第1568話 四時間半の余暇
冒険者新規登録を無事完了し、冒険者ギルドディーノ村出張所を後にしたライトとレオニス。
二人して全力で空を飛び続けて、約三十分ほどでカタポレンの家に帰ることができた。
カタポレンの家に戻ると、ラウルが慌てたように駆け寄って来た。
そのラウルの後を追うように、ラーデがふよふよと飛んできている。
「何だ、ご主人様達、もう帰ってきたのか?」
「おう、ただいまー」
「あ、ラウル、ただいまー!ほらほら、見てー!ぼくの冒険者ギルドカード!」
「おお、今日のうちにちゃんと登録できたんだな、おめでとう」
駆け寄ってきたラウルに、ライトが早速マントの内ポケットに入れてあったギルドカードを見せた。
ピッカピカの新しいギルドカードを得意げな顔で見せてくるライトに、ラウルも笑顔で祝福してくれた。
「ていうか、帰ってくるのが早過ぎやしないか? 確か冒険者登録した後に『冒険者のイロハ講座』を受けるんじゃなかったのか?」
「それがねー、クレアさんが『今日はライト君の誕生日なんだから、今日一日ゆっくりお過ごしください』って言ってくれたんだ。だから『冒険者のイロハ講座』は明日からなんだ」
「あー、そういうことか。粋な計らいをしてもらえて良かったな」
「うん!」
ライト達が早くに帰宅した理由を知り、ラウルがライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。
誕生日は親しい人達とともに祝うもの、という人族ならではの習慣をラウルも知っている。
クレアの温情により、今日だけは講座の受講を免除されたのだ、ということがラウルにも瞬時に理解できた。
「さて、そうなると俺ものんびりしちゃいられないな」
「今日はツィちゃんのところで、ぼくの誕生日パーティーをしてくれるんだよね?」
「ああ、もちろんその予定だ。ただし、ご主人様達の帰りがこんなに早いとは思ってなかったからな。早くても昼過ぎか、おやつの時間くらいになるだろうと考えてたんだ」
「だよねー。ぼくもそれくらいの時間になると思ってたもん」
口元に手を当てながら思案するラウル。
今の時刻は、午前の七時半を少し回ったところ。朝イチで冒険者登録に出かけたライト達が、まさかこんな早い時間に帰ってくるとは完全に予想外だった。
だからラウルは『ツィちゃんのところには、十時頃に行きゃいいだろ』と思いながら、まだ畑で収穫やら手入れやらをのんびりとしていたのだ。
「……よし、そしたらライトの誕生日パーティーは正午から始めることにしよう」
「お昼の十二時からってことだね、分かった!」
「そしたらご主人様は、俺といっしょにツィちゃんのところで誕生日パーティーの準備を手伝ってくれ」
「了解ー」
ラウルの提案に、ライトとレオニスが即座に快諾する。
今日のライトの誕生日パーティーは、ラウルが幹事を務めることになっている。
何故ならライトの誕生日には、夏生まれのユグドラツィの誕生日もともに祝うからだ。
ライトだけでなくユグドラツィの誕生日をも祝うとなれば、パーティーの幹事を担うのはラウルを置いて他にはいないのである。
「ラウル、ぼくにも何か手伝えることはある?」
「いや、ライトは今日の主役だ。だから、ライトはただ皆から祝ってもらうだけでいい」
「そっか……何か申し訳ない気もするけど、ここはお言葉に甘えさせてもらうね!」
「おう、今日はいくらでも甘えてくれていいぞ」
パーティーの手伝いを申し出たライトだが、ラウルにやんわりと断られてしまった。
確かにラウルの言う通りで、誕生日パーティーの主役であるライトが自分のパーティーの準備を手伝う必要などない。
「そしたらライトは、昼の十二時ちょうどにツィちゃんのところに来てくれ。それまで夏休みの宿題とか散歩とか、とにかくライトの好きなように自由に過ごしててくれ。いいか、絶対に正午より前に来るなよ? 早くに来られたら、こっちの予定が狂いかねんからな」
「うん、分かった!」
誕生日パーティーの主役であるライトに、正午ぴったりにパーティー会場であるユグドラツィのもとに来るようにラウルが言う。
