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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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第1567話 クレアの心遣い

 冒険者登録に必要な魔力測定と攻撃力測定を無事終えたライト。

 クレアやレオニスとともに、冒険者ギルドディーノ村出張所の建物の中に戻った。

 早速クレアが窓口に戻り、机の引き出しをガサゴソと漁っている。

 そうしてクレアが出してきたのは、金属製のタグプレートだった。


「ギルドカードの方は、今からデータ入力して作成してきます。少々お待ちいただきますが、まずはこちらのタグプレートをどうぞお受け取りください」

「はゎゎゎゎ……こ、これが、ぼくのタグプレート……」

「ええ、ライトさんだけのタグプレートですよ」


 クレアから渡されたタグプレートを受け取ったライト。

 その後クレアは、ライトのギルドカードを作成するべく奥の事務室に向かっていった。


 クレアを待つ間、ライトはタグプレートを両手で高く持ち上げながら、目をキラッキラに輝かせてじっと見入っている。

 ライトの手のひらにもすっぽりと収まる小さな金属製のプレートには『ライト ディーノ村出張所 814/8/12』という文字が刻まれていた。


 このタグプレートは、身分証や賞罰及び討伐履歴が記入される実用品兼普段使いのギルドカードと違って、記念品的な意味合いが強い品だ。

 しかし、このタグプレートを持つこと自体に大きな意義がある。

 いつ、どこで冒険者ギルドに登録したかが分かるそれを見る度に、冒険者達はかつて抱いた初心を思い出すことができるのだ。


「はぁー……ぼくもとうとう冒険者になれたんだぁ……」

「おめでとう、ライト。ラウルと同じく、これからは同業者だな」

「うん!レオ兄ちゃん、これから冒険者の先輩としていろんなことを教えてね!」

「おう、任せとけ。俺にできること、知っていることなら何でも教えてやろう」


 ライトの冒険者登録を、心から祝福するレオニス。

 レオニスがライトに向けて突き出した握り拳に、ライトも嬉しそうに握り拳を突き出してコツン、と軽く突き合わせる。

 ライトとレオニスは、これからは養い親と養い子という関係だけでなく、冒険者の先輩と後輩という新たな関係にもなるのだ。


 そんな話をしているうちに、奥の事務室に行っていたクレアが早々に戻ってきた。


「ライト君、お待たせいたしましたぁー。こちらがライト君のギルドカードになりますぅー」

「ありがとうございます!」

「裏面のこことここに、右手の人差し指と左の人差し指を十秒、ぺたーっとくっつけてください」

「分かりました!」


 出来上がったばかりの真新しいギルドカードが、クレアの手からライトの手に渡された。

 『ライト 紙級 814/8/12』と記されたギルドカード。これを有効化するには、ギルドカードの裏面に冒険者本人の指紋登録をしなければならない。

 クレアが指定した場所に、ライトが右手と左手の人差し指を軽く押し付ける。

 朱肉のようなインクは必要なく、カードに直接指を置いて十秒もすれば指紋を読み取る仕組みらしい。


「……はい、もう指を離しても大丈夫ですよー。……さ、これでライト君の冒険者登録は完了いたしました。改めて、ライト君の冒険者登録を心より歓迎いたします。冒険者ギルドディーノ村出張所に、ようこそ!」

「……ううッ……ありがとうございますぅ……ぼく、本当に嬉しいですぅ……」


 花咲くような満面の笑みで、ライトの冒険者登録を歓迎するクレア。

 まるで女神のようなクレアの笑顔に、ライトが思わず涙ぐむ。


 前世ではスマホの画面越しに見るだけだった、BCOの名物受付嬢クレア。

 属性の女王達に負けず劣らず可愛らしいこの女性キャラのことが、ライトは大好きだった。

 現代風に言えば、それは『推しキャラ』というやつである。


 ベレー帽やブラウス、スカート、コルセットに縞々ソックス、ブーツに至るまでラベンダーカラーで統一された愛らしい受付嬢(クレア)が、生きて目の前にいて喋る―――これだけでも、ライトにとっては感激ものだというのに。

 彼女が自分のために冒険者登録の手続きをしてくれて、しかもこれ以上ないくらいの笑顔で迎え入れてくれたのだ。

 何なら感激のあまり、もう今すぐにでも昇天しそうだ……とライトが感涙に咽び泣くのも当然である。


 そんなライトに、レオニスがライトの右肩に手をポン、と置きながら話しかける。


「何だ、ライト、冒険者になることがそんなに嬉しいのか?」

「うん……だって、この世界で冒険者になるのがぼくの夢だったんだもん……」

「まさか、冒険者になれただけで満足しちまってる訳じゃないよな?」

「もちろん!これからレオ兄ちゃんやラウルといっしょに、世界中を冒険して回りたい!」

「そうこなくっちゃな」


 ライトの右肩に置いたレオニスの手が、そのままライトの頭に移動してくしゃくしゃと撫でる。

 そう、確かに冒険者登録はライトの夢だったが、ここで完結する訳ではない。むしろここはスタート地点であり、これからますます羽ばたいていくのだ。


 そんな仲睦まじい兄弟の姿を、クレアもまた我が子を見つめるような慈愛に満ちた眼差しで嬉しそうに見守っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……さて。これでライト君は、晴れて我が冒険者ギルドの正式な冒険者になった訳ですが。これから何をするか、ライト君はご存知ですか?」

