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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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1680/1682

第1680話 百聞は一見に如かず

 レオニスが呼び寄せた魔術師、クェンティンが火魔法『火球』で右手の平の上に人の頭ほどの大きさの火を出した。

 火球は初級火魔法で、普通の一般人が使う火球はせいぜい手の平サイズだ。

 だが、同じ火球でもその三倍以上大きな火を出せるとは、さすがは宮廷魔導師副師団長と言わざるを得ない。


 そして、レオニスが何をしようとしているのか分かっていない者達は、これから一体何が起こるのか想像もつかない。

 あからさまに怪訝な顔をしたり、不安な表情でレオニス達を見つめていた。


 何故レオニスが、ここでわざわざ他人に火魔法を使わせたのか。それにはちゃんとした理由がある。

 このラグナ宮殿内では、魔法を行使できる人間が限られているからだ。


 部外者であるレオニスには当然魔法を行使できる権利は与えられていないし、特にこの玉座の間では全ての魔法を阻害する魔法陣が床に組み込まれていて、魔術師ギルド総本部マスターであるピースでさえも今ここで魔法を使うことは不可能となっている。

 これはいわゆるテロ対策であり、全てはラグナ大公の命を守り暗殺を目論む輩どもを封じ込めるためである。


 ただし何事にも例外があるように、この場で護衛を務める宮廷魔導師は別。

 彼ら彼女らは、常にラグナ大公やこの場にいる重鎮達を守る役割を持っている。

 そのため、玉座の間にあっても万が一に備えて魔法を使うことが許されているのだ。


 クェンティンが出した火球に向かって、レオニスが声をかけた。


「火の女王、来てくれ」


 それは、火の女王をこの場に招き入れるための言葉。

 レオニスが言い終わるや否や、人の頭ほどの大きさだった火球がグワッ!と一気に燃え広がった。

 そうして巨大な火の渦の中から現れたのは、火の女王だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「「………………」」」


 ラグナ宮殿の玉座の間、そのど真ん中に突如現れた火の女王。

 火属性の頂点たる女王を目の当たりにしたラグナ大公達が、石のように固まっている。

 火の女王を呼び出すための媒介の火球を出したクェンティンに至っては、その場で腰を抜かして床に尻もちをついたまま放心している有り様だ。


 しかしレオニスは、そんなことキニシナイ!とばかりに火の女王に声をかけた。


「火の女王、呼び出してすまんな」

『何、他ならぬ其方の頼みとあらばできる限り叶えてしんぜようぞ』

「いつもありがとうな」

『フフフ、こちらこそ其方にはいつも厄介になっておる故な』


 レオニスと火の女王が、互いに気安く挨拶を交わす。

 そして火の女王は、自分を呼び出したレオニスのすぐ傍にピースがいるのを目敏く見つけ、すぐさまピースにも声をかけた。


『……ン? よくよく見れば、大魔導師ピースもおるではないか。久しいの』

「火の女王ちゃん、お久しぶりー!てゆか、火の女王ちゃんも小生のことを覚えててくれてたの!?」

『もちろんだとも。妾は己が恩人の顔や名前を忘れるような無礼者ではないぞ?』

「だよねー!火の女王ちゃんも炎の女王ちゃんそっくりで、すっごく優しいもんね!」


 レオニスだけでなく、ピースとも和やかに会話する火の女王。

 あまりにも穏やかで長閑な光景を、ラグナ大公達は信じ難いものを見たかのような目で呆然と眺めていた。


「……さて、火の女王。ここに来てもらったのは他でもない。人族の王の一人、ラグナ大公に直接会って話をしてもらうためだ。過日炎の洞窟で俺に……いや、人族に対して言い渡したことをここでもう一度、この場にいる全員に聞かせてやってくれるか」

『承知した』


 レオニスの話に、火の女王が頷きながら承諾する。

 実は今日の午前中に、レオニスは属性の女王達を繋ぐ転移門ネットワークを使ってエリトナ山に出かけていた。

 もちろんその目的は、午後のラグナ大公との謁見の場に降臨してもらうためである。


 いくらレオニスやパレン、ピースが火の女王の宣告を真剣に訴えたとしても、ラグナ大公や大臣達が真面目に受け止めなければ話にならない。

 ただでさえ人族というものは愚かで、自分が見聞きしたいことしか受け入れない者も多い。


 だが、こうした公の場で当事者である火の女王から直接言われれば、嫌でもその事実を認めなければならない。

 これだけの大人数、しかも有力な地方領主であるアレクシスやジョシュア、そして冒険者ギルド総本部マスターのパレンに魔術師ギルド総本部マスターのピースまで同席し、その一部始終を目撃したとあってはどう足掻いてもその事実を揉み消したり隠蔽しきれる訳がないのだから。


「俺は今日、人族の王と謁見する約束をしている。もしよければ、火の女王からも報復の件を人族の王に説明してくれるか。そうでもしないと、上の者達が危機感を持たんかもしれんのでな」

