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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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第1668話 フラムの強い後悔と新たな未来を掴める喜び

 その後炎の洞窟内の転移門の修復をしながら、炎の女王やフラムと話をするレオニス。

 レオニスやラウルも目撃していない不審者四人組の情報を得るためだ。


「そいつらは、大きい男と細い男、小さい女と大きい女の四人だったんだよな?」

『うむ……細い男と小さい女は妾の方に来て戦いになり、大きい男はフラム様を妾に近づけさせないよう、足止めしていたように思う』

『うん。炎の女王ちゃんの言う通りだよ。大きい女はボクと炎の女王ちゃんの間くらいにいて、他の三人に加勢してた』

「他にも見た目や名前なんかは分かるか?」

『確か……女はカミラ、ライラ、男は……細いのがジェイク、フラム様にしつこくつきまとっていた方は……テッド、と呼ばれていたと思う』

『見た目は……ごめんね、あまり細かいことはよく覚えてなくて……レオニス君と同じくらいの年に見えたことくらいしか分かんない』

「OK、それだけ分かりゃ上等だ」


 レオニスの質問に、一生懸命に答えようとする炎の女王とフラム。

 彼女達が侵入者の体格や性別、大雑把な年齢くらいしか覚えていないのも仕方がない。お互い初対面同士だったのだから。

 だが、全員の名前を覚えていてくれただけでも十分だ。

 冒険者ギルドや魔術師ギルドに問い合わせれば、何らかの情報が得られる可能性はそれなりにある。


 まずは侵入者の素性を調べて、それから真の黒幕であるダリオ・サンチェスへの繋がりを探す。

 大公家の流れを汲むサンチェス家のことだ、おそらく大公家同様に影を担う組織が存在するだろうが……

 それでも、何としても大元に辿り着かなきゃならん。

 でなけりゃ火の女王の怒りを買って、とんでもないことになるからな……

 ……ギルドでの情報照会と合わせて、マスターパレンとピースにも相談するか。最悪の場合、ラグナ大公への直訴も視野に入れなきゃならんしな……

 ピースにはついでに、転移門の石柱の仕様変更についても相談しとくか。


 転移門の魔法陣のチェック、融けて固まってしまった操作用の石柱の残骸の片付け等をレオニスがテキパキと済ませていく。

 その間に今後の対策や行動方針もあれこれと考えているのだから、何しろレオニスの頭の中は慌ただしい。


 侵入者四人組の残骸と思われる四ヶ所も調べてみたが、これといった手がかりは得られなかった。

 何しろ侵入者の四人はもとより、装備品や持ち物全てが炭と化してしまっているのだ。燃え残ったものが何一つない状況ではどうしようもない。


 レオニスが炎の女王達と話をしている間、少し離れたところで火の女王は風の女王やゼスと話をしている。

 ラウルはラウルでレオニスに指示を受けて、侵入者四人組の残骸の片付けをしていた。


 レオニスが見ても手がかり一つ得られなかった以上、それらの残骸を最奥の間に留め置く必要はない。

 むしろこれからもここに住み続けていかなければならない炎の女王やフラムの気持ちを思うと、目障りにしかならないものはさっさと片付けるが吉である。


 そうしてレオニスやラウルがやるべきことを一通り終えたところで、皆で一休みするべくおやつにすることにした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 テーブルやら椅子やらを出し入れするのも面倒くさいので、もう敷物も出さずにそのまま全員で輪になって地べたに座る。