「はい、もちろんです!クレアさんが講師をしてくれる『冒険者のイロハ講座』を一週間受けるんですよね!」

「その通りです。ちゃんと覚えていて、ライト君は偉いですねぇ♪」

「そりゃもう、クレアさんの講座を楽しみにしてましたから!」


 ニコニコ笑顔で楽しそうに会話を交わすライトとクレア。

 その一方で、何故かレオニスがじりじりと少しづつ後退りしている。

 あからさまに不審な行動を取るレオニスに、クレアが笑顔のまま釘を刺した。


「レオニスさん? どちらに行かれるおつもりですか?」

「え"ッ!? ぃ、ぃゃ、どこにも行かれるおつもりはないでございますよ?」

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? まさかとは思いますが、今年の年初に交わした私との約束を忘れた、とか言いませんよね?」

「ぐぬぬぬぬ」


 レオニスが思いっきり胡散臭い敬語もどきで目を泳がせている隙に、クレアがササッ!と受付窓口から出て回り込み、ガッツリと出口の前に立つ。

 これは、レオニスに逃げられないようにクレアが身体を張って出口を塞いだことを意味する。

 そしてクレアが言う『年初の約束』とは、『ライトがここディーノ村出張所で冒険者登録をする際には、レオニスも必ず同行してライトとともに『冒険者のイロハ講座』を受けること』である。


 レオニスとしては、ライトの冒険者登録の瞬間に立ち会うのは喜ばしいことだが、クレアが主催する『冒険者のイロハ講座』はなるべくならば受けたくない。

 だいたいだな、冒険者歴十七年にもなる俺に、今更冒険者のイロハもへったくれもねぇだろう!? と内心でレオニスが密かに愚痴る。


 しかし、年初の挨拶時に早々にクレアの地雷を踏み抜いたのは、他ならぬレオニスである。

 そしてクレアの怒りを鎮めるために、レオニスはクレアの主張である冒険者のイロハ講座再履修を承諾してしまった。

 できることなら、クレアがあの約束を忘れてくれていたらいいんだが……というレオニスのささやかな願望は、完全に断たれてしまったようだ。


 ライトとともに講座に参加する、と認めてしまっている以上は、約束を反故にする訳にもいかない。

 そんなことをしたら、クレアからの信頼を著しく損ねてしまう。

 さすがにそれはレオニスも望むところではないので、観念したようにがっくりと項垂れた。


「ええ、忘れてなどいませんですよ……ライトとともに、俺も『冒険者のイロハ講座』を受けるんでしたよね?」

「ちゃんと覚えていらっしゃったようで何よりです。ああ、ご安心ください、ライト君だけでなくレオニスさん用の教科書もちゃーんと用意してありますからね♪」

「クレア教官のお心遣いに感謝いたします……」


 これはもう完全に詰んだ、と悟ったレオニス。

 見えない白旗を揚げて、クレアに恭順の意を示した。

 そしてライトとレオニスに、これまた事前に用意してあった小冊子『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』を手渡した。


「こちらが、イロハ講座で使用する教科書です」

「あ、これ、ラウルが冒険者になった時に見せてもらいました!読み物としてもとても面白くて、去年の夏休みの読書感想文の題材にもしました!」


 クレアから小冊子を受け取ったライト、懐かしそうにパラパラとページを捲る。

 それは去年ラウルが冒険者登録した時に、ラグナロッツァ総本部から配布された小冊子と全く同じものだった。


「まぁ、そうなんですね。これを読んでしっかりと予習までしているなんて、ライト君は本当に素晴らしいですねぇ。将来は間違いなく優秀な冒険者さんになれますね!」

「えへへ……そうだといいんですが」


 ライトの勤勉さを褒め称えるクレアの言葉に、ライトが照れ臭そうにしている。

 そして俯き加減だった顔をパッ!と上げて、クレアの顔を見ながらライトが質問した。


「そしたら、今から講座をするんですよね?」

「いいえ、講座は明日から行いますよ」

「え? 今日からやるんじゃないんですか?」


 クレアの意外な答えに、ライトがびっくりしたように問い返す。

 ライトとしては、冒険者登録を済ませたらすぐに『冒険者のイロハ講座』を受けるものだとてっきり思っていた。

 なのに、今日は講座がなく明日から始めるというではないか。

 アテが外れた、とまでは言わないが、これは完全にライトの予想外だった。

 そしてその理由は、すぐにクレアの口から明かされた。


「だって今日は、ライト君のお誕生日でしょう?」

「は、はい、それはもちろんそうですが……」

「ならば、ライト君のお誕生日をともに祝いたい人達が、たくさんおられるのでは?」

「ッ!!!」


 優しく微笑みながら理由を語るクレアの言葉に、ライトがハッ!とした顔になる。

 確かに今日はライトの十歳の誕生日。それをともに祝ってくれる友達が、ライトにはそれこそ世界中にたくさんいる。

 クレアが『冒険者のイロハ講座』を明日から行うとしたのは『誕生日当日である今日くらいは、誕生日を祝ってくれる者達とゆっくり過ごせるように』という、彼女なりの配慮だった。

