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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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第1659話 炎の洞窟の主達と不審者四人組

 レオニスがコルルカ高原で、ラーデや風の女王、ゼスとともにアウルムと会うために奥地に移動していた頃。

 炎の洞窟の中を、ジェイク達四人組が大手を振って闊歩していた。


「えーっと……ここを右、だっけ?」

「あー、どうだったかな……」

「ラウラ、お前斥候なんだから地図を作るなりもうちょい働けよ?」

「えー、ヤダー、めんどくさーい。テッドとジェイクが道順を覚えといてよー」

「ったく、どうしようもねぇな……」


 四人でキョロキョロと周囲を見ながら、洞窟内部を彷徨く四人組。

 炎の洞窟攻略に対し、四人はこれまで真面目に取り組むことなくずっとサボっていて、入口付近を彷徨くばかりで奥に進んだことなど一度もなかった。

 そのため、炎の女王を脅迫するために最奥の間に行こうにも地理的知識すらろくに持ち合わせていなかったのだ。


 四人はぶつくさと文句を言いながら、炎の洞窟内部をうろちょろと歩き進んでいく。

 普段は四人ともだらけているが、今日こそは闇ギルドで引き受けた依頼を何としても達成すべく本気で挑むつもりだ。

 奥に進む途中で魔物除けの呪符の効果が切れて、その途端に炎の洞窟の固有魔物達が襲いかかってくるなどの些細なミスは繰り返していたが。


 しかし、炎の洞窟の固有魔物では四人組の足止めにならなかった。

 クイーンホーネットはテッドの大盾で跳ね返され、極炎茸はジェイクの斬撃で倒され、レッドスライムはラウラの雷魔法で一瞬にして黒焦げにされた。

 マンティコアも何匹か出てきたが、カミラの強力な氷魔法で足を凍らせて動きを完全に封じらた隙にジェイクの攻撃で細切れになった。

 マンティコアですら瞬時に返り討ちにされては、もはや炎の洞窟の魔物達では到底手に負えなかった。


 そうして四人組が魔物除けの呪符の六枚目を使ってから、しばらく経った頃。

 四人はようやく炎の洞窟の最奥に辿り着いた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 何の気なしに入った部屋が思いの外大きく、意外そうな顔で中をキョロキョロと見回す四人組。

