第290話 プロステスの名産品
その後、ライトが冒険者ギルドプロステス支部の依頼掲示板を見たり、売店などの内部施設を見学がてら見て回っていた時のこと。
突然周囲が騒がしくなり、広間にはどよめきが広がった。何やらすごい人がこのプロステス支部に現れたらしい。
そのどよめきの元である入口付近に、ライトも思わず野次馬根性で見に行くとそこにはレオニスがいた。
レオニスがプロステスに来ることはあまりないので、金剛級冒険者の突然の出現に皆一様に驚いたようだ。
有名人を一目見ようと混雑する人混みを掻き分け、レオニスの前に出たライト。
「レオ兄ちゃーん、お仕事終わったー?」
「おう、ライト。待たせてすまなんだな、俺の仕事はひとまず予定通り済んだぞ」
「それは良かった、お疲れさま!」
「よし、んじゃ今から昼飯食い行くか」
「うん!」
レオニスと無事合流できたライトは、レオニスを労いつつクレサから得た美味しいお店情報をもとに昼食を食べに行くためにプロステス支部を後にした。
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「んー、美味しーい!」
「おお、これだけ美味い豚料理を出す店はなかなかないな!」
二人はプロステスの名物料理『豚のちゃんちゃか焼き』なる品に、舌鼓をこれでもか!というくらいにドンドコ打ちまくる。
ここは『迷える小豚亭』。先程ライトがクレサに尋ねてオススメされた、クレサのイチ押しの食堂である。
冒険者ギルドプロステス支部から歩いて三分ほどのところにあり、外から見ても結構な大きさのお店だ。入口に掲げられている看板の小豚の絵が何とも可愛らしい。
店内の席数はたくさんあり、昼間でも席のほぼ全てが埋まっているという相当な繁盛ぶりである。
そしてこの店のメニューでクレサのオススメとして激押しされたのが、今ライトとレオニスが夢中になってガツガツと食べている『豚のちゃんちゃか焼き』なのだ。
クレサ曰く、プロステス周辺には『人喰いパイア』なる大型の猪系魔物がいくらでもいて、それを退治して得た肉がプロステスの誇る名産品なのだという。
プロステスという街を知り尽くしているであろう冒険者ギルド受付嬢の猛プッシュする店だ、万が一にもハズレる訳がない。
最初に店内に入った時にはあまりの繁盛ぶりに驚いたライトとレオニスだったが、プロステス名物と謳われた『豚のちゃんちゃか焼き』の美味さを知ればこの盛況さも納得するというものだ。
「んで、レオ兄ちゃんのお仕事の方はどうだったの?」
「ん……無事済んだことには済んだが……ここじゃ話せんから、またカタポレンの家に戻ってからな」
「あ、そうだね……ここじゃちょっとアレだもんね」
「そういうことだ」
午前中のみの仕事にしては、レオニスがやけに疲れきったような表情をしているが気になったライト。心配故につい安易に仕事の塩梅を尋ねるも、レオニスに後で話すと言われて納得しつつ即座に引き下がる。
確かにこんな街中の食堂で気軽に話していい内容ではないことに、ライトも遅ればせながら気づいたのだ。
「でも、レオ兄ちゃんすごく疲れてるようだけど……大丈夫?」
「ああ、この程度の疲れなんざ疲れのうちにも入らん。昼飯食って少し休めば回復する、心配すんな」
「そう?ならいいけど……」
「それに、午後の予定も絶対に外せないからな」
「うん、まぁね」
そう、午後からはプロステスを治める領主邸を訪れるという、これまた二人にとって絶対に行かねばならない予定があるのだ。
「レオ兄ちゃん、領主邸ってどこにあるかは分かってるの?」
「一応総本部のマスターパレンに聞いて、プロステス支部から領主邸までの簡単な地図は書いてもらってある」
「じゃあ、それを見て行けばいいね。ここから歩いてどれくらいのところにあるんだろ?」
「プロステス支部から見て、この店の反対側の方向に五分くらい歩いたところにあるらしい」
豚のちゃんちゃか焼きをもっしゃもっしゃと食べながら、パレンに書いてもらった地図を片手に見て答えるレオニス。
ちなみにこの豚のちゃんちゃか焼き、既におかわり二回して三皿目である。燃費激悪のフェネセンほどではないが、何気にレオニスも結構な大食いなのだ。
「じゃあ、ここから八分くらいのところにあるってことだね」
「だな。でもって、何時頃に領主邸に行くかだよなぁ」
「うーん、ハリエットさん達が到着してからの方が絶対にいいよねぇ。2時とか3時くらいがいいかなぁ?」
「つか、領主邸までの道を一回確認がてら歩いてみるか。で、門越しに中を覗いてウォーベック家の馬車の有無を見れりゃ分かるだろ」
「そうだね、そうしてみようか」
話も一通りまとまり、お腹も膨れたレオニス達は会計を済ませて『迷える小豚亭』を後にした。
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プロステスの街中をのんびりと歩きながら、領主邸に向かうライトとレオニス。
