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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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第1590話 ラウルの長閑な一日

 ライトとレオニスが二人して冒険者ギルドディーノ出張所に通い、『冒険者のイロハ講座』を懸命に履修していた頃。

 ラウルはいつも以上にのんびり気ままな生活を楽しんでいた。


 朝は早くからカタポレンの畑で野菜や果物を収穫し、昼まで殻の焼却や緑肥の処理など畑の手入れに勤しむ。

 午後はラグナロッツァの屋敷に戻り、ガラス温室の菜園の手入れや食材の下拵えやスイーツ作りなど、ひたすら料理に打ち込む。

 時折ヨンマルシェ市場に買い出しに出かけたり、本当にのびのびと暮らすラウル。


 そんなある日のこと。

 ラウルは殻処理依頼をこなすべく、エンデアンに向かった。

 この日の行き先にエンデアンを選んだのは、ライトから『もしエンデアンにお出かけしたら、イヴリンちゃんのおばあちゃんのお店にも寄っていってあげてね』と頼まれていたからだ。


 まずは冒険者ギルドのラグナロッツァ総本部に行き、転移門を利用してエンデアンに移動したラウル。

 時刻は午前十時、ひとまずエンデアンの殻処理依頼を受けるべくラウルは受付窓口に向かった。


「よ、クレエさん、久しぶり」

「ンまぁぁぁぁ、殻処理貴公子様!本日も凛々しいご尊顔を拝謁できて、嬉しゅうございますぅー!……って、今日はお一人でお越しになられたのですか?」

「ああ。うちの小さなご主人様が、先日ようやく念願の冒険者登録を果たしてな。大きなご主人様とともに、当分はディーノ出張所?ってところで毎日冒険者講座を受けてる最中なんだ」

「まぁまぁ、ライト君がとうとう冒険者になられたのですね!? それは実に目出度いことですぅー!」


 今は夏休み中だというのに、ライトがついてきておらずラウル単身でエンデアンに来たことを不思議に思ったクレエ。

 しかし、その理由を聞けば納得だ。

 ライトの冒険者登録を知ったクレエ、花咲くような笑顔で我が事のように喜んでくれている。


「そんな訳で、今日は俺一人でここに来たんだ。いつも通り、殻処理依頼を見繕ってくれ。今日は時間に余裕があるから、いくつでも受けるぞ」

「ホントですか!? 今すぐ該当案件を集めてきますので、少々お待ちくださいませぇー!」


 ラウルの申し出に、クレエがガバッ!と立ち上がり、バビューン!と一目散に依頼掲示板に向かって駆け出していく。

 そうして一分もしないうちに、クレエが受付窓口に戻ってきた。

 手に持った依頼書の束、二十枚以上はあるそれらは全てジャイアントホタテの殻処理依頼。

 それをクレエがシュババババ!と目にも留まらぬ速さで並べ替えていく。

 さすがはクレア十二姉妹の次女クレエ、今日も何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!を遺憾なく発揮しているようで何よりである。


「では、こちらの案件をお願いいたしますぅー。回る順番はラウルさんにお任せいたしますので、お好きなようにこなしていただければ幸いですぅー」

「了解。海鮮市場にも寄り道していくつもりだから、多少時間がかかるとは思うが夕方までには戻る」

「分かりましたぁー。お気をつけていってらっしゃいませぇー♪」


 クレエが差し出した依頼書の束を、ラウルが事も無げに涼しい顔で受け取る。

 これだけの仕事の山を、顔色一つ変えずに引き受けるラウルの何と頼もしいことよ。

 超ご機嫌なクレエに見送られながら、ラウルは冒険者ギルドエンデアン支部を後にした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 エンデアン支部を出た後、ラウルは三つ程案件をこなしてから海鮮市場に立ち寄った。

 たくさんの人々が行き交う市場の中を、ラウルは泳ぐようにスイスイと歩き回る。


 ラウルはエンデアンで仕事をする度に、必ず海鮮市場にも寄っていくので既に常連客として認識されている。

 そのため行く先々で「お、ラウルさん、久しぶり!」「うちにも寄っていっておくれよ!」「今日はすっげー大ぶりのジャイアントホタテが入ってるぜ!」等々歓迎の声をかけられては、その全てに応じて海産物を購入している。