 そんな中、そこが最奥の間だということにいち早く気づいたのはラウラだった。

 四人はそれまでしていた胡散臭いゴーグルやマスクを取り外し、最奥の間にいる炎の女王とフラムを繁繁と見ながら声を上げた。


「……あーーーッ!奥の方に、何かでっかい精霊がいるーーー!」

「あ、アレ、もしかして炎の女王じゃなーい?」

「そうだな。でもって、その横に居るのが朱雀か」

「おー……精霊の女王ってのは、想像していた以上に美人だな?」

「ちょっと、ジェイク!? アナタ、鼻の下伸ばし過ぎよ!」


 炎の女王を見て『でっかい精霊!』と大はしゃぎするラウラに、それが炎の女王であることを指摘するカミラ。

 テッドは炎の女王の横にいるのが朱雀であると看破し、ジェイクは炎の女王の見目麗しさに舌なめずりをして嫉妬したカミラに怒られている。


 何とも傍若無人な四人組に、炎の女王が少しだけ顔を歪めながら口を開いた。


『汝らは何者だ? 何用でここまで来た?』

「「「「………………」」」」


 真面目に問いかける炎の女王をじーっと凝視しながら、四人組は何故か固まったまま動かない。

 ぽかーん……と口を開けたまま呆けていたかと思うと、五秒後くらいに急に動き出した。


「えーッ!? 何ナニー、炎の女王ってこーんな流暢な話し方すんのー!?」

「つーか、人語を話せるんだ!? 知らなかったわー」

「おう、俺もそれ思ったわ」

「すっげー!精霊のくせに、普通に会話する知識とかあんだな!」


 突如キャーキャーとはしゃぐジェイク達に、炎の女王とフラムが一瞬だけ呆気にとられた後にさらに顔を歪めている。

 こんなに無礼な人族を、フラムはもとより炎の女王だって一度として見たことがない。

 炎の女王達が不快そうに顔を顰めるのも当然である。


『……炎の女王ちゃん、こいつらには何を言っても無駄なんじゃないかな』

『フラム様もそう思われますか……』

『うん。だってこいつら、ここ最近ずっと洞窟の入口近くでおかしなことしてた奴らでしょ。絶対にレオニス君達が言ってたやつだよ』

『おそらくはそうでしょう……アレクシス?とかいう人族の遣いが話していた件とも一致しますし』


 不審な侵入者達が勝手に盛り上がって騒がしくしている間に、炎の女王とフラムもゴニョゴニョと話をしている。彼女達も、レオニスやアレクシスの遣いの者達から『ここ最近、人族の間で精霊を付け狙う不穏な動きがある』『炎の女王達も警戒しておいてくれ』という旨の忠告を受けていた。



 …………

 ………………

 ……………………



 一ヶ月程前から、ジェイク達は炎の洞窟に何度も足を踏み入れては撤退を繰り返してきた。

 この非常に胡散臭い四人組を、炎の女王とフラムは『何なの、こいつら……』といつも思いながら、最奥の間で見ていた。


 炎の女王とフラムは炎の洞窟の主なので、洞窟内で起きていることは全てリアルタイムで見ることができる。

 洞窟内に誰かが一歩足を踏み入れただけで、『あ、誰か入ってきた』とすぐに分かるし、侵入者の動向も全て監視している。

 しかし彼女達は基本的に監視するだけで、侵入者達に対して積極的に何かするということはほぼない。

 大抵の侵入者は、洞窟の半分も攻略できないうちに早々に撤退していくからだ。


 その理由はいくつか挙げられる。

 まず一つ目は『洞窟内が暑過ぎて、長時間潜っていられない』ため。

 炎の女王が穢れに侵されていた頃ほどではないが、ライト達のおかげで元気を取り戻した今でも炎の洞窟の中はクッソ暑いことに変わりはない。


 現在の炎の洞窟内部の平均温度は約40℃前後。

 防火防熱対策、水分補給などをきっちりしていても、長時間潜り続けるのは人族の身にはかなり厳しい。

 小一時間も潜っていられれば御の字な方だ。


 そして二つ目の理由は『頑張って魔物狩りしたところで、そこまで良い稼ぎにはならない』こと。

 炎の洞窟内部にはダンジョン特有の宝箱などないし、固有魔物のクイーンホーネットや獄炎茸、レッドスライムは食糧にもならない。素材としても使える部分が少ないので、冒険者ギルドでの買取価格も低いのだ。


 その一方で、マンティコアはそこそこの買取価格がつくが、それでも需要が少なめのため実入りは少ない。

 むしろ、洞窟の外にいる人喰いパイアを狩る方が余程儲かる。人喰いパイアなら、肉や皮、牙に骨など余すところなく買い手がつくのだから。

 そう、マンティコアを喜んで買い取るのなんて、主にピースなような呪符用の筆が欲しい魔術師くらいのものなのである。

(ちなみにマンティコアの肉は、主に冒険者御用達の干し肉に加工される。生肉のままでは硬くて臭みも強いので、一般人には大不評で需要が低いため。)


