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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
魔女に開かれた扉

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第211話 光明と絶望

 レオニスがニルを連れていった先は、年寄り赤子の避難所だった屋敷から少し離れたところにある族長ラキの家だった。

 人っ子一人いない道中はもちろんのこと、ラキの家の中にも人影はなくシン……と静まり返る。


 ライトもレオニスの許可をもらってニルとともについてきているが、オーガ族の住む家に入ることなど初めてなのでついキョロキョロと見回してしまう。

 作りがオーガ族向けなので、家そのものだけでなく間取りや扉など全てが大きい。レオニスでも開け閉めができないことはないが、同族のニルの方が動線的に動きやすいのでレオニスの横で扉を開け閉めしてもらう。


 とある部屋の前に辿り着き、レオニスは一旦歩を止める。


「ニル爺さん。この部屋に入ったらすぐに鍵をかけてくれ」

「そして今からこの部屋の中で起きていることは、一切他言無用だ。事が終わるまで決して誰にも言わないと、己の名に誓ってくれ」

「ライトもだ。ここで見聞きしたことは絶対に誰にも言うな」

「もし守れない場合は……ライト、たとえお前であろうとも許すことはできん」


 レオニスが非常に険しい顔で、ライトとニルに釘を刺す。

 特にレオニスが言った『己の名に誓う』、これは『約束を違えれば死』という最も厳しい制約を持つ。

 そんなとんでもないことを二人に迫るとは尋常ではない。明らかな異常事態だ。

 だが、そんな事態にあってもライトのレオニスに対する信頼は微塵も揺らぐことはない。そしてそれは、ニルも同じようだ。


「もちろん分かってるよ!絶対の絶対に誰にも言わない!だから安心して、レオ兄ちゃん!」

「うむ。儂も我が真名とオーガ族の名誉と誇りにかけて、他言無用を誓おう」


 ライトとニルの力強い即答に、レオニスは微かに微笑む。

 この二人が節操なしに吹聴する人物だとはレオニスも思っていない。だが、これから二人に見せることはどれほど釘を刺しても刺し過ぎることはない、それくらいに厳重な警戒と慎重な対応をせざるを得ないのだ。


 レオニスはニルに向けて軽く頷き、それを受けたニルが部屋の扉を開き三人とも入室してからすぐに鍵をかける。

 オーガサイズの高い天井と広々とした部屋。その部屋の中央に、誰かが横たわっている。

 そこに寝かされていたのは、誰あろうオーガ族の現族長ラキであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「これは……おお……何ということだ……」