 そうして辿り着いたイヴリンの祖母の店。

 そこには可愛らしい声で売り子を務めるイヴリンの姿があった。


「今日のオススメは、マグロとサーモン!とびっきり新鮮なマグロ丼やサーモン丼ができるよー!」

「よ、イヴリンちゃん」

「……あッ、ラウルさん!来てくれたんだ、嬉しいー!」


 ラウルに声をかけられたイヴリン、思いがけない来客の登場に顔を綻ばせる。

 そしてラウルのもとにパタパタと駆け寄り、歓迎の意を示した。


「ラウルさん、いらっしゃい!」

「今日もおばあちゃんのお店の手伝いをしてて、イヴリンちゃんは偉いな」

「エヘヘ、ラウルさんに褒められちゃった!でも、明後日にはラグナロッツァに帰らなきゃならないから、こうしておばあちゃんのお店のお手伝いができるのは、明日までなんだけどね!」


 健気なイヴリンに、ラウルも思わずイヴリンの頭を優しく撫でる。

 ラウルは雇用主(レオニス)のおかげで、転移門を利用して各都市間を瞬時に行き来できるが、他の大多数はそうではない。

 特に平民は馬車での移動が基本で、他の街への移動は何日もかけて行わなければならないのである。


 するとここで、イヴリンの祖母が店の奥から出てきた。

 どうやら二人の会話を聞きつけて、ラウルの来店を知ったようだ。


「あらまぁ、ラウルさん、お久しぶりねぇ」

「おう、ペギーさん、久しぶり。元気そうで何よりだ」

「うふふ、男前なラウルさんの顔を見ればね、誰だって元気になるよ」

「お褒めに与り光栄だ」


 ニコニコ笑顔でラウルに挨拶する祖母と、祖母を名前で呼ぶラウルを見てイヴリンが仰天している。


「え、ちょ、何!? おばあちゃん、いつの間にラウルさんとそんなに仲良しになったの!?」

「だってラウルさんは、ここに来る度にたくさん買い物をしてくれるもの。うちだけじゃなくて、他の店でも同じようにたくさん買っていってくれるから、今じゃラウルさんはこの海鮮市場で一番の人気者さ」

「知らなかったー……」


 いつになくご機嫌で話す祖母ペギーに、イヴリンが半ば脱力している。

 一方でラウルは、早速ペギーの店での買い物を始めた。


「ペギーさん、今日のオススメは何だ?」

「今日は特にマグロとサーモンだね、うちのイヴリンも超オススメの逸品だよ。ブルロブとプチクラも今が旬で美味しいよ」

「じゃあ、そこら辺を全部いただこう」

「毎度ありー♪」


 オススメの品を全部購入していくラウルに、ペギーが破顔しつつ計算を始める。

 そろばんを弾きつつ、イヴリンに「イヴリン、マグロとサーモンとブルロブとプチクラ、全部の数を数えてからラウルさんにお渡ししてやってー」と言い、イヴリンも「はーい!」と元気よく応えている。


 ちなみにブルロブとは『ブルーロブスター』、プチクラとは『プチクラーケン』、どちらもエンデアンの海で捕れる魚介類である。

 ブルーロブスターは大型の海老で、大きなものは体長100cmを超える。

 味はもちろん海老そのもので、濃厚な旨味が堪能できる。


 一方のプチクラーケンは、これまた言葉通りでクラーケンの稚魚を指す。

 体長50cm以下のものを稚魚と定義していて、それ以上の大きなサイズになると呼称が変わる。

 1メートルまでは『ミニクラーケン』、3メートルまでは『スモールクラーケン』、5メートル未満が『リトルクラーケン』等々、発育状態によって事細かに決められているらしい。


 イヴリンが魚介類の品数を数え、ペギーに各品の総数を伝えてからラウルに渡す。

 ラウルとイヴリンがせっせと空間魔法陣にマグロやサーモンを仕舞う間に、ペギーが代金の総額を計算してラウルに伝えた。


「ラウルさん、マグロが10キロで10000G、サーモンが15キロで12000G、ブルロブ15尾3750G、プチクラ30杯2400G。占めて28150G、端数はオマケして28000Gでどうだい?」

