第294話 プロステス市場巡り
レオニスとアレクシスが、執務室で二人してバチバチと火花を散らしていた頃。
ライトはハリエットやウィルフレッドとともに馬車に乗り、プロステスの城下町に向かっていた。
「ハリエットさんは、リリィちゃんにプロステスのお土産買うって約束してたもんね」
「ええ、リリィさんと約束しましたから。とっても楽しみにしてるね!と念押しまでされましたし」
「何買うか、もう決まってるの?」
「いえ、特には……お店を眺めながら決めようかな、と」
ライトとハリエットがのんびりとした会話をしている。
ハリエットの横には兄のウィルフレッドもいるので、ライトが話を振ってみる。
「お兄さんも何かお土産買うんですか?」
「ああ、毎年生徒会連中に買っている。毎回消え物ばかりだがね」
「??どうして消え物なんです?」
消え物とは、いわゆる食品類のことを指す言葉である。土産で言えば饅頭やクッキー、ご当地グルメ系特産品など、食べてしまえば手元に一切残らないものだ。
だが、このお兄さんって確か中等部のはずなのに、その歳でもうそんな社会人がチョイスするような土産になっちゃうの?とライトは疑問に思い、尋ねてみた。
「生徒会連中は皆初等部からの長い付き合いでね。土産として映えるようなものは、もう粗方渡しつくしてしまったんだ」
「それに、生徒会にも貴族と平民両方いるんだ。貴族は季節毎に過ごす別荘などを持っているが、平民にはそういった場所はないから旅先で土産を買うこともないしね」
「土産を渡すばかり、もらうばかり、そうした偏りがあると双方の関係がギクシャクしてしまうだろう?」
「そんなことにならないように、土産は後腐れのない軽いお菓子なんかを皆でつまむくらいが最適なんだ」
ウィルフレッドの答えに、ライトは内心で感嘆する。
同級生のハリエットも伯爵令嬢なのに気さくで良い子だが、その兄ウィルフレッドも平民の立場を思い遣れる心があるようだ。
「そしたら、プロステスの美味しいお菓子のことはお兄さんに聞けば間違いないですね!」
「ああ、大船に乗ったつもりで任せてくれたまえ!」
「あっ、でもぼく、お菓子もだけどラウルのお土産にお肉買いたいんですよねぇ。大きな塊で買いたいんですけど、市場のお店で売ってますかね?」
「もちろん売っているさ、このプロステスの一番の名物はパイア肉だからね。ウォーベック家の家紋入りの看板の店で買うといいよ」
ウィルフレッドの話によると、プロステス領主が認めた店はその看板に同家の家紋を入れて掲げることを許可されているらしい。いわゆる御用達店というやつだ。
もちろん領主が認めるには、それ相応の品質でなければならない。当然価格はお高めになるが、味や鮮度、品質、全てにおいて高ランクの良いものがある店という目安にもなる。
そんな会話をしているうちに、馬車は市場に到着した。
市場の中を大きな馬車で練り歩く訳にはいかないので、馬車は市場の入口付近に待機してもらうことにする。
ライト達三人とその少し後ろに護衛が二人つき、店を見て回る。様々な店が軒を連ねているが、ここプロステスはパイア肉=豚肉が名物だけあって、串焼き屋や豚肉料理を売りにした飲食店が多い印象だ。
ちなみに、ライトは肉屋、ハリエットは雑貨屋、ウィルフレッドは菓子屋、それぞれに目当ての店が違う。
まず目に留まったのは、看板に骨付き肉の絵が描かれた店。残念ながらウォーベック家の家紋がなかったので、入店は見送る。
次に、ウィルフレッドが毎年お土産のお菓子を購入しているという店に入る。ウィルフレッドが常連となるくらいだ、さぞかし美味しい菓子があるに違いない。
店の中には『パイア肉エキスたっぷり!サクサクミートパイ』『一口サイズのミニ肉まんボール』『肉味噌せんべい』など、様々な肉系菓子?が並ぶ。
それらの品を数箱購入していくウィルフレッド。日持ちのするパイなどを中心に選択しているようだ。
冬休み明けに友達に持っていくのだから、足の早いナマモノは今買っても賞味期限が過ぎてしまうからだろう。
購入した土産を護衛の一人に渡し、馬車に積んでおくように頼むウィルフレッド。
ウィルフレッドご贔屓の菓子屋を出た後、数軒先の露店の雑貨屋の品をハリエットが覗き込んでいる。
何やらブタを模した可愛い系の品々が並んでいる。
「可愛いブタの小物が多いね」
「このプロステスには『迷子の小ブタ』というご当地キャラクターがいるんです。とっても可愛くて、ラグナロッツァでも密かな人気のキャラクターなんですよ」
「へぇー、そうなんだ!」
「私もプロステスに来ると、必ず何かしら小ブタシリーズの小物を購入してしまうんです」
「うんうん、分かるよー、グッズを集めるのって楽しいよねー!」
ハリエットがそれはそれは楽しそうに解説してくれる、『迷子の小ブタ』という小さなブタのキャラクター。
