第1577話 主役達への贈り物・その一
ライトとユグドラツィの誕生日パーティーは、その後も和やかな空気の中続いた。
時折振る舞われるラウル特製スイーツが特に大人気で、新しい皿が追加で出される度に歓声が上がる。
「おお、ラウル先生のアップルパイではないか!うちの婆さんもこれが大好物でのぅ、料理教室で習って以来頻繁に作ってはご近所にも振る舞ってて大好評なのだ」
「確かにルネ婆様のアップルパイは絶品で、我が里一番と言っても過言ではないな」
『うわぁー……オーガさん達のためのアップルパイだから、すっごく大きいねー』
「あの一個で、わしらナヌスの住む家の一部屋分はありそうだのぅ……」
ラキ達オーガ向けに作られた巨大なアップルパイに、ハドリーやナヌス達が目を丸くして驚いている。
ハドリーやナヌスとオーガの体格差は十倍近くにも及ぶので、パーティーに出す食べ物も全部サイズが違うのだ。
そしてもちろんハドリーやナヌス達用に作られたスイーツもある。
親指の爪サイズのゼリーや水羊羹、わらび餅などがそれに当たる。
おもちゃのような小さなサイズのカップで作った涼菓は、まさしく小人用にぴったり。
それをナヌス達の前にズラリと並べると、ハドリー達がわらわらと集まってきた。
『わぁー、何かすっごく良いニオイがするぅー』
「おお、ラウル殿、我らのためにお気遣いいただき感謝する」
『ねぇねぇ、これ、僕達も食べていーい?』
「もちろんだとも。ハドリーの皆も全員食べられるよう、たくさん用意したから好きなだけ食べてくれ」
『『『わーい♪』』』
ラウルの計らいに、ハドリー達が全員両手を上げて大喜びしている。
ナヌスサイズの食器類は、ラウルがナヌス達に頼んで手に入れたものだ。
ラウルは去年の暮れから、ナヌス達に結界魔法を習うために何度も彼らの里に足を運び続けた。
というのも、ライトがナヌスの結界魔法をカタポレンの畑の温室栽培に応用し始めたのを見たのがきっかけだった。
それ以降ラウルはナヌス達とも懇意になり、いつか彼らに料理を振る舞う時のために食器類を譲ってもらっていたのである。
「はぁー、ラウル殿の作る甘味は相変わらず美味よのぅ」
「全く全く。ラキ殿達のオーガの里のように、我が里でもラウル殿に料理教室を開催していただきたいもんじゃ」
「惜しむらくは、ラウル殿プーリア族や人族と我らでは食材や調理器具の大きさが全く違うことよな」
ラウル特製珈琲ゼリーや水羊羹に舌鼓を打つナヌスの重鎮達。
その美味しさに、ナヌスの里でもラウルに料理教室を開いてほしい!と割と本気で考えているようだ。
するとここで、珈琲ゼリーを食べ終えたヴィヒトがはたとした顔で口を開いた。
「……というか、ツィちゃん様とライト殿の誕生日を祝う会だというのに、我らがもてなされてばかりではいかん。祝いの品をお渡しせねばな」
「おお、そうじゃの!ほれ、パウル、あれを出さんかい」
「分かっとるわ、ちと待てい」
ヴィヒトの言葉に追随し、パウルが持ってきていた包みを何やらもそもそと開く。
包みの中から出てきたのは、たくさんのブレスレットだった。
「まずはツィちゃん様、貴女様への贈り物からお渡しさせていただきたい」
「こちらは、ツィちゃん様の愛し子にして新たな家族であられるハドリー達用の腕輪ですじゃ」
「悪意から身を守る防御結界付きですぞ!」
『まぁ、何て素敵な……うちの子達のために、こんなにたくさんの腕輪を作ってくれたなんて……感激です』
パウルが出してきたたくさんのブレスレットに、さっそくハドリー達が群がる。
『これ、僕達にくれるの?』
「そうじゃよ」
『とっても可愛い腕輪ね!』
「見分けがつくように、色や形を微妙に変えておる。どれでも好きなものを選ぶといい」
『ありがとう!私はコレ!』
『ボクはコレ!』
「これこれ、奪い合いや喧嘩はせぬようにな」
『『『はーい!』』』
二十個以上ある腕輪を、十六体のハドリー達がそれぞれの好みで選んで取っていく。
ハドリーの人数より多めに用意したのは、好みの色柄を選ばせてやりたかったため。
余りはナヌスの里に持ち帰って他の者に使わせるから、全く問題ない。
大喜びで腕輪を選び、早速己の腕に着けるハドリー達。
自分が選んだ腕輪を見せ合ったり、喜びの余りライトやレオニス、クロエといった周囲にいる者達にまで『見て見てー♪』と見せびらかすハドリーもいる。
新しいアクセサリーを手に入れて、皆本当に嬉しそうだ。
『ナヌスの皆さん、本当にありがとうございます』
「いやいや、礼には及びませぬぞ。ツィちゃん様の誕生日だというに、貴女様への贈り物ではなくて逆に申し訳ない」
『そんなことはありません。まだ幼く非力なこの子達の身を守ってくれる、これ以上ありがたいことはありません』
「ツィちゃん様にも喜んでいただけたなら、何よりですじゃ」
ユグドラツィの礼の言葉に、恐縮しながらもにこやかな笑顔で応えるヴィヒト達。
