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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグーン学園三年生二学期

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第1614話 ダリオの苦難・その一

 お盆休みとして四日間のお休みをいただき、ありがとうございました。

 予定通り、本日より連載再開いたします。

 ライト達がツェリザークでの事件を知った時から、二ヶ月ほど遡る。

 ラグナロッツァの貴族街にある、とある屋敷の一室は大荒れに荒れていた。


「くそッ!何故こうも上手くいかないのだ!」


 手近にある物を手当たり次第に掴んでは、力任せに乱暴に投げつけて壊し続ける男。

 その男の名はダリオ・サンチェス。アクシーディア公国の大公一族の流れを汲む貴族である。

 この男が、自宅内でこうも荒れている理由。

 それは、昨年の黄金週間に行われた鑑競祭りが事の発端であった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それまでのダリオは、鑑競祭りのことを『成金と下賎な者達が集う卑しい売買の会』と見下していて、興味を示したことなど全くなかった。

 しかし、そんなダリオの偏見に満ちた価値観を一種にして覆す事件が起きた。それは、昨年の鑑競祭りでレオニスが出品した【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】だった。


 (くだん)の黄金週間が終わってから半月程経過した頃、ラグナ宮殿で大公妃の誕生日を祝う祝賀パーティーが開かれた。

 その時に大公妃が着けていたティアラに、ダリオは瞬時に目を奪われ息を呑んだ。

 そのティアラはダリオもまだ一度も見たことがない完全な新作で、【水の乙女の雫】を用いた素晴らしい品だった。


 プラチナ製のティアラの中央に、唯一無二の煌めきを放つ【水の乙女の雫】。

 その美しさは、ダイヤモンドやサファイア等のありふれた宝石など足元にも及ばぬ風格を備えていて、その場にいた者全てを魅了して大きな感動を与えた。

 ダリオもその感動に打ち震えた者の一人で、大公妃のティアラを見た瞬間全身に無数の雷が走ったかのような衝撃を受けた程だ。


 欲しい……

 この世のものとは到底思えぬ、あの美しい宝石が欲しい……!!


 そう思ったダリオだったが、さすがに現大公妃のティアラを力尽くで奪い取るのはどう考えても不可能だ。

 如何にダリオが先々代王弟のサンチェス家の系統で、現大公のはとこであってもさすがに相手が悪過ぎる。

 なので、ひとまずダリオは大公妃のティアラについている宝石が何なのかを知るべく、周囲の貴族に声をかけて聞いた。

 それは、『あの宝石と同じ種類のものを探し出し、あれより大きくて美しいものを手に入れてやる』という野心からだった。


「つかぬことを聞くが、大公妃のティアラに使われているあの美しい宝石のことを貴殿は知っておられるか?」

「ええ、知っていますとも。あれは先日の黄金週間でのビッグイベント、鑑競祭りの第二部で行われたオークションで出品された【水の乙女の雫】ですよ」

「鑑競祭り……?」

「その時の鑑競祭りには私も参加してましてね。あの【水の乙女の雫】の美しさたるや……私もすっかり魅了されて、入札に参加したのですが。いやはや、あっという間に2000万Gにまで値が上がってしまいましてねぇ。結局あの【水の乙女の雫】は、大公妃殿下のご実家であるアサートン家が落札されて―――」


 手近にいた貴族の話によると、ダリオが欲したのは宝石ではなく【水の乙女の雫】という精霊の女王がもたらした奇跡の品だという。

 そしてその奇跡の雫を入札した幸運者は、大公妃の実家絡みだというどうでもいい情報まで手に入れた。

 その時のダリオは心の中で『チッ、田舎の侯爵家程度が分不相応な物を手に入れおって……』と毒づいていた。


 しかし、ダリオの当初の野心は早くも躓いた。

 ダリオが心を奪われたのはただの宝石ではなく、【水の乙女の雫】という常人では決して手に入れられない極めて特殊なものだったからだ。

 それは金や地位に物を言わせてすぐに入手できる類いの品ではない。

 唯一のチャンスは鑑競祭りの第二部として催されたオークションだが、ダリオはその機会を逃した。文字通り『後の祭り』である。


 これでは大公妃のティアラよりも上級の品を入手するのは、ほぼ不可能だ———普通ならそう気づき、ここで【水の乙女の雫】の入手を早々に諦めるところなのだが。ダリオはこの程度のことで引っ込むような性格ではない。

 大公妃が入手した【水の乙女の雫】には手出しできないが、周囲の貴族が教えてくれた情報―――【水の乙女の雫】と時を同じくして世に出たもう一つの雫【火の乙女の雫】を探して手に入れることにした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【水の乙女の雫】とともに鑑競祭りで出品されていた【火の乙女の雫】の方は、外国の豪商が落札して祖国に持ち帰っていた。

