第250話 素材集めと再会
翌日曜日。
この日は大珠奇魂の素材集めとして、ツェリザーク近辺に生息する狗狼を狩りに行く日である。
ツェリザークに行くには、前回同様冒険者ギルドの転移門を利用する。起点はもちろん冒険者ギルドディーノ村出張所だ。
前回はまだ陽気もマシな秋口だったので朝イチでの出立だったが、年の瀬も押し迫ったこの厳寒期に同じことをするのはさすがに無謀である。
故に、昼より少し前頃にディーノ村からツェリザークに転移した。
ちなみにディーノ村の冒険者ギルド出張所では、いつものようにクレアが受付担当をしてくれた。
「レオニスさん、ライト君、こんにちは。今日は先日ご予約いただいた、ツェリザークへの転移門使用でよろしいですか?」
「クレアさん、こんにちは!はい、ツェリザークへの転移です、よろしくお願いします」
挨拶しながら転移門のある部屋に移動する三人。
「それにしても日曜日にもお仕事してて、クレアさんも大変ですね」
「お気遣いいただきありがとうございますぅ。あ、これ、あちらでアルちゃん達に会えましたら、クレアからの土産としてお渡しください」
転移門のある部屋に入ると、そこにはクレアが事前に用意したであろう巨大な風呂敷包みが転移門の陣の横にデデーン!と置かれていた。
長身のレオニスですら上方を見上げる、渋い唐草模様のドデカイ風呂敷包み。その中には、クレアのお手製肉まんボールがたくさん入っているらしい。
「おいクレア、何だこのでっけぇ荷物は……」
「何ってもちろん、私からアルちゃん達に捧げる美味しい美味しいお土産ですよ?」
「にしたってお前、量がおかしいだろうよ?」
「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?レオニスさんは空間魔法陣をお持ちなんですから、この程度の量を収納することなど余裕でしょう?」
「うぐっ……そ、そりゃそうだが……」
今日も速攻でクレアから寝言扱いされてしまうレオニス。
しかもクレアの反論は紛うことなき事実なので、ろくに言い返すこともできないレオニスは今日もがっくりと項垂れる。
レオニスは何かぶつくさ言いながら、巨大風呂敷包みを空間魔法陣に収納する。それと同時に、その手で空間魔法陣の中から小ぶりの魔石を一つ取り出した。
「今日の転移門使用料はこれでよろしくな」
「はいー、毎度ありがとうございますぅー♪」
クレアはにこやかな笑顔でレオニスから魔石を受け取る。
数多の魔石を見続けているライトの目には、かなり小さな魔石に見える。だが、そんな小指の第一関節ほどの小ぶりの魔石でも、大人一人子供一人の二人なら転移五回分程度の動力を賄えるという。
今日はディーノ村とツェリザークの往復なので二回分、使用料としてはかなり多めに支払っているといえる。
「じゃ、行くか」
「うん!クレアさんも、お仕事頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます。ライト君達もお気をつけていってらっしゃーい、アルちゃん達にもよろしくお伝えくださいねぇー」
クレアに見送られながら、ライトとレオニスはツェリザークに移動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うおッ、寒ぃーーー!」
ツェリザークの城門を出て、早速素材集めを開始するレオニス達。
本日のお目当ての狗狼は、ツェリザークの城門の外一帯に広く分布している魔物だ。その数も多く、適当に歩いていれば黙っていても向こうから襲いかかってきてくれる。
レオニスはそれを体術や衝撃波などで迎え撃ち、次々と仕留めていく。
大珠奇魂の素材として必要な部位は爪だが、狗狼は皮や牙も有用な部位なのでなるべく損傷させない方がいいのだ。
ちなみにライトはレオニスの狩りの邪魔にならないよう、少し離れたところで他の素材採取をしている。
雪氷花や霧雹石などを採取しつつ、汚れていない綺麗な雪や氷もせっせと手で丸めたり折り取りながらアイテムリュックにどんどん入れていく。
前回クレアに『氷の洞窟周辺の雪には魔力が含まれている』『ポーションの基材やお料理にも使えて、夏には夏バテ防止にもなる』と聞いたので、できるだけ集めておくのだ。
洞窟からそこまで近くないので魔力の含有量は微量かもしれないが、それでも他の地域の雪や水に比べたらはるかに有用なはずだ。
狗狼がライトには目もくれずにレオニスに向かっていく傍で、ライトはのんびりかつ自由に動き回り雪集めをしている。
これはライトが護身のために着けている魔導具のおかげだ。
先日フォル用の魔導具を身に着けたことで、隠密魔法付与の複数使用の効果の高さが分かったのでライトにもそれを適用しているのだ。
おかげで狗狼はライトの存在に気づくことなくスルーして、少し離れたところで暴れるレオニスに飛びかかっていく、という仕掛けである。
こうして二人で狗狼狩りや素材採取をしつつ、アルを探していく。
