第1648話 中央の天空島と寝坊助な主
そうしてその日の午前十一時には、カタポレンの家に再び集まったライト達。
外の四阿で早めの昼食を摂っていると、突然空が強く発光した。これはサマエルが現れる兆候だ。
そしてその読み通り、何もない空に浮かんだ巨大な魔法陣の中からサマエルと三頭の天空竜が舞い降りてきた。
『父上、おはようございます』
『うむ。おそよう』
『?????』
十一時を過ぎておはようの挨拶をするサマエルに、ラーデが『おそよう』という謎の言葉で返している。
もちろんサマエルは『おそよう』などという言葉など知らないので、何のことか分からず頭の上に多数の???を浮かべていた。
ラーデもライトが繰り出す人族の俗語?にすっかり馴染んでいるようで何よりである。
するとここで、レオニスがサマエルに声をかけた。
「よう、サマエル。昨日はお疲れさん」
『あの程度のこと、疲れるまでもないがな』
「上等だ。えーと、あの白い狼はザフィエルだったか? ザフィエルや他の新しい仲間達とは仲良くやれているか?」
『もちろん。今日はファフ兄様のところに出かけるので、皆留守番させているが……天空竜達にも周知させてあるし、むしろ留守番している天空竜達の方が大喜びしているかもしれん』
「そりゃ良かった」
昨日に続き連日のお出かけを労うレオニスに、サマエルが事も無げに答える。
サマエルの話によると、南の天空島にいる天空竜達は昨日生まれたばかりのザフィエル達達に対し、興味津々といった様子で接しているのだという。
確かにこの世で最も怖い直属上司から『お前達も仲良くするように』というお達しがあれば、天空竜達が新入りをいびったりすることは絶対にないだろう。
それどころか、初めて間近に見るもふもふや小さな精霊達に天空竜達もワクテカ顔で新入りを取り囲んでいるそうだ。
サマエルも白妖狼や草花の精霊達にメロメロだったが、その配下も主に似るものなのかもしれない。
そしてサマエルがラーデやレオニスと挨拶や会話をしている間に、ラウルがサマエルへの桃(一口カット済み)や天空竜達の分の林檎をそれぞれ与えていた。
来客を素早くもてなせるまで成長したラウル、さすがは万能執事である。
サマエルも含めて腹拵えを済ませたライト達。
早速出かけることにした。
行き先はリンドブルムがいる中央の天空島、移動手段はもちろんサマエルの瞬間移動だ。
サマエルの瞬間移動は、サマエルの足元に直径約50メートルの魔法陣が現れる。
その魔法陣の中にいる者達は、サマエルと同じ場所に移動することができる。
ただし、サマエルの登場場面からも分かる通り、行き先は100%空中になる。
そのため、飛行能力を持たない者がサマエルといっしょに瞬間移動するのは非常に危険だ。高高度で足場も何もない空中に瞬間移動したら、飛べない者は墜落してお陀仏間違いなしである。
しかし、今のライト達には何の問題もない。
ライトは青龍の力を取り込んで飛べるようになったし、レオニスは深紅のロングジャケットに付与した飛行魔法で前から飛べたし、ラウルはもとより妖精なので普通に飛べる。
ライトが初めてサマエルの瞬間移動でカタポレンの家に送ってもらった時、『あー、自力で飛べるようになってホントに良かった……』としみじみ思ったものだ。
『では、今からリン姉様のお宅にお邪魔するぞ。あ、父上は私が抱っこしていきます故、こちらにお越しください』
『……うむ……いつもすまぬな』
『すまぬなど、とんでもない!父上を抱っこする栄誉は、誰にも渡しません!』
サマエルの瞬間移動の魔法陣の中に入ったライト達。
もちろんサマエルのお付きの天空竜達も、ちゃんと魔法陣の中に入っている。
小さなラーデを両腕で大事そうに抱っこするサマエル、実に上機嫌そうだ。
全員が入ったところで、ライト達の身体が足元の魔法陣にズブズブと沈み込んでいく。
そうしてライト達は吸い込まれるように消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サマエルの瞬間移動の魔法陣を通ったライト達。
