第1604話 受付嬢マリノ
フェリックスとともに向かったビナー支部の受付嬢。
インディゴブルーカラーのふんわりワンピースに縞々ソックス、ベレー帽に大きめの楕円の眼鏡。
クレア十二姉妹が着ている服と同じスタイルで、色だけが入れ替わったと言って差し支えない。
その受付嬢は、フェリックスから『マリノ』と呼ばれていた。
このことから察するに、マリア十二姉妹の一人なのだろう。
マリノはフェリックスの後ろにいるレオニスにすぐに気がつき、びっくりした様子で声をかけた。
「……も、もしかして……後ろにおられるのは、レオニスさんですか?」
「そそそ、金剛級冒険者のレオニスだ。今日は俺と龍虎双星のやつらに会いに、ビナーに来たらしい」
自分のことが話題になっていることに気づき、レオニスの方からマリノに挨拶をした。
「よう、マリノ。久しぶり」
「こちらこそ、ご無沙汰しておりますぅー」
「つーか、マリノはケテルにいたよな? もしかして転勤か?」
「転勤というか、臨時のお手伝いですねー。ビナーの受付担当の方が先々月に出産なさって、今は育児休暇中なんですよー」
「あー、そっか、そういうこともあるのか」
「そうなんですぅー」
マリノの話にレオニスが得心している。
本来このビナー支部にはクレア十二姉妹もマリア十二姉妹もいないのだが、ビナー支部の受付嬢だった女性職員が育児休暇中のため、助っ人として最寄りの支部であるケテル支部からマリノが期間限定で派遣されているらしい。
のんびりと会話しているレオニスとマリノに、今度はフェリックスが驚いたように二人の顔を交互に見ている。
「え、何、二人とも知り合い?」
「知り合いっつーか、マリノはマリア十二姉妹の九番目だろ? あいつらの勤務地は全部把握してるし」
「レオニス……お前、よくマリノちゃんが九番目だって知ってるね……もしかして、全国の美人受付嬢全員と知り合いだったりする?」
「ぁー、マリア十二姉妹とクレア十二姉妹の勤務地なら、大抵っつーか全部把握している」
「すげーな!俺が仲良いのなんて、ホドのクレヒちゃんとラグナロッツァのクレナちゃん、ティファレトのクレネちゃん、あとはマルクトのクレフちゃんくらいしかねぇってのに!」
「何がすげーのかよく分からんが……そんだけ仲良いのがいりゃ上等じゃねぇの?」
レオニスがクレア十二姉妹とマリア十二姉妹の勤務地全てを知っているということに、フェリックスが興奮気味に絶賛している。
冒険者ギルドにおける名物&看板姉妹、クレア十二姉妹とマリア十二姉妹。
どちらも冒険者達に絶大な人気を誇るが、二十四人全てと懇意にしているというのは実は案外少ない。
そこまで全国を股にかけて頻繁に移動できる者となると、なかなかいないのだ。
「クレア十二姉妹とマリア十二姉妹……冒険者界隈における高嶺の花、まさに二大勢力だよな!俺もいつかは二十四人全員に挨拶して、顔を覚えてもらいたいもんだぜ……」
「ぃゃ、フェリックス、お前が思うほどそんないいもんじゃねぇよ? 特にクレアなんて、俺に手厳しいったらありゃしねぇ」
「何だとぅ? 金剛級冒険者に臆することなく物申せるなんて、ますます素晴らしいじゃねぇか!よし、今度クレアちゃんがいる支部の窓口に行ってみるか!」
「ぃゃぃゃ、そりゃやめとけ。ディーノ出張所には、まともな依頼書なんて一つもねぇぞ?」
「え、マジ?」
「マジマジ」
目を閉じうんうん、としたり顔で頷くフェリックスに、レオニスが夢をぶち壊すような助言ばかりしている。
クレアとマリア、各十二姉妹は冒険者業界ではアイドル的な存在であり、彼女達を信奉する者も多い。
見た目が愛らしいだけでなく、実務能力も高いのだから当然のことだ。
もっともレオニスとしては、彼女達をそうした目―――いわゆる恋愛や崇拝の対象として見たことなど一度たりともないので、フェリックスが何をそんなに興奮しているのかがちっとも分からないのだが。
「……ま、ンなこたとりあえず横に置いといてだな。マリノちゃん、俺達今からこの薬草採取に出かけたいんだが、今日はまだ龍虎双星なやつらは来てねぇよな?」
「そうですねぇ、クルトさん達はまだお見えになっていらっしゃいませんねぇ…………って、あ、噂をすれば」
マリノがフェリックスとの会話の最中に、建物入口の方に視線を遣る。
その言葉に全員が振り返ると、龍虎双星の五人がちょうどビナー支部入りしたところだった。
「おーい、クルトー、こっち来ーい」
「……あ、フェリックスさん、それにレオニスさんにライト君も!」
「皆さん、おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
フェリックスに呼びかけられたクルト達。
そこにライトとレオニスも同席しているのを見て、朝の挨拶とともに急いで駆け寄ってきた。
「レオニスさん、ライト君、先日ぶりですね!」
「もしかして、こないだ約束した薬草採取に来てくれたんですか!?」
「そうそう。今日は土曜日で、ライトのラグーン学園が休みだからな」
「あー、そっかー、ライト君の学園がお休みの日でないと、冒険者活動できませんもんねー」
「そゆこと」
「でも、ライト君も偉いわね!十歳になったばかりなのに、学業と冒険者の両方を頑張るなんてすごいわ!」
「ぃゃぁ、それほどでも……」
あっという間にモルガーナ達に取り囲まれたライトとレオニス。
一方でクルトとガロンがフェリックスにお叱りを受けている。
「お前ら、俺より後に来てちゃいかんだろ。今日は誰が寝坊した?」
「ガロンです……」
「ったく……朝イチで来ねぇと良い依頼なんてすーぐなくなっちまうって、いっつも言ってるだろ? まぁ、今日はレオニス達も来てるから、俺がお前らの分も含めて先に三件確保しといたけどよ」
「ありがとうございます!」
「明日はちゃんと早起きしろよー」
「「はいッ!」」
フェリックスに小言をもらいながら、深々と頭を下げるクルトとガロン。
彼らの会話からするに、いつもフェリックスがクルト達の面倒を見ているようだ。
フェリックスも何だかんだ言いつつも、なかなかどうして面倒見の良い先輩である。
「あ、マリノちゃん、この三件の受付をよろしく頼む。こっちが龍虎双星で、これとこれは俺名義ね」
「分かりましたぁー。…………はい、お気をつけてくださいねぇー」
フェリックスが確保していた三件の依頼書をマリノに渡し、依頼受付を済ませる。
依頼受付が受理されて、ビナー支部の判子が捺印された依頼書をフェリックスが受け取り、そのうちの一枚をクルトに渡した。
「さ、そしたら今日も皆で薬草採取に励むとするか」
「はーい!」
「おう。フェリックス、クルト、案内よろしくな」
「お任せください!」
「ライト君のことは、私達が守るからね!」
「ありがとうございます!よろしくお願いしますね!」
ゲスト二人がいることで、龍虎双星の面々が張り切っている。
彼らはまだまだ若手の部類なので、ライトのような年下の後輩というのは未だ少ないのだ。
こうしてライト達は冒険者ギルドビナー支部を出て、薬草採取に出かけていった。
うひーん、昨日22時に寝落ちして起きたら朝でしたー><
早くも32時投稿に陥るとか、ダメ人間過ぎる_| ̄|●
ええ、そんなダメ作者のダメダメ懺悔なんてどーでもいいんですよ。ぃゃ、ホントは良くないけど。
ライトの三年生二学期入りしてから初の土日お出かけの薬草採取の下準備です。
その前に、新しい街における受付嬢の紹介まで必ず入るのはもはや拙作のお約束。
マリア十二姉妹が出てきたのは、これで三人目ですねー(゜ω゜)
クレア十二姉妹はあと一人でコンプリート、マリア十二姉妹も新しい街が登場する度に出てくるはず。
人族の美人さんが増えるのはいいことだ!゜.+(・∀・)+.゜
……って、何故か彼女達には全く恋愛要素ないんですけど(´^ω^`)
 




