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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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1617/1681

第1617話 ジョシュアの幼い頃の夢

 魔物除けの呪符を使いながら、ツェリザーク郊外を歩き続けるライト達。

 いや、レオニスとラウルがいれば魔物除けの呪符など本当は必要ないのだが。

 今回はツェリザーク領主の護衛という責任重大な任務。

 万が一、いや、億が一にもジョシュアの身を危険に晒す訳にはいかない。

 万全を期すために、使える手段は惜しまず使うのである。


 そうして氷の洞窟入口に到着したライト達。

 ここでジョシュアは、道中でのレオニスとの雑談で『あんただって氷の女王から氷の勲章をもらったんだから、氷の女王の加護がついてるはずだろ。普通の服装してても、そこまで寒くならねぇんじゃねぇの?』という素朴な疑問からくる言葉により、着膨れ雪だるま状態をやめて普通の格好に戻った。


 白いロングコート一枚の下は、グレーのスーツという極々普通の出で立ちになったジョシュア。

 着膨れの原因となっていたたくさんの服は、一旦ラウルが預かって全て空間魔法陣に放り込まれた。

 スッキリとした身体のラインに戻ったジョシュアが、不思議そうな顔をしつつ呟く。


「うむ……確かにそこまで寒く感じないな」

「だろ? 属性の女王の加護ってのはすげーからな。ジョシュアはこの先一生、凍死することだけは絶対にねぇはずだ。だって氷の女王の加護だからな!」

「何と……このツェリザークに住む者として、これ程ありがたいことはない」


 氷の勲章がもたらす氷の女王の加護、その凄さを大絶賛しながら太鼓判を押すレオニス。

 実際にレオニスはライトとともに全種類の勲章を所持しているので、彼女達の加護が如何に強力であるかを身を以て知っている。

 そしてジョシュアが氷の女王の加護の存在に気づかなかったのは、十月初旬で冬に突入したばかりだからだと思われる。

 今はまだピンときていないようだが、これから本格的に寒さが増していけばその効果を身に沁みて実感していくことだろう。


 そうしてライト達は、氷の洞窟の中に入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 天井を含む壁一面が氷でできた洞窟の中を、ライトやレオニス、ラウルは静々と歩くが、ジョシュアはずっとキョロキョロと周囲を見回している。

 ライト達にとってはもうすっかり見慣れた場所だが、ジョシュアは氷の洞窟に足を踏み入れるのは今回が生まれて初めてのこと。全ての景色が新鮮に映るのも無理はない。


「おおお……氷の洞窟とは、本当に全てが氷で覆われているのだな……」

「あんたのような、冒険者ではない人間にとってはこういう場所は相当物珍しいだろうなぁ」

「まぁな。私を含む一般人は、とてもじゃないがダンジョンの類いに入ることはできん。魔物に襲われたら、ひとたまりもないからな。しかし、もし私にもレオニス君のように魔法や剣の才能があったなら、是非とも冒険者を目指したかったのだがな」


 ジョシュアの思いがけない話に、レオニスが思わずツッコミを入れた。


「ツェリザークの領主一族の跡取りが、冒険者になるってのか? そりゃ無理じゃね?」

「いやいや、そんなことはないぞ? 前にも話したと思うが、私は兄弟の中でも末子で上に兄が二人いるからな。本来なら二人の兄上のどちらかがスペンサー家を継いで然るべきなんだ」

