第168話 新たな称号
『あの特殊スキル【無限の手】【無限の氣】は、イベントでの入手だったよな……』
『イベント名は確か【荊棘の果実】だったか』
『荊棘の道を突き進んだ先には、世にも珍しいスキルがある。勇者候補生達よ、試練を乗り越えろ!というストーリー仕立てのクエストクリア系のイベント……懐かしいな』
クエストクリア系イベントとはその名の示す通り、運営側が提示したクエストをクリアする毎に何らかの報酬が貰えるイベントだ。
そのクエストは『○○を100個拾え!』とか『△△を10体撃破せよ!』等様々な種類がある。
『さて、この世界でのイベントはどうやって発生するんだろうか?』
『既に【ドラゴンの卵を孵化させよう!イベント】が実施済みなのだから、イベントが起こらないなんてことはないだろうし』
『自然発生するのか、それとも自分でフラグを立てる必要があるのか』
『そこら辺のシステムを知りたいが……どうすりゃいいんだ?』
ライトはまだレオニスが来てないのをいいことに、こっそりとマイページを開いてみる。
この手の問題や悩みは、マイページや専用掲示板を覗けばかなりの確率で解決できていた。とはいえ、この世界では専用掲示板なんてものはないので、苦心の末にようやく見つけたマイページを眺めるくらいしかできないのだが。
そういえば、ここ最近忙しくてマイページを全然見てなかったなぁ、と思いながら自分のステータス欄等を見てみる。
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【名前】ライト
【レベル】10
【職業】忍者
【職業習熟度】2%
【称号】勇者
【状態】通常
【HP】126(+100)
【MP】113+5525(+100)
【SP】40(+20)
【BP】−
【所持金】10000G
【CP】0CP
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『ん?レベルが上がってる?何でだ?』
『……いや、ちょっと待て。そんなことより、何だこの称号は……』
『何で【勇者】なんてもんがついているんだ!?』
久しぶりに開いたマイページ。そこに記載されていた己のステータスに、とんでもない変化が起きていた。
レベルが3から10に上がり、しかも以前は空欄だった称号欄に何と【勇者】と書かれていたのだ。
あまりの衝撃の事実に、ライトの目も口も大きく開かれたまま固まってしまっている。
しばらくしてからハッ!と我に返ったライト、高鳴る心臓と気持ちを落ち着かせるためにとりあえず目を閉じて深呼吸を何回かしてみる。
フーーー……と息を吐ききったあと、目を開いて一度マイページを閉じた。そのまま【勇者】の文字を見ているだけで、心臓に悪いような気がしたからだ。
『俺が【勇者】だと?』
『……何でだ、いつどこで、どうしてこうなった?』
頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、ライトは懸命にその原因を考える。
すぐに思い浮かんだのは、今日の昼間のヴァレリアの言葉だ。ライトの脳裏に、感激の面持ちでライトを見つめる鮮緑と紅緋の渾沌魔女の顔が浮かぶ。
「ああ、ついに【勇者】が帰ってきたんだね……」
あの時ヴァレリアは、確かにそう言っていた。その言葉は、当然ライトに向けられたものである。
『転職神殿で出会ったヴァレリアの言葉のせい、なのか……?』
『そんなはずは……いや、しかし……それ以外に思い当たる節が全くない……』
『そういや前にフェネぴょんからも、君は世界を救った勇者だ、と言われたことはあったが……』
ヴァレリアは、冒険ストーリーに出てくるNPCの中でもかなり特殊な立ち位置のキャラだった。
その言動からは世界の真理の何たるかを知り尽くしているような、それでいてまだ何かを探し続けている。確かそんなようなキャラ設定があったはずだ。
対してフェネセンは、見覚えのあるNPCでこそないが今のこの世界でトップクラスの大魔導師だ。予知夢まで見る彼の言動が、この世界に何らかの影響を与えている可能性も少なからずありそうに思える。
これらは全て憶測で、決定的な証拠や確証など何ひとつない。
だが、おそらくはヴァレリアやフェネセンの発した言葉により称号が発生したのだろう。それ以外に考えられる可能性など全くないのだから。
そして、既についてしまったものに関して、これ以上考えてもしょうがない。このマイページの存在が、外部に漏れなければいいだけのことなのだから。
ライトはそう考えることにして、もうひとつの驚愕の事実『レベルが10になっていた問題』を考察することにした。
『これはあれかな、多分こないだの邪龍の残穢の討伐。それしか考えられんよなぁ』
『俺自身は一太刀も浴びせていないが、戦闘の場に居合わせていたことに変わりはないし』