道路は商隊や乗り合いの馬車がすれ違いで通れるように、広々としている。その端をたくさんの人が行き交い、露店も数多く出ている。
「本当に賑やかな街だねぇ」
「そうだなー、俺はあまりプロステスに来たことはないんだが、ラグナロッツァと同じくらいに栄えてるな」
「もしハリエットさん達の馬車がなかったら、一度こっちに戻って市場見て回ろうよ!」
「そうするか」
そんな話をしながら歩いていると、後ろから来てライト達を追い越していった馬車が少し先で急停車した。
その横をライト達が普通に歩いていこうとしたところに、馬車から声をかけられた。
「ライトさん!」
初めて訪れた街で突然己の名を呼ばれたことに、びっくりしながら固まるライト。
だが、その見覚えのある馬車を見てすぐにその声の主が誰であるか気がついた。
ライトの真横につけた馬車から一人の少年が先に降りてきて、声の主の少女をエスコートする。
少年にエスコートされながら、馬車を降りてきた可憐な少女。ライトのラグーン学園の同級生にして、今回ライトが会いに行く予定のハリエット・ウォーベックであった。
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「あっ、ハリエットさん!こんにちは!今プロステスに着いたところなの?」
「はい。もうすぐ伯父様の屋敷に到着する、というところでライトさん達が歩いているところを見つけまして。ついお声をかけてしまいました」
「ぼく達もハリエットさん達が領主邸にいるかどうか、確認だけしておこうと思って見に行く途中だったんだ!」
ライトとハリエットが和気藹々と挨拶を交わす。
「でしたらせっかくここで出会えたことですし、私達の馬車とともに屋敷に入りましょう。別々に入ると、多分ライトさん達が入る許可が下りるまでかなり待たされるでしょうし」
「そうなんですか?」
「ええ、一応伯父には私の友達が訪ねてくるということは先に知らせてあるのですが。仮にもプロステスの領主邸ですので、人の出入りにはかなり厳しいのです」
言われてみれば、確かにそうだろうな、とライトも得心する。
この商業都市プロステスを治める領主の住まう屋敷だ、警備もさぞかし厳重に違いない。
それなら今ここで親族特権顔パスのハリエット達に同行し、出入りする門でハリエット達の許可を得て訪ねてきていることをその場で証言してもらえばスムーズに入れるだろう。
「レオ兄ちゃん、そうさせてもらおうか?」
「そうだな、その方が早く済むならそうしよう」
「じゃあ、ハリエットさん、よろしくお願いしますね!」
「はい。伯父の屋敷はすぐそこですので、私達は入口の門の手前でお待ちしています」
ハリエットはそう言うと、兄ウィルフレッドに再びエスコートされながら馬車に乗り込み、先行していった。
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ハリエット達の馬車が角を曲がり、ライト達もそれに少し遅れて道を曲がる。その道の先で、ハリエット達の馬車は既に停止していた。どうやらそこがプロステス領主邸の入口のようだ。
馬車に近づき後ろについたライト達に、入口の門の番人であろう衛兵が一人近づいてきた。
「ウォーベック伯の客人というのは、貴方方か?」
「はい。ぼくはハリエット・ウォーベックさんのラグーン学園の同級生で、ライトと言います。こちらはレオニス・フィア、ぼくの保護者で、金剛級冒険者でもあります」
「金剛級!?」
「今日はレオ兄ちゃんもお昼までプロステスでの仕事があったので、ぼくといっしょについて来てもらいました」
対外的に口下手な傾向のあるレオニスに代わり、ライトが説明していく。もっとも、プロステス領主邸に入る口実『ウォーベック家所望のアップルパイを直に届ける』というのはライトのコネを使っているので、その説明もライトの口からすべきものでもある。
馬車の方で話を聞いていた他の衛兵がライト達のもとに来て、話しかけてきた。
「馬車におられるウォーベック伯から、この二人にも入ってもらうよう直に仰せつかった。門を通り中に入ることを許可する」
「はい、ありがとうございます!」
やはりハリエットの提案に乗って大正解だったようだ。
ライト達は門の前で長々と待たされることなく、そのまま領主邸に入っていった。
プロステス名物『豚のちゃんちゃか焼き』。名前のもとは皆様お察しかと思いますが、鮭のちゃんちゃん焼きがモデルです。
ですが。一応検索かけてみると。豚肉でのちゃんちゃん焼きレシピもぽちぽち出てきました。まぁ鮭を豚肉に置き換えるのも普通にありってことですね(・∀・)
というか、豚肉のもととして『人喰いパイア』なる猪型の魔物を名前だけ登場させたんですが。猪と豚って、何が違うのん?( ̄ω ̄ ≡  ̄ω ̄)と思い、こちらも検索してみたところ。生物学的には全く同じ種なんだそうで。
豚は家畜化された猪で、要は野生か家畜かの違いだけなんですと。ぃゃー、全く知りませんでしたわぁー。作者はまたひとつ賢くなった! ←無駄知識




