物ひとつすら着けられない者はアイギスに門前払いを食らった愚か者———そんな空恐ろしいバロメーターまで暗黙の了解のうちに成立したくらいだ。

 今ではアイギス製の品を最低でも一つは身に着けなければ、『あの人はアイギスに相手にされなかった、礼儀知らずの無礼者』という烙印を捺され、裏で笑い者にされる始末である。


 なかなかにエグい話ではあるが、全ての客を平等に扱うアイギス三姉妹にとっては関係のないことだ。

 むしろそうした勘違い貴族が減って、良い効果を発揮しているくらいである。

 いや、三姉妹とて客を選んでいる訳ではない。

 普通に接してくる客ならば、貴族平民の出自を問わず自分達も相応の礼を尽くすし、恩着せがましい勘違い貴族は相手にしたくない。ただそれだけのことなのだ。


「アイギスがここまで来れたのも、全てカイ姉さんのおかげよ」

「そうそう、孤児院出る前から『これからの時代は、女でも手に職つけて自分の足で歩くべき』って言って、本当に卒院後すぐにラグナロッツァに行っちゃった時は寂しかったけど……」

「カイ姉さんが頑張ってくれてたおかげで、私達が卒院した後カイ姉さんの伝手ですぐに就職できたものね」


 このサイサクス世界において、孤児院出身の子供が職を得るのはなかなかに難しい。

 それでも男の子ならば、ライトの父グランやレオニスのように冒険者として身を立てることもできるが、女の子は宿屋や酒場の下働きくらいしかないのが現状だ。

 いや、それとて持って生まれたジョブ次第ではあるのだが。


 ちなみにカイが持つジョブは『アテナの手』だ。

 これはジャンルで言えば魔法職や戦闘職ではなく、生産職に分類される。その特性はアテナの名の通り『知恵に優れ、特に芸術や工芸の分野での加護を得る』というものである。

 カイはそのジョブを手に、様々な工房を渡り歩き優れた才を発揮した。行く先々でその才能を認められ、鍛冶や裁縫を学んでいったのだ。


 そしてカイが孤児院を卒院して十年目にして、念願の服飾店を開いた。店の名前『アイギス』は、カイのジョブ名にあるアテナ神が持つ盾の名を由来としている。

 アイギスの開店を機に、孤児院卒院後様々な職を転々としていたセイとメイも呼び寄せて、三姉妹でアイギスを経営していくことになった。

 ちなみにセイやメイもただ就職先を転々としていた訳ではなく、カイ同様に服飾や接客などの修行をしていたらしい。


「このお店、アイギスを開店してからもう十年は過ぎたかしら。月日が経つのは本当に早いものね」

「貴女達も、良い人が見つかったらいつでもお嫁にいっていいのよ?」

「貴女達のおかげで、アイギスはもう押しも押されぬ立派なお店になったんだから。そろそろ姉さんに可愛い甥っ子や姪っ子の一人も見せてくれてもいいのよ?」


 いつものぽやぽやとした口調で、セイとメイに『早よ良い人見つけて、嫁にいきなさい』と宣うカイ。

 だがそれは盛大なブーメランであることを、カイは全く理解していない。年齢で言えば、それらの催促を最も向けられるのは他ならぬカイなのだ。


「うん、その言葉はまるっとそのままカイ姉さんに熨斗つけてお返ししちゃうわ」

「あら、セイってば酷い。姉さんの結婚相手は、このアイギスよ?」

「そしたらセイ姉さんは第二夫人、私は第三夫人ね!」

「あら、メイまで酷い。私の大事な結婚相手を、貴女達が奪っていっちゃうの?」

「そこはほら、カイ姉さんが本妻にして正妻よ?」

「そうそう。正妻が一番で、それ以下はオマケなんだから」


 のんびりとした昼食時にするとはとても思えぬような、なかなかにエグい会話である。

 女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだ。


「でも姉さん、知ってるのよ? 貴女達にたくさんの縁談が申し込まれてること」

「ベルツ子爵の跡取りやメルベリ伯爵の次男、エレット侯爵の縁戚の子息とか、いろんな人に見初められているじゃない」

「その中に、貴女達がいいと思う人はいなかったの?」


 カイが心配そうにセイとメイに尋ねる。

 たがしかし。これもまたカイへの特大ブーメランであった。


