第1605話 ウィサリア草原での薬草採取
冒険者ギルドビナー支部を出たライト達。
街の外に出て、ウィサリア草原に向かった。
このウィサリア草原とは、ビナー郊外一帯に広がる壮大な草原で、サイサクス大陸でも屈指の薬草の産地である。
体力回復のポーション類や魔力回復のエーテル類だけでなく、解毒や麻痺、果ては精力剤や媚薬といったものの原材料まで採取できる(ただし石化解除だけは特殊な素材が必要で、薬草だけではどうにもならない)。
そして、この草原に生える植物類は有益な薬草類だけではない。
毒性を持つものも多く、腹痛や頭痛、麻痺を起こすものもそこら辺に普通に生えている。
酷いものになると、一口食べただけで致死に至る猛毒の植物も複数ある。
それ故、ウィサリア草原で薬草採取するには植物に関するちゃんとした知識が必要なのだ。
ウィサリア草原に向かう道中で、フェリックスがライトに話しかけている。
「坊っちゃん、確かに薬草採取ってのは新人冒険者向けの依頼なんだが、いつも俺達が採取しているウィサリア草原は他所とちぃと違う。使える薬草はもちろんたくさんあるが、それ以上に毒を持つ危険な草もたくさんあるんだ」
「そうなんですね。薬草に詳しくないぼくでも、すぐに見分けがつきやすいものを教えていただけますか?」
「もちろんだとも。最初からそのつもりだったしな」
「よろしくお願いします!」
フェリックスに教えを請うべく、素直に頭を下げるライト。
そんな礼儀正しいライトに、フェリックスが感心したように零す。
「……つーか、坊っちゃん、とてもレオニスに育てられたとは思えんくらいに素直で真面目だな? ちゃんとした敬語だって使えてるし」
「うっせーよ。俺だって敬語くらい普通に話せるわ」
「嘘つけ。お前が敬語を使ってるとこなんて、一度も見たことねぇし。つーか、俺、知ってんだぞ? ラグナ大公相手にタメ口利いたんだってな? あん時はさすがに肝が冷えたって、マスターパレンが言ってたぞ」
「うぐッ……そ、それは仕方ねぇだろう。いきなり爵位をくれてやるとか言われたって、ンなもん要らねぇし」
レオニスのちょっとした黒歴史をフェリックスに暴露されて、戸惑いながら言い淀むレオニス。
その後レオニスが語った話によると、彼が金剛級冒険者に昇格した翌日にラグナ宮殿から呼び出しがかかり、渋るレオニスを冒険者ギルド総本部マスターであるパレンが何とか説き伏せて連れていかれたのだという。
そしてラグナ宮殿で通された謁見の間で、ラグナ大公から言われたのが『新たに生まれた金剛級冒険者に、爵位と褒美を遣わす』ということだったらしい。
要は『褒美をやるから今後も国に尽くせ』『間違っても他国に移住なんてするなよ?』という、枷嵌めを兼ねた圧力だろうことはレオニスも即座に理解した。
そこで返したレオニスの返事が「いや、そんなもん要らねぇし」「つーか、俺を無理矢理にでも貴族にしようってんなら、それこそ他国への移住も考えなきゃならんな?」だったのだとか。
確かにこれではレオニスの横にいたパレンの肝も相当冷えただろう。何ならパレンの寿命が三日程縮んだかもしれない。
「つーか、俺の昔話なんざどーでもいいんだよ。ライトでも確実に採取できる薬草を教えてやってくれ」
「おお、そういやそうだったな。そしたら現地で現物を見せながら教えてやろう」
「頼んだぞ。龍虎双星の皆も、ライトにいろいろ教えてやってくれ」
「「「はいッ!」」」
レオニスの黒歴史暴露という想定外の流れを何とか正し、今日の目的である薬草採取の依頼に専念させることに成功したレオニス。
ウィサリアの草原に到着し、早速フェリックスがいくつかの植物を丁寧に引っこ抜いてライトに見せた。
「坊っちゃん、よく見な。この、白と赤の花が咲いているのがジオウで、根っこに薬効成分がある。こっちのイカリソウは、葉や茎が滋養強壮の薬になる。薬にするだけでなく、若葉と花は食用にもなる」
「はい……はい……」
フェリックスの懇切丁寧な解説に、ライトが真剣に聞き入りながら懸命にメモを取っている。
その周囲で龍虎双星のメンバー達も、ライトのために他の薬草や毒草を探している。
一方でレオニスは特に薬草探しをすることもなく、さり気なく周囲の警戒に気を配っていた。
ウィサリア草原での魔物の出没は滅多にないが、それでも絶対にないとは言い切れない。
特に街の外での活動は、いつ何時であっても決して油断せず警戒を怠らない———それこそが、レオニスを超一流冒険者たらしめている秘訣なのだ。
いや、本当はレオニスだって薬草の知識は豊富だし、ライトにつきっきりで教え込むことだって可能だ。
その証拠に、先日ライトとともにディーノ村で受けた『冒険者のイロハ講座』では、クレアの指示により自身の復習も兼ねてライトに薬草の知識を教えていた。