 そんなクレアの思い遣りに、ライトが顔を綻ばせる。


「クレアさん、ありがとうございます!」

「どういたしまして。ライト君の十歳の誕生日は、今日一日限りですからね。こんな大事な日こそ、大切な人々とともに過ごすべきかと思ったまでですぅ」

「そうですよね……クレアさんのお言葉に甘えて、今日はこれで帰らせていただきますね!」


 クレアの気遣いに、ライトが深々と頭を下げて礼を言う。

 実はこの後、ライト達は冒険者登録が完了してクレアの講座を受け終えた後に、ユグドラツィのもとで誕生日パーティーを行う予定が入っていた。

 講座が何時に終わるのか不明だったので、ユグドラツィのもとに行くのは何時と決まってはいなかったのだが。

 それでも日の明るいうちには帰宅できるだろう、という楽観的な予測のもとに立てられた計画である。


 現在の時刻は午前の七時少し手前。

 ライト達が冒険者ギルドディーノ村出張所を訪ねたのが午前五時ぴったりだったので、これまた予想外に早く帰宅することができそうだ。


「ライト君も今日一日、ゆっくりと楽しくお過ごしください」

「はい!明日からの講座は、何時からですか?」

「私としては、何時からでも構いませんが……ライト君のご都合に合わせますよ。希望の時間はありますか?」

「できればたくさん受けたいです!」

「そうですねぇ……そしたら、午前の十時から午後の五時まででどうです? お昼休み一時間と、三時のおやつの三十分休憩も込みで」

「それでお願いします!」


 ライトの要望に従い、クレアが即座に弾き出した提案に、ライトが一も二もなく承諾する。

 それはまるで学校の授業のような長時間だが、お昼休みと三時のおやつ休憩があるのは破格の厚遇と言えよう。

 そしてクレアは、レオニスに対する釘刺しも忘れない。


「あ、一応レオニスさんにも言っておきますが。レオニスさんも明日からライト君といっしょに、講座を受けに来てくださいね?」

「はい……カタポレンの森の警邏も、十時までには済ませておきますです……」

「良い心がけですぅ」

「ただし、万が一にも何らかの非常事態が起きた場合には、講座を欠席してもよろしいでしょうか……?」

「もちろんですぅ。その場合は、ライト君にその旨お伝えくださいねぇー」

「ありがとうございますぅ……」


 ガッツリと講座出席を念押ししてくるクレアに、レオニスが項垂れながら返事をする。

 余程の非常事態でも起きなければ、もはやレオニスには逃げ道など存在しない。

 もちろんレオニスが欠席しなければならないような非常事態は起きない方がいいので、ここは諦めておとなしく『冒険者のイロハ講座』を一週間みっちり受けるしかない。


「じゃあ、レオ兄ちゃん、カタポレンの家に帰ろっか!」

「おう、そうだな」

「クレアさん、今日は朝早くから本当にありがとうございました!また明日からよろしくお願いしますね!」

「こちらこそ、明日からよろしくお願いいたしますねぇー」


 ライトがクレアに挨拶をしながら、レオニスとともに冒険者ギルドディーノ村出張所から出ていく。

 こうしてライトは晴れてサイサクス世界で冒険者となり、十歳の誕生日を家族や友人と祝うべくカタポレンの森に帰っていった。

 第1563話から始まったライトの冒険者登録。

 たかが新規登録だけで5話もかかってしまいましたが、今話で何とか完了です(A; ̄ー ̄)

 しかーし!今日という日はまだ終わりません!

 何故ならライトの十歳の誕生日だから!

 子供のうちこそ、誕生日は盛大にお祝いしなくっちゃね!(`・ω・´)


 ちなみに作者は、近年では誕生日というものをありがたいものだと思うようになりました。

 子供の頃は誕生日プレゼント欲しさに楽しみにしていて、大人になると年々どうでもよくなっていき、そしてまたある程度歳を重ねてからは一周回って誕生日のありがたみを噛みしめる作者。

 何故なら、次の誕生日を迎えるというのは『前回の誕生日から一年を過ごしてこれた証』だと思うからです。

 もっともその一年の間には大小様々なことが起きてて、必ずしも無事息災に過ごせるとは限らないのですが。


 こんなことを作者が思うようになったのは、父方伯父が信号無視の車に轢かれて亡くなったり、あるいは自分より五歳程度しか違わない知人が脳梗塞で突然死したせいなどがあるかも知れません。

 というか、作者の父は作者が生後三週間の時に職場の事故で天に召されてまして。

 本当にねぇ、人の寿命なんて分からんもんですよね……って、辛気臭い話が続いて申し訳ないですけど、悲しいことに事実成分100%なんですよね。


 人間なんて百年も生きられれば上等だし、作者もこの先あと何回誕生日を迎えられるか分かりませんが。

 とりあえず、一話でも多く拙作の続きを書けるよう、日々頑張ります!

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