「いやいや、それ言ったらカイ姉さんだって私達以上にたくさんの縁談来てたじゃない?」

「そうよそうよ。貴族ばかりじゃなくて大店の跡取り息子とか、大商会の孫息子とか、それこそいろいろあったでしょ?」

「カイ姉さんこそ、いいと思える人はいなかったの?」


 うぐっ、と言葉に詰まるカイ。

 もじもじと俯きながら、小声でぶつぶつと呟く。


「それは、その……どのお話も全部、アイギスを貴女達や他の人に任せて輿入れしろって条件だったから……」

「私は一生このアイギスを手放すつもりはないし……ましてや他の人に任せたり譲るなんて、絶対にあり得ないことだから……」


 そう、貴族と結婚した場合は今まで通り店の切り盛りを継続することはほぼ不可能だ。事業主や経営者として君臨するならともかく、爵位を持つ貴族の奥方が裏方で生産作業をしたり店頭で接客するなど以ての外なのである。


 そして、貴族ではなく大店の場合はさらに酷い。その大店の名で新規に店を立ち上げる、という条件までつけられたりした。

 その開業資金こそ全て大店が出す、貴女は新規店舗の舵取りだけしてくれればいい、と豪語したが、結局それは自分達の事業を新たに開業するためにカイの名が欲しい、アイギスを捨ててうちで働け、と言っているも同然だった。


 そんな無理難題を、カイが飲む訳がない。そしてそれは、セイやメイも同じだった。


「私達だってそうよ。貴族なんかに嫁いだら、アイギスを辞めなくちゃならないじゃない」

「そんなの嫌よ!もし私達が結婚するなら、最低でもアイギスで仕事を続けることを認めてくれる人じゃなきゃ!でなきゃこっちから願い下げよ!」

「そうそう。私達が一生アイギスというお店を続けていくことを認めないような、器の小さいちんけな男なんてお断りだわ!」


 セイとメイ目を閉じながらはうんうん、と頷き合う。


「それに。もし私達が一生独身で子や孫を持てなくても、レオやライト君が良いお嫁さんを見つけて可愛い子を見せてくれるわよ」

「んー、レオはどうか分かんないけど、ライト君はきっと女の子にモテると思うわ!あの子、さり気ない気遣いとかできる子だし」


 セイとメイの言い分に、カイは徐々に目を開きながら明るい顔になっていく。


「……そうね、レオちゃんやライト君がきっと可愛い子を見せてくれるわよね」

「ええ、子孫繁栄はあの二人に託しちゃいましょう!」

「レオはともかく、ライト君なら絶対に可愛いお嫁さんと可愛い子供に恵まれるわ!」


 ライトとレオニス、二人の与り知らぬところで何やら未来を託されている。

 今頃二人して盛大なくしゃみを連発しているに違いない。

 三姉妹してキャッキャと楽しげに話をしていると、玄関から声が聞こえてきた。


「こんにちはー、マキシですー。カイさん、セイさん、メイさん、いらっしゃいますかー?」


 今日の午後に来るように言ってあったマキシが来たようだ。


「あっ、マキシ君が来たわ!」

「もうそろそろお昼休みも終わりだし、ちょうどいいところに来てくれたわね」

「さぁ、じゃあ午後も頑張りましょう」

「「はーい!」」


 カイの一声でセイとメイも立ち上がり、各々食器を片付ける傍ら玄関先にいるであろうマキシに声をかける。


「マキシ君、今そっちに行くからちょっと待っててねー!」

「はーい」


 パタパタと軽い足音が三人分響く。

 こうしてアイギスの仕事始めの午後は、賑やかに始まっていった。

 アイギス三姉妹の舞台裏話です。

 サイサクス世界は別に男尊女卑が強い社会ではないですが、それでもやはり貴族となると平民のように振る舞う訳にはいきません。

 アイギスはカイ、セイ、メイの夢と希望が詰まった人生そのものであり、それを失うくらいなら一生独り身でも構わない!という覚悟のもと日々過ごしています。

 とはいえ三姉妹だから、全員独り身でも老後は全然寂しくなさそうです。三人寄り添って過ごせば、ちょっとしたグループホームな感じになりそう。

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