なのに、何故今日はフェリックス達に薬草採取の極意をライトに伝授するように頼んだかというと。ライトにレオニス以外の冒険者達とも積極的に関わらせて、同業他者との交流を深めさせたかったからである。
その甲斐あって、ライトはフェリックスやクルト達と和気藹々とした空気で薬草採取を続けていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後ライト達の薬草採取は順調に進み、太陽もほぼ真上に来たところで昼食を摂ることにした。
レオニスが空間魔法陣を開き、敷物や食べるものを出してはライトやフェリックス、クルト達に次々と手渡す。
いつもならライトもアイテムリュックからいろいろと出すところなのだが。ライトがアイテムバッグ持ちであることはまだ秘密なので、今日は全てレオニスの手持ちのアイテムで賄う。
「いやー、今日はレオニスに来てもらって大助かりだな!」
「全くです。いつもならもっと早い時間に薬草袋が満杯になって、一旦ビナーに帰らなきゃならないところなのに……」
「レオニスさんの空間魔法陣に、採った薬草全部入れてもらえるからいくらでも採れるもんね!」
「今日一日だけで、一週間分の薬草採取ができそう!」
皆それはもうご機嫌な様子で昼食の準備を進めている。
実際彼ら彼女らの話は尤もなもので、薬草は意外と嵩張るものも多い。特に根が必要な薬草は根っこごと採取するので、大きな麻袋に潰れないように入れると十五本くらいで満杯になってしまう。
しかし、今日はそうした心配は一切要らない。
今日のスペシャルゲスト、レオニスに全部持ってもらえば良いのだから。
そうして昼食の準備が整い、皆で昼食を食べ始めた。
草原だけあって周囲には木の一本もないので、レオニス持参のビーチパラソル三本を地面にブッ刺して日陰を作った上で、四隅に氷の女王の氷槍を置いて冷房まで完備した。
それはまるで極上のピクニックさながらの快適さである。
「なぁ、レオニスよ。俺達の専属ポーターにならないか? お前なら大歓迎だぜ?」
「ぃゃぃゃ、フェリックスさん、何を言い出すんですか……」
「そうですよ、レオニスさんは金剛級冒険者ですよ? 私達の専属ポーターになんて、間違ってもなる訳ないじゃないですか!?」
ご機嫌な調子でレオニスを勧誘するフェリックスに、龍虎双星の面々が慌てて止めにかかる。
冒険者の最高峰である金剛級冒険者を荷物持ちとして雇おうとか、贅沢どころの話ではない。人によっては不遜レベルである。
しかし、この程度の諫言で引き下がるフェリックスではない。
フェリックスはなおも話を続ける。
「いやいや、そんなん分からんぞ? 聞くだけならタダだしな!」
「聞くだけ無駄だと思いますけど……」
「てゆか、フェリックスさんってそういうところはホンットに超前向きですよね……」
「よせよー、そんなに褒められたら照れるじゃねぇかー」
「「「……(褒めてない)……」」」
無駄にポジティブなフェリックスに、クルト達がスーン……とした顔で呆れている。
しかし、レオニスは知っている。この程度の軽口は、フェリックスの日常会話であることを。
故にレオニスは冷たい緑茶を啜りながら、フェリックスの誘いに対し気軽に答える。
「ま、気が向いたらそのうちな」
「おう!五十年以内には良い返事をくれ!いくらでも待ってるからよ!」
「え、何、フェリックス、お前五十年後もまだ冒険者を続けるつもりなの?」
「当然だ!老後の資金は1Gでも多く貯めとかなきゃならんからな!」
「ぇー、老後って、お前……五十年もしたらとっくに八十過ぎてるでしょうよ……」
ここでも持ち前のポジティブさを無駄に発揮するフェリックスに、レオニスが面食らっている。
とてもじゃないが、世界最強と名高い金剛級冒険者とその次に強い聖銀級の会話とは思えない間抜けさだ。
しかしそれは、レオニスとフェリックスの仲の良さの現れでもある。
階級が上がって傲慢になったり、横暴な態度が露骨になるより余程いい。
気の良い男達の長閑な会話に、ライト達はクスクスと笑いながらウィサリア草原での美味しい昼食を楽しんでいた。
ライトのための薬草採取にかけつけて、レオニスのプチ黒歴史暴露回です。
フェリックスはレオニスより年上で、その分レオニスとも付き合いが長いので。こうした昔話の暴露なんかもできちゃう、結構美味しい立ち位置のキャラなんですよねー♪(・∀・)
てゆか、作者的にフェリックスはもうちょいしっかりとしたキャラだったはずなんですがー(=ω=)
何でかバッカニアと大差ない面白キャラに変貌しつつある気がががが( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)




