第1660話 様々な誤算と悲劇
作者からの予告です。
今日から一泊二日の旅行に出かけるため、明日の10月9日と10日は更新をお休みさせていただきます。
何卒ご了承の程、よろしくお願い申し上げます。
突如炎の女王とフラムに襲いかかった四人組。
ジェイクとカミラが炎の女王の方に向かい、テッドがフラムの方に駆け出す。
ラウラは彼らの少し後方の中間地点にいて、戦況を判断しながらその時々で三人のサポートに回っていた。
『…………ッ!!』
「私の氷魔法はどう? 涼んでもらえてるかしらー?」
「おらおら、どうした炎の女王!この程度でへばる訳ねぇよなぁ!?」
カミラが炎の女王に向けて氷魔法を放ち、炎の女王がそれを避けたところをジェイクが容赦なく斬りかかる。
炎の女王は文字通り炎の化身なので、本来なら剣で物理的に斬りつけられたところでどうということはない。
しかし、ジェイクの剣が彼女の身体のすぐ近くを掠る度に、炎の女王は自分の体力が奪われていくのを感じていた。
その原因は、ジェイクが持つ剣には氷魔法が付与されていたせいだった。
もちろんそれは、炎の洞窟の主達との戦闘を視野に入れたジェイク達の作戦の一つ。
以前どこかの遺跡にジェイクが出かけた際に、たまたま出くわした他者が装備していた品。
それをジェイクが甚く気に入って、どうしても欲しくなったのでもとの持ち主を殺して奪い取ったものだった。
一方で、フラムはテッドとの戦いにかかりっきりだった。
時折炎の女王の方に目を遣りながら、懸命に声をかけていた。
『炎の女王ちゃん!もう少しだけ待ってて!すぐにそっちに行くから!』
「行かせねぇよ」
『くっ……君、邪魔!早く退いてよ!』
「そりゃ聞けねぇ頼みだな」
フラムが敵に向けて炎を吐くも、テッドは大盾で防ぎきっていてなかなかダメージを与えられずにいた。
いや、本当はフラムだって今すぐに炎の女王のもとに駆け寄りたかった。
いくら相手が脆弱な人間とはいえ、さすがに三対一は分が悪過ぎる。
そして何より、炎の女王は心根が優し過ぎて敵を殺すことなどできないことを、フラムはよく知っていた。
実際にフラムのそうした推測は当たっていて、炎の女王も侵入者四人組に対して『大火傷でもさせて、さっさと逃げ帰らせよう』と思いながら戦っていた。
とはいえ、大火傷のレベルによってはその場で絶命も普通にあり得るのだが。
しかし、何故かフラムは目の前にいる大男から目が離せない。
フラムは形勢不利な炎の女王のもとに駆けつけたい!と頭では思うのに、身体が思うように動かせずにいた。
これは、テッドがフラムのヘイトを稼いで自分の方に一身に集めているからだった。
四人が戦いに散る直前に、テッドが自慢の大盾に『魔物寄せの香水』という闇ギルド謹製の秘伝アイテムを一滴垂らしていたのだ。
これのせいで、フラムは本能を刺激されてテッドとの戦いを強いられていた。
敵のヘイトを稼いで目を逸らすというのは、本来ならパーティーの生存率を高めるためのもの。
しかし、今回の場合は『炎の女王から朱雀を引き離す』という違う観点と目的により用いられた。
そしてその思惑は見事に成功し、炎の女王と朱雀は互いに近寄ることもできずに戦力分散させられていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして炎の洞窟の主達と侵入者四人組が戦いを始めてから、三十分以上が経過しただろうか。
両者は一見拮抗し、膠着状態にあるかのように思えた。
しかし、極悪人三人を相手している炎の女王のHPはじわじわと削られ続けていった。
次第に炎の女王の息が上がり、肩で息をするようになっている。
どんなに炎の女王が頑張って前衛のジェイクに大怪我や火傷を負わせても、その少し後ろにいるカミラやライラが治癒魔法を唱えて回復させてしまう。
そして回復役であるカミラやライラは、時折何らかの飲み物を飲んでは自身の魔力を回復させている。
これでは炎の女王がじわじわと追い詰められていくのも明白だった。
素行の悪さが原因で、今でこそ四人とも傭兵のようなことをしているが、実力だけなら相当の腕前を持つ。
