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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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第1656話 コルルカ高原での長閑なひと時

 その日のレオニスは、ラーデとともにコルルカ高原を訪れていた。

 夜明けすぐに森の警邏に出かけ、午前の早い時間に家に戻りラーデと合流。

 畑仕事に精を出すラウルに「いってらー」と見送られながら、転移門で辻風神殿に移動したレオニス達。

 まずは辻風神殿の主である風の女王と青龍ゼスに挨拶をするべく、辻風神殿の中に入った。


「風の女王、バルト、いるかー?」

『あらー、レオニスじゃない!久しぶりね!』

『レオニス君、おはよう』

「おう、二人とも元気そうだな」


 レオニスの来訪に気づいた風の女王とゼスが、ともに笑顔で入口に駆け寄ってきた。

 そしてレオニスの肩にちょこん、と乗っかっているラーデにも挨拶をする。


『ラーデ君、こんにちは!』

『ラーデ君も、ようこそいらっしゃい』

『うむ。其方達も息災そうで何よりだ』

『……あれー? ラーデ君、前より身体がさらに小さくなった?』

『でも、魔力は前より強くなってるよね? カタポレンの森での療養は順調なの?』

『おかげさまでな、療養は日々順調に進んでおる。ただ、普段暮らすには身体を小さくしておいた方が何かと便利なのでな』

『そうなのねー。まぁ確かにねー、身体の大きさを自由に変えられるなら、小さい方が小回りは利くわよねー』

『うんうん。それに消費魔力も節約できるもんね』

『そういうことだ』


 辻風神殿の主達とラーデが、互いに気軽に会話を交わす。

 ラーデはレオニスがコルルカ高原に出向くと聞くと、その都度同行させてもらっていた。

 そのため風の女王やゼスともすっかり仲良くなっていた。


 ちなみにゼスも、ラーデ同様に普段は風の女王と同じくらいの身体の大きさで過ごしている。

 本来の姿はその何倍も大きいのだが、そのサイズでは辻風神殿の中に入れないからだ。

 ゼスはこれまでずっと不安定だった風の女王の心を癒やすために、辻風神殿の中で常に彼女の傍にいてともに暮らしている。

 そしてそれは、長らく河原に打ち捨てられていた(ゼス)の心の傷をも同時に癒やすものでもあった。


『ねぇねぇ、ラーデ君。今日もアウルム君に会いに行くのかい?』

『ああ。レオニスがアウルムと其方達二人の様子を見に行くと言うのでな。今回も同行させてもらったのだ』

『そしたら僕達も、ラーデ君達といっしょにアウルム君に会いに行ってもいい?』

『もちろん。誰が咎めようはずもないし、アウルムも其方達が会いに行けばきっと喜ぶであろう』

『ありがとう!』

『ヤッター♪』


 ゼスの申し出をラーデが快諾し、風の女王もゼスに乗っかってお出かけできることに飛び跳ねながら大喜びしている。

 相棒のゼスとともにお出かけできるのが、殊の外嬉しいようだ。


 ゼスがこの辻風神殿の神殿守護神として生誕したのが、去年の暮れの十二月二十九日。もうすぐ一年が経とうとしている。

 フラクタル峡谷に吹く強風を日々受けて、ゼスも順調に成長しているが、それでも生後一年未満ということでまだ本格的な遠出はしていない。

 そんな中で今の彼女達ができる最も遠いお出かけは、コルルカ高原奥地。金鷲獅子アウルムや野生の鷲獅子の生息地であった。


 たまの遠出は気晴らしになるし、外の空気に慣れる訓練にもなる。

 そしてレオニスにとっても、生まれたばかりの青龍の成長具合をつぶさに観察することができる。

 アウルムのもとへのお出かけは、皆にとって良いこと尽くめなのである。


「さ、そしたら早速アウルムのところに行くか」

『うん!どっちが早くに着けるか、今日も競争だね!』

「あまり疲れ過ぎん程度にな?」

『もちろんさ!お腹がペコペコになるくらい頑張るよ!』

「それ、絶対に疲れきってヘロヘロになるやつじゃねぇか……」


 レオニスとの競争に張り切るゼス。

 辻風神殿からアウルムのところに遊びに行く時には、ほぼ毎回必ずといっていいほど競争となる。

 空での追いかけっこを好むのは、風を司る青龍ならではとも言える。広い大空を力一杯飛び続けるのは、ゼスにとってさぞかし気持ちいいに違いない。


 しかし、湖底神殿守護神のアクアといい、神殿守護神達はどうしてこうも追いかけっこや競争が好きなのだろうか。

 そしてその競争に、毎回毎度レオニスが引っ張り出されては付き合わされる。

 とはいえ、レオニス自身追いかけっこや競争の類いは嫌いではないし、むしろ好きな方だ。

 故にレオニスも、あまり人の話を聞いていないゼスに苦笑いしながらも、結局は快く受け入れていた。


「よーし、じゃあ俺の合図でスタートな。ラーデ、風の女王、振り落とされんようにしっかり捕まってろよ?」

『うむ、任せよ』

『はーい!バルト様、今日こそレオニスに勝ちましょうね!』

『うん!!頑張るよ!!』


 レオニスの背中にラーデががっしりとしがみつき、風の女王もゼスの背中にピョイ☆と乗り込み、これから競争に挑むバルトを励ます。

 風の女王が『今日こそ』と鼻息荒く言うあたり、これまでのレオニス vs. ゼスの勝負は今のところレオニスの全勝のようだ。


「用意……スタート!」


 レオニスの掛け声を合図に、両者がドン!と勢いよく空を駆け出す。

 そうして人族対四神の熾烈で楽しい競争が始まっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「其の方らは……本当に勝負事が好きよのぅ」