 これを知った時のダリオは、大いに憤慨したという。


「あれ程の品を国外に流出させるとは、何たる失態か!」

「今すぐ国宝指定してもおかしくない品だというのに……このままでは、アクシーディア公国の沽券に関わるというもの。捨て置く訳にはいかぬ」

「このダリオ・サンチェスが、サンチェス家の名に於いて国宝を取り戻して見せようぞ!」


 【火の乙女の雫】の行方を知ったダリオは、当初息巻いていた。

 如何に豪商であろうと、高位貴族ではない平民相手ならば交渉は楽勝だ―――そう考えていたのだ。

 しかしダリオの思惑は、早くも完全に外れた。

 その豪商は身分こそ平民だが、その国の王室御用達を多数請け負う実力者で、アクシーディア公国内でも輸出入を手がける支店を持っていたのだ。


 そこまでの人物ともなると、如何に相手が平民であってもダリオも手が出し難かった。

 故にダリオも最初のうちは、平和裡に済まそうと金銭での買い戻しの接触を試みた。

 しかし、相手の豪商が応じることは一切なかった。

 既に同様の買い取り打診が殺到していたようで、いくら金を積まれても頑として応じなかったのだ。

 そもそもその豪商は、サイサクス世界でも屈指の大金持ちなので、財力だけで打ち負かすことはほぼ不可能といっていいことは明白だった。


 ならばダリオが次に取る手段は、後ろ暗い方法となる。

 しかし、これもまた完全に手詰まり状態だった。

 何しろ相手は国外の要人。国内の商人相手ならいざ知らず、国外の要人を誘拐や拉致するなど以ての外だし、あからさまな脅迫はもちろんのこと恫喝ですら国際問題に発展しかねないからだ。


 もちろんダリオとて、そういう場面で己が矢面に立って進んで脅迫する程愚かではない。そのようなことを行う時には、手先の者を使うのが常套手段だ。

 しかし、背後で操っているのがダリオだということが万が一にも相手にバレる訳にはいかない。

 もしそれがバレたら、相手はアクシーディア公国に対して正式に抗議してくるだろう。


 そうなった場合、ダリオの叱責は免れない。

 いや、ただの叱責やお小言だけで済めばいいが、国際問題にまで発展した後では事はそう簡単には済まない可能性が高い。

 基本的に小心者のダリオには、目に見える程明らかなリスクを背負うつもりは毛頭なかった。

 こうした諸々の事情により、ダリオは一目惚れした【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】の即時入手を断念しなければならなかった。


 だからといって、ダリオは完全に諦めた訳ではない。

 それらの乙女の雫が冒険者からもたらされた成果ならば、今度は自分のために直接採取してきてもらえばいいだけのこと―――ダリオはそう考えた。

 ダリオはすぐに鑑競祭りのパンフレットを取り寄せて、その内容に目を通しながらブツブツと呟いた。


「フン……冒険者なんぞに依頼を出すなど、この上なく不愉快ではあるが……奴等にしか行けないような危険な場所にあるとなれば、致し方あるまい」

「というか、むしろ我らのために働けるとあらば、奴等のような下賎な者達にとっては身に余る光栄であろう」

「せいぜい我ら貴き者のために働かせてやるか。下々の者共よ、感謝するがいい」


 ダリオはそう言いながら、鑑競祭りのパンフレットから得た情報でレオニス・フィアという冒険者への個人指名依頼を出すことにした。

 その内容は『【水の乙女の雫】の採取及び依頼主への直接納品』『報酬は200万G』。

 おい、ちょっと待て、それじゃゼロの桁が一つ少ねぇだろ?と思うような内容だが、ダリオ本人は至って大真面目に出した提案だ。

 というのも、ダリオは生粋の貴族至上主義者なので、爵位を持たない平民など虫ケラ程度にしか考えていない故である。


 彼の父親であるテオドロ・サンチェスや祖父のサンチェス公は、そこまで徹底した身分至上主義者ではないのだが。

 幼くして母親を亡くした子や孫を哀れに思うあまりに、相当甘やかして育ててしまった感は否めない。

 そしてそんなダリオに言わせれば『200万Gという金額は、平民には一生拝めない大金だろう? 平民に対する報酬は、それだけあれば十分だ』という暴論になるのである。


 ちなみにこの時のダリオは、鑑競祭りのオークションで【水の乙女の雫】が2000万Gで落札されたことを知っている。

 だが、それはそれ、これはこれ。平民には200万Gでも十分上等な報酬である、というのがダリオの思考だった。

 オークションでの落札価格を知った上での提案というのだから、呆れる他ない。

 そしてこの高慢な態度は、ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部でも遺憾なく発揮された。


 ダリオ自らが護衛を含む供の者五人を引き連れて総本部に出向き、普通なら受付窓口だけで済む依頼提出を『ギルドマスターに直接繋げ』とゴネにゴネて、マスターパレンがいる執務室にまで半ば強引に押し入った。

