第1621話 玄武への贈り物・その二
その後ラウルがジョシュアに託された残りの冷晶石を手持ちのバスケットに入れて、氷の洞窟最奥の間の横に置いた。
こうしねおけば、玄武がいつでも好きな時に冷晶石をおやつとして食べられる、という訳だ。
「さて、そしたら次はぼくの番かな!」
一番バッターのジョシュアのプレゼント進呈が完了し、次に立候補したのはライト。
ライトはアイテムリュックをガサゴソと漁り、何かを取り出した。
それは、ライトの手編みのマフラーだった。
「ジャジャーン!ぼくの玄武へのプレゼントはコレ!」
「お、それはマフラーか?」
「うん!玄武が寒さで凍えるなんてことは絶対にないだろうけど、お洒落アイテムとして身に着ける分にはいいと思うんだよね」
「そうだな、玄武だってお洒落してもいいよな。だって玄武は女の子だもんな」
ライトがマフラーをプレゼントに選んだ理由に、レオニスやラウルも頷きながら納得している。
しかし、ジョシュアだけは面食らいながら驚いていた。
「何ッ!? 玄武様は女性であらせられるのか!?」
「そうらしいぞ。いや、俺もこないだライトから聞いて初めて知ったんだがな。何でもラグーン学園の図書室で読んだ本に、そう書いてあったらしい。な、ライト?」
「そうなんです!ぼく、お昼休みに図書室で本を読むのが好きなんですけど。四神に関するものを探してみたら、四神の性別とかまで詳しく書いてある本があったんです」
「何と……そのような専門書まであるとは、さすがは首都にある名門校だけのことはある」
レオニスから話を振られたライト、ジョシュアに向けてスラスラと解説している。
ちなみに今回の話は、いつものように方便100%ではなく本当のことが多分に含まれている。
まずラグーン学園の図書室で、ライトは四神に関する書物を本当に探して見つけては読み込んでいた。
ただし、その図書室は初等部ではなく放課後に立ち寄る中等部の図書室なのだが。
そう、さすがに初等部の図書室に四神関連の専門書などあるはずもなく。中等部の図書室まで足を伸ばして研究していたのである。
そして図書室で見つけた四神関連の資料によると、青龍と朱雀がオスで白虎と玄武はメスなのだという。
これは四神の四象という項目からくるもので、小陽の青龍と太陽の朱雀はオス、小陰の白虎と太陰の玄武はメス、ということになるらしい。
陰陽学では陽は男、陰は女を表すので、四神の性別もそこからきているという訳だ。
確かに青龍のゼスと朱雀のフラムは一人称が『僕』だし、白虎は『ワタシ』だった。
一人称からすると資料と実物の男女別は合っているようだし、そうなると玄武の性別がメスだというのも信頼できる情報といえるだろう。
そうした情報を裏付けるように、氷の女王がライト達に話しかけた。
『其方ら、よく勉強しておるの。確かに玄武様はやんごとなき崇高な御方であらせられる』
「おお、氷の女王様がそう仰るのであれば、玄武様は間違いなく女性なのですな!」
『うむ。玄武様のような偉大な方々の性別というのは、一見してすぐに分かるようなものでないのだが……それでもよくよく見ると、実に女性らしい嫋かさや柔和さといった気品が感じ取れるであろう?』
「確かに……玄武様の甲羅や尾の蛇から発せられる、美しくも気高い気品は女性ならではのものですな!」
『そうであろう、そうであろう』
玄武の甲羅や尾の蛇を、大真面目に眺めながら本気で褒め称えるジョシュア。彼からの大絶賛に、氷の女王もうんうん、と満足げに頷いている。
もっとも当の玄武はちんまりとしたミニサイズで、傍から見たら気品云々以前に可愛らしいぬいぐるみにしか見えないのだが。
そんな玄武に、ライトがマフラーを手に持ち近づいていった。
「玄武、これはね、マフラーといって首に巻きつけて使うものなんだ」
「モキェ?」
「真っ白な雪や氷の中でも見分けがつきやすいように、明るいクリーム色にしてみたんだ。どうかな? ちょっと大き過ぎるかな?」
「ムキャキャ!」
ライトがマフラーの解説をしながら、玄武の首にそっと巻きつけてあげている。
マフラーの大きさや長さは、子供のライトや氷の女王が使っても問題ないサイズで作り上げた。
しかし、今のぬいぐるみサイズの玄武にはちょっとぶかぶかになりそうだ。
するとここで、玄武が少し身体を大きくして1メートルくらいのサイズになった。
このサイズの玄武の首に、ライトのマフラーがぴったりとフィットしていた。
それを見たレオニス達が、玄武を大絶賛する。
「おお、玄武の可愛さがアップしたな!」
「ああ。青黒い甲羅や濃茶の肌にクリーム色が映えていて、色合いが抜群に素晴らしいな」
「何と……何という見目麗しさか……高貴な玄武様に実によく似合っていらっしゃる!」
