第200話 代用チャレンジ
拙作をいつもお読みくださり、本当にありがとうございます。
今回で200話到達です!もう嬉しくて嬉しくて、滅多に書かない前書きでもお礼書いちゃいます!
よろしければこれからも本作をご愛読いただけたら嬉しいです!よろしくお願いいたします!
小人族の里の大人達は、ライトから譲り受けた計60本ものポーションやエーテルを運び出したり、レオニスの訪問などの話題でてんやわんやだ。
すると、ライトから徐々に離れていく大人達の様子を見ていた子供達が、ここぞとばかりにライトの周囲に群がってきた。今までたくさんの大人達がライトを囲んでいたため、近づきたくても近づけなかったのだろう。
「おっきなお兄ちゃん、ぼく達とも遊ぼー!!」
「ねぇねぇ、カーバンクルちゃんやウィカチャちゃんに触ってもいーい?」
子供達がライトを見上げながら、口々に彼らの望みをライトに伝えてくる。
男の子達はライトと遊びたくて、女の子達はフォルやウィカと遊びたいようだ。
彼ら彼女らのライト達を見つめる眼差しは、それはもう眩いばかりにキラキラと輝いている。
「うん、いいよ、何して遊ぶ?」
「カーバンクルはフォル、ウィカチャはウィカって名前なんだ。毛を引っ張ったり叩いたりしないで、優しく撫でてあげてね?」
男の子達と女の子達、それぞれに返事を返すライト。
子供達は全員元気な声で「うん!」とライトに答える。
男の子達は「おっきなお兄ちゃんに登る!」と言ったかと思うと、まずはライトの膝の上目がけてよじ登りだす。
女の子達はライトの肩から降りてきてその横にちょこん、と座ったフォルとウィカに群がる。
男の子達によじ登りされているライト、まるで童話の中の巨人にでもなったかのようような気分になる。
あるいは巨大なジャングルジムか、はたまたアスレチック遊具か。
フォルもウィカも、小さな女の子達に抱きつかれたりさわさわと撫でられたりと人気者だ。もちろん乱暴なことをする子など一人もいないので、きゃわきゃわと群がる女の子達のするがままにおとなしくもふられている。
ライトはフォルやウィカの様子を慎重に見ていたが、大丈夫そうだな、と安心した頃にはよじ登るのが上手な男の子がライトの肩に辿り着いた。
「いえーい、一番乗りー!」
「うぇーい、二番乗りー!」
ライトがいくら小人族の子供達に比べたらかなり大きいとはいえ、人族の中ではまだ小さな子供。さすがにその肩に乗せられるのは各一人が精一杯だ。
山の頂き代わりのライトの双肩に一人づつ、一番に登りつめたそれぞれが名乗りを上げる。
「はい、よくできました!さ、落ちたら危ないからぼくの肩に登り終わった子は降りようね、次の子が来るからね」
ライトはそういうと、両肩の子を手でそっと掴んで地面に降ろす。そしてまだ登りきっていない子が肩に乗り、満足したところでその子もまた同様にそっと降ろしていく。
何とも人情味溢れる、頼もしくも気遣い抜群のリフター付きジャングルジムである。
すると、それまでバタバタと慌ただしく動いていた大人達がライトによじ登る子供達にようやく気づいたようで、ギョッ!とした顔で慌てて子供達を窘める。
「あッ!おい、コラッ!お前達、お客人に対して何てことを!」
「いえ、気にしないでくださいー。ぼく達ただ遊んでるだけなんでー」
「ですが……」
「本当にお構いなくー。ぼくも皆と遊べてとても楽しいので」
大人達が子供達を叱ろうとするのを、ライトはにこやかな笑顔で制止する。
ライトは子供達から「おっきなお兄ちゃん!」と呼ばれて、それはもう絶賛ご満悦中なのだ。
「ねぇ皆、たくさん遊んだから喉が乾いてない?ぼく、美味しい飲み物持ってるんだけど、飲む?」
「「「飲むー!」」」
無邪気な子供達はライトの言を疑うことなく、その提案に乗る。
ライトは早速アイテムリュックの中から、オレンジ色に輝く一本の瓶を取り出した。
「これはね、ぼく達人族が好んで飲むドリンクっていう飲み物なんだ」
「どんな味がするの?」
「んーとね、人間の言葉だとオレンジっていう果物があってね?それと同じような味なんだ」
「オレンジ?聞いたことないなぁ」
「人族と小人族では呼び方が違うのかもね。甘くて酸っぱい、このドリンクと同じ色をしているんだ」
ライトは子供達と話しながら、彼らが新たに持ってきたボウルにドリンクを注いでいく。子供達のコップに直接注ぐにはコップが小さ過ぎるのだ。
ボウルに注がれたドリンクを、子供達は興味津々の顔をしながら各々のコップに掬っていく。
それでもやはり未知の飲み物なので、子供といえども皆慎重になる。まずはくんくん、と匂いを嗅いでみたり、躊躇いがちにコップに口を近づけては一旦止めて離して眺めたり、を繰り返している。
そんな中で、一番最初にドリンクを飲んだのはリルだった。
「……わぁっ!このドリンクって飲み物、すっごく美味しい!」
リルは目を丸くして心底感動したような声を上げた後、そのドリンクの味が本当に気に入ったようでこくこくと勢いよく飲んでいく。
そんなリルの様子を見ていた他の子供達も、意を決して口に含んでいった。
「本当だ、美味しい!」
「これ、色も味もオランの実にそっくりね!」
「うん、オランの実の搾り汁だ!」
リルの試飲と絶賛を皮切りに、子供達が次々とドリンクを飲んでいく。子供達の、皆一様にびっくりしながらごくごくと飲み干していく姿を見て、ライトはにこやかに微笑んでいる。
このドリンクの正体は、何を隠そう『特製!橙のぬるぬるたっぷり増量リポペッタンコアルファDX』である。
そう、ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部の売店で大人気の名物のアレだ。