「よーし、じゃあ今から皆でたらふく美味いもん食って、元気になろう!いッただッきまーーーす!」

「『『『『いッただッきまーーーす!』』』』」


 レオニスの掛け声に、ラウル他全員が合掌しつつ食べる前の挨拶をした。

 今日も全員お行儀が良いようで何よりだ。


 炎の女王やフラムはシュークリーム、火の女王はガトーショコラ、風の女王とゼスにはバームクーヘンと海色のぬるぬるドリンク。

 皆それぞれに好きなものを選び、美味しそうに食べたり飲んだりしていた。


 皆HPやMPは既に十全に回復していて、特にエリクシル付きの神樹の小枝を与えられた火の姉妹やフラムは完全に回復している。

 しかし、それはそれ、これはこれ。

 美味しいおやつとともに気心の知れた仲の良い者達と過ごす至福のひと時は、何にも勝る癒やしとなるのだ。


 美味しいおやつを一頻り食べた後、フラムの隣に座っていたラウルがふとフラムの後ろを見ながら呟いた。


「……フラムの尾につけた天舞の羽衣、だいぶ焼け落ちちまったなぁ」

『…………ぁ…………』


 ラウルの何気ない一言に、それまで寛いでいたフラムの身体が石のように固まる。

 ラウルが言う天舞の羽衣は、今年の八月三日にフラムの誕生日プレゼントとしてラウルが贈ったもの。

 もちろん耐火耐熱の付与魔法が施されていたのだが、怒りで暴走したフラムの豪火にはさすがに耐えきれなかったようで、尾に結びつけた箇所がかろうじて僅かに残るだけとなっていた。