『そもそもあれ、HP10万超えたレアモンスターだから経験値もかなり高かったはずだ』
『直接下したのはクレアさんだし、そのお零れを貰っただけに過ぎんが……それでもレベルが7も上がったのは嬉しい誤算だな』
『そしたら早速レベルアップポイントを割り振りしとくか』
レベルが7上がったなら、その特典であるレベルアップポイントも70貯まっているはずだ。
ライトはそのポイントを割り振るために、再びマイページを開いた。
マイページの左右ボタンである◀▶を押しながら、該当ページに移動する。
予想通り貯まったまま未使用状態の70ポイントを、力に55、体力に15で振り分ける。
振り分け完了後のライトのステータスは、以下の通りになった。
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【力】368 〖物理攻撃力〗736
【体力】108 〖物理防御力〗216
【速度】31 〖敏捷〗50〖命中〗37〖回避〗47
【知力】12 〖魔法攻撃力〗24
【精神力】11 〖魔法防御力〗22+2178
【運】28 〖器用〗42〖クリティカル〗8〖ドロップ率〗3
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これまでのレベルアップポイントは、全て力と体力に振っているので両方ともそこそこな数値になっているな、とライトは思わずニヤける。
その分速度と知力は完全に後回しだが、速度は斥候系職業が最も得意とする分野なので放っておいても職業補正値が高いので問題はない。
知力は主に魔法攻撃力を上げるものなので、魔法攻撃スキルを全く持たない今は放置しててもこれまた全く問題はない。
運もすぐには必要なさそうなので、そちらは後々余裕が出てきたら上げようと思っている。
精神力に至っては、魔の森カタポレンで鍛え上げられた住民特典?により既にアホほど高くなっているので、何ならもう一生手付かずの放置プレイでもいいくらいだ。
一通りレベルアップポイントの割り振り作業を終えたライトは、何の気なしに上下ボタン▲▼を押してみる。
上下方向は『アイテム欄』『スキル情報』『ショップ』がループで出てくるはずだ。そこら辺のコンテンツにも何か変化が起きていないか、確認しておきたかったのだ。
テンポよく上下ボタンを押していく。
アイテム欄には何故か買った覚えのないエクスポーション1個と、スキルブックがあった。
これもおそらく邪龍の残穢討伐で得た報酬であろう。そういや基本データのところの所持金も10000Gになってたな、あれも多分邪龍の残穢の報酬だろうな、とライトは思う。
『おっ、ラッキー!邪龍の残穢から出るレアスキル落ちてたとは!』
『これ確か、魔攻撃50%アップのスキルだよな。すぐには使わんだろうけど、とっととスキル獲得しておこう』
ライトはアイテム欄にあったスキルブックを指でタッチして、スキル【残穢の記憶】を得た。
これでライトはいつでも魔攻撃50%アップのスキルを使えるようになった。とはいえ、魔法系スキルが全く手持ちにないうちは当分出番はなさそうなのだが。
次に出てきたのは『スキル情報』。そこで先程得た【残穢の記憶】があることを確認して、次の『ショップ』に進む。
ショップは主に回復剤や武器、防具、アクセサリー等を購入するページだ。前回見た時には何一つなかったが、今見ると『ポーション』『エーテル』等の最安下級回復剤が出ていた。
ショップのラインナップを一通り見てみたが、今すぐに欲しいと思えるようなものはなさそうだ。
だが、職業習熟度上げ作業などでレオニスに知られることなく回復剤が欲しい場合などには大いに役立ってくれそうだ。
さて、これで一通り上下のページは見たかな、と思いつつ再度▼のボタンを押す。
すると、そこには見慣れない新たなマイページ欄が出てきた。
『ん?何だこのページ?』
『…………!?!?』
その一番上の部分にデカデカと表示されている単語に、ライトは思わず目を見張る。
ライトが驚愕しつつ刮目したその新たなページには『イベント』と書かれていた。
久しぶりにライトのステータス数値が出てきました。
以前、第70話後書きにて
『一応ステータスや能力値は、詳細な算定式が存在してたりします。
その算定式を基に、レベルやレベルアップポイントの増加分を当てはめて数値を算出しています。』
とエラそーなことを書きましたが。ありゃ嘘だ!とセルフツッコミしたくなるほどに算定の仕方を半分くらい忘れてしまい、今回思い出すのに散々苦労しました……
くっそー、こんなことならもっと事細かに算定式書き留めておくんだったー、前に書いたメモは大雑把過ぎた!
……次からは、後で読み返して思い出せるようにすんげー細かくメモ記載して残しておこうと心に誓いました……_| ̄|●




