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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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第1543話 六回目の質問

 ライトがミーア達とともに、テーブルに椅子を一脚増やしたりスイーツを追加で出している。

 すると、転職神殿の林の向こうからふいにガサガサ!という物音が聞こえてきた。

 何事かと思い音のする方を見ると、林の中からヴァレリアが現れた。


「やぁやぁ、皆、お久しぶりー♪」

「あッ、ヴァレリアさん!こんにちは!」

『今ちょうど、ヴァレリアさん用の椅子やお菓子を用意してたんですよ!』

「おお、それは嬉しいね!皆の温かいもてなしに、感謝感激だよー!」


 ヴァレリアの姿を見て、ライトとミーナが破顔しつつヴァレリアのもとに駆け寄る。

 二人の熱烈歓迎を受けたヴァレリアの方も、ニコニコ笑顔でミーナに抱きついた。

 それから少し遅れて、ミーアやルディ、レアも合流した。


『ヴァレリアさん、いらっしゃい』

『ヴァレリアさん、お久しぶりです!』

『ヴァレリアお姉ちゃま、お会いできて嬉しいです』

「ミーアにルディにレアも、皆元気そうで何よりだね!」


 ミーア達の挨拶に、ヴァレリアがミーナの身体から離れてレアを抱っこして頬ずりしている。

 レアに『ヴァレリアお姉ちゃま』と呼ばれるのがものすごく嬉しいようだ。

 そんなご機嫌なヴァレリアに、ミーアが優しい声で話しかける。


『さぁ、ヴァレリアさんもお茶にしましょう。今日はヴァレリアさんもここにいらっしゃると思って、皆でヴァレリアさんをお迎えする準備をしていたんですよ』

「お、私が来ることが分かってたの? さすがミーア、転職神殿の専属巫女は何でもお見通しなんだね!」

『ええ、分かりますとも。今日はライトさんが、四次職の【獣魔拳帝】を無事マスターなさったことを報告しに来てくださったのですから』

「そうそう!私もその祝福をするのが、最近の楽しみの一つなんだよね!」


 ちょっぴり揶揄うような口調で、ミーアの有能さを褒め称えるヴァレリア。

 しかしミーアがそれに反発することはない。

 ヴァレリアのその揶揄うような口調は、照れ隠しからくるものだということをミーアは理解しているからだ。


「じゃあ、早速皆でお茶をしようじゃないか!そしてライト君へのご褒美の希望もゆっくり聞かせてもらわないとね♪」

「はい!今日もラウル特製の極上スイーツを持ってきました!」

「それは楽しみだね!何しろライト君がいつも持ってきてくれる甘味は全部美味しいし、ハズレなんて一度もないもんね♪」

『ですよねー♪』

『主様、ミーアお姉様、ヴァレリアさん、早くテーブルに行きましょう!』


 待ちかねたミーナが、ライトとヴァレリアの手を取り優しく引っ張る。

 ミーナの満面の笑みに、ライトもヴァレリアもつられて笑顔になる。

 そうして全員でテーブルのある方に移動していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「『『『いッただッきまーーーす!』』』」」