線から色から背格好?から、何から何まで脱力の限りを尽くしたかの如くゆるーく描かれている。これぞまさしくサイサクス世界のゆるキャラである。
「ポーチや小銭入れとか可愛いね」
「ええ、リリィさんやイヴリンさんへのお土産に良さそうですよね」
「ん?イヴリンさんにもお土産買ってくの?」
「もちろん!皆さんは私にとって、ラグーン学園での大事なお友達ですもの」
はにかみながら答えるハリエット。ライトの横にいたウィルフレッドが、ハリエットの愛らしい笑顔に両手を覆いながら仰け反って悶絶している。
何とも相変わらずのシスコンっぷりである。
「そしたら、せっかくだからぼくも皆に何か買っていこうかな」
「いいですね!ライトさんからもお土産もらえたら、皆さんきっと喜んでくださると思いますわ!」
ハリエットの気遣いに触発されたライトも、ラウルだけでなく同級生の皆にもプロステス土産を買うことにする。
その結果、ハリエットはリリィに小ブタのポーチ、イヴリンに小ブタのポシェット、ジョゼに小ブタのペンを購入した。
一方ライトのお土産ラインナップは、リリィに小ブタの小銭入れ、イヴリンに小ブタのペンポーチ、ジョゼに小ブタの文鎮というチョイスである。
他にも自分用と称して、いくつかの品を購入するライト。マキシやフォル、アイギス三姉妹などに買っていくのだろうか。
一通り買い物を終え、雑貨屋から出る三人。
するとライトがハリエットに声をかける。
「ハリエットさん、はい、これ。忘れないうちに渡しておくね。ぼくからハリエットさんへ、お土産代わりのプレゼント」
「……えっ!?お、お土産代わり、ですか?」
「うん、ハリエットさんもぼくの友達だもん。いっしょにプロステスにいてプロステス土産もへったくれもないけど、よかったら今日の記念に受け取ってくれる?」
にこやかな笑顔でハリエットにプレゼントを差し出すライト。
思いがけないサプライズプレゼントに、ハリエットはびっくりしながらも思わず手を出し小さな箱を受け取る。
「……開けて中を見てもいいですか?」
「もちろん!でも、そんな大したものじゃないからあまり期待しないでね?」
その場で開けてもいいかどうかをライトに聞いてから、サプライズプレゼントを開くハリエット。
可愛らしい小箱の中には、小ブタのモチーフがついたブレスレットが入っていた。
「……可愛い!」
「おもちゃみたいなものだから、本物のお嬢様のハリエットさんには安っぽくて着けられないだろうけど……」
「そんなことはありませんわ!」
そう、ハリエットは由緒正しいウォーベック侯爵家の分家である伯爵家の令嬢だ。身につけるものは全て一流の品ばかりで、間違っても小ブタのモチーフがついたアクセサリーなど着けないだろう。
ライトもそう思いつつ、小ブタシリーズをついつい集めてしまう、と言ったハリエットが気に入ってくれることを願って購入したのだ。
「そ、そう?別に身に着けなくても、お部屋のどこかに飾るだけでも楽しめるかなーと思ってさ」
「今ここで着けてもいいですか?」
「えっ!?そ、それはもちろん!」
ハリエットは小箱からブレスレットを取り出し、早速自分の手首に通す。
雑貨屋で買った品物だけに、銀色の極細のチェーンに小指の爪ほどの小さな小ブタのモチーフがひとつついただけの華奢な作りだ。
だが、シンプルなデザインなのでその分変に悪目立ちしないのが良いところだ。
「……ライトさん、こんな素敵なプレゼント、ありがとうございます」
「う、うん、喜んでもらえたならぼくも嬉しいな」
「このブレスレットは私の宝物として、一生大事にしますね!」
「えッ、ちょ、待、この小ブタのブレスレットが宝物!?そんな大層なものじゃないよ!?」
ハリエットの宝物認定宣言に、慌てだすライト。
確かにその小ブタのブレスレットは、品質や価格で言えばちゃちで安物のおもちゃレベルの品だ。
だが、ハリエットにとってそんなことは全く問題にはならない。『生まれて初めて友達からもらったプレゼント』というのが最も重要なのだ。
あああ、こんなことならもうちょいマシなもんプレゼントするんだったー!と両手で顔を覆いながら仰け反って悶絶するライト。
そんなライトを見て、くすくすと笑うハリエット。
どこからどう見ても可愛らしいカップルにしか見えない二人の、何とも微笑ましい光景だった。
プロステスのお土産買い物ツアーです。
旅先っていろんなお土産買いたくなっちゃいますよね!
たとえそれが観光地価格で多少お高くても、旅行の思い出!思い出作りはプライスレス!とか思いつつ、ご当地系ストラップとか買っちゃう私。
先日などは、出先の宿泊ホテルのロビーに飾ってあった顔嵌めパネルで写真撮っちゃいました。そう、主に人物像が描かれていて顔の部分だけくり抜かれたアレですよ、アレ!
ちなみにその顔嵌めパネルの絵は土偶と骸骨でしたwww ぃゃー、実に楽しかったです、やはり思い出はプライスレスですね!




