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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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第1697話 師走のお出かけ

 多忙を極めるレオニスや天舞の羽衣作りに苦戦し続けるラウルを尻目に、ライトの一見平和な日々は過ぎていく。

 そして季節は師走に入り、十二月になってから三回目の土曜日。

 ライトはハリエットとともに、朝早くからツェリザークに出かけていた。


 待ち合わせ時間である朝八時ちょうどに、ライトがウォーベック邸を訪ねた。

 するとそこには、既に玄関ホールで待っているハリエットがいた。


「ハリエットさん、おはよう!」

「ライトさん、おはようございます。今日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくね!てゆか、待たせちゃってごめんね」

「いいえ、そんなことはありませんわ!ライトさんは時間通りに来てくださいましたし、何より今日のお出かけが楽しみ過ぎて……勝手に玄関で待っていただけですから……」


 朝の挨拶を和やかに交わしつつも、頬を赤らめるハリエット。

 今日のお出かけが楽しみ過ぎてライトのお迎えを待ちきれなかったとか、何と可愛らしいことだろう。

 実に初々しいハリエットの様子に、ライトも嬉しそうに微笑んでいる。


 今日のハリエットは、どこにでもいる町娘風の服装をしている。

 というのも、如何にも貴族然とした格好で外を出歩く方が危険だからだ。

 ちなみにその町娘風の服装は、イヴリンやリリィの普段着をモデルにしている。といっても参考にしているのはデザインだけで、服の生地や縫製はものすごく良いものなのだが。

 ハリエットから滲み出る高貴なお嬢様オーラは隠しきれていないが、それでも『ちょっといいとこのお嬢さん』くらいには変身できているので良しとしよう。


 まずはラグナロッツァからツェリザークに移動するべく、冒険者ギルド総本部に向かう。

 二人の護衛として、ライト側からはラウル、ハリエット側はウォーベック伯爵家に仕える騎士一人が同行することになった。

 ちなみにこのウォーベック家側から派遣された護衛騎士、サヴェリオもハリエットの服装に合わせて『どこにでもいる青年』を装っている。


 サヴェリオは普段から鍛錬を欠かさない真面目な青年で、クラウスからの信頼も厚い。

 年の頃は二十代後半で、刈り上げた媚茶色の髪と涼やかな細目の紫鳶色の瞳が印象的な精悍な青年である。


「ライトさん、ラウルさん、今日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくね!」

「ああ、俺とサヴェリオがいれば大丈夫、万が一にも危険などない。なぁ、サヴェリオ?」

「もちろんです。お嬢様の御身は、私が命に換えてもお守りいたします」


 改めて挨拶をするハリエットに、ラウルがサヴェリオに向かって気安く声をかける。

 そしてラウルに声をかけられたサヴェリオの方も、特に難を示すことなく今日の己の使命を尽くすことに燃えている。

 ラウルはご近所の貴族達に仕える騎士や執事、メイド、庭師といった使用人等々全ての者達と懇意にしているので、今日の護衛のサヴェリオとも顔馴染みなのである。


 ウォーベック家が所有する馬車に、ライトとハリエット、そしてラウルとサヴェリオの四人が乗り、貴族街の邸宅から冒険者ギルド総本部に移動する。

 道中の馬車の中では、本日の主役であるライトとハリエットが楽しそうに会話をしていた。


「ハリエットさん、お父さんお母さんのお許しが出て良かったね!」

「はい。お母様はすぐに許可してくださったのですが、心配性なお父様がなかなか頷いてくださらなくて……」

「そうなんだー。でも、お父さんが娘のことを心配する気持ちも分かるけどねー」

「でも、ラウルさんもいっしょについてきてくれるって言ったら、最後はお父様もお許しくださったんです」


 馬車の中で、和やかに会話するライトとハリエット。

 案の定ハリエットの父クラウスが、『ツェリザークなんて遠い街に、子供達だけで出かけるなんて……』とかなり渋ったらしい。

 しかし、ハリエットとてそのままハイ、ソウデスカ、と引っ込む訳にはいかない。

 特に今回は、ハリエットが勇気を振り絞ってライトをデートに連れ出すのだ。

 ここは何としても、是が非でも両親の許可をもぎ取らなければならない。


 その後もハリエットは懸命に父の説得を試みた。

『ツェリザークはプロステスの姉妹都市であり、地方都市の中でも屈指の堅牢さを誇る城塞都市。是非ともプロステスと友好関係にある都市を見学したいんです!』と粘り強く交渉し、最後の切り札『ラウルも護衛につく』を出したことで見事クラウスの許可を勝ち取ったという。


 クラウス曰く『あのラウル君が護衛についてくれるのか!? ならばこれ程心強いことはない!』『もし万が一何かが起きても、ラウル君ならばきっと子供達の身の安全を最優先してくれるだろう』とのこと。

