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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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第1561話 二つの新たな目標

 フェルディナンドが部屋の扉を開けて、外で待機していたチェスワフやガイ、テオ、ノアに声をかけた。

 そして再び部屋に入った四人が目にしたのは、嫋かな笑みを浮かべながら椅子に座るベスの姿だった。


「あッ、ベスさん!起きたのか!」

「起きても大丈夫なのか!?」

「つーか……何だかさっきより、ものすごく顔色が良いような気がするが……」

「もしかして、レオニスの回復魔法がすんげー効いたのか?」


 ベスが起きていることに、真っ先に反応したガイ達。

 彼女の顔色がとても良いことにもすぐに気づき、戸惑いながらも不思議がっている。

 そんな中、チェスワフがゆっくりと前に進み出た。


「おお、奥方様……これは何という……何という奇跡か……」


 目を大きく見開きながら、ベスを見つめ続けるチェスワフ。

 彼もまたマクシミリアーノやフェルディナンド同様、日に日にベスが弱っていく様を見ながら何もできない、何もしてやれない己の不甲斐なさや歯痒さに苦悶していた一人。

 そしてかつての溌剌としたベスを知っているだけに、彼女の劇的な回復がすぐに分かったのだ。


 感激に打ち震えるチェスワフに、ベスが優しく語りかけた。


「チェスワフ、貴方にもとても心配をかけてしまいましたね」

「とんでもございません!この里の者達は皆、奥方様を心より尊敬し、お慕い申し上げております!奥方様の身を案じるのは当然のことです!」

「フフフ、チェスワフも相変わらずお上手ね」

「これは決してお世辞などではありませぬ!奥方様が臥せってからは、東の里はまるで灯火が消えたようで……寂しさや悲しみに包まれておりました……」


 涙ながらにベスの回復を喜ぶチェスワフ。

 もとは他所者だったベスが、生粋の東の里のオーガにここまで慕われるようになるには、一体どれ程の年月と苦労を重ねてきただろう。

 今では東の里の者達全員の信頼を勝ち得たベス。

 彼女のその不屈の精神に、チェスワフの後ろにいたガイ達三人もまた改めて感服していた。


「ベスさん……昨日会った時よりもすっごく元気そうで……本当に良かったなぁ」

「ああ……これで里に帰った時に、長老に嬉しい報告ができるってもんだぜ」

「全くだ。こんなに嬉しいことはないぜ!」


 チェスワフの感涙とベスとの温かいやり取りに、ガイ達も鼻を啜りながら貰い泣きしている。

 それはきっと、ニルに届ける報告が悲しいものから嬉しいものに変わった喜びも大きいに違いない。


 そして、ガイがレオニスに向かって礼を言う。


「レオニス、本当にありがとうな。お前がベスさんを治してくれたんだろ?」

「まぁな。さすがにあの窶れ具合は、回復魔法だけじゃどうにもならなさそうだったから、結局は秘薬を使ったがな」

「秘薬? ……あー、族長の命を救ったっていう例の秘薬か?」

「そうそう、それそれ」

「人族が使う秘薬ってのは、本当にすげーもんなんだなぁ!」


 ベスを治すに至ったのが例の秘薬のおかげと知り、ガイ達三人が大いに感心している。

 ガイ達はその秘薬がエリクシルであることは知らされていないが、レオニスがラキの命を救ったことは知っている。

 人族のみが扱えるという秘薬。一度ならず二度も中央の里の要人が助けられたことに、ガイ達はただただ感謝しかない。


 そしてレオニス達がそんな話をしている間に、マクシミリアーノもチェスワフに秘薬の話をしていた。

 レオニスだけが持つ、人族の叡智の結晶である秘薬をベスに使ってもらったこと。

 その秘薬はオーガ族にも効くもので、それによりベスの病が取り除かれたこと等々。

 それを聞いたチェスワフは、終始驚きを隠せずにいた。


「何と……中央の里の族長の命を救った秘薬……しかもそれが奥方様の病にまで効いたとは……」

「うむ。人族の叡智とは、斯くもいと高く……我らよりもはるかなる高みに到達しておったのだ」

「俄には信じ難きことですが……今の奥方様のお身体の快癒を見れば、疑う余地などございませんな」

「ああ。私の目の前でレオニスがベスに秘薬を用いて、そのおかげでベスはこんなにも元気を取り戻すことができた。私とフェルディナンドは、その一部始終をこの目で確と見届けたのだ」


