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第1572話 ヴァレリアの爆弾発言

 転職神殿での楽しい時間はあっという間に過ぎていき、夏の日差しが真上に迫っていた。

 ライトがふとそのことに気づき、懐中時計を取り出して時間を確認する。すると時計の針は、十一時半を指していた。


 ライトはこの後、ユグドラツィのところでも正午から誕生日パーティーが催されるため、その前には帰らなければならない。

 そのことをミーア達に告げる。


「ぼく、もうそろそろ帰らなきゃ」

『まぁ、もうそんな時間なのですね』

『本当に、今日はいつにも増して時間が過ぎるのが早過ぎですー!』

『今日はパパ様と過ごすことができて、とっても楽しかったです!』

『パパ、また遊びに来てくださいね……』


 ライトの帰宅に名残を惜しむミーア達が、次々とライトを取り囲み声をかける。

 そうした温かい声の中、ヴァレリアがとんでもないことを言い出した。


「ライト君のお昼からの誕生日パーティー、私もついていっちゃおっかなー♪」

「え"ッ!? ちょ、待、ぃゃぃゃぃゃぃゃ、待ってください、向こうにはヴァレリアさんのことを知っている人なんていませんよ!?」

「ぃゃぃゃ、私と会ったことがある人はいるよ?」

「そそそそれは……」

「そ、ライト君の保護者君♪」


 いたずらっぽい笑顔で爆弾発言を投げつけるヴァレリアに、ライトが本気で大慌てしている。

 確かにレオニスとヴァレリアは会ったことがある。

 だがそれは、ビースリー勃発未遂事件の時のたった一度きり。

 間違っても互いに知り合いと呼べるような仲ではないし、むしろ誕生日パーティーにヴァレリアが押しかけたらレオニスの方が「何でこの魔女が来たんだ!?」と叫びながらパニックを起こしそうだ。


 そして、ライトはまだレオニス達にBCOの全容を明かしていない。

 このサイサクス世界は、ライトが遊んでいたBCOというゲームを元にして作られた世界なんだ―――こんな突拍子もないことを言ったところで、信じてもらえないだろう。


 いや、レオニス達ならライトの言うことを信じてくれるかもしれない。

 むしろ『ライトがそう言うなら、それは本当のことなんだろう』と受け止めてくれるだろう。

 だが、そうなったらそうなったで今度は別の問題が起こる。

 それは、埒内の者達であるレオニス達が受けるショックは如何ばかりか、ということだ。



『自分達が生きているこの世界は、誰かが遊ぶために作った戯れの世界を模したものだ』



 こんなことを聞かされたら、レオニス達だって絶対に良い気はしないはずだ。

 だってそうだろう、日々懸命に生きているこの世界がどこかも知らない別世界の遊戯の模倣だなんて言われたら―――

『それじゃ何か? 俺達は別の世界の模倣品、つまりは偽者みたいなもんだってのか?』

 と感じたり思ったりするに違いない。

 誰だって気分を害することはあっても、決して良い感情にはなり得ないだろう。


 真実は時として残酷だが、残酷な真実を知ることだけが絶対に正しいとはライトは思わない。

 例えそれが真実であろうとも、それを知った人達が嘆き悲しむのであれば、ライトは誰にも真実を明かさずに墓まで持っていくつもりだった。


「ヴァレリアさん……ぼく、まだレオ兄ちゃんにBCOのことを話していないんです……ぼくが勇者候補生だってことは、こないだのビースリー事件で知られちゃいましたけど……」

