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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
魔女に開かれた扉

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第197話 小さなアクシデント

 里の中央広場は、ライト達を歓迎するための宴会の準備が着々と進められている。

 本当はライトも小人達とともに準備の手伝いをしたかったのだが、初めて訪れた場所なので勝手が分からぬまま動き回って迷惑をかける訳にもいかないので、フォルやウィカとともに客人らしくおとなしく座っていた。


 だが、ただボケーッと待っているだけなのも手持ち無沙汰でつまらない。

 ライトは自分の歓迎のための宴会が準備される様子を眺めながら、小人達を静かに観察することにした。


 小人達用のテーブルが次々と出され、小人サイズの果物が乗った皿や酒などの飲み物もどんどん運ばれてくる。

 そしてライトの真ん前には、彼らが普段使っている中では最大級であろうテーブルが数人の大人達の手で運ばれてくる。ライトから見たらおままごと遊びに使えそうな小サイズのテーブルだが、それでも彼らの料理をライトに振る舞うには最適そうだ。


 ライトがこの里に来て一番最初に出会った第一里人?は歳若い衛士で、その次は屈強な身体をした長だった。だが、こうして宴会の準備に勤しむたくさんの小人達を見ると、存外いろんなタイプがいるということが分かる。

 髪は基本的に赤味を帯びた茶色系が多いようで、明るめから濃いめまで結構個人差があるようだ。

 瞳は長と同様の黒茶色がほとんどを占めている。

 髪型は特にこれ!といった種族的な決まりはないようで、様々な髪型が見受けられる。


 テーブルや椅子を運んでくるのは成人男性の仕事で、果物や料理を出してテーブルに並べるのは女性陣達の出番だ。威勢の良いおじさんや元気いっぱいなおばちゃん、若いお兄さんやお姉さんもいてとても賑やかだ。