フェネセンがライトとアルにプレゼントしてくれた探知魔法付与つきのイヤーカフでアルの居場所を見つつ、アルのいる方向に移動していくのだ。
「ライト、アルの居場所は遠そうか?」
「んー……そんなに近くはなさそうだけど、アル達の方からこっちに近づいてきてるっぽいよ」
「そうか、ならしばらくはここら辺で狩りを続けてても良さそうだな」
「うん、でもなるべく氷の洞窟に近いところの雪や氷を採りたいから、少しづつ氷の洞窟の方に行きたいな」
「了解」
前回の訪問時も、フェネセンの強大な魔力を感じ取ったアル達親子の方からライト達のもとに現れた。今回もそれと同じくレオニスの強大な魔力を感知して、こちらに向かってきているらしい。
氷の洞窟方面に進んでいけば、そのうちアル親子の方からライト達の前に現れるだろう。
そしてその思惑は、当然の如く成功する。
ライトとレオニスが氷の洞窟のある方に少しづつ移動しながら狩りと採取をしていると、やがて覚えのある強大な魔力の塊が急速に近づいてきた。
『やはり貴方方でしたか』
「ワォン!」
ライト達の前にふわりと降り立つ、銀色に輝く二頭の神獣。
銀碧狼のアルとシーナである。
アルはライトに会えた喜びで、早速ライトに飛びつきペロペロと顔を舐める。
「ワォン、ワォン!」
「アル!元気そうだね!シーナさんもお久しぶりです!」
『ええ、おかげさまでこの通り母子ともども元気に過ごしておりますよ』
「アル、かなり大きくなったなぁ」
「うん、前に会った時よりもまた大きくなったね!」
「クゥン?」
前回ライトがアル達親子に会った時から、二ヶ月半くらい経過している。その時には同行できなかったレオニスに至っては、実に四ヶ月ぶりの再会となる。
それだけの月日が経てば、育ち盛りのアルも大きく成長してて当然である。
『しかし貴方方、相変わらずデタラメな魔力ですね……前回ライトとともにこちらに訪ねてきた、フェネセンとかクレアとかいう人間も大概でしたが』
「いやいや、俺達凡人とあいつらみたいな規格外をいっしょくたにするのはおかしいだろ。あれはな、稀代の天才大魔導師と受付嬢のフリした金剛級冒険者だからな?」
「『…………』」
ねぇちょっと、奥様。今の、お聞きになりまして?
言うに事欠いて「俺達凡人」ですってよ?
一体どの口がそんな戯言こいてらっしゃるのかしら?
えぇえぇ、全く以て信じられませんこと!
どこぞの某完璧なる淑女に、毎回毎度必ず『寝言は寝て言え』って言われるのも宜なるかなってもんですわよねぇ?
ライトと銀碧狼母は、今日もアイコンタクトだけで井戸端会議のような会話をしている。
この阿吽の呼吸の如き奥様もどき会議の議題、大抵がレオニスの凡人発言が発端となるようである。
「あっ、そういえばクレアさんからアルとシーナさん宛にお土産を預かってまして。レオ兄ちゃん、出してくれる?」
「おう、あれか、ちょっと待ってな」
井戸端会議での会話に出てきた『某完璧なる淑女』で、クレアから託されたお土産のことを思い出したライト。早速レオニスに出してくれるように頼む。
レオニスが空間魔法陣から取り出したそれは、お土産としてもらう側のシーナから見てもかなり大きな包みだ。
『これは一体、何ですか?』
「あー、これは主にクレアんとこのドラゴンのクー太の主食で『肉まんボール』という代物なんだが。まぁ人間含めて大抵の動物は好む物だと思う」
『ふむ、ドラゴンも好んで食する物ならば私達にも好みかもしれませんね』
「まぁ一度に食べきれる量じゃねぇとは思うが……一口二口食ってみるか?」
お土産の肉まんボールのことを解説しつつ、レオニスが少し浮遊しながら風呂敷包みの頂点の結び目の隙間から肉まんボールを数個取り出す。
それをシーナの口にポイポイーと放り込むレオニスに、もっしゃもっしゃと食べて飲み込むシーナ。
『……ふむ、確かにこれはなかなかに美味ですね』
「おお、気に入ってくれたか。クレアも喜ぶと思うぞ」
「ワォン、ワォン!」
「ん?アルも食いたいか?よしよし、ちょっと待ってな」
熱々はもちろんのこと、冷めても美味しい肉まんボールは銀碧狼の口にも合うようだ。
レオニスは再び浮遊し、風呂敷包みの下の結び目を解いて風呂敷の一角を開けた。
「ほら、この一角から好きなだけ食べていいぞ」
「ワォォォォン!」
レオニスの言葉に、心の底から嬉しそうに吠えるアル。
早速言われた通りに肉まんボールを思いっきり頬張る。アルは相変わらず食いしん坊のようだ。
そんなアルの姿を、懐かしむように温かく見守るライトとレオニスだった。
前回ツェリザークの氷の洞窟周辺に来た時、狗狼他素材用魔物にほとんど襲われなかったのはフェネセンが低級魔物を対象とした魔物避けの魔法を常時かけていたからです。
あの時はライトの護衛という名目で同行していたので、最初から雑魚敵を排除してアル達親子の捜索を優先させた、という訳です。
ですが今回は素材採取が主目的なので、いくらでも雑魚敵かもーん!なのです。
 