 ヘロヘロのクタクタになったレオニスとゼスを見て、アウルムが半スーン……とした顔で呟く。

 今日もとんでもない勢いで駆け込んできた両者を見れば、アウルムが半ば呆れたようにそう言うのも無理はない。


「ま、まぁな……俺も、人族の、尊厳を、賭けて……勝負してる、もんでな……」

『ぅぅぅ……今日も、レオニス君に、勝てな、かったぁぁぁぁ……』


 アウルムの目の前で、大の字になって仰向けで息切れしているレオニスと、同じく腹這いでヘトヘトになっているゼス。

 人族が神殿守護神、しかも四神の青龍に負けたところで尊厳など傷つきようもないし、むしろ彼らと真っ向勝負に挑む方がおかしいのだが。

 それでもレオニス個人のプライドを賭けて正々堂々戦い、ゼスに勝ってしまうのだからすごいとしか言いようがない。


 そんな二者の勝敗と明暗をアウルムは見守りつつ、ラーデに向かってぽつり、と呟く。


『ラーデよ、其の方の大家さんとやらは豪気だのぅ』

『うむ。とても人族とは思えぬ傑物であることは間違いない』

『そうだな……そのおかげで、我らは今こうして語り合えるのだからな』

『ああ。我も其方も、あの者達に救われた者同士だ』


 仰向けで地べたに寝ていたレオニス、のっそりと身体を起こして空間魔法陣を開き、濃縮エクスポーションと濃縮アークエーテルを一本づつ立て続けに飲んだ。


「はーーー、疲れたな!しかし……もうそろそろバルトにも勝てなくなりそうだなぁ」


 胡座で地面に座り、グビグビと回復剤を飲み干していくレオニス。

 全部飲み終えてすぐに、サッ!と立ち上がって肩を回したり腰を動かして身体を解している。

 薬師ギルドの肝入りの新製品にして従来品の三倍濃縮だけに、その効き目は超抜群のようだ。


 未だに腹這いで地べたに寝そべっているバルトが、回復剤で元気を取り戻したレオニスを上目遣いで見上げながら話しかけた。


『またまたー、そんなこと言ってー……次も勝つ気満々なんでしょー?』

「ンー? そりゃそうさ。勝負するなら常に全力で挑むのは当然だろ?」

『まぁねー……そこがレオニス君のいいところだけどね』

「だろ?」


 未だ脱力君のゼスの褒め言葉?に、レオニスがニカッ!と笑う。

 このレオニスという男は、人族の身でありながらいつだってバルトの頼みやおねだりを聞き届けてくれる。

 ゼスの生みの親であり大恩人でもあるレオニス。負けず嫌いな彼のこれ以上ない爽やかな笑顔は、ゼスの負けた悔しさをも瞬時に溶かしていった。


 するとここで、どこからか『ぐーーーきゅるるるる』という盛大な腹の虫の声が聞こえてきた。

 その発生源はゼスの胴体の真ん中辺り。

 ここにいる全員の視線がゼスに集まる中、当のゼスが大きな声を発した。


『あーーー、全力で飛んだらお腹が空いたーーー!レオニスくーーーん!何か美味しいものちょうだーーーい!』

「ハハハハ!ゼスは腹ぺこか!そりゃそうだよな、あんだけ全速力で飛んだら腹だって減るってもんだな!」


 子供のようなおねだりをするゼスに、レオニスが堪らず大笑いしながら頷く。

 そんな二人のやり取りに、周囲も乗っかり始めた。


『うむ、吾も腹が空いてきたな……(ぐきゅるる)……』

『アウルムよ、其方は何もしておらんだろう……』

『いやいや、日も高くなってきたことだしちょうど昼飯時なのではないか? ならばラーデ、其の方とてぼちぼち腹も減ってきておろう(ぐーきゅるるる)』

『ぬぅ、それはそうだが……(ぐーきゅるるん)……』

『レオニスー!ワタシもお腹空いたーーー!(ぐぐるきゅるりん)』


 レオニス以外の全員、アウルムにラーデ、そして風の女王までもがお腹から盛大な音を鳴らしているではないか。

 高位の存在達の腹の虫の大合唱に、レオニスが腹を抱えて笑っていた。


「うひゃははは!皆腹ん中で元気な虫を飼ってんだなぁ、おい!」

『吾らの腹の虫を抑えたくば、いつものご馳走を出すがよい』

「はいはい、アウルムはいつものヘルワームの素でいいよな?」

『うむ。今日は十個所望するぞ』

『レオニス、我にはカタポレンの桃を頼む』

「OK、バルトと風の女王は何がいい?」

『アップルパイとシュークリームとおはぎ!』

『海色のぬるぬるドリンクも忘れないでね!』

「はいよー。皆、ちょっと待っててなー」


 皆の食べたいものリクエストを聞いたレオニスが、再び空間魔法陣を開いてご馳走を取り出し始めた。