 全員が着席し、合掌&挨拶の後テーブルの上に並べられた極上スイーツに手を伸ばす。

 ライトはプリン、ヴァレリアはオペラ、ミーアは大福、ミーナはいちご味のかき氷、ルディは草餅、レアは一口ドーナツ。

 皆思い思いに好きなスイーツを頬張っては、極上の味に舌鼓を打っている。


「うわッ、このオペラ、すんごい濃厚で美味しーい」

『大福のつぶあんがたまらなく美味しいですわぁ』

『夏はやっぱりかき氷に限りますよねー!』

『自然の香り豊かな草餅こそ至高……』

『ドーナツ美味ちぃ』


 皆一様にラウルのスイーツを大絶賛していて、ライトも我が事のように嬉しくなる。

 飲み物は全員共通の麦茶で、この麦茶にもツェリザークの雪解け水が使われている。

 ライトはこの夏バテ防止にも良いというスペシャリティな麦茶を飲みながら、ヴァレリアに話を切り出した。


「ヴァレリアさん、早速ですが前回の(・・・)ご褒美の質問権を行使してもいいですか?」

「ン? 前回? ……ああ、前回の分はまだ使ってなかったっけね」

「ええ。だから質問権は二回分貯まってるんですけど、とりあえず早急に聞きたい質問が一つありまして」


 さり気なく質問権が二回分あることを強調するライト。

 前回ヴァレリアに会ったのは、ラグナロッツァのビースリー勃発未遂事件が解決した直後のこと。

 ライトはコヨルシャウキとのビースリー対戦で、思いがけず大量の職業習熟度を獲得して戦士職の光系四次職【神聖騎士】をマスターした。


 その後ラグナロッツァに無事帰還し、すぐに転職神殿で四次職マスターの報告と新しい職業に転職したのだが。

 その褒美としてライトが聞くつもりだった質問『このサイサクス世界に、自分以外の勇者候補生はいるのか?』という質問を聞く前に、ヴァレリアの方から『世界唯一の勇者候補生』という盛大なネタバレを食らってしまった。

 そのおかげでライトは質問権を行使する必要がなくなり、次回に持ち越しということになったのである。


 ヴァレリアもそこら辺のやり取りは覚えていて、当時はバツが悪そうにしていたが。今日は特に動じることなく、いつもの軽やかな口調で応える。


「OKOK、私が知っていることなら何でも答えようじゃないか。して、ライト君が早急に聞きたいこととは、何だね?」

「えーとですね、BCOの特殊フィールドやイベントで過ごす時間と、サイサクス世界の現実時間との差異について教えてほしいんです」

「時間の差異? どういうことなのか、もうちょい具体的に教えてくれる?」

「はい……」


 ライトの一回の説明では分かり難かったのか、質問の意図の詳細を求めるヴァレリア。

 ヴァレリアにもきちんと理解してもらえるよう、ライトは一生懸命に話した。


 まずはライトが経験した『呪われた聖廟』での出来事。

 ライトが単身乗り込んだ『呪われた聖廟』の中で十分間過ごしても、サイサクス世界では十秒しか経過していなかったこと。

 この時間の差異はライト以外の第三者、聖廟の外にいたミーナとルディに確認してもらったことなので絶対に思い違いなどではないこと等々。

 それらのライトの説明を、ヴァレリアはふむふむ、と言いつつ真剣に聞いていた。


「サイサクス世界と異空間では時間の流れが違うというのは、コヨルシャウキさんとの星界空間でのビースリー対戦で知っていましたが……まさか『呪われた聖廟』では六十倍もの差があるとは思わなくて」

「うん、まぁ普通はそうなるよねぇ」

「で、ですね……星界空間や『呪われた聖廟』なんかの、時間の流れが違う異空間でぼくが長時間過ごした場合、ぼくの身体はどうなるんでしょう? 例えば『呪われた聖廟』の中で一年とか十年とか過ごしたら、ぼくの身体は十一歳とか二十一歳に成長しちゃうんですかね?」


