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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
魔女に開かれた扉

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第215話 角なしの鬼の養い子

「そうか、逃げられたか……」


 ライトとともにラキの家に戻ったレオニスは、事の顛末をニルに話して聞かせていた。

 ラキはまだ目覚めていない。だがその肌の色や顔色は、先程この家を出ていった時よりも良くなっている。


「ああ。まさか屍鬼将自らが手下を回収しに出張るとはな……予想外のこととはいえ、手がかりになる奴をむざむざ逃してしまったのは俺の失態だ。すまん」

「いや、お主がそこまで責を負うことはない」

「だが……」

「お主がオーガの里を救ってくれたことに変わりはない」


 マードンを逃してしまったことを激しく悔やむレオニス。

 そんなレオニスを、責めることなく宥めるニル。


「お主が駆けつけてきてくれなければ、今頃我が里は単眼蝙蝠達に蹂躙され続け滅んでいたやもしれん」

「よしんば何とか単眼蝙蝠達を退けられたとしても、ラキにかけられた屍鬼化の呪いにより確実に滅ぼされていたであろう」

「我等だけでは屍鬼化の呪いを解くことはできなんだのだからな」


 ニルが淡々と語る。

 その口から語られたのは、今まさにこの里で起き続けていたかもしれない惨事。ライトとレオニスが駆けつけていなければ、絶対に回避できなかったであろう悲劇的な未来。

 その最悪の結末を迎えていれば、オーガの里だけでなくいずれ全世界を巻き込んだ惨禍となっていただろう。


「お主とライト殿がいなければ、間違いなく我等オーガは―――今日この時を以て滅んでいたのだ」

「族長ラキの命だけでなく、我等一族の命運をも救ってくれたことに改めて心より感謝する」


 ニルがライトとレオニスに向けて、深々と頭を下げた。

 ライトとレオニスは、互いの顔を見ながら小さく笑う。そして二人ともニルに向かって声をかけた。


「いいってことよ、ニル爺さん。俺とオーガ族の仲じゃないか」

「そうですよ、ニルさん!レオ兄ちゃんが仲間や友達を見捨てる訳ないじゃないですか!友達なら助け合って当然です!」


 レオニスはニカッと爽やかな笑顔で、ライトも同じくにこやかにニルの礼に応える。


「友なら助け合って当然、か……ふふっ、そうじゃな」

「角なしの鬼に、角なしの鬼の養い子よ。其方らが助力を求めし時、我等オーガ一族総力を挙げて尽力致す」

「此度の恩に必ずや報いることを、我が真名にかけて誓おうぞ」


 ニルがその大きな手をレオニスに向けて差し出す。

 レオニスは口元に笑みを浮かべながら、その差し出された手を握る。

 人族とオーガ族が、お互い対等な立場で握手を交わす。種族を超えた友情―――その眩いばかりの光景を、ライトは感激の面持ちで見守っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ん……ここ、は……」