ユグドラツィにはもう強固な防御結界を作ってあるし、他にこれといったプレゼントを思いつかなかったらしい。
しかし、ユグドラツィにとってハドリー達の護身用アイテムは本当にありがたいものだ。
今はまだユグドラツィの傍にくっついて離れないハドリー達だが、この先成長して大きくなれば結界の外に出ていくこともあるだろう。
その時に彼ら彼女らの身を守るアイテムがあれば、ユグドラツィも安心できるというものである。
そうしてユグドラツィへの贈り物を渡し終えたヴィヒトが、今度はライトに向かって声をかけた。
「さて、次はライト殿への贈り物だが……ライト殿にはこちらを進呈しよう」
「これは……何ですか?」
ヴィヒトが腰に着けていた小袋から取り出したもの。
それは何かの木の実のようだが、表面は金色に光っていて金属でできているようにも見える。
この謎のアイテムに、真っ先に反応したのはレオニスだった。
「これ、もしかして……身代わりの実か?」
「おお、さすがは森の番人殿だ。これの正体を一目で看破するとは!」
「いや何、俺も似たようなもんを持ってるからな。と言っても、人族の間で流通している身代わりの実は黒っぽい色で、こんなに綺麗な金色じゃないがな」
ヴィヒトが差し出した謎アイテム。
その正体が身代わりの実であることを、レオニスは即座に見抜いた。
そしてこのやり取りを聞いたライトが、びっくりしながら声を上げた。
「え"ッ!? これ、身代わりの実なの!?」
「そうそう。そういやお前には、身代わりの実を見せたことはなかったっけな……ほれ、これだ」
「こ、これが、身代わりの実……」
レオニスが空間魔法陣を開き、自身が持っている身代わりの実のストックを一つ取り出してライトに見せた。
それは小さな胡桃のような、手のひらにすっぽりと収まるサイズ。小さな木の実の形をしていて表面はゴツゴツとした質感で、でも色は黒っぽい金属質。
ライトが知る同名のBCOアイテム『身代わりの実』とは少々外見が違っていた。
『こ、これがサイサクス世界の身代わりの実なのか……俺が今まで見てきた身代わりの実とは見た目が違うから、すぐには分からんかった……』
レオニスの手のひらの上にある身代わりの実を、ライトは繁繁と凝視しながら内心でも驚嘆している。
ライトはコヨルシャウキとのビースリー戦で、バトル勝利の報酬として身代わりの実を三個獲得したことがある。
その時に見た身代わりの実は、表面がツルツルとしていて外見が異なるため、ヴィヒトやレオニスが見せてくれたそれが身代わりの実だとはすぐには分からなかったのだ。
そしてレオニスの手のひらの上の身代わりの実を、ヴィヒトやパウル、ハンスもまた繁繁と眺める。
「ほう、これが人族が持つ身代わりの実か……」
「確かに我らのものとよく似ておるの。もっとも、大きさはかなり異なるが」
「というか、人族も身代わりの実を持っているのか……これは我らが秘伝の品だというに、やはり人族の叡智は侮れんのぅ」
レオニスが持つ身代わりの実を見ながら、ブツブツと呟くヴィヒト達。
とっておきの品を用意したのに、それと同類の品が人族の中にも存在するとは全く予想だにしなかったのだ。
「ライト殿、この実にはどんなに強力な即死攻撃であろうと一回だけ回避する機能がある。冒険者となったライト殿の身を、必ずや助けてくれる日が来るであろう」
「こんな貴重なものをいただけるなんて……ありがとうございます!」
「いやいや、そうは言っても一回こっきりの使い捨てじゃからな? 冒険の旅に出られる際には、くれぐれも用心召されよ」
「はい!なるべく危険な目に合わないよう努めます!」
ヴィヒトがライトにナヌス特製身代わりの実を手渡す。
小指の爪のサイズ程のそれは、確かに今レオニスの手のひらにある身代わりの実の極小バージョンだ。
これ一つで全ての危機を排除できる訳ではないが、それでも生命の危機に瀕した際には役に立つであろう。
ライトの身を、心より案じて譲ってくれたであろう貴重な品。
そしてそれを惜しみなくプレゼントしてくれたナヌス達の気持ちに、ライトは感謝の気持ちでいっぱいだった。
皆様おはようございます。今日も33時投稿ですぅ><
そんなだらしない作者の言い訳なんざ横に置いといてですね。
ライト&ユグドラツィの誕生日パーティーも、そろそろ佳境にはいってきました。
誕生日パーティーなんだから、プレゼントもちゃんと用意しないとね!(`・ω・´)
……って、これ、全部出すのに何話かかるんだろう?( ̄ω ̄)
今回はたくさんのご近所さんを集めちゃったんで、三回か四回はかかりそう><
でもねー、せっかくの誕生日パーティーですからねー、プレゼントだってちゃんと欲しいよねー。
ライトの二回目の夏休みが始まってから、もうとっくに100話越してますが。ここまで来たら、二話三話増えたところで大差ないわよね!(º∀º) ←開き直り