 何故こんなにもクラウスがラウルのことを信用しているかといえば、それはひとえにラグーン学園の秋の大運動会のおかげである。


 大運動会でのレオニス&ラウルの大活躍ぶりは、クラウスも二度も目の当たりにしている。

 現役冒険者であるレオニスにも引けを取らない身体能力を持つラウルならば、まさに護衛にうってつけ!ということをクラウスも熟知していた。


「そっか、伯爵様の許可が出たのはラウルのおかげだったんだね。ラウル、ありがとうね!」

「ええ、ラウルさんのおかげです。本当にありがとうございます」

「どういたしまして。つーか、俺自身は特に何もしてないがな」


 ラウルに礼を言うライトとハリエットに、ラウルが涼しげな笑顔で応える。

 実際ラウルの言う通りで、今回ラウルはこれといってウォーベック家に何かを働きかけた訳ではない。


 しかし、クラウスがラウルにそうした絶大な信頼を寄せるのは日頃の行いの賜物。

 ラウルがウォーベック家との交流や親睦を深めてきたという実績があるからだ。

 普段からご近所付き合いを大事にしようね!というライトの方針が、ここでも役に立ったという訳だ。


 ちなみにラウルは未だに天舞の羽衣作りに勤しんでいる。

 マフラーサイズの羽衣を作るだけの糸作りは完了し、現在は羽衣を織っている真っ最中だ。

 今日ラウルに護衛についてきてもらうことに、ライトは少しだけ申し訳なく思ったのだが。ラウル曰く「気分転換にちょうどいい」と言って快く引き受けてくれた。

 心優しい万能執事に、ライトはただただ感謝しかない。


 そうして様々な話をしているうちに、一行の馬車が冒険者ギルド総本部前に着いた。

 そうして四人は冒険者ギルド総本部の中に入っていった。


 建物の中は、相変わらず多数の冒険者達がいて混雑している。

 強面の冒険者達が、時折ライトやラウルに向かって声をかけてきた。


「お、ラウルの兄ちゃんじゃねぇか、久しぶり!」

「おう、レオニスんとこの坊っちゃんもいるじゃねぇか、こりゃまたラウルの兄ちゃん以上のレアキャラだな!」

「今日はお友達と連れ立って、どこかにお出かけか?」


 胡散臭い顔に反して、気さくに声をかけてくる冒険者達。

 それに対して警戒しているのはハリエットの護衛だけで、ハリエット自身は無言のままニコニコとした笑顔でいる。

 こういう場面では、おどおどしたりビクビクと怯えるべきではない、ということをハリエットも知っている。

 ハリエットはハリエットで、様々な思惑が渦巻く貴族社会の中で日々研鑽を積んでいるのだ。


 たくさんの顔見知りからの声かけを無難にやり過ごし、ライト達四人は奥の事務室に行く。

 そこでもラウルが懇意にしているギルド職員、ダレンがいた。


「お、ラウル君、今日も他所にお出かけかい?」

「ああ。今日はうちの小さなご主人様が、学園の友達といっしょにツェリザークにお出かけするんだ」

「今日はその護衛という訳か」

「そゆこと」


 ラウルはダレンと和やかに会話を交わしつつ、転移門の使用料代わりの魔石をダレンに差し出す。

 ダレンはそれを受け取り、四人を転移門のある場所まで連れていく。


 ライトやラウルはいつも通り転移門の中に入るが、ふとライトがハリエットを見ると心なしか彼女の顔が強張っているように見える。

 それもそのはず、ハリエットは今まで一度も転移門での瞬間移動を経験したことがないからだ。


 実際のところ、転移門というのは基本的にそう気軽に使えるものではない。

 その理由としては、使用料が高くつくのが一番の原因であり、余程裕福な貴族や豪商などの富裕層でもなければ頻繁に使うこともない。

 ましてやハリエットはまだデビュタントも迎えていない十歳の子供。転移門の利用経験などあろうはずもなかった。


 緊張の面持ちで転移門の中に入るハリエットに、ライトが声をかけた。


「ハリエットさん、もしかして転移門で移動するのは今日が初めて?」

「は、はい……人によっては、移動後に乗り物酔いのような感覚になることもある、と聞いたことがあります」

「そっか、初めてじゃ緊張するのも無理はないよね。でも大丈夫、ぼくとラウルがついているから心配しないで!」

「……ッ!!!!!」


 ハリエットの緊張を解すべく、ライトがハリエットの手をそっと握った。

 大好きなライトに手を握られたことに、ハリエットの顔が一気に紅潮する。

 ライトとしては、ただ単にハリエットを励ましているだけなのだが。ハリエットにしてみたら、初めて転移門に臨むのとはまた別の意味で緊張感大爆発である。


「ラ、ライトさんにエスコートしてもらえるなんて……とても嬉しいですぅ……」

「ン? エスコート? ……あー、こんなんでもエスコートになる、のかな? ぼくは貴族のマナーなんて全く分からないけど、もしマナー違反とかしてたら教えてね。直すように努力するから」

「わ、分かりました……」


 顔を真っ赤にして呟くハリエットに、ライトが『あ、もしかしてこれ、マナー違反だったりする?』と思いながら話しかけている。

 実際のところ、女性側から求められてもいないのに男性側から手を握るのは感心しない行為とされる。

 それどころか、一歩間違えればセクハラ案件に認定されて炎上まっしぐらである。


 しかしハリエットはライトに好意を持っており、ライトからハリエットの手を握ったのも彼女の緊張を解したいがための配慮であって、そこにセクハラ的な意図など微塵もない。

 そして傍から見れば、子供同士がただ手を繋いでいるだけの微笑ましい光景。故にライトは無罪である。


 そしてここで、ラウルがライト達に声をかけた。


「さ、そしたら皆でツェリザークに行くぞー」

「はーい!」「「はい!」」


 ラウルが呼びかけた後、四人は転移門でラグナロッツァからツェリザークに瞬間移動していった。

 前話で発生したライトとハリエットのおデート回です。

 といっても純粋に二人きりのデートではなく、大人二人の護衛つきなんですけど。


 でもまぁそれも仕方ありません。生粋の平民のライトはともかく、ハリエットは由緒正しい伯爵家のご令嬢なので、市場や街に出かけるとなるとどうしたって護衛の一人や二人は必ずつけないといけない立場ですからね(´^ω^`)

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