「じゃあ、どうしてそうならなかったんだ?」


 レオニスのツッコミをジョシュアが軽くいなす。

 レオニスには貴族の家のことや跡取り云々などさっぱり分からないが、やはり本来は長男が家を継ぐのが原則のようだ。

 ならば何故、ジョシュアは末弟でありながら幼い頃の夢を叶えることができずに、領主一族を継ぐ重責を担うことになったのか。

 その答えは、すぐにジョシュアの口から明かされた。


「私は十歳になってすぐに、ジョブ適性判断を受けた。スペンサー家の跡取りとしての資質の有無は、早いうちに判断しておくべき最重要事項だからな。そしてその時に得たジョブ候補の中に【敏腕経営士】が出てきてな……領地経営にこの上ない最適なジョブで、上の兄二人にはそうしたジョブは全く出てきてなかったんだ。そして私のジョブが判明した途端、二人ともこれ幸いとばかりに私に領地を任せると言ってさっさとツェリザークを出て、ラグナロッツァに行ってしまったのさ」

「ぉ、ぉぅ、そうだったんか……」


 がっくりと項垂れ、心底残念そうに思い出話を語るジョシュア。

 聞けばジョシュアは幼い頃から本の虫で、領主邸にある多数の蔵書の中でも御伽話によくあるような冒険譚や英雄譚の類いを好んで読んでいたという。

 そのせいか、ジョブ適性判断前は『将来は冒険者になりたい!』『どうせ三男だもん、家を継ぐことなんてないだろうし』とかなり本気で思っていたようだ。

 そしてジョシュアが氷の洞窟を肯定的に捉えているのも、そうした幼少期の経験や思い出からくるものだった。


 ツェリザークとは切っても切れない縁の氷の洞窟は、ツェリザークの厳冬の最大の原因。

 しかし、その氷の洞窟をジョシュアは一方的に忌み嫌うことなく、むしろ憧憬の念をずっと抱き続けてきた。

 彼が氷の洞窟の主達を崇敬し、仲良く交流していきたいと願う根底と理由をライト達は垣間見た気がした。


「しかし、今となっては跡を継いで領主になって本当に良かったと思っている。冒険者にこそなれなかったが、領主としてこれから采配を振ることで氷の洞窟のイメージアップに貢献できるし。それに……例え冒険者になれなくても、こうして氷の洞窟の主達に会いに行けるのだからな!」

「……そうだな。あんたが昔叶えられなかった夢を、別の形で俺達が補完して叶えてやれたってんなら本望だ」

「うむ、レオニス君達には本当に感謝している!」


 夢破れた過去を嘆くことなく、今という現実を率直に受け止めて前を向くジョシュア。

 レオニス達に礼を言う彼の表情は実に清々しく、心から感謝していることがよく伝わってくる。

 その潔さと前向きな姿勢に、ライト達は感銘を受けていた。


 そんな話で盛り上がっているうちに、氷の洞窟の最奥の間の手前に辿り着いた。

 その入口の奥には、氷の女王と神殿守護神である玄武がいるはずだ。

 入口の三歩手前辺りでジョシュアが立ち止まり、コートの襟や裾の形を何度も直したり、コホン、と軽い咳払いを一つしたりしている。

 どうやら氷の洞窟の主達に会うのに、ものすごく緊張しているようだ。


 如何にも緊張しまくりのジョシュアに、レオニスが小声で話しかけた。


「ジョシュア、大丈夫か?」

「も、もちろん大丈夫だとも。ようやく私の長年の夢が叶うのだ、ここで臆してなどおられぬ」

「ならいいが……じゃ、そろそろ最奥の間に入るぞ」

「ああ」


 レオニスの言葉に、ジョシュアが意を決したように顔を上げて前を見る。

 そうしてレオニスを先頭に、ジョシュア、ライト、ラウルの順で四人は氷の洞窟最奥の間に入っていった。

 ツェリザーク郊外から氷の洞窟最奥までのひと時です。

 拙作ではこういうちょっとした移動時間なんかに、キャラ達の過去話だったり何がしかの後日談を出したり、様々な背景や未出の情報などを織り込むことが多いのですが。

 そのせいで話の流れや進みが超スローペースになっているってのは、作者自身もよーーーく分かっております。

 でもねー、こんな些細で穏やかな日常会話を書くのが作者にとっても癒やしとなっておりますのです。

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