 ラキの姿を見た途端、ニルの顔がみるみるうちに苦痛に歪む。

 まだレオニスの口からは何の説明もなされていないが、ラキの変貌した姿を一目見ただけで何が起こったのか即座に理解したのだろう。

 ライトの方も、ラキの青黒い肌や髪の根元が黒く染まり始めているのを見て瞬時におおよそのことを察していた。



『これは……『屍鬼化の呪い』か!!』

『こんな厄介なもん、一体どこから…………』

『屍鬼将ゾルディスの仕業か!!』



 ライトは己の知識をフル回転させて、懸命に脳内で考察している。

 ライトが考え込んでいる間、ニルが部屋の奥から布団を出してきて改めてラキをその上に横たえる。

 レオニスにふっ飛ばされて気絶したことは布団を出している間に聞かされたが、ラキの目は閉じられていてただ単に寝ているようにも見える。


「ニル爺さんも分かってると思うが、これは『屍鬼化の呪い』だ」

「屍鬼化の呪いへの対処法は『呪いをかけられた者の早急な隔離および駆除』『一刻も早く処分すべし』、これが人族の間では鉄則となっている」

「駆除だの処分だの、甚だしく胸糞悪い言葉なんぞ使いたくないんだがな……すまん」


 レオニスが心苦しそうにニルに謝る。

 一方のニルは、ずっと難しい顔をしたまま微動だにしない。


「恥ずかしながら、屍鬼化の呪いに関しては俺達人族の間じゃこんな外道な対策しか打てないのが現状だ。多数を生かすために少数を切り捨てる、そんな方法がまかり通る」

「だが、悲しいことにそれ以外の有効打と呼べるような方法がないのもまた事実でな」

「オーガ族の方はどうだ?屍鬼化の呪いに対して、何か知っていることはないか?」

「屍鬼化の真相とかオーガ族独自の対策、解除方法、何でもいい、ニル爺さんの知っていることを教えてくれ」


 レオニスがニルに、屍鬼化の呪いに関して何でもいいから情報がほしい、と懇願する。

 実際のところ、屍鬼化の呪いに関する人族の知識は皆無に近い。分かっていることといえば『見つけ次第即隔離即処分』くらいというお粗末さだ。

 レオニスからの問いに、目を閉じ未だ難しい顔を崩さないニル。しばらくの沈黙の後、ようやくニルが口を開く。


「屍鬼化の呪いを撒き散らすことができるのは、屍鬼の中でもかなりの上位に君臨する者くらいじゃ」

「呪いを振り撒く目的は、配下の屍鬼を増やしてこの世界の全てを屍鬼で覆い尽くすことだという」

「そして、屍鬼の呪いに侵された者は……」


 ニルがしばし言葉に詰まる。

 目の前で気絶したまま動かないラキへの思いに、胸を痛めているのだろう。


「早ければ二日、遅くとも五日以内には完全に『生きた屍鬼』に変わり果てるという……」

「二日……そんなに早いのか……」


 レオニスが半ば絶句しつつ、呻くように言葉を洩らす。


「『生きた屍鬼』への進行具合は、肌の色と侵された者の髪を見れば分かる」

「肌は刻々と青黒さを増していき、髪の色も根元から変わり白色もしくは闇色に染まっていく。その色が毛先まで完全に染まりきった時が『生きた屍鬼』の完成だという」

「ラキの場合、どのくらいの猶予があるかは分からぬが……この肌の色や髪の染まり具合からすると、進行はかなり早い方かもしれん」


 ニルがラキの黒く染まり始めた髪を見ながら、冷静に分析する。


「なぁ、ニル爺さん……完全に『生きた屍鬼』と化した場合、そこから元に戻す方法はないのか……?」

「ない」

「……やっぱり、そうだよな……」

「完全に『生きた屍鬼』となってしまったら、そこから助かる術はない。そうなれば、もはや殺すしかないのだ」


 レオニスの問いに、ニルはたった一言だけの短い返答をすぐに返す。

 おそらくはレオニスも予想していただろうこととはいえ、その予想通りの答えが返ってきたことに落ち込んでいる。


「ニル爺さん……ラキを助ける方法はないのか?今からでも打てる手立ては、本当に何一つないのか?」

「もし、ないのなら……俺はラキを……この手でラキを殺さなきゃならんのか……?」


 レオニスが微かに震える己の両の手のひらをじっと見つめながら、苦しげな声で絞り出すように呻く。

 親友とも呼べる相手を、この手で殺す。レオニスだってそんなことは絶対にしたくないし、考えたくもない。

 だが、もしこのままラキを治すことができずに完全に『生きた屍鬼』と化してしまったら―――その時には、もうそんな甘いことなど言っていられなくなるのだ。

 レオニスが強い苦悩に苛むのも無理はなかった。


 そんなレオニスの苦悶の表情を見て、ニルは静かに口を開いた。


「手段は……ないことは、ない」

「屍鬼化の呪いを解く方法は、存在する」

「ただ、その手段が……果てしなく険しく、厳しくも難しいのだ」


 ニルの言葉に、レオニスがガバッ!と顔を上げた。

 その顔は、ようやく見つけた僅かな希望を手に入れた喜びに染まる。


「……それでも!ラキを救う手段はあるんだなッ!?」

「その手段とは一体何なんだ、手がかりがあるなら何でもいい、俺にできることならどんなことだってする!」

「だからニル、教えてくれッ!!」


 光明を見出したレオニスが、ニルに食らいつくように迫る。

 レオニスに迫られたニルは、ふぅ、と小さなため息をついてからレオニスの肩に手を置きそっと身体を離す。


「いいか、落ち着いてよく聞くのだ」

「屍鬼化の呪いを解く方法は、あるにはある」

「その方法とは、とある万能薬を与えること。その万能薬の名は―――」


「『エリクシル』」


 ニルの答えとライトの脳内での答えが一致した瞬間だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『エリクシル』―――それはエリクサーと呼ばれることの方が多いであろう、万能薬の代表格にして代名詞のような存在。特にRPG系ゲームには欠かせない、あらゆる危機的状態から救ってくれる至上のアイテムだ。