「ありがとう、それで頼む」

「毎度ありー♪ オマケのオマケで、干し貝ひももつけとくねー」

「おお、そりゃありがたい」


 サクサクと進む商談に、ラウルが早速財布を出してペギーに金貨二枚と大銀貨八枚を渡す。

 日本円にして総額28万円の爆買いだが、ラウルにとっては日常的な買い物のひとコマに過ぎない。


 ラウルが代金をペギーに支払った後も、イヴリンがせっせとラウルの空間魔法陣に品物を入れ続ける。

 そんな働き者のイヴリンを手伝うべく、ラウルもいっしょにプチクラを放り込みながら話しかける。


「イヴリンちゃん、手間かけさせてすまんな」

「そんなことないよ!おばあちゃんのお店でたくさん買ってくれて、すっごく嬉しい!ラウルさん、ありがとうね!」

「どういたしまして。つーか、さっきから気になってたんだが……イヴリンちゃんのそのエプロン、もしかして……」

「あ、コレ? コレはねぇ、エンデアンの新しいキャラクターのデッちゃんよ!」

「だよなー……」


 ラウルが先程から気になっていたのは、イヴリンのエプロンの胸元。

 そこには通称デッちゃん(正式名称:ディープシーサーペント)のデフォルメ顔のアップリケがババーン!と縫い付けられていた。


 冒険者ギルドエンデアン支部を出た後、ラウルは行く先々でこのデッちゃんの絵や置物っぽいものを幾度となく見かけていた。

 剥き出しの歯でニヨニヨと笑うディープシーサーペント、その特徴的な笑顔をこれでもか!と的確に捉えたデフォルメ絵。

 好みは分かれそうだが、ラウルの個人的な感想としては『おお、結構可愛いじゃねぇか』と好印象だ。


 このデッちゃんについて、イヴリンが解説を始めた。


「デッちゃんってのはね、ずーっとこのエンデアンの敵だったのよ。でも、最近になってこのデッちゃんが実は蛇龍神?っていう、何かとても偉い神様だってことが分かったんだって。ね、おばあちゃん?」

「ああ……あの海蛇が神様だなんて、私らには未だに信じられないが……お上がそう言うんだから、仕方がない。それに最近はあの海蛇も少しだけおとなしくなったのか、やたらと襲ってくることもなくなってきたしね」


 笑顔で解説するイヴリンとは対照的に、苦虫を噛み潰したような渋い顔のペギー。

 ディープシーサーペントは、エンデアンにとって長年に渡り不倶戴天の怨敵だった。

 その戦いの歴史は、年長者であればある程記憶に深く刻み込まれている。

 故にペギーがデッちゃんのマスコットキャラクター扱いを苦々しく思うのも致し方ない。


 しかし、強大だった敵が敵でなくなるのは良いことだ。

 これ以上漁場を荒らされなくなるし、港や港近くの建物を破壊されることもない。

 ディープシーサーペントにとっては、ただ単に興が乗ってちょっとだけ上陸したつもりでも、人族側にとっては甚大な被害で死活問題に即繋がる。

 それが一切なくなれば、港湾都市エンデアンは更なる発展を遂げること間違いなしなのだから。


 エンデアンにおける深刻な厄災、ディープシーサーペント問題。

 これを平和的に解決し、なおかつエンデアンの住民達にもディープシーサーペントという存在を好意的に受け入れてもらうための手段。それこそが、ディープシーサーペント=デッちゃんというマスコットキャラクター化である。


 ちなみにこのご当地キャラ計画、冒険者ギルドエンデアン支部が主体となって推進しているらしい。

 しかもクレエに『デッちゃん専属親善大使』という新たな役職?が与えられて、ディープシーサーペント問題で悩む各地でPR活動まで行っているという。


 普段の受付窓口業務に加え、PR活動担当まで任されるとは。かなり大変そうだが、当人曰く「別途でお手当がちゃんと出ているので、問題ナッシングですぅー」とのこと。

 別途で出ているというお手当がいくらなのかは分からないが、ディープシーサーペントとの和睦だけでなく給料も上がって万々歳!といったところか。


 平和を手に入れつつあるエンデアン。

 人族の生命や生活を脅かす脅威でしかなかったディープシーサーペントが、今はキモ可愛らしいご当地キャラに変貌している。

 そんな長閑な光景を、ラウルは好ましく思いながら見守っていた。

 うひょん、お休み後二日目にして早くも朝投稿に逆戻り><

 最近作者の文章出力が目に見えて衰えている気がするー><


 作者が己の老化に苦戦する中、今話は久しぶりのラウル主役の回です。

 ラウルが昨夏にエンデアンのイヴリンの祖母の店を訪れたのは、第677話のこと。

 それから今回の再訪まで、900話ちょいが経ったのかー(゜ω゜)

 リアル時間にして2年と8ヶ月、本当にあっという間な気がしますね( ´ω` )

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