第1651話 ファフニールとフレア・ジャバウォックの初めての子
作者の体調不良により、急遽三日間のお休みをいただきありがとうございました。
体調も何とか元通りになりましたので、予定通り本日から連載再開いたします。
ファフニール夫妻が住む洞窟の中に入っていったライト達。
案内猫であるチュシャ猫とは、ここで一旦お別れである。
ファフニールを先頭に中を進み、最奥に辿り着いた。
そこは前回と変わらず木々が生い茂り、まるで森の中にいるような感覚に陥る。
しかし洞窟の中にいるのは間違いなく、かなり高い位置に天井が見える。
木々に絡まり地面を這う蔦に足を引っ掛けて転ばないよう、足元に気をつけながら奥に進んでいくと―――
「……え? 何だコレ? 何がどうなってんだ?」
ライトとラウルは無言のままキョロキョロと周囲を見回し、レオニスが思わず驚きの声を漏らす。
前回ライト達がここを訪れた時には、丸太で作った鳥の巣のようなもののなかに卵があった。
その卵こそがファフニール夫妻の第一子な訳だが、今ライト達の目の前には巨大な天蓋付きベッドがあるではないか。
これには驚くなという方が無理である。
そしてこの天蓋付きベッド、何しろ大きい。
長さ30メートル、幅20メートル、高さに至っては8メートル近くある。
そして天蓋からは薄いカーテンがつけられていて、それを四隅の柱にカーテンのように縛り付けてある。
作りや構造は、人族の中でも高貴な地位を持つ人々が好んで使いそうなベッドそのまま。
ライト達はこの超巨大な天蓋付きベッドを、それこそ天を仰ぐように首を真上に向けて見上げるしかなかった。
「……なぁ、ファフニール、これ、ベッド……だよな?」
「うむ。先の新婚旅行で出かけた不思議の街で見かけてな。巨人族用の超特大寝具らしいのだが、我ら親子にも使えるだろうと思ってな。生まれてくる我が子と愛しい妻のために、急ぎ買い付けたのだ」
「ぁー、そゆこと……確かに生まれた子供のために、少しでも良い環境を整えてやりたいよなぁ」
「そういうことだ」
ファフニールの答えに、質問したレオニスも得心しつつ頷く。
確かにファフニールの言う通りで、初めて生まれてくる子供のためにあらゆる手段を使って良い環境で誕生を迎えてあげたい!と思うのが親心というものだ。
しかし、こんなにも大きなベッドが存在するというのが驚きだ。
ライト達人族はもとより、鬼人族のラキ達でさえもこのベッドの前では赤子サイズになってしまうだろう。
するとここで、ライトがファフニールに声をかけた。
「ファフニールさん達も、お金を使ってお買い物をするんですか?」
『我々は、人族のように金銭というものは使わない。その代わり、何か欲しいものがあれば宝石などの価値ある物を差し出して交換する」
「いわゆる『物々交換』というやつですね」
『うむ。色付きの石ならば、適当にそこら辺を掘れば出てくるしな』
ライトが知りたかったのは『竜族もお金を使って買い物をするのか?』ということ。
確かに野に生きる竜族がライト達のように買い物をするところなど、全く想像がつかない。
しかし、ファフニール達がちょくちょく出かけるという不思議の街は、街というだけあって人族が作り上げるような街と似たような構造になっているのかもしれない。
そして、不思議の街での買い物は金銭ではなく物々交換が基本だという。
確かに多種多様な種族が出入りしたり入り混じる街だと、共通の貨幣を用いるのは難しそうだ。
その状態で買い物を可能にするのは物々交換以外にない、という訳だ。
ライトの質問に答えたファフニールが、ベッドの上にいるフレア・ジャバウォックに声をかけた。
『フレアよ、起きてくれ。父上達が子を見にいらっしゃった。リンにサミー、そして先日ここに来た人族や妖精族もおるぞ』
『……ンぁ? ……お義父様が……いらっさったの……リンリンちゃんも……フガッ』
ファフニールの甘く優しい声に、フレア・ジャバウォックが半分寝ぼけながら答える。
どうやらフレア・ジャバウォックはお昼寝中だったようだ。
ベッドの上で何かがモゾモゾと動く気配がして、しばらくするとフレア・ジャバウォックがベッドから起きてライト達の前に降りてきた。
『お義父様、リンリンちゃん、サミー様……ようこそいらっしゃいました』