 マクシミリアーノの説明に、彼の横にいるフェルディナンドも大きく頷きながら同意する。

 東の里の現族長と前族長、二人が揃って言うのだからそれは間違いなく真実だ。


 そもそもレオニスをこの東の里に入れたのは、ベスの容態とは全く別件『近所の岩に仕掛けられた危険な罠の存在を、族長に知らせるため』であった。

 この件の検分を済ませた後、レオニスがベスに会うための手段として彼女に回復魔法をかけることを提案した。

 チェスワフはもちろんのこと、ベスとの面会を許したフェルディナンドですらも『例え気休め程度でも、ベスの身体が少しでも良くなれば……』くらいにしか考えていなかった。


 それがよもや、ベスの身体に巣食う病を完全に取り除くとは夢にも思わなかった。

 ダメ元感覚で受け入れた結果の、あまりにも大きな成果にチェスワフがレオニスの前で跪いた。


「此の度は、奥方様をお救いいただき感謝申し上げる」

「いいってことよ。ベスはニル爺の家族だからな!」


 チェスワフの礼に、レオニスがニカッ!と笑いながら応える。

 そしてチェスワフはすぐさまフェルディナンドに進言した。


「族長、里の者達にも早急にベス様の快癒を伝えたいのですが」

「ああ、里の皆も母上のことをずっと心配してくれていたからな。ただ、この離れに大人数で見舞いに押しかけられても困るので、皆には今日の夕方に広場に集まるように、とだけ伝えてくれ。そこで母上の元気になった姿を皆に見てもらおう」

「承知しました」


 フェルディナンドの指示に従い、チェスワフがすぐに部屋を出ていった。

 東の里の者達全員に、夕方に広場に集まるよう伝えに動いたと思われる。

 チェスワフの退室を見届けたフェルディナンドは、マクシミリアーノとベスにも話しかけた。


「父上も、母上とともに広場にお越しください。そこで里の者達皆に、母上の快癒を広く知らしめましょう」

「うむ、分かった」

「母上も、それでよろしいですか?」

「ええ、私も皆の顔を見ながら直接お話ししたいわ」

「ありがとうございます。夕方まではまだ時間がございます故、それまで少しお休みください」

「ありがとう、そうさせてもらうわね」


 ベスの回復を知らせるための手筈をテキパキと決めていくフェルディナンドに、マクシミリアーノもベスも素直に従う。

 なかなかに頼もしい息子の姿に、父も母もとても満足そうだ。

 そしてフェルディナンドは、レオニスにも声をかけた。


「レオニス、もし良ければ母上の快癒を祝う宴に参加してもらえるか?」

「宴か、そりゃいいな。いつやるんだ?」

「盛大な宴は後日にするつもりだが、とりあえず今晩にもささやかな宴を催そうと思う」

「そっか……さすがに今晩のは参加できんが、盛大な宴の方は開催する日が分かれば是非とも参加しよう」


 レオニスがベスの回復祝いの宴に誘われるも、今晩の宴はさすがに断った。

 前もって開催日が分かっていればともかく、今日の夜に急遽決まった宴に参加するのはさすがに厳しい。

 カタポレンの家ではライトがレオニスの帰りを待っているし、事前予告なく夜遅くに帰ったらライトやラウル、マキシに要らぬ心配をかけてしまうからだ。


「うぬぅ……今晩は急過ぎて無理、ということか?」

「ああ。俺にも帰る家があって、迎えてくれる家族がいるからな」

「そうか……それなら仕方ないな」

「そゆこと。それに、一番最初の宴くらい水入らずで祝う方が何かと気楽でいいだろ」

「……まぁな」


 レオニスに誘いを断られたフェルディナンド。

 その理由を聞けば、納得する他ない。

 特に後者の『里の者達だけで祝う方が気楽だろう』というのは、耳の痛い事実だった。


 もともとこの東の里のオーガ達は他所者嫌い。

 ベスの快癒を祝うせっかくの目出度い場に、他所者どころか同族ですらない人族のレオニスがいたら不審な目で見られかねない。

 そうならないためにも、まずは俺抜きで祝って純粋にベスの快癒を皆で喜んでやってくれ―――レオニスは暗にそう言っているのだ。


 そうした言葉の裏を読み取れないフェルディナンドではない。

 そしてその言葉の先にある要求をも瞬時に汲み取った。

 フェルディナンドは前屈みになり、レオニスに手を差し伸べた。


「後日の盛大な宴までには、レオニスの存在を里の者達皆に受け入れさせるよう努力しよう」

「よろしくな」


 目の前に差し伸べられたフェルディナンドの大きな手を、レオニスが握って握手を交わす。

 ベスという存在によって、東の里は多少なりとも他所者嫌いの偏屈さが改善された。

 だがそれはあくまでも『昔に比べたら』という話であって、根本的なところでは未だに他所者に対する警戒心が強い。


 だが、それでは駄目なのだ。

 内に篭っているばかりでは、救えるはずの大事な者をも失っていたことを、フェルディナンドは今日思い知った。

 今日得たばかりのこの教訓を活かすために、まずはレオニスを受け入れられる態勢に整えなければならない。

 これもまたかなりの至難にして茨の道だが、(ベス)が辿ってきた道だと思えば決して不可能ではない。


 レオニスとフェルディナンドの握手は、東のオーガの里の新たな未来が開けることを予感させるものだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、と。俺の用事はだいたい済んだから、そろそろ帰るわ」