『本当に玄武様は、何を身に着けても気高さが上がりますな』
玄武信者であるジョシュアや氷の女王はともかく、レオニスやラウルまでファッショナブルな玄武をべた褒めしてる。
ちなみにこのマフラー、クリーム色と言ってはいるがほんのりと黄金色に光っている。
というのも、原料の毛糸に銀碧狼の毛や金鷲獅子の毛が織り込まれているからだ。
本当はそれらの毛100%で毛糸を作れたらよかったのだが、マフラー一本分の毛糸ともなると結構な量が必要となる。
さすがにそこまでの量の毛が手元になかったし、何より銀碧狼と金鷲獅子の抜け毛100%の毛糸にすると、マフラーが出来上がった時にあまりの眩さで目が眩んでしまいそうだ。
そうなってはいけないので、それら特殊素材を毛糸の総重量の三割程度に抑えて特別な毛糸をアイギスで作ってもらっていた。
そしてこの特殊素材を混ぜ込んだ毛糸には、もう一つ嬉しい効果があった。
それは『玄武が身体の大きさを変えた場合でも、それに合わせてマフラーも大きさを変えることができる』というものだ。
銀碧狼や金鷲獅子といった高位の存在は、己の身体の大きさを変化させることなど朝飯前だ。
そんな彼らが身にまとう毛も、その都度大きさや長さ、太さなど全てが本体と連動して自在に変化する。
その毛を混ぜて作った毛糸にも、同様の効果が現れるようになるのだ。
玄武にそっとマフラーを巻きつけたライトが、ちょっとだけ心配そうに玄武に話しかける。
「玄武、このプレゼント、どうかな? 気に入ってくれると嬉しいんだけど……」
「キュエキュア!」
『心配ない。玄武様もとても気に入っておられる』
「ホントですか!? それならよかった!」
玄武の喜びを翻訳してくれた氷の女王の言葉に、ライトが破顔しつつ喜ぶ。
ライトがプレゼントしたマフラーには、銀碧狼と金鷲獅子の抜け毛という非常に稀少な素材が含まれてはいるが、一見したらただのクリーム色のマフラーに過ぎない。
それでも玄武が気に入ってくれたことに、ライトは心から嬉しかった。
そしてこのマフラーに特殊な素材が使われていることを、氷の女王は看破していた。
『このマフラーというものには、何やら途轍もなく強い力を感じる。何か特別な魔法でもかけているのか?』
「いいえ、魔法の付与はしていませんが、毛糸の中に銀碧狼と金鷲獅子の毛を混ぜ込んでいます」
『おお、銀碧狼というとシーナ姉様やアルの毛か?』
「はい。シーナさんやアルのブラッシングをしたときに採れた毛です」
『それは素晴らしい!玄武様にシーナ姉様の加護が付与されたも同然なのだな!』
マフラーから漂う強大な力。その源泉の一つが氷の女王が姉と慕う銀碧狼のシーナの毛だと聞き、殊の外喜んでいる。
その後金鷲獅子という聞き慣れない存在のことも、ライトから詳しい話を聞いて『銀碧狼に並ぶ高位の存在とは……ますますもって玄武様に相応しい!』と氷の女王は大喜びした。
『そのように素晴らしい品なら、是非とも我も玄武様とお揃いの品が欲しいところだ』
「そしたら今度は氷の女王様にも玄武とお揃いのマフラーを作って、プレゼントしますね!」
『おお、それは楽しみだ。心待ちにしておるぞ』
「はい!」
氷の女王の『自分もお揃いで欲しい!』というおねだりに、ライトが快く応じる。
氷の女王がおねだりするとは何とも珍しいことだが、彼女には氷槍をたくさんもらったり氷の洞窟の壁を取り放題させてもらったりしているので、そうした日頃の恩に報いるためにもここは快諾一択である。
「ライト、玄武や氷の女王にも喜んでもらえてよかったな」
「うん!」
ライト達のやり取りを見ていたレオニスが、ライトの頭をくしゃくしゃと撫でながら喜んでくれている。
玄武へのプレゼントが思った以上に大好評だったことに、ライトも心から安堵していた。
玄武へのプレゼント、ジョシュアの次はライトの番です。
今回のプレゼントで悩んだのは『身体の大きさが変えられる玄武に、果たしてマフラーなどの身体に着ける類いの品はアリなのか?』ということ。
某世紀末救世主伝説のように、毎回毎度身体の大きさが変わる度に着ているシャツまでビリビリに破けてたら話になんないですしおすし(;ω;)
しかーし!作者は鳥頭の無い知恵絞って考えました!
そういやライトは銀碧狼の毛を使っていろいろ作ってるじゃん?
↓
でもって、銀碧狼のシーナさんって身体の大きさ変えられるじゃん?
↓
そん時は毛だって身体の大きさに合わせて太さや長さが変わってるんだから? この性質を活かさない手はないじゃーん!(º∀º)
この理論のおかげで、マフラーという一見普通のプレゼントを玄武に贈ることが可能になった!という訳です(^∀^)