「おや、そうだったんだ? 私はてっきりもう全て話したかと思ってたけど」

「だって、ヴァレリアさんがレオ兄ちゃんに言ってくれたんですよね? ぼくが勇者候補生だということについて、自ら話すまでは聞かないようにって」

「うん。あの時のライト君は、きっとものすごく勇気を振り絞って向こうに渡ったんだろうってことは、私も分かってたしね」


 ライトがしょんぼりと俯きながら言い募る一方で、ヴァレリアは飄々とした様子で受け答えしている。

 そんな二人の様子に耐えかねたミーアが、ヴァレリアを窘めた。


『ヴァレリアさん、あまりライトさんをいじめないであげてください』

「ン? ミーアには私がライト君をいじめているように見えたのかい?」

『ええ。私の目には、ヴァレリアさんがライトさんを困らせているようにしか見えません』

「こりゃ手厳しいなぁ。これを機に、私もライト君の友達デビューしたかったんだけど」


 いつになく厳しい口調のミーアに、ヴァレリアが手のひらを上にして肩を竦めてみせる。

 ミーアは基本的にヴァレリアの言に従うが、その一方で勇者候補生であるライトのことも大事に思っている。

 例えそれがヴァレリアの軽い気持ちによる戯れであっても、ライトが困っているならライトを助けるべく手を差し伸べる―――それがミーアの決意であり、絶対に曲げられない方針となっていた。


「大好きなミーアにそう言われたら、ここは私が引っ込むしかないね。うん、ライト君の友達デビューはまた今度にしよう」

『ご理解いただけて感謝します』

「まぁね!ライト君の友達デビューは、何も今すぐじゃなくてもいいし。というか、この先いくらでもその機会はあると思うしね☆」


 ヴァレリアが折れることを認め、ミーアがその礼を言う。

 というか、ヴァレリアの言う『ライトの友達デビュー』とは一体何であろうか。

 その目的も動機もさっぱり分からないが、ヴァレリアはこれからも『ライトの友達デビュー』なる機会を虎視眈々と狙い続けるつもりのようだ。


『この先も機会を狙うのはよろしいですが、必ず事前にライトさんの承諾を得てからにしてくださいね? ライトさんに事前予告することなく、無断で強行してはいけませんよ?』

「分ぁーかってるってー!ヴァレリアさんがそんな無茶をする人だと思ってんの?」

『はい、思ってます』

「ミーアってば、しどい!」


 ヴァレリアに対して臆することなく、ガッツリと釘を刺すミーア。

 舌鋒鋭いミーアの言葉に、ヴァレリアがザクザクと刺されて凹んでいる。

 ヴァレリアが芝居がかったように、ョョョ……と悲しむフリをしつつ、すくっと席から立ち上がった。


「さて、そしたらヴァレリアさんもおうちに帰りますか。ライト君、今日も楽しいひと時をありがとうね!」

「ぁ、ぃぇ、どういたしまして……ぼくの友達デビュー?の件は、もう少し待ってくれると嬉しいんですが……」

「うんうん、ヴァレリアさんは気が長い方だからね、大丈夫。何十年でも何百年でも待つよー☆」

「何百年も経つ頃には、ぼくはとっくに死んでますって……」


 きゃらきゃらと笑いながら礼を言ったりボケをかますヴァレリアに、ライトは脱力するしかない。

 今回もライトはヴァレリアに振り回されっぱなしだ。

 しかし、こんな日があってもいいだろう。ヴァレリアさんだって、悪気があって無理難題を言ってる訳じゃないんだろうし……悪気、ないよね? ……多分??