もし今でも冒険者ギルドに所属していたなら、聖銀級にもなれていたことだろう。
二十代半ばにして聖銀級になれるというのは、かなりの実力を要する。
四人とも持って生まれた才能や資質がとても優れていたことだけは確かだった。
しかし、侵入者四人組がここまで健闘できていたのは、何も彼らが他者より優れていたからだけではない。
炎の女王とフラムの戦闘経験の乏しさ故でもあった。
フラムは炎の洞窟に降臨してからまだ一年ちょっとしか経っていないし、その間他者と生命のやり取りをするような戦闘など一度もしたことがない。
そしてそれは炎の女王も同じで、そもそもこの炎の洞窟の最奥まで来るような物好きは指折り数える程度しかいなかった。
歴代の女王の記憶を辿ってもそれは変わらず、戦闘経験が全くないとまでは言わないが戦うことは滅多になかった。
特に今代の炎の女王は心根が優しく、必要以上に他者を攻撃したり害することなど考えられなかった。
そんな優しい性格が災いし、本来なら圧倒的な力を持つ炎の女王とフラムなのに……侵入者四人組に対して予想以上に苦戦していた。
しかし、侵入者四人組の方は早期決着できていないことに苛立ちを隠さなかった。
特に短気なジェイクが声を荒げている。
「ったく、諦めが悪い奴らだ!とっとと俺らに捕まって、おとなしく人質になりやがれってんだ!」
『人質とはどういうことだ!』
「ホントよねー。さっさと帰ってお風呂入りたーい」
「おい、カミラ!生け捕りにできりゃいいんだから、ちょっとくらい死にかけても構わん!強い魔法ぶっ放して、一気に弱らせろ!ライラ、カミラにありったけのバフをかけろ!」
「「オッケーーー」」
イライラが極限に達したジェイク、一気にカタをつけるべくカミラとライラに指示を出した。
カミラもライラも基本的に気が強く、いつもならジェイクに高圧的な態度を取られると「何よ、ワタシ達の魔法を頼ってばかりのくせに、偉そうにしちゃってさ!」「ホンット生意気ー」とか悪態をつくところなのだが。
彼女達もさっさと事を済ませて、少しでも早く炎の洞窟から出たかったため、ジェイクの指示におとなしく従った。
ライラがカミラに魔法攻撃力アップの身体強化魔法を複数回かけて、それが終わった直後にカミラが全力で氷魔法を発動した。
カミラの周りに無数の氷の槍が浮かび、炎の女王目がけて勢いよく飛んでいく。
炎の女王は懸命に氷の槍を避け続けていたが、それでもやはり限界がある。
カミラの魔法の氷の槍が炎の女王の腕や足を掠めていき、彼女の首の数cm横にも飛んで艶やかな炎の髪を貫く。
そして遂に、一際大きな氷の槍が炎の女王の胸を貫いた。
『…………ッ…………』
人間で言うところの心臓部にぽっかりと穴が開いた炎の女王。
空中に浮いていられずに、ぐずぐずと姿勢が崩れていく。
それを見たジェイク達が「おッ、やったぜ!」「やーっと命中ゥー♪」などと大はしゃぎしている。
しかし、その直後。突如強大な魔力が渦巻いた。
「「「「!?!?!?」」」」
あまりにも強過ぎる魔力の渦に、侵入者四人組の顔が驚愕に染まる。
その魔力の発生源はフラムだった。
『炎の女王ちゃん!!』
炎の女王の惨劇を見たフラムの中で、怒りが一気に爆発した。
フラムの怒りは瞬時に頂点を突破し、彼の全身から赤黒い炎が噴出した。
それはもはや炎と呼ぶには禍々しく、勢いも強過ぎてもはや誰にも手がつけられない有り様だった。
『ああああぁぁぁぁッ!!!!!』
赤黒い炎があっという間に部屋中に充満し、フラムの悲痛な叫び声だけが炎の洞窟最奥の間に響き渡り続けていた。
心優しい炎の洞窟の主達に起きた悲劇。
というか、まーたこんなとんでもなく気になるところで更新お休みとなってしまい、本当に申し訳ございません><
作者は近年、母と姉の三人で年に一度の旅行に出かけるのですが。姉の仕事の都合で秋に出かけることが多く、このタイミングに重なってしまいました><
家族旅行でリフレッシュし、気力体力十分に満たしてから戻ってきますので!今しばらくお待ちくださいませ<(_ _)>
 