 さらには小さな子供達もいて、テーブルクロスを敷いたり小皿やジョッキを出してそれらをきれいに並べていくのも子供達の仕事のようだ。



『こうして見ると、小人達の生活というのも案外人間の日々の暮らしと大差ないというか、さほど変わらないものなんだなぁ』

『イベントをこなしたくてここに来たけど、イベントが終わってからも小人達とずっと仲良くしていけたらいいな』

『人間以外の異種族交流とか、考えただけでもワクワクするよね!』



 ライトがそんなことを考えていると、突然子供の泣き声が中央広場に響いた。

 自分の目の前で準備の手伝いをしていた子供の一人が、派手に転んだようだ。

 座りながら膝を抑えギャン泣きする小人の子供。まだ本当に幼い、明るい赤毛の三つ編みお下げがとても愛らしい女の子だ。人間に例えると、三歳か四歳くらいに見える。

 擦りむいて血の滲んだ膝頭が痛々しい。また、膝だけでなく盛大に転んだ拍子に顔や手なども擦りむいてしまったようだ。


「おーい、誰か傷薬持ってるやつはいないかー?」

「いなければ誰かの家から傷薬を持ってきてくれー」


 泣き続ける女の子を宥めていたおじさん小人が、大きめの声で周囲に問うた。

 その声に、真っ先に反応したのはライトだった。


「あ、ぼく持ってますよ!」


 そう言うと、ライトは背負っていたアイテムリュックを背中から下ろして自分の膝の上に置き、ガサゴソと中の荷を漁る。

 そしてリュックの中から、ポーション入りの小瓶をひとつ取り出した。


「これ、人間用というかぼく達人族が日頃使うポーションといって、怪我や体力回復に効く薬です」

「人間用だからちょっとサイズ大きくて量も多いし、小人族の人達にどの程度効くのかまでは分かりませんが……」

「まぁ毒にはならないと思いますので、よければ使ってみてください」


 ライトは大人の小人に大きめのボウルか桶を持ってくるように頼み、最初は戸惑っていた小人達も長が頷き了承するのを見て動き出す。

 しばらくしてライトのもとに届けられた大きな桶に、ポーション液を零さないようにゆっくりと注いでいく。

 桶にそこそこの量のポーションが満ちたところで、ライトは転んで泣いている女の子に話しかけた。


「泣かないで、もう大丈夫だよ。このポーションを飲んでごらん」

「飲めば痛みがだんだん消えていくし、傷口を洗うようにこのポーションをかければ消毒になって傷も消えるから痕も残らないよ」


 優しく語りかけるライトの言葉に安心したのか、女の子は次第に泣き止みこくりと頷いた。

 周りの大人がライトの言う通りに、桶からコップにポーションを移して女の子に飲ませて、膝や手の傷口の他に顔にもできてしまった擦り傷の洗浄に使う。

 涙をポロポロと零しながら口をへの字にして堪えていた女の子の表情が、ポーションを飲み進めるにつれて次第に驚きに満ちていく。


「……ホントだ、痛いのがどんどん消えていく!」

「すごい!もうどこも全然痛くないよ!」


 ライトの言った通りに、怪我の痛みがどんどん引いてなくなっていくことを実感した女の子は、目を丸くしてとても驚いている。

 ヒヤヒヤしながら事態を見守っていた他の小人達も、その女の子の劇的な変化を目の当たりにして、おおおお……と感心の声を上げている。


「大きなお兄ちゃん、ありがとう!」


 怪我をした女の子は、ポーションをくれたライトににこやかな笑顔とともに元気な声でお礼を言った。

 先程流した滂沱の涙もろくに拭われていないままの顔だが、その眩しい笑顔はライトにとって何よりも価値あるお礼だった。


「どういたしまして。君も皆のお手伝いしていて偉いね。お名前……はダメか、君はいつも皆に何て呼ばれているの?」

「私はリル!リルって呼ばれてるの!」

「そっか、可愛い名前だね。ぼくはライトっていう名前なんだ。リルちゃん、これからぼくのことをライトって呼んでくれる?」

「うん!ライトお兄ちゃん、ありがとう!」


 何の気なしに女の子の名前を訊ねてしまったライト。だが、人間以外の他種族にとって本名は命にも等しい大事なものであり、易易とを聞いてはならないことを咄嗟に思い出し、慌てて聞き方を変えた。

 リルと名乗った小さな女の子は、そんなことには全く気づかず普通に愛称を教えてくれたが、周囲にいた大人達は一瞬ヒヤッとした顔をしていた。


 そしてライトはライトで、リルから『ライトお兄ちゃん』と呼ばれたことに大いに感動していた。

 前世では妹が一人いたが、この世界では一人っ子で天涯孤独の身。そして今までずっとレオニスの弟のような立場で過ごしてきて、年下の子との交流も一切ない。

 つまりはずっとリル側ポジションだったので、誰かからお兄ちゃんと呼んでもらったことなどまだ一度もなかったのだ。


 じぃぃぃぃん……というライトの心の感動を表す効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

 目を閉じ眦にうっすらと涙を浮かべながら、リルの『ライトお兄ちゃん』の響きの余韻に浸るライト。

 そんなライトを不思議そうに眺めていたリルだったが、はたと思い出したように明るい笑顔でライトに声をかけた。


「じゃあ、リルはまた皆のお手伝いしに行くね!」

「うん、頑張ってね。もし良かったら、後でいっしょにご飯食べようね」

「うん!!」


 リルは元気な声で返事をすると、タタッと勢いよく走り去っていく。

 ああッ、リルちゃん、そんなに勢いよく走ってるとまた転んじゃうよ!?とライトはヒヤヒヤしながらリルの背中を見送っていた。

 ポーションはHP100回復という、回復系アイテムの中では最も低級品です。

 ですが、今回のリルのように転んで擦りむいた傷を治す程度ならポーションでも十分に治癒効果を発揮するのです。


 ちなみにお味の方は、薄ーーーいスポーツドリンクみたいな感じです。

 高い治癒力や回復力を優先するとなると、お味もそれなりに本来の材料の味に近づいていき『苦い!クサい!不味い!』の三拍子に拍車がかかりますが、最下級のポーションだとそこまで期待されないので薄ーーーいお味で飲みやすいものとなるのです。

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