くれぐれも約束の時間を守るよう、ラウルが念入りにライトに言い含めているのは、何かしらの意図があるのだろう。
例えばそれは会場の飾りつけだったり、あるいはプレゼントの用意だったり、ライトを喜ばせるような準備時間がそれなりに要る。
なのに、ライトがフライングで約束より早い時間に会場入りしたら、そうしたラウル達の努力や好意を無にしかねない。
それはライトにも分かるので、ラウルとの約束を絶対に守るつもりだ。
「じゃ、ご主人様とラーデは早速俺とツィちゃんのところに行くぞ」
「はいよー」
『うむ』
テキパキと取り仕切るラウルに、ラーデがラウルの背中に乗って負ぶさり、レオニスもまた素直に従う。
主人を扱き使う執事とか、本末転倒にも程がある。
しかし、この二人に関してはそんなの今に始まったことではないので、もはや誰もキニシナイ!のである。
「ライト、昼まで一人にしてすまんが、また後でな」
「ううん、大丈夫だよ。ぼくとツィちゃんの誕生日パーティー、楽しみにしてるね!」
「おう、任せとけ」
ライトを気遣うラウルに、笑顔で頷くライト。
ラーデを背負ったラウルとレオニスがふわり、と宙に浮き、ユグドラツィのおる方向に飛び立っていった。
ライトはそれを見送ってから、一旦カタポレンの家の中に入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正午までの約四時間半、思わぬ余暇ができたライト。
さて、これから何をしようかなー、と考えている。
レオニスやラウルの目がないので、思う存分魔物の解体やギャラクシーエーテル作りに没頭するのもアリだ。
しかし、せっかくなら今日くらいはクエストイベントのことを忘れて、一日中楽しく過ごしたい。今日はライトの十歳の誕生日にして、念願の冒険者登録が叶った非常に目出度い日なのだから。
「ンーーー、どうしよう……ラウルを見習って、プランター畑の手入れでもするか? ……ぃゃぃゃ、そんなの今ここですぐにやらなきゃならんことでもないし」
「夏休みの宿題……は、もう全部やっちゃったし。今から魔物狩りをするのもナシだな。誕生日パーティー前に激しい運動し過ぎて疲れたくないし、そもそも魔物狩りだってクエストイベント関連だし」
「…………よし、そしたら転職神殿に行こうっと!」
ライトが最終的に決めた行き先。それは転職神殿であった。
今から五日前に、ライトは諸々の用事のため転職神殿に出向いた。
そしてその時に、ライトの誕生日が五日後に迫っていることをミーア達に伝えた。
それを知った転職神殿の仲間達は、ライトの誕生日を是非とも祝いたい!と言ってくれていたのだ。
その当時は、冒険者登録完了直後からクレア主催の『冒険者のイロハ講座』を受けるつもりだったので、しばらくは転職神殿に行けないものだと思っていた。
だが、運良く誕生日当日に余暇ができた。四時間もの自由時間があれば、転職神殿にいるBCO仲間達とも誕生日を祝うことが十分可能だ。
そうと決まれば即座に行動に移す。
ライトは自室にある瞬間移動用の魔法陣で、転職神殿に移動していった。
舞台は冒険者ギルドディーノ村出張所からカタポレンの森に移り、ライトの誕生日パーティー編?の始まりです。
朝イチで張り切って冒険者登録手続きに挑んだライト。
午前五時にギルド入りして、二時間程度で各種測定やギルドカードの発行等々完了し、クレアの温情により早々に帰宅できたはいいものの。ラウルにしてみれば、完全に想定外のびっくらぽん!ですよねぇ(´^ω^`)
思いがけず得た四時間半の自由時間に、何をさせよう?と作者もいろいろ考えたのですが。
ふと作者の脳内で『転職神殿にお越しくださってもいいんですよ?』というミーアさんの囁きが聞こえてきまして。
確かにね、レオニスやラウルの目がない完全フリータイムなんだもの、ここは転職神殿一択よね!゜.+(・∀・)+.゜
という訳で。次話ではBCO仲間達によるライトの誕生日を祝う回になりました♪(^ω^)