 レオニスとニルが固い握手を交わしていたその時。

 ラキの声が微かに聞こえてきた。その声は力なく小さなものだったが、目覚めの合図には違いない。

 三人は急いでラキのもとに駆け寄った。


「ラキ!気がついたか!」

「おおお、ラキ……よかった、本当によかったのぅ……」


 のそりと己の身体を起こそうとするラキ。だが、まだ意識が若干朦朧としているのか思うように起きられない。

 肘をつきながら横向きになり、定まらない視点で視線を泳がせる。

 そんなラキの姿に、レオニスとニルが動きを制する。


「これ、無理をするでない」

「そうだぞ、ラキ。いくら頑丈なお前でもまだ思うように動けんはずだ。無茶するな」

「……ニル爺、に……レオニス、か?」


 ニルがラキの身体を背中から支えながら、ゆっくりと起こす。


「ここは、どこだ……俺の家、か……?」

「ああ、そうだ。俺がここまで運んだんだ」

「お前は先程まで屍鬼化の呪いを受けておったのだ」

「屍鬼化の、呪い……?……そうだ、単眼蝙蝠達の襲撃はどうなった!?」


 レオニスやニルの話を聞き、オーガの里が襲撃中だったことを思い出したラキ。

 慌てて飛び起きようとするも、急激に動けるはずもなくよろけて布団に倒れ込む。


「この戯けが、そんな身体で起きれる訳なかろうが!」


 ニルがラキを叱りつけ、ラキの身体を横たえさせる。

 その横でレオニスが、何やら空間魔法陣を開きだした。


「ラキはなー、俺と同じ脳筋だからなー、しゃあないわなー」

「ほれ、これを飲め。そうすりゃちったぁ体力回復する」


 レオニスはそう言うや否や、空間魔法陣から取り出したエクスポーションを手に取りニヤリと笑う。

 そしてエクスポーションの蓋を開けたかと思うと、ラキの口に突っ込んだ。


「ンぐッ」

「さぁ飲め、ほれ飲め、エクスポならいくらでもあんぞー」


 目にも止まらぬ早業で次々とエクスポーションを取り出しては蓋を開け、容赦なくどんどんラキの口に突っ込んでいくレオニス。

 さすがはレオニス、本家本元の鬼人族にまで恐れられた【角持たぬ鬼】の二つ名に相応しい容赦の無さである。


「ンがごご……グハッ!も、もういい、もう十分に回復したッ!!」

「ん?そうか?遠慮するな、もっとあるぞ?」

「遠慮なんぞしとらん!」

「ホントかー?そんな遠慮しなくてもいいのにー」


 (むせ)ながらもう大丈夫だ!と主張するラキに、口を尖らせながら若干不満そうなレオニス。

 まぁ確かにレオニスの気持ちも分からんでもない。オーガ族の体格を思えば、人族が用いる回復剤など大さじ一杯か二杯分くらいにしか見えないのだから。


 だがしかし。再び寝かしつけられかけたところに、五本も十本もエクスポーションの瓶をポイポイと口に突っ込まれ続けるラキの身にもなってほしいところでもある。

 そしてそのラキ側の切実な気持ちを代弁してやるのは、誰あろうライトだ。


「ちょ、ちょっと、レオ兄ちゃん!ラキさん思いっきり咽てるじゃない!」

「肺に入って誤嚥にでもなったらどうするの!もうちょっと優しく飲ませてあげないとダメでしょ!」

「ていうか、レオ兄ちゃんなら回復魔法かけることもできるでしょ!」


 ライトからの紛うことなき真っ当な指導に、さしものレオニスもぐうの音が出ない。

 ラキはキャンキャンと騒がしい二人を眺めながら、こっそりと小さな声でニルに問う。


「ニル爺、あの人族の幼子は……?」

「あれは角なしの鬼の養い子だそうじゃ。名はライト、屍鬼化の呪いを受けたお主を救ってくれた恩人でもある」

「……何?それは一体どういうことだ?」


 事情が全く分からないラキに、ニルがそれまでの経緯を話して聞かせる。

 今日起きた単眼蝙蝠の襲撃は屍鬼将ゾルディスの企みであったこと、そしてその企みとは屍鬼化の呪いで『生きた屍鬼』を生み出すこと。

 その屍鬼化の呪いをラキが受けてしまったこと、それにいち早く気づいたレオニスがこの家に隔離したこと。

 そして屍鬼化の呪いを解除する唯一の方法、エリクシル。そのエリクシルをライトが所持していて、惜しむことなく差し出してくれたこと。

 ニルから事のあらましを全て聞いたラキは、ただただ驚愕するしかなかった。


 屍鬼化の呪いのことは、ラキも知っている。自分が生まれてから一度も起きたことはないが、過去にそうした災禍があったということだけは里の年寄り達から聞いていた。

 そしてその解除方法も、知識として一応知ってはいる。『神の恩寵』エリクシルを飲ませること。


 だが、幻の神薬であるエリクシルなんてオーガ族の中ですらお伽噺の産物だ。

 長老ニルなどの年寄り達は、その祖父母の代から聞かされて実在するものだと知っているがラキ世代では半信半疑だった。

 しかし、それもある意味致し方のないことだとも言える。何故ならば、エリクシルどころか屍鬼化の呪いすらも実際に見たことがないのだから。


 そんなお伽噺の中の話が、実際に起きた。

 それどころかその屍鬼化の呪いを解く唯一の方法『神の恩寵』たるエリクシルを、今自分の目の前にいる人族の少年がもたらしてくれたというのだ。

 ラキが絶句したまま言葉に詰まるのも、無理からぬことだった。


「んもー、レオ兄ちゃんもこれからは気をつけようね。親しき仲にも礼儀あり、っていうでしょ?」

「はい……」

「オーガ族のラキさんはともかく、レオ兄ちゃんはもうちょっと脳筋レベルを下げるべきです」

「はいぃ……」

「でも安心してね。脳筋卒業しろとは言いません。そんなの絶対無理だしね!」

「はいぃぃ……」

「だからね、これからは脳筋紳士を目指しましょう!」

「脳筋紳士……何ぞそれ?」


 レオニスがライトに滾々と説教されながら、終いには『脳筋紳士』なる謎の存在を目指すべし!と言われている。

 その謎の高みを目指すべく、ライトは一番星を指すかのように天に向かってビシッ!と人差し指を掲げる。

 教育的指導を受けているレオニスは、ずっとライトに気圧されて平身低頭だったのだが。突如現れた謎のパワーワード『脳筋紳士』に『???』となっていた。


「あのレオニスが……幼子一人に敵わない、だと……?」

「あの養い子はな、何でも角なしの鬼が兄姉と慕う者達の子息らしいぞ?」

「あいつにも頭が上がらない兄姉がいるのか……」


 今まで一度も見たことのないような、レオニスの情けなくもしおらしい態度に驚きを隠せないラキ。

 ニルからライトの出自を聞かされて、なるほどとすぐに納得できるかと言えばそうでもない。ラキはもちろんのこと、オーガ族の誰一人としてライトの存在を今日まで知らなかったのだから。