『うむ、よいぞ。火に向けて妾の名を呼ぶがよい。さすれば妾はその火のもとに現れよう』


 こうした事前の打ち合わせにより、ラグナ宮殿内の玉座の間に火の女王が降臨するという奇跡が実現したのだ。

 これはアクシーディア公国だけでなく、サイサクス世界においても紛れもない快挙であり人類史上初の出来事だった。


 しかし、火の女王が穏和な顔をしていたのはほんの僅か。

 レオニスやピースと挨拶を交わした直後に火の女王は視線を外し、自身の身体をくるりと一周させながら周囲を見回す。

 その表情は眉間に皺を寄せていて、見るからにとても険しいものだった。


『しかし、ここの空気は何とも不快さに満ちているな……』

「ああ、それはこの部屋に魔法を封じる魔法陣が敷かれているせいだろう。不快な思いをさせて申し訳ない」

『気にするな。其方の話を聞いて合点がいったわ。しかし……この程度の児戯、妾には通用せぬぞ』

「「「ッ!!!!!」」」


 火の女王の艶やかな青白い髪がブワッ!と広がり逆立つ。

 この玉座の間には、テロ対策として魔法封じの魔法陣が幾重にも張り巡らされている。

 しかしそれは、あくまでも魔法使いに対してのもの。

 火の女王他精霊達が使うのは、霊力とも言うべき精霊独自の力であり、そもそも魔法を使っている訳ではない。

 故に火の女王がどれだけ強力な魔法封じに囲まれていようとも、彼女が行使する火を止める術にはなり得ないのだ。


 火の女王が青白い火を全身から放つ。

 滑らかな流線型の艶めかしい身体から、ゆらゆらと揺らめき立ち上る青白いオーラはあまりにも美しく神々しさに満ち満ちている。


 レオニス達冒険者やピース達魔術師など、魔法が身近で日常的かつ頻繁に火魔法に接している者達ほど『火は赤よりも白や青に近づく程高温になる』というのは常識だ。

 しかし、火魔法に縁遠い者達―――ラグナ大公や大臣達にとって火は赤いものであり、青白い火など今まで一度も見たことなどない。

 ラグナ大公達は、初めて目にする青白い火の圧倒的な存在感に気圧されて、息を呑んだまま身動き一つ取れないでいた。


『そこな人の王よ。炎の洞窟で過日起きた事のあらましを、ここにいる者達から聞いておるな?』

「……ぁ、ぁぁ、先程レオニスや他の者達から聞いたばかりだ」

『ならば話は早い。我が妹である炎の女王を害した罪、贖ってもらうぞ』

「「「!!!!!」」」


 火の女王の無慈悲な宣言に、その場にいるレオニス達以外の者全員の顔が強張った。

 彼女の言葉は先程レオニスが言っていた通りのもので、火の女王の本気度がひしひしと伝わってくる。


 しかし、ラグナ大公も黙ってはいない。

 彼はアクシーディア公国の国家元首であり、公国国民を守る立場にある。

 しばし呆然としていたラグナ大公だったが、誰よりも早く正気に戻りすぐさま火の女王に抗議した。


「ぃ、ぃゃ、ちょっと待ってくれ!人族全てが邪な訳ではない!大多数の民は善良であり、此度の事件には全くの無関係だ!火の女王よ、其方は無辜の民をも皆殺しにすると言うのか!?」

『だからこそ妾は猶予を与えた。レオニスから事のあらましを聞いているならば、次の満月までに黒幕とやらを裁けという妾の言葉も聞いておるであろう?』

「そ、それは……」


 火の女王の正論に、ラグナ大公はそれ以上異を唱えることができないどころか絶句する。

 黙り込んでしまったラグナ大公に、火の女王が侮蔑の眼差しを向ける。


『というか、次の満月までまだ十日以上はあるはずだが……それでは短いと申すか? 全く……人族とはほんに強欲よの。何なら今すぐこの中を、妾の豪火で埋め尽くしても構わんのだぞ?』

「………………」


 凛としたよく通る声で、容赦なく追討ちをかける火の女王。

 その声音には呆れや苛立ちが多分に含まれていて、不機嫌さを隠そうともしない。


『妾とガンヅェラの力を以ってすれば、人里を火の海に化すことなど容易いことを忘れるな。本来ならば、今すぐにでも炎の女王が受けた苦痛を何十倍、何百倍にして返したいところを我慢しておるのだ』

「……それは、重々承知しております……」

『そして、妾がここまで気を長くして待ってやるのも、ひとえに妾と炎の女王の命の恩人であるレオニスとピースに免じてのこと。努々(ゆめゆめ)忘れるでないぞ』

「……はっ……」


 ラグナ大公が、何とか声を絞り出すようにして火の女王との会話を続ける。

 玉座に座ったままのラグナ大公と、玉座の階段下からラグナ大公を見上げる火の女王。

 視線こそラグナ大公が火の女王を見下ろす格好だが、実情はその真逆。

 強大な力を持つ火の女王に、もとより大義も正当性もない人族が逆らえるはずもなかった。


 玉座の上で、力なく項垂れるラグナ大公。

 一方で火の女王は、言いたいことを言えてスッキリしたのか、晴れやかな顔でレオニスとピースに声をかけた。


『レオニスにピースよ。先日の妾との約束、忘れてはおるまいな?』

「ああ、もちろんだとも。炎の洞窟を襲うよう命じた真犯人を必ず捕まえて、裁きを受けさせよう」

「レオちんやパレンちゃんだけでなく、小生も犯人捕縛のために頑張るからね!」

『エリトナ山にて良い報告を待っておるぞ。では、またな』


 レオニスとピースの力強い言葉に、火の女王が満足そうな笑みを浮かべる。

 そうして火の女王はフッ……と消えた。どうやらエリトナ山に帰ったようだ。

 火の女王が消えた後の玉座の間は、しばらくの間痛い程の静寂に包まれていた。

 レオニスの秘策、火の女王をラグナ宮殿に直接呼んじまえ!作戦の決行です。

 実際のところ、火の女王から言い渡された期限はそう長くないので。上のご機嫌を伺いながらー、とかちんたらしてる余裕はないのですよね(=ω=)


 なので、迅速な事件解決のためには国家元首もビビるくらいの危機感を持ってもらわなければ話は始まらんし、サクサクと進めていかなければ本格的に不味いことになる!という訳で。

 ラグナ宮殿登城前の午前中や登城中の馬車の中等々、いたるところでレオニス達五人はあれこれと画策していたのですね(^ω^)

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