 ゲームによっては蘇生までできてしまう、若返りや不老不死すらも思いのままに手中にできる夢の神薬。


 この夢のようなアイテムであるエリクシル、ゲームが元になっているこのサイサクス世界にも存在する。

 さすがに若返りや不老不死、死者の蘇生まで効果があるかどうかは不明だが、少なくともそれ以外の大抵の状態異常は瞬時に回復する。

 その効果はまさしく霊験あらたかで、あらゆる猛毒、麻痺、石化、魅了、呪詛、全てがエリクシルひとつで解決するという。

 お伽噺の中では『切断した四肢が瞬時に甦った』なんて逸話もあるくらいだ。


 ライトも前世のゲーム、ブレイブクライムオンラインの中でのエリクシルを知っている。上記の状態異常回復に加え、HP、MP、SP、すべてのパラメータが全回復する。

 数多ある回復剤の中での最上級であり、間違いなく最強無比のアイテムだ。

 だが、それだけの凄まじい効果を持つアイテムがそう簡単に入手できる訳がないことも確かだ。

 入手方法はいくつかあるにはある。イベントでの報酬やレア魔物を倒しての激レアドロップ、他には課金通貨で購入する討伐任務の報酬などだ。

 だが、そのどれもが難易度がかなり高い。

 その性能に比例して入手も困難を極める、超激レアアイテムであることに間違いなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……エリク、シ、ル……」


 ニルの答えを聞いたレオニスが、半ば呆然としたように虚ろな声で呟く。

 サイサクス世界の人間にとって、エリクシルとは伝説の薬の名だ。伝説という字面の通り、その実物を目にした者はいない。 

 その名を見聞きするのはお伽噺の中くらいのものだ。


 採取方法どころか自生場所すら分からない。いや、それどころかエリクシルという伝説の薬が単独の野草からなるのか、それとも複数の材料を混ぜて生成するものかどうかすら分かっていない。

 そもそもお伽噺の中でしか語られることのない代物だけに、全てが謎に包まれたアイテムなのだ。


 一度は一縷の望みを見出したレオニスが、再びその顔を絶望に染め虚ろになるのも無理はない。

 夢物語の中にしか存在しない、空想上の神薬。それがこのサイサクス世界のエリクシルというアイテムに対する認識なのだ。

 そんな代物を今から二日のうちに探し当てることなど、到底不可能だった。


「……ニルさん。そのエリクシルという神薬、屍鬼化の呪いを解くために何個必要なんですか?」


 絶望に染まるレオニスでもニルでもない、声変わり前の可愛らしい声が突如部屋に響く。

 それは、誰あろうライトがニルに対して問うた声だった。

『生きた屍鬼』、まぁ文字通りゾンビとかリビングデッドですね。

 作者は基本的にホラー系全般苦手なので、映画やゲームでも一切したことないんですが。……あ、でも大昔に友人が貸してくれたホラーゲームを、一度だけプレイしたことがあったっけ。

 しかもまぁ、よりにもよって深夜にやりまして。マジモンの丑三つ時プレイ。


 これがまたどういう訳か、ゲームが進行してエンディングに近づくにつれて部屋の空気が如実におかしくなっていくんですよ……普段零感で幽霊だの心霊現象だのに全く無縁だった作者も、あの時ばかりは本能レベルで大音量警告音が脳内でガンガン鳴り響いて、結局は最後の手前でゲームを放り出して布団の中に潜り込みお経を唱えまくりました。今思い出してもコワイ(;ω;)


 やはり人間平和が一番ですよねぇ……心霊現象なんて、もうTV番組で放映できるようなぬるめのまったりしたもんしか観ないぞ!と固く心に誓いました。

 というか、その時の私自身に向けて声を大にして言いたい。そんな丑三つタイムにホラーゲームやるって、お前馬鹿なの?馬鹿だよね?絶対馬鹿でしょ!!……はぃ、その通りです……


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― 新着の感想 ―
[一言] (周りの人達が誰も実物を見たことが無い、入手するアテのない薬と話している中いくつあればいいか聞いてる(まるで誰も知らないアテがあるかのような…ありそうだが)のを見て突っ込みたくなったのでしょ…
[一言] 実物を目にした者すらいない伝説の薬の必要数がわかってたまるかぁっ
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