『ああ、いや、フレアよ、無理せずそのままベッドで寝てくれ。フレアも我が子の孵化で相当疲れたであろう?』
『いいえ……お義父様やサミー様を、お迎えするのに……寝床で寝たまま、という訳には参りません……』
『フレア義姉上、ここは父上の言う通りにすべきだ。卵の孵化には相当な魔力を要したであろう』
『……でも……』
フレア・ジャバウォックののっそりとした動きに、ラーデとサマエルが無理をしないよう気遣っている。
産後の母体を気遣うのは、竜族でも同じようだ。
それでも生真面目なフレア・ジャバウォックは戸惑っていて、そんな彼女をさらに気遣うのがリンドブルムだった。
『そうよ、フレジャちゃん!パパンとサミーの言う通りよ!フレジャちゃんはママンになって、これからもしばらくは赤ちゃんのためにたくさんの魔力を分け与えなきゃならないんだから!赤ちゃんが元気に育つためにも、フレジャちゃんは無理しちゃいけないのよ!』
『……ありがとう、リンリンちゃん……』
フレア・ジャバウォックの肩に手を置きながら気遣うリンドブルムに、フレア・ジャバウォックも嬉しそうに微笑む。
フレア・ジャバウォックが再びベッドに腰掛け、モゾモゾと奥の方にある何かを取り寄せた。
それは、ファフニールとフレア・ジャバウォックの間に生まれた第一子だった。
フレア・ジャバウォックが腕の中に抱く第一子。
愛おしそうに我が子を抱っこするフレア・ジャバウォックの顔は、まさに母の慈愛に満ちていた。
『お義父様、リンリンちゃん、サミー様……こちらが生まれたばかりの我が子です……どうぞよく見てやってくださいまし』
『『『……ぉぉぉ……』』』
フレア・ジャバウォックの促しに、ラーデとリンドブルム、サマエルが思いっきり赤子の顔を覗き込んでいる。
その赤子は母に抱かれている分には小さく見えるが、実際の身長は2メートルくらいあってラーデよりもはるかに大きい。
外見は、叔母に似た青紫色の皮膚を持ち、長い髪は父似の赤紫色。
頭に生える大小一本づつの薄桃色の角は母親譲りで、鏃のように先が鋭く尖っている下半身はサマエルにそっくりだ。
そして黄金色の双眸と額に輝く金色の宝石のようなものは、ラーデが持つ特徴に酷似している。
ファフニール夫妻だけでなく、祖父のラーデや叔母のリンドブルム、叔父のサマエルの特徴を全て持ち合わせている赤子に、ラーデ達の目は弥が上にも釘付けになっていた。
『ンまぁぁぁぁ……何ッて可愛らしい子なの!?』
『うむ……我の長き生においても、このように凛々しくも知的な子はおらなんだ』
『さすがはファフ兄様のお子……フレア義姉上、このように可愛らしいお子を授けてくださり、本当に本当にありがとう!』
初めて対面する初孫や甥もしくは姪に、ラーデ達は目を潤ませながら感激に浸っている。
するとここで、ラーデがフレア・ジャバウォックに声をかけた。
『フレアよ、すまぬがこの子をレオニス達にも見せてやってくれるか? 我が初孫の素晴らしさを、是非ともあの者達にも見せびらかしたい』
『……あ、あの人族達のことですね? もちろんよろしいですとも。ファフ、貴方も良いわよね?』
『うむ。父上の恩人達にならば、見せても良いだろう』
初孫をライト達にも見せたいというラーデの申し出に、フレア・ジャバウォックもファフニールも快諾する。
ライト達の存在を忘れていた訳ではないが、子供の両親の許可を得ずに勝手に面会させるのはよろしくない。
息子夫婦の許可が無事得られ、ラーデが安堵したようにライト達に声をかけた。
『レオニス、ラウル、ライト、こっちに来るがよい』
「はーい!」
ラーデの呼びかけに、待ってました!とばかりにライト達は巨大な天蓋付きベッドの上にスススー……と飛んでいった。
ファフニールとフレア・ジャバウォックの子の初披露です。
ホントはもうちょい先まで書く予定だったんですが。時間が足らずに断念&キリのいいところで一旦締めて投下。
まだ鼻の奥がムズムズしてて、鼻水と痰も収まってはいないんですが。
なーに、発熱さえ収まりゃいいんですよ!(º∀º)
てゆか、発熱だって38°を超えてからが本番ですしおすし。40°を超えなきゃ大丈夫大丈夫!(º∀º)
……って、40°超えたら入院モノなんですけど〓■● ←40°超えを二回経験した人
 