 フェルディナンドと握手を交わしたレオニスの帰宅宣言に、真っ先に反応したのはノアだった。


「え、何、レオニス、お前、今からあっちに帰るん?」

「おう、ここには普通に日帰りのつもりで来たからな」

「嘘だろ? 今から帰ったって、向こうに着くのは明日の朝とかじゃね?」

「そんな時間かかる訳ねぇだろ」

「えー、嘘々、そしたらレオニス、お前、ここまで来るのに何日かかった?」

「あの岩の近くに着いたのが、向こうを出て四時間弱ってところだ」

「「「………………」」」


 カタポレンの家からここまで片道四時間弱と知ったノア達が、レオニスを信じられないものを見るような目で見つめる。


「嘘だろー……俺達、この里まで来るのに二十日はかかるってのに」

「やっぱ空を飛べるってのは、でけー要因なんかな……」

「お前、絶ッッッ……対ェーーーに人族じゃねぇだろ?」


 最後の失敬な言い草はともかく、空を飛べないガイ達にはレオニスの有能さが心から羨ましくて仕方がないらしい。

 そんなガイ達からの羨望に、今度はレオニスが尋ねる。


「つーか、お前らはいつまでここにいるんだ?」

「明日の昼には出立する予定だ」

「まっすぐ中央に戻るんか?」

「いや、もうちょい行商を続ける」

「そっか、そういやお前ら、行商に出てる最中だったっけな」

「そそそ」


 まだ行商を続けるというガイ達に、レオニスが感心している。

 中央のオーガの行商は、短くても一ヶ月以上かかるのが常だ。

 かくいうガイ達も、この東の里でかなり日数を食ってしまったが。まだまだ彼らの行商という名の修行の旅は続くのである。


「じゃ、お前らが帰る前にもしニル爺に会ったら、ベスのことは報告しとくわ」

「そうだな、その方がニル爺様も喜ぶだろうしな」

「嬉しい報せは早く聞きたいもんだよな」

「レオニス、ニル爺様やルネ婆様によろしく伝えといてくれ」

「おう、任せとけ」


 中央里の若者達と話を済ませたレオニス。

 改めてフェルディナンドやマクシミリアーノと挨拶を交わす。


「じゃ、俺は帰るわ。ベスにもよろしく言っといてくれ」

「ああ。命の恩人を見送ることができず、残念がると思うが……」

「そりゃ仕方ない。ベスだってまだ体力が戻ってないしな」

「ご配慮痛み入る」


 再び椅子の上でうたた寝しているベスを見ながら、レオニス達が言葉を交わしている。

 その寝顔は、エリクシルを飲む前とは打って変わって本当に安らかなものだった。

 これで、中央の里にいるニル爺にも良い報告ができる―――そう思うと、レオニスの心は晴れやかだった。


「じゃ、またな。宴の日取りが決まったら、闇の精霊にでも伝えてくれ。そしたら俺のところに教えてくれるから」

「承知した。また会える日を、心より楽しみにしている」

「俺もだ。ベスにもこの先頑張るよう言っといてくれ」

「ああ」


 話をしながら離れの玄関に移動するレオニス達。

 そうしてレオニスは離れを出ると、ふわり、と宙に浮き、飛び立っていった。

 それを見送っていたガイ達が、空を見上げながら呟く。


「あー、俺も空を飛べるようになりてぇなぁ」

「俺もだ。でもなー、オーガ族に生まれたらそりゃ無理ってもんだよなー」

「いやいや、そんなん分からんぞ? 今からでもレオニスに魔法を習ってみるか?」

「おお、それもいいかもな!」

「よっしゃ!行商の旅を終えて里に帰ったら、レオニスとラウル先生に魔法を習うぞ!」

「「「おーーーッ!!」」」


 新たな目標を見つけて、気合いを入れるガイとテオとノア。

 今頃レオニスやラウルが盛大なくしゃみをしているかもしれない。

 しかし、最初からダメだと決めつけたり腐ることなく、果敢にチャレンジするのはとても良いことだ。


 オーガ族の新たな可能性を切り拓くべく、奮闘を決意する若者達。

 そんな彼らを、マクシミリアーノとフェルディナンドが眩しいものを眺めるかのような眼差しで見つめていた。

 第1546話から始まったレオニスの単身行動も、ようやく締めを迎えました。

 ぃゃもうホント、ベスが救われて良かったー!(;ω;)

 ……って、え? 第1546話?( ̄ω ̄ ≡  ̄ω ̄)

 ウソーン!あれからもう16話も経ってんの!?Σ( ゜д゜)

 まさか半月以上も主人公不在が続くとは、作者自身夢にも思わず_| ̄|● ←今更


 ちなみにサブタイの『二つの新たな目標』は、東の里の意識改革とガイ達の魔法習得を指しています。

 どちらも困難であり、特に後者は間違いなく前代未聞ですが。結果の如何を問わず、チャレンジするのは良いことよね!と思う作者。

 そりゃまぁ思うような成果が出せれば一番良いですが。

 例え大きな成果を上げられずとも、目標に向かって努力したことは自身の中で必ずや何かしらを残せると思うのです。

 ガイ達が魔法習得できるかどうかは全く未定ですが、その話もいつか書けたらいいな( ´ω` )

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