眼下には巨大な岩山、中央の天空島が見える。
ライト達はそのままスーッ……と下に降りて、岩山の火口の中に入っていった。
火口に入った途端に、一気に奥に引き摺り込まれるような感覚に陥る。
これは、中央の天空島の火口入口を境にして現世とは異なる空間―――異空間に入ったためである。
内臓を鷲掴みにして持ち上げられるような不快感が起こるが、リンドブルムが住む『修験者の迷宮』及びファフニールが住む『不思議の森』に行くには必ず通らねばならない道なので我慢するしかない。
中央の天空島の火口から中に入り、最奥の間に向かうライト達。
サマエルを先頭にライト達が後をついていくように静々と歩く中、今日も雑魚魔物一匹すら出てこない。
それは、最奥の間にリンドブルムが鎮座ましましているおかげか。
程なくして最奥の間、リンドブルムの個室?に到達した。
そこではリンドブルムがうたた寝していた。
『リン姉様、起きてください。リン姉様』
『……ムニャムニャ……』
『『ンギャッ!』』
サマエルに呼びかけられたことで、半分寝ぼけ眼なリンドブルムが寝返りを打った。
その寝返りに、サマエルとラーデがプチッ☆と下敷きになってしまったではないか。
これにはさすがのライト達も大慌てである。
「えッ、ちょ、待、ラーデ、サマエル、大丈夫か!?」
「ラウル、レオ兄ちゃんと二人でラーデ達を出してあげて!」
「了解ー」
レオニスとラウル、二人がかりでリンドブルムの巨体を押し上げて下敷きになったサマエルとラーデをライトが引き出した。
「ラーデ、サマエルさん、大丈夫!?」
『『ンぬぅーーー……』』
ライトに引っ張り出されたラーデとサマエル。
とりあえずぺしゃんこにはなっていなかったので一安心だ。
そしてこの一連の騒動で、リンドブルムが目を覚ました。
『……ンぁ? サミーに、パパン? ……人の子達もいるのねぇ……ふゎぁぁぁぁ……皆、いらっしゃーーーい』
『リンドブルムよ……其方、相変わらず寝坊助だな……』
『リン姉様は、いつもこうですぅ……』
のそのそと動き出し、翼を大きく広げて背伸びするリンドブルム。
そして何事もなかったかのようにシャキッ!とし始めた。
『えーと……今日はファフ兄とフレジャちゃんのところに行くんだったかしら?』
「そうそう、ラーデの初孫が無事孵化したって聞いてな。俺達も見舞いに来させてもらった」
『そうなのよねー、私もついに叔母ちゃんになったのよねぇ……さ、そしたら早速ファフ兄のところに行きましょ!ほらほら、パパンもサミーも早く私の背中に乗って!』
『はぁーい……』
『うむ、邪魔するぞ』
ニコニコ笑顔でお出かけ宣言するリンドブルムに、サマエルとラーデがフラフラになりながらその背に乗り込む。
ライト達もサマエルを支えるようにその左右に乗り込み、サマエルのお供の天空竜達はリンドブルムの後ろに控えた。
『じゃ、行くわよー♪』
ライト達を背に乗せたリンドブルム。
最奥の間の中にある不思議の森に通じる扉がある床に移動した。
その床が抜け落ちたように、リンドブルム達を下に吸い込んでいった。
皆で中央の天空島にお出かけ&リンドブルムの久々の登場です。
リンドブルムの登場は第1505話以来なので、約150話ぶり?(゜ω゜)
そしてこれからラーデの初孫にして、リンドブルム&サマエルの甥っ子 or 姪っ子が登場する訳ですが。
作者にも三人の甥っ子がいますが、甥っ子姪っ子ってのは実の子とはまた違う可愛らしさ?がありますよねぇ( ´ω` )
特に生まれたばかりの頃なんて、『ナニこの可愛いイキモノは!?』と思ったものでした。嗚呼懐かしいー。
近年は身近に赤ん坊と呼べる年齢の子がいないので、久しく間近で接していないんですが。またいつか、ピカピカに新しい命と触れ合える機会がくるといいな。
それまではサイサクス世界の子達と戯れることにします(^ω^)
 