 まず一番最初にヘルワームの素を十個取り出し、地面に間隔を空けて置いてから水魔法で水をジャバジャバとかける。

 このヘルワームの素は、鷲獅子騎士団の鷲獅子達が好んで食べるビッグワームの素の類似品である。


 ヘルワームの素が水分を吸ってむくむくと膨れ上がっている間に、ラーデには一口大にカット済みのカタポレン産の桃を、ゼスと風の女王にはアップルパイとシュークリーム、おはぎに海色のぬるぬるドリンクをそれぞれの前に置いた。

 大好物のご馳走を前に、全員の目がキラキラと輝いている。


 レオニスは最後に自分の分の昼食、ハンバーガーやサンドイッチ他多数のご馳走が入ったバスケットを取り出して自分の前に置いた。


「さ、じゃあ皆で飯にしようか。いッただッきまーーーす!」

『『『『いッただッきまーーーす♪』』』』


 レオニスの合掌しながらの食事の挨拶に、他の面々も追随して挨拶をしてからご馳走を頬張る。

 大恩人が繰り出す人族の流儀に、普段からレオニスとともに暮らしているラーデだけでなく金鷲獅子や青龍までもが従っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして楽しくも賑やかな昼食を摂り終えて、その後はラーデとアウルムがのんびりと会話をしたり、ゼスがアウルム配下の野生の鷲獅子達と追いかけっこをするなどして、それぞれに楽しいひと時を過ごした。

 ちなみにレオニスはアウルムにブラッシングの指名を受けたので、金鷲獅子の毛のゲットも兼ねて快く受け入れた。


 ブラッシングの間に交わした雑談によると、アルフォンソ達鷲獅子騎士団は今でも五日に一度はアウルムのもとに誰かしら顔を出しているという。

 一回につき四組程の鷲獅子騎士がアウルムのもとに訪れて、鍛錬と称して野生の鷲獅子達と空中戦で戯れたり、騎士達が一生懸命かつ丁寧にアウルムのブラッシングをしていくのだとか。


 アウルム曰く『吾は腹が膨れて毛艶も良くなり、鷲獅子達も遊び相手ができて満足している。アルフォンソ達もここでの鍛錬でメキメキ強くなっているし、皆が皆全員大満足である』とのこと。

 アルフォンソ達の金鷲獅子詣でが単なる自己満足ではなく、関係者全員がWin-Winで幸せになれるのだから素晴らしいことだ。


 昼食の時間も含めて、三時間弱をコルルカ高原奥地で過ごしたレオニス達。

 またの再会を約束しつつ、レオニスはゼスと風の女王とともに辻風神殿に帰っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 金鷲獅子の住処から、フラクタル峡谷の辻風神殿に帰還したレオニス達。

 ゼスのおねだりにより帰り道も競争をしたので、レオニスも一休みするべく辻風神殿の中に入っていった。


「バルト、本当に速く飛べるようになったなぁ」

『いやいや、青龍の力はこんなものじゃないよ? 僕はまだまだこれからもっと強くなっていくんだから』

「だろうなぁ。バルトなら俺よりもっともっと速く飛べるようになるだろうし。そうなったら、俺も風の女王のようにゼスの背中に乗せてもらうとしよう」

『任せて!僕の力で、どこまでだってひとっ飛びで連れていってあげるよ!』


 辻風神殿の中央に置いてあるテーブルセットに着きながら、濃縮エクスポーションや海色のぬるぬるドリンクを飲むレオニス達。

 帰り道の競争もレオニスの勝ちだったが、ゴールまでの差は本当に僅差になってきていた。

 そうして皆で一息ついていたが、外の異変に真っ先に気づいたのはレオニスだった。


「……ン? 誰か来たな?」


 レオニスがそう呟くと同時に、辻風神殿の外を見遣る。

 それから間髪置かずに辻風神殿の中に飛び込んで来たのは、炎の中級精霊を肩に乗せたラウルだった。

 レオニスのお出かけ先、コルルカ高原での長閑なひと時です。

 青龍のゼスと風の女王が登場するのは第1392話以来で、アウルムは第1510話でヘルワームの素誕生の際に出てきて以来ですか(゜ω゜)

 嵐の前の束の間の平和なひと時、そして久々に登場したアウルムやゼス、風の女王達の賑やかな様子を書くのは楽しかったです( ´ω` )

 ……って、もう現時点で既に次回の波乱襲来が確定してんですけど_| ̄|●

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