 ヴァレリアの真意など理解できようはずもないライトは、内心で自問自答し続けている。


 そんなライトに、今度はミーナがおそるおそる声をかけた。


『あのー、主様……おうちに帰らなくて大丈夫、ですか?』

「……あッ!もう帰らないと時間がヤバい!ミーナ、教えてくれてありがとうね!」

『どういたしまして!』


 ミーナのおかげで、カタポレンの家に帰らなければならないことを思い出したライト。

 慌てながら席を立ち、椅子の下に置いてあったアイテムリュックを背負った。


「皆、片付けもしないで帰るけどごめんね!」

『大丈夫ですよ。ここは私達に任せて、ライトさんは早くにおうちに帰ってください』

「ミーアさん、ありがとうございます!ミーナもルディもレアも、今日は本当にありがとうね!」

『こちらこそ、今日は主様のお誕生日をお祝いすることができて嬉しかったです!』

『パパ様、来年も再来年も、その先もずーっとお誕生日をお祝いしましょうね!』

『私もまたパパに素敵なプレゼントができるよう、頑張って大きくなります!』


 ミーア達転職神殿の仲間達に、心から礼を言うライト。

 十歳の誕生日という記念すべきこの日に、レオニス達だけでなくミーア達とも過ごせたことはライトにとっても本当に嬉しかった。

 ルディの言う通り、来年も再来年も、ずーっと皆で誕生日のお祝いができたらいいな!とライトは思う。

 そしてライトはヴァレリアの前に立ち、ペコリと頭を下げながら礼を言う。


「ヴァレリアさんも、ぼくの誕生日に駆けつけてきてくれて本当にありがとうございました!」

「フフフ……ライト君、君は本当にお人好しだねぇ。私はライト君を困らせたばかりなのに」

「そんなの大丈夫ですよ。だってヴァレリアさんは、いつだってぼくのことを助けてくれてますもん!」


 これまたいたずらっぽく笑うヴァレリアに、顔を上げたライトが破顔しつつ応える。

 確かにさっきの爆弾発言には少々困ったが、それだけでヴァレリアを厭うことなどない。

 ヴァレリアは常にライトを助けてくれるし、BCOとサイサクス世界に関する知識を誰よりも持っていて頼りになる。

 ライトにとってヴァレリアとは、本当にありがたい存在なのだ。


「ヴァレリアさんがいなければ、ぼく一人でサイサクス世界の謎を明かすのなんて絶対に無理ですし。これから先も、何かとヴァレリアさんにも手間や迷惑をかけるかと思いますが……よろしくお願いします」

「そっかそっか、ライト君、君は自分のことをよく分かってるんだね。ならば私もここで誓おう。これからも勇者候補生を導く案内役を真摯に務める、とね」


 ライトの謙虚な態度に、ヴァレリアが微笑みながら右手を差し出す。

 それは、ヴァレリアからライトに握手を求める仕草。

 ライトはすぐに右手を出し、ヴァレリアと固い握手を交わした。


「さて、ライト君、本当にそろそろ帰らないとね。お昼からの二回目の誕生日パーティーに間に合わなくなるよ?」

「はい!ぼくはこれで失礼します。皆、またね!」


 ライトの帰宅を促すヴァレリアの言葉に、ライトが瞬間移動用の魔法陣の中に駆けていく。

 そしてすぐさまホログラムパネルを出して右手でピコピコと操作し、ミーア達に向けて左手を大きく振りながらカタポレンの家に帰っていった。

 ライトの誕生日パーティー in 転職神殿も、四話目にしてお開きの時がきました。

 そんな最後の回で、ヴァレリアさんのとんでも爆弾発言が炸裂のひと悶着。

 いやはや、爆弾投下されたライトは大慌てですよねぇ(´^ω^`)


 ヴァレリアさんが何故『ライトの友達デビュー』なんて言い出したのか、実は作者にもよく分かっていません。

 今日も今日とて作者コントローラーを所持している我が子達に、そりゃもう良いように操作されておりました(;A´^ω^`)

 多分ですが、ヴァレリアさんもきっと寂しかったんじゃないかな、と思うマリオネットな作者。

 未だに謎多き魔女ですが、家族構成は全く不明な上にライト以上にリア友少なそうですしおすし。


 あるいは出番が回ってくるのが他の子より少なめ&出番を作るの自体が難しいヴァレリアさんの『次の出番が来る時まで、私のことを忘れちゃダメだからね!』という強い主張が込められているのかも。

 ヴァレリアさん、大丈夫、そんな心配は不要だよ。

 ライトも言っていたように、拙作だってもはや君無しでは成り立たないからね!(`・ω・´) ←割と本気

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