 だが、今ラキの目の前で繰り広げられている、ライトとレオニスのやり取り。見ているだけでその仲睦まじさが伝わってくる。

 そして何より一度も見たこともないレオニスの表情が、二人の絆がとても深いものなのだということを物語っていた。


 ラキが布団から起き上がり、しっかりとした足取りでライトとレオニスのもとに歩み寄る。

 その回復ぶりは、先程レオニスに散々エクスポーションをガブ飲みさせられた恩恵か。


「レオニス、ライト殿。話はニル爺から聞いた」

「我が里の危機をお救いくださり、誠にかたじけない」


 深々と頭を下げたラキ、間を置かずにライトの方に身体を向き直す。


「特にライト殿。貴殿は我が命を救いし大恩人。この御恩、一生忘れぬ」

「貴殿に救われたこの命、いつか貴殿のために使おう」


 恭しく礼を言われたライトは、あばばばばと慌てふためく。


「そっ、そんな!大袈裟なこと言わないでくださいっ!」

「ぼくはレオ兄ちゃんの友達を救いたかっただけで!」

「ラキさんを助けることができたのも、フォルのおかげなだけでっ!」


 慌てふためくライトに、横にいたレオニスがライトの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「お前がラキの命を救ったことは、間違いのない事実なんだ。ここはちゃんとラキの礼を受けてやりな」

「ラキもラキで、こんな小さな子供相手に命を使うなんて重たいこと言うな。俺の時と同じく、まずは友達になることから始めりゃいいんだ」


 レオニスの言に、ニルが感心したように笑い出す。


「ふぉっふぉっふぉっ、角なしの鬼の言う通りじゃな」

「……あのな、ニル爺さん。その『角なしの鬼』っての、何とかならんのか」

「ならんな。こればかりは事実じゃし」

「何だとぅッ……!」


 レオニスの抗議にも、どこ吹く風で応える気のないニル。

 そんなニルに対し、さらなる抗議を訴える者がここに一人。


「そうですよ、ニルさん!レオ兄ちゃんを『角なしの鬼』と呼ぶのはやめてください!」

「ライト……やっぱりお前は世界一良い子だぁ……」


 ライトの抗議する姿に、その眦に感涙すら浮かべるレオニス。


「ふむ。角なしの鬼の養い子よ、それがお主の望みなのか?」

「だって!レオ兄ちゃんが『角なしの鬼』って呼ばれてたら、ぼくまでずーっと『角なしの鬼の養い子』とか呼ばれちゃうんでしょ!?」

「ぼく、レオ兄ちゃんほど鬼じゃないもの!!」

「「ブフッッッ!!」」


 ライトの懸命の抗議に、思いっきり噴き出すニルとラキ。

 どうやらライトの抗議はレオニスのためではなく、ライト自身への風評被害防止が目的だったようだ。

 レオニスもそのことに気づき、がっくりと項垂れている。


「クックック……よかろう、人の子よ。貴殿のことはちゃんと名で呼ぼう」

「ホントですね!?約束ですよ!?」

「ああ、本当だとも、ライト殿」

「あっ、殿はつけなくていいです!ぼくのことはライトと呼んでくださいね!」

「承知した、ライト」


 四つん這いで打ちひしがれるレオニスを余所に、ライトはラキとニルと固い握手を交わしていた。

 呪いから解放されて目を覚ましたばかりの友人に、エクスポの瓶を矢継ぎ早にその口に突っ込んでいくレオニス。

 そういうところが【角持たぬ鬼】とか言われちゃうんですよ?まぁオーガ族も一族全体がレオニスと大差ない傾向なので、双方大して気にも留めないという似た者同士なんですけど。


 そして最後のライトの訴え『レオ兄ちゃんほど鬼じゃないもの!』という箇所の補足。

 鬼という言葉には元来『強い』『大きい』『ものすごい』といった良い意味も含まれています。故にライトの訴えの中には『ぼくはレオ兄ちゃんみたいに強くない』という、自分への冷静な評価も込められています。

 だがしかし。それでもやはり、聞いた通り見たまんまの風評被害防止の面の方が大きな割合を占めてそうです。

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