 こうした理由により、炎の洞窟はサイサクス世界の冒険者達にとって長らく不人気スポットだった。

 故に誰かが洞窟内に入ってきても、炎の女王は我関せずで放置していた。


 しかし、今回はいつもと事情が違う。

 この地を治めるアレクシスからの伝言に、何より大恩人と慕うレオニスからの忠告は決して無碍にはできない。

 それに、侵入者達が炎の精霊を付け狙う素振りもあったので、精霊達には決して奴らの前に出ないように注意した上で四人組を監視していた。


 だが、不真面目な四人組の腑抜けた行動を監視しているうちに、炎の女王もフラムもだんだんと侮るようになっていった。

 入口付近をずっと彷徨くだけで、奥にも進まないような不甲斐ない奴らなど、そのうちに炎の洞窟そのものに飽きて来なくなるだろう―――

 そんな油断が、炎の女王とフラムの中に少しづつ生まれていった。

 そしてそれは大きな間違いだったことに、彼女達はこの後嫌でも気づかされることとなる。



 ……………………

 ………………

 …………



『炎の女王ちゃん、こいつら、どうしよう?』

『とりあえず会話して、和解を試みるつもりではおりますが……』

『まぁ、それが実を結ぶ可能性はかなり低そうだけどね』

『そうでしょうね……しかし、そうなったらそうなったで問題などございません。無理矢理にでも洞窟外に追い出せばいいだけのことなのだから』

『そうだね。それには少しばかり痛い目に遭わせる必要があるけど、ま、仕方ないよね』

『ですね』


 今後どうするかをゴニョゴニョと話し合う炎の女王とフラム。

 炎の女王は心根が優しいので、まずは会話による解決を試みるようだ。

 そしてそれが望み薄であることは、フラムのみならず炎の女王自身も気づいていた。


 しかし、炎の女王は人族の良心を信じたかった。

 ライトやレオニス、アレクシスのように、善良な人族はたくさんいる。

 一時は生命の危機に瀕していた彼女を救ってくれたのも、そして朱雀(フラム)をこの炎の洞窟に招くことができたのも、他ならぬ人族達のおかげ。

 だからこそ、妾は人族を信じたい―――炎の女王はそう思っていた。


 そんな彼女の思いを、ジェイク達四人は知る由もない。

 最奥の間に辿り着いた途端、勝手に騒いだ挙句に今度は信じられないことを言い出した。


「ねーねー、炎の女王様ー。一つお願いがあるんだけど、いーい?」

『……何だ、申してみよ』

「ここに住んでる炎の精霊? 中でも大きめの子を、三人程貸して欲しいんだよねー」

『意味が分からぬ。そもそも精霊は貸し借りするものではない』


 ラウラの不躾な物言いに、炎の女王が端正な顔をさらに歪める。

 理解を示さない彼女に、今度はカミラが口を挟んだ。


「貸し借りができないなら、お持ち帰りするだけだけど?」

『炎の精霊は、この炎の洞窟の中でのみ暮らすもの。洞窟外に連れ出したとて、宿るための炎が常に傍になければ生きてゆけぬ』

「そんなん適当に薪を焼べるか、松明でも焚いときゃいいでしょ」

『そこまでして精霊を連れ出す理由は何だ』

「「「「………………」」」」


 一向に折れる気配のない炎の女王の頑なな様子に、四人組が押し黙る。

 そして次に口を開いたのは、ジェイクだった。


「……あー、うぜぇなぁ……めんどくせぇし、とっととやっちまおうぜ?」

「だな。話すだけ無駄だ。カミラ、バフを頼む。ラウラはあっちを抑えろ」

「オッケーーー」

「ちゃちゃっとやって、ちゃちゃっと帰ろー」


 それまでヘラヘラとしていた四人組の顔が、一気に変わった。

 獰猛で凶悪な表情に豹変し、炎の女王とフラムを見る目が捕食者のそれに変貌した。

 そして四人は、炎の洞窟の主達に一気に襲いかかった。

 炎の洞窟の主達と侵入者四人組の初対峙です。

 まぁね、両者が分かり合えることなどあろうはずもないのですが。

 現時点でそれが分かっているのは、サイサクス世界の物語の綴り手である作者と観測者である読者の皆様方のみ。

 この先どうすっ転んでも戦闘回避が不可能で、話し合いやそのやり取りの全てが如何に不毛であろうとも。そこは決裂に至るまでの過程として、きちんと経ておかないとならんのです。

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