第1591話 『呪われた聖廟』での魔物狩り
ライトが冒険者登録し、ディーノ出張所でクレアの『冒険者のイロハ講座』を一週間みっちりこなした翌日。
ライトはミーナとともに、センチネルの街の沖合にある孤島にいた。
その孤島の名はブリーキー島。
BCOの冒険ストーリーに出てくる特殊フィールドの一つである。
『相変わらず不気味な島ですね……』
「まぁねー。ここは『呪われた聖廟』なんて名前がつけられてるくらいだからねー」
『一体どんな呪いがかけられているんでしょうね?』
「さぁ……そこら辺はBCOであまり詳しく語られていないから、ぼくにもよく分かんないんだよね」
孤島のド真ん中に建つ不気味な建物、『呪われた聖廟』の前にライトとミーナが立ちながら聖廟を見上げる。
ライト達がこの孤島にある『呪われた聖廟』を前回訪れたのは四月初旬、春休み最後の日だった。
その時に発覚した思わぬ難題、サイサクス世界とBCO由来の異界における時間差問題。
ライトはこれを解決するためにヴァレリアの力を借りたのだが、そのために四ヶ月を要した。
そして問題解決した今、ようやくライトは『呪われた聖廟』に真正面から挑む時が来たのである。
二人の目の前に建つ聖廟は、静けさに包まれつつも悍ましさを含む異様な空気が強く感じられる。
何しろ建物の中に充満している赤黒いオーラが、聖廟の外にまで垂れ流し状態で霧散しているのだ。
それはさながらお化け屋敷か心霊スポットのような、如何にもおどろおどろしい雰囲気に包まれていた。
『ぅぅぅ……主様、本当に大丈夫なんですか?』
「正直なところ、ぼくだって怖いけどさ……でも、こないだも入ったし大丈夫!それに、クエストイベントで必要な神威鋼を入手するには、ここで魔物狩りをしなくちゃならないんだ!」
青褪めた顔で怯え震え上がるミーナに、ライトも若干本音を漏らしつつも懸命に己を鼓舞する。
本当ならライトだって、できればこんな怖いところにわざわざ飛び込みたくはない。
だが、ここにはBCO由来の固有魔物達がいて、ライトはそれらの魔物達から素材を採る必要がある。
ライトが長年取り組んでいるクエストイベントを進めるためには、嫌でもここで素材を調達してこなければならない。
ちなみに聖廟に入るのはライトのみ。
ミーナは今回も聖廟の外での留守番役である。
本当はライト一人で聖廟に突入してもいいのだが、万が一に備えてミーナにも来てもらうことにしたのだ。
ライトは徐にマイページを開き、装備欄を開いてガンメタルソードを装備した。
最強の得物ガンメタルソードを握りしめ、ミーナに話しかける。
「ミーナ、今からぼくはこの聖廟に入って十分間魔物狩りをするつもり。聖廟の中での十分間は、こっちの世界でたったの十秒ってのは覚えてる?」
「もちろんです!」
「OK。そしたら、ぼくが聖廟に入ってから十秒後にはこっちに戻ってくることになるんだけど。もし万が一、ぼくが一分以上経っても戻ってこなかったら、その時は誰かに助けを呼んでね」
「分かりました……というか、もしそうなった場合、私は一体誰に助けを求めれば良いのでしょうか?」
「そうだなぁ……とりあえず、空に向かってヴァレリアさんの名前を呼んでみる、とか?」
不安そうに尋ねるミーナに、ライトが適当なアドバイスをする。
実際に万が一のことが起きた場合、ミーナが取れる手段は少ない。
しかし、もしライトが聖廟に乗り込んで不測の事態に陥り行方不明になった場合のことを考えると、単身で挑むよりもミーナにもついて来てもらった方が何かと安心できる―――ライトはそう考えたのだ。
不安そうな眼差しでライトを見つめるミーナ。
主と慕う者が、供も連れずに得体の知れない異空間に突入するのだ。不安になるな、と言う方が無理である。
しかし、ライトは努めて明るい声でミーナを励ます。
「ミーナ、そんなに心配しないで。ぼくはすぐに帰ってくるから」
『主様のご無事を……このミーナ、心より祈念しております!』
「ありがと。じゃ、いってくるね!」
ミーナが両手を胸の前で組み、祈るようにライトを見送る。
そうしてライトは聖廟の中に入り、異空間に溶け込むように消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『呪われた聖廟』内部に入ったライト。
今回は魔物狩りをガンガンこなすため、魔物除けの呪符や隠密スキルなどは一切使用していない。
またミーナに約束した通り、十分経過したら即脱出するために首に懐中時計をかけていつでも時間確認できるようにしてある。