何でそんなもんを持っていたかと言うと、アイテムリュックに何でも詰め放題だから!という理由の他にも、普通に回復剤として常備しているのだ。
どうせ飲むなら、多少効果が少なめでも美味しい方が絶対にいいもんね!というのがライトの方針である。
そしてその方針以外にも、実は密かな目論見がある。それは
『イベントクエスト5のクリア条件『橙のぬるぬる』の代わりに使えないだろうか?』
ということである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本来『○○のぬるぬる』というアイテムは、該当色のスライムを狩ることで得られるドロップアイテムだ。
『橙のぬるぬる』ならばオレンジスライムを、『赤色のぬるぬる』ならばレッドスライムを狩らねばならない。
だが、ライトはまだ冒険者登録できる年齢にも満たない幼い子供の身。スライムを狩れるようになるとしても、まだまだ当分先のことになる。
故に、里の中に招かれた直後に判明したクエスト内容を見たライトは内心で頭を抱えていた。
『ええええ……クエスト5のお題、橙のぬるぬる、だとぅ?』
『そういやゲームのクエストイベントのお題にも、そこら辺がちょくちょく出てきていたっけ……すっかり忘れてたわ』
『だが、んなもんどうすりゃいいんだ……俺、まだスライム狩りすらできんぞ……』
『橙のぬるぬる……オレンジスライムを見つけて死に物狂いで狩らなきゃならんのか』
『……いや、待てよ……橙のぬるぬる……ぬるぬる、ドリンク……』
思考の末にライトが思いついたのが『ぬるぬるドリンクでの代用』だったのだ。
そう、各種ぬるぬるドリンクにはスライム類から採取したと思しきぬるぬる成分が含まれているはず。ならば同名のドリンクを小人族に差し出すことで、クエストクリア判定が出る、かも?
もしダメならダメで仕方がない、後でオレンジスライムを決死の覚悟で狩ればいいことだ。
幸いにして、橙のぬるぬるドリンクならば今アイテムリュックの中に入っている。まずはぬるぬるドリンクで代用できるか、クエストで通用するかどうかを一回試してみよう!
ライトはそう考えたのだ。
子供達がきゃいきゃいと、実に美味しそうにオレンジドリンクもどきを飲んでいるのを見た大人達も、何やら気になってきているようだ。
ライトは出来る子供なので、どことなくそわそわしている大人達にも声をかけていく。
「ささ、大人の皆さんももし良ければ飲んでみてください」
「お酒ではないので子供達も安心して飲めますし、大人でもお酒に弱い人や嫌いで飲めない人なんかにも向いてますよ」
「ちなみにこのドリンク、ポーション程ではないですけど少しだけ滋養強壮や回復効果もあるんですよー」
ライトが滔々と語る、魅惑的な売り文句。それはさながら前世でいうところのテレビショッピングのバイヤー並みの威力である。小人族の大人達も、ライトの言葉を聞き興味津々で寄ってきた。
ライトは再びボウルにオレンジドリンクもどきを注ぎ、里の大人達もどこからかマイコップを持ってきて飲んでいく。
「おお、確かにこれはオランの実の搾り汁にそっくりだ!」
「甘酸っぱくて、美味しいわねぇ」
「こんなに美味しいのに、滋養強壮や回復効果まであるとは……」
「確かに……ほんの僅かではあるが、飲む前よりも身体が軽くなったと感じる。これもこのオランの実の搾り汁のような飲み物の効果、なのだろうな」
先に飲んだ子供達同様、大人達も感心しながら口々に感想を洩らしている。
ひとまず大人達の理解も得られたようで、ほっとするライト。
ライトはその光景を見届けた後、満を持してマイページを開きイベント欄を確認する。
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★小人族の人達と仲良くなろう!★
【クエスト1.ポーション1個 報酬:100G 進捗度:1/1】
【クエスト2.エーテル1個 報酬:100G 進捗度1/1】
【クエスト3.ポーション10個 報酬:1000G 進捗度:10/10】
【クエスト4.エーテル10個 報酬:1000G 進捗度:10/10】
【クエスト5.橙のぬるぬる1個 報酬:ブロードソード 進捗度:1/1】
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ライトの狙い通り、1ページ目の全てのクエストの進捗度が満了になっていた。
記念すべきこの第200話にて、久しぶりにぬるぬるドリンクの正式フルネームが登場しました。
普段は無用な字数嵩増し防止のために、略称の『○○のぬるぬるドリンク』で済ませちゃってますが。正式名称はコチラ↓
『特製!○○のぬるぬるたっぷり増量リポペッタンコアルファDX』
↑これを毎回ご丁寧に出してたら、間違いなくウッザいことこの上ないですし。
ちなみに『たっぷり増量』という部分は期間限定要素ですので、年がら年中増量しているとは限りません。増量のないノーマルバージョンもある、はず。……多分。
そして『期間限定』という魅惑の売り文句。食品系、特にお菓子やおやつ関連によくあるヤツですね。
人はどうして『期間限定』『季節限定』という言葉に弱いんでしょう?もちろん私も思いっきり弱いクチなんですが。
「今だけ!今だけしか食べれないのよ!」
「この機会を逃したら、もう当分はお目にかかれないのよ!」
「さぁ、今この瞬間を存分に堪能すべきよ!」
こーんな悪魔の如き魅惑的な囁きが、幻聴だけでなく字面からもバリバリに主張してくるから困ったもんです。
最も困るのは、分かっててついつい買っちゃう私なんですがねぇ……
 