 しかし、ラグナロッツァ総本部の受付嬢であるクレナは勿論のこと、マスターパレンも決して動じたりしない。

 この程度のことは度々起こる日常茶飯事の範疇であり、勘違いした貴族をあしらうなど造作もないからだ。


「ふむ……レオニス君への個人指名依頼ですか」

「そうだ。先日の鑑競祭りのオークションでそいつが出したという、【水の乙女の雫】を私も手に入れたいのだ」

「それにしては、報酬の金額がちとおかしくはありませんかな? 彼の祭りでは、【水の乙女の雫】は2000万Gで落札されたと聞き及んでおりますが」

「それは、オークションという特殊な場で起きたことだろう? 私の場合は素材採取の依頼なのだから、買い取り価格をどのように設定しようと私の自由であろう」

「………………」


 オークションに出せば2000万Gになると分かっている品を、その十分の一の報酬額での取引を甘んじて引き受ける人間など、普通に考えたらいる訳がなかろう……

 パレンはそう思ったが、それをそのまま口に出すことは決してない。この手の自尊心ばかり肥大した人間には、何を言ったところで響くことなどないことをパレンは知っているからだ。

 そう、パレンとて子爵家の次男。タイン家の後継者でこそないが、貴族間のあれこれやドロドロとした人間関係や思惑といった様々な(しがらみ)が厳然として存在することは、一般人よりも熟知していた。


 その後ダリオは、マスターパレンに「……ま、一応レオニス君にも個人指名依頼があったことはお伝えしておきましょう。ですが、この依頼をレオニス君が受けるかどうかは本人次第であり、本人が嫌だと言えば不受理として扱われますので、その点はご理解いただきたい」とサラッとした口調で釘を刺され、クレナにはシレッとした無表情顔で「お帰りはあちらですぅー」とあしらわれていた。

 普段は誰にでも優しく笑顔で接するクレナにしては珍しい態度だが、傲岸不遜なダリオ相手では致し方ない。


 そしてダリオはというと、その都度「何だと!? たかが平民の分際で、このダリオ・サンチェスの依頼を断るなどあり得ぬ!」「何としてでも依頼を達成させるのが、ギルドマスターである貴様の仕事だろうが!」とパレンに向かって喚き散らし、帰り際にはクレナにまで「ここの職員は、ギルドマスターどころか女でさえも愛想のない不細工ばかりか」「ハッ、そんなんじゃ嫁の貰い手もないな」などと暴言を吐く始末。

 もちろんクレナは全く相手にしていなかったが、もしその場にライトやレオニスがいたら―――想像するだけで背筋が凍る。


 そしてこのダリオのレオニスへの個人指名依頼は、パレンが前もって言っておいた通り受理されることはなかった。

 もちろんレオニスへの打診はちゃんとしていて、その上できっぱりと断られているので冒険者ギルドとしての義理は果たしているから問題はない。


 ダリオが何度個人指名依頼を出しても梨の礫。

 このことにダリオはものすごく怒り狂ったが、かと言って乙女の雫の入手は諦めきれない。

 そうして次に出た手段が、レオニスへの個人指名依頼をやめて一般の冒険者に向けて広く依頼を出すことだった。

 前書きでもご挨拶しましたが、四日間のリフレッシュ期間を経ての連載再開です。

 ぃゃー、お新盆のないお盆休みは本当に久しぶりで!作者もゆったりと過ごさせていただきました♪( ´∀` )

 ……で、その再開一発目が悪い奴サイドの目線でのお話という…( ̄ω ̄)…

 前話からの続きとはいえ、イヤンな空気でのスタートとか悲しいー><


 このダリオという人物、拙作では珍しいイヤーな感じのキャラですが。普段は書き慣れない悪役描写ということで、実は作者も何気に苦戦してます。

 それでも何とか頑張って書いてるんですが、すんげー嫌な奴感は出せているかしら?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)


 でもって、サブタイに『その一』とあります通り、この続きを『その二』として次話にて出す予定。

 いえね、いつもならこの手の情報は分けずに一気に出すところなんですけどね? 今話だけで既に4000字を超えてまして(=ω=)

 嫌な奴を7000字も8000字も書いていたら、ストレスマッハで作者の抜け毛が三桁単位で増えそうなんで分割したんでございますぅ_| ̄|● ←本当にストレスでハゲる体質の人

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