 終始俯き加減で不安そうに話していたライト、最後の問いかけの時にはガバッ!と顔を上げてヴァレリアに迫った。

 ここまで事細かに話せば、ヴァレリアにもライトが何を懸念しているのかが分かる。

 今も不安を滲ませるライトの真剣な眼差しに、ヴァレリアは小さく微笑みながらライトの頭を優しく撫でた。


「うん、ライト君、君の聞きたいことや不安に思っていることはよーく分かった。まずは食べかけのプリンを全部食べて、心を少し落ち着かせようか」

「……はい……」


 優しく諭すヴァレリアに、ライトは素直に従い器に半分残っていたプリンを再び食べ始めた。

 カラメルのほろ苦さと甘いプリンが、ラウルの口の中で絶妙なハーモニーを奏でる。

 こんな時でも、ラウルが作った特製プリンは美味しい。


 そういえば、星界空間での休憩時間でもこのプリンを何回か食べたっけ……あの時も、ラウルの美味しいスイーツに何度も助けられたなぁ……

 あんな辛い思いはもうしたくないけど……サイサクス世界で生きていくからには、あれ以上に過酷な場面に出食わすかもしれないし。

 もっともっと強くなって、このサイサクス世界のことも知っていかなくっちゃ……


 美味しいプリンを食べながら、そんなことをつらつらと考えているうちに器が空になった。

 一方でヴァレリアは、考え事をしながらプリンをもくもくと食べるライトの顔をニコニコ笑顔で見守っていた。


「ライト君、少しは落ち着いたかい?」

「はい……星界空間でも、このプリンを食べていたなぁって思い出してました」

「そっかそっか、向こうでもこの美味しいプリンを食べて気力体力を回復させていたんだねぇ」

「はい……」

「てゆか、あのコヨるんがよく休憩時間を許したね? コヨるんだったら、絶対に休憩時間無しのブッ通しでビースリーをやり続けそうなもんだけど」

「そこはぼくが厳重抗議して、長時間の休憩をもぎ取りました……でないとぼく、絶対に狂っちゃいますもん」

「そりゃそっか!」


 ライトの星界空間での思い出話に、ヴァレリアがきゃらきゃらと笑う。

 そうして一頻り笑った後、ヴァレリアが真面目な顔つきに戻り話し始めた。


「さて、ライト君のさっきの質問。これ、何気に重要だよね」

「はい。これをちゃんと知っておかないと、この先『呪われた聖廟』や他の特殊フィールドにもおちおち行けやしません」

「だろうねぇ。では、まず結果から述べよう。ライト君が挙げたような特殊フィールド内で、君の身体が成長することはないよ」

「ッ!!!!!」


 ライトを安心させるためか、結論から先に告げるヴァレリア。

 ヴァレリアからもたらされた明確な答えに、ライトの目が瞬時に大きく見開かれる。


「えーっとねぇ、コヨるんのビースリーで対決したライト君なら分かると思うけど。BCOのシステムが強く作動する領域では、勇者候補生には一般的な概念……食事や睡眠、排泄といった生命維持活動は不要だし、死すらも存在しないことは理解しているね?」

「はい、分かります。星界空間で、嫌と言うほど身を以って体験しましたから」

「よろしい。しかし、そんな特殊な空間でもダメージを受ければ血は流れ出るし、脂汗や冷や汗だって出る。ライト君の身体そのものは普通に生きている訳だ」

「はい……」


 ライトの懸念を、ヴァレリアが事細かに言葉にして明確化していく。

 それを周囲で静かに聞いているミーア達も、うんうん、と小さく頷きながら二人のやり取りを見守っている。


「私自身、その原理や理屈を一から百まで熟知している訳じゃないから、何故そうなるのかとかどうしてそれに至るかまで説明はできないけど……詳細な過程は分からずとも、結果は知っている。BCOの領域では、キャラクターが肉体的成長を遂げることは一切ない」

「そうなんですね……」


 ライトが最も知りたかった答えを、ヴァレリアはあっさりと教えてくれた。

 それまで緊張感で張り詰めていたライトの顔が、一瞬にして気が抜けたように緩む。

 その間に、ヴァレリアがさらに具体的な解説を付け加えていった。


「まずさ、考えてみてよ。普通のゲームってさ、ゲームの周年イベントや季節限定イベントなんかを折々に繰り出してくるけどさ。中の人達が成長することってほとんどないじゃん?」

「確かにそうですね……」

「まぁね、中には複雑な物語を作って主人公やパーティーの成長物語を組み込むゲームもあるだろうけど。少なくともBCOはそうじゃない。他の有象無象のゲーム同様、ゲームの中にいる者達が歳を取る描写は一つもない。……ああ、ドラゴンの卵イベントで生まれたクー太だけは例外か。あれはドラゴンの卵を孵化させるイベントと、その後クレア嬢から『クー太ちゃんと遊んで!』という依頼を受けるイベント、複数回で登場してるからね」


 ヴァレリアの話全てに逐一頷くライト。

 確かに言われてみればその通りで、BCOでも四季折々の季節限定イベントや周年イベントは何度も行われてきたが、ライト達ユーザーがゲーム内で操るアバターやクレア、ミーア、ロレンツォなどのNPCが歳を取っていく素振りは全くなかった。

 そう、ライトの前世橘 光がどれだけ現実世界で歳を重ねようと、BCOのキャラクター達はリリース当時と全く変わらぬ風貌を維持していた。


 それを考えると、ヴァレリアが言った『BCO領域内では、勇者候補生は