 そしてフラムが、何かに気づいたようにハッ!とした顔で己の脚を見た。

 フラムの右足首にはライトからのプレゼントが、左足首にはマキシからもらったプレゼントが着いているはずだからだ。


 右足首にあるライト特製のアンクレットは、金属製ワイヤーと【炎の乙女の雫】でできているため、全体が煤ける程度でほぼ無事だった。

 一方の左足首の方は、魔宝石のルビーこそ無事だったがベルベットリボンが天舞の羽衣同様に焼け落ちる寸前だった。


 やはり布製もしくはそれに準ずる羽衣では、フラムの怒りの炎に太刀打ちできなかったらしい。

 ただし、侵入者四人組が瞬時に消し炭になる程の高温下であったことを思えば、ほんの僅かでも残っていただけ十分にすごいことなのだが。


 そしてラウルとしては、誕生日プレゼントが壊れていたことでフラムを責めるつもりなど毛頭なかった。

 むしろ、あの豪火の中でよくぞ僅かでも残ったもんだ、と感心したくらいだ。

 しかし、そんなことはフラムには全く関係ない。

 大事な宝物たちの無惨な姿を目にしたフラムの瞳が、みるみるうちに潤んでいった。


『……ぅぅぅ……皆が、ボクのために……作って、くれた……大事な、大事な……プレゼント、だったのに……』

『ごめんね、ラウル君……ごめんね、ライト君、マキシ君……ぅぅぅ……』


 フラムが大粒の涙をポロポロと零しながら、声にならない声で嗚咽する。

 悲しみに暮れるフラムに、ラウルの反対側の隣にいた炎の女王が慌ててフォローに回る。


『フラム様、泣かないでくださいまし……今日のことは、どうしようもなかったのですから……』

『そんなの、言い訳にも、ならないよ……ボクが、不甲斐ない、ばかりに……皆からの、プレゼントを……台無しに、しちゃって……ぅぅぅ……』

『ああ、フラム様……』


 炎の女王が懸命にフラムを励まそうとするも、フラムはずっと俯いたまま泣き続けている。

 宝物を一気に失くして落ち込むフラム。その気持ちは炎の女王にも痛い程伝わるだけに、これ以上何と言って慰めてよいものか分からないようだ。

 そして今フラムの中では、八月にこの最奥の間で自分の誕生日を祝ってくれた時の様々な場面が蘇っていた。


 アクセサリーを着けてくれたライトやマキシの笑顔、それらを見守ってくれている炎の女王の嬉しそうな微笑み、その時にフラムが感じた途轍もなく大きな喜び。

 それらを思い出す度に、フラムは強い後悔の念に苛まれていった。


 皆がボクの誕生日を、心から祝ってくれたのに……

 ボクはボクの力を抑えきれなかったばかりに、皆がくれたプレゼントをボロボロにしてしまった。

 ボクは何て愚かで、非力で、役立たずで―――どうしてこんな、取り返しのつかないことをしてしまったんだろう……


 フラムの悲しみの涙は止まらない。

 あの楽しかった日の証であるアクセサリーやリボン、そして天舞の羽衣。全てがフラムの大事な宝物だった。

 それを一瞬にして失ったのだ。フラムが深い悲しみに包まれるのも無理はなかった。


 だが、そんなフラムを救ったのはラウルだった。

 涙に暮れるフラムに、ラウルが優しく語りかける。


「フラム、もう泣くな。別にお前のことを怒った訳じゃないし、もし怒ったように聞こえたんだったら謝る。ごめんな、フラム」

『……ぅぅぅ……』

「尾に着けるリボン、天舞の羽衣なら俺がまた新しく作ってやるから」

『でも……でも……皆の、プレゼントを……ボロボロに、しちゃった、ボクに……新しいものを、受け取る、資格、なんて……ないよぅ……ぅぅぅ……』


 ラウルがフラムの背中を優しく撫でながら、諭すように提案する。

 フラムにしてみれば、心尽くしのプレゼントを壊してしまった自分に新しいプレゼントをもらう資格などないと思っているようだ。

 そんなネガティブな思考に囚われているフラムを説得するべく、ラウルはなおも言葉を尽くす。


「そんなことはないさ。贈り主の俺が新しく作り直して、またフラムにプレゼントするって言ってんだから。そこに何の問題がある? なぁ、ご主人様よ?」

「ン、全く問題ねぇな。ラウル、何なら前のよりもっと大きな羽衣を作ってやれよ」

「おお、そりゃいいな。前回のは急拵えだったから、ちっこいリボンもどきくらいしか作れなんだが……よし、今度はマフラーサイズまで作るとするか」


 ラウルからのパスを、見事な答えで返すレオニス。

 期待以上の答えを得たラウルが、なおもフラムの背中を優しく撫でながら声をかける。


「なぁ、フラム。ぶっちゃけた話、俺達のプレゼントなんてどうでもいいんだ。フラムが無事に戻ってきてくれたことが、俺達にとっては何よりも一番嬉しいんだから」

『……ぅぅぅ……』

「そうだぞ、フラム。ラウルの言う通りだ。贈り物なんてものはな、生きて元気でいてくれさえすればこの先いくらでもやり取りできるんだ。……フラム、俺の言っている意味が分かるか?」

『……(コクリ)……』

「良い子だ」


 ラウルの言葉にレオニスも乗っかり、フラムを勇気づける。

 物質的なものなら、例え失くしたとしてもいくらでも買い直したり作り直したりすることができる。

 だが、命が失われてしまったら全てはそこで終わり、決して取り戻すことはできない。


 失くしたものを嘆くより、生き延びて新たな未来を掴めることをこそ喜ぼうじゃないか―――レオニスもラウルも、フラムに言外でそう伝えているのだ。


 フラムがラウルを両翼で包み込み、ギュッ……と抱きしめる。

 フラムに抱きつかれたラウルは、同じく両手をフラムの背中に回してポン、ポン、と優しく叩く。


「前にも言ったが、俺は羽衣を作るのが下手くそでな。新しいのを作り上げるのに、ちょっとばかり……いや、結構時間がかかるかもしれんが、それでもいいか?」

『……(コクコク)……』

「ありがとうな。……ああ、そしたらライトとマキシにも、プレゼントの修理を頼んでおこう」

『……(コクコク)……』

「何、どっちも肝心の雫やルビーは無事のようだからな。二人とも手先がすごく器用だし、ちょちょいのちょいー、ですぐに直してくれるさ」

『……(コクコク)……』


 優しく話しかけるラウルの言葉の全てに、フラムが涙を流しながらコクコクと頷く。

 その涙は、先程までの悲嘆と違って喜びに満ちていた。

 前話で飛び出した次の一難に取りかかる前の、束の間の休息です。

 後半で、フラムの宝物が消失してしまったことに涙してしまいましたが。

 でも、レオニスやラウルがフラムに諭していた通りで。贈り物をしたい相手が生きて元気でいてくれさえすれば、この先何度でも誕生日プレゼントを贈り合えるんですよ。

 そりゃね、ものによっては二度と手に入らない品だってあるかもしれませんが。幸いライト達がフラムに贈ったプレゼントは、いくらでも新しく作り直すことができるものだった訳で。

 つまりは『元気で生きているってのは、それだけで素晴らしい!』ということなのです。

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