【異界化】を引き起こしている聖廟内は、壁も天井も柱も全て赤黒く染まり、ところどころ泡立っている箇所がドクン、ドクン……と脈打つように蠢いている。
まるで臓物の中にいるような、兎にも角にも気持ち悪い場所だ。
そしてライトが聖廟に入った途端、クレイジーソウルやエヴィルマスクなどの聖廟固有魔物がどこからともなく涌いて出てきた。
ライトに近寄る魔物達は、皆漏れなく目をギラつかせている。
どいつもこいつも殺る気満々といった感じだ。
しかし、それらの殺気にライトが怯むことはない。
むしろライトの方も殺る気満々で魔物達を睨みつける。
「やっと……やーっとここまで来たぞ……ここまで来るのに、ホンット長かった……」
「さぁ、行くぞ!」
気合いの入った掛け声とともに、ライトは魔物達が待ち受ける群れの中に突入していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ライトが聖廟の中に突入してから、十秒と少しが経過した頃。
ハラハラとしながら主の帰りを待つミーナの前に、ライトが無事戻ってきた。
『あッ、ご主人様!おかえりなさいませーーー!』
「ただいま、ミーナ。結構待たせちゃった?」
『いいえ!お約束の時間通りですー!』
「そっか、それなら良かった。……あ、ミーナ、ちょっと待って!」
『!?!?!?』
無事帰還したライトに抱きつくべく、両手を上げてすっ飛んできたミーナにライトが待ったをかける。
主人からの突然の待て!に、ミーナが急ブレーキをかけてピタッ!と止まる。
ライトの手前30cmで止められた理由。それはライトの身体が魔物の返り血やら体液でベッタベタに汚れていたからだ。
青やら紫やらどす黒いピンク色やら、何色ものペンキをぶち撒けたような壮絶な有り様のライト。
こんな状態のライトに抱きついたら、ミーナまでドロンドロンのベッタベタに汚れてしまう。
ライトはそれを懸念したのだ。
そんな使い魔思いの主人に、ミーナがニコニコ笑顔でそっと抱きつく。
『ご主人様は、本当にお優しいですね。ミーナはそんなご主人様が、とーっても大好きです!』
「ああッ、ミーナ、ダメだってば!ミーナの身体が汚れちゃうよ!」
『このくらいへっちゃらです。この程度の汚れなんて、後で浄化魔法をかければいいんですから』
「え"ッ!? ミーナ、浄化魔法を使えるの!?」
『はい♪ レベルアップした時に、力天使固有スキルが発動したんですぅー♪』
「そ、そうなんだ……すごいね……」
ライトの制止を振り切って、無事帰還した主人を思いっきり抱きしめるミーナ。
彼女が一切躊躇することなくドロンドロンのライトに抱きつけるのは、先日発動したという浄化スキルのおかげらしい。
ミーナの話によると、レベル30になった時に【清潔は敬神に通ず】というスキルを得たのだという。
スキル名は諺っぽいが、要は自他両方に浄化効果をもたらすスキルである。
あー……そういや使い魔って、レベルアップすると何らかのスキルを覚えるもんだったよな……使い魔の種類が多過ぎて、何がどんなスキルを覚えるかまではよく覚えてねぇけど。
ミーナの力天使の場合は、第一段階で浄化スキルを得たのかー。羨ましいなー!
ライトはそんなことを思いながら、ギュッと抱きしめてくるミーナの身体をライトも抱きしめ返す。
ライトの生存を思う存分喜んだ後、ミーナがライトと自分に浄化スキルをかけた。
あれ程ベッタベタのドロンドロンだったライトの汚れが、ミーナの浄化スキル一発で欠片も残らずきれいさっぱりとなった。
その効果の凄まじさに、ライトがびっくり仰天している。
「うわー……ミーナの浄化スキル、すごいね!」
『うふふ、ようやくご主人様のお役に立てて嬉しいですぅー♪』
「いつもありがとうね、ミーナ。本当に助かってるよ」
『ご主人様のために働くのは、私達使い魔の本分であり喜びですから!ご主人様に褒めていただけることこそが、私達にとって一番のご褒美なのです!』
ミーナの働きを大絶賛するライトに、花咲くような笑顔で喜ぶミーナ。
彼女は使い魔という立場故に『呪われた聖廟』の中には入れなくて、とても悔しい思いをしていた。
しかし、その分ライトの帰還後に浄化スキルで役立てたことがとても嬉しいようだ。
「さ、そしたら転職神殿に戻ろうか」
『はい!』
ライトの念願だった『呪われた聖廟』での魔物狩りを終えて、二人は聖廟近くに設置してある瞬間移動用の魔法陣で転職神殿に帰っていった。
うおーん、今日は外出先での投稿ですぅー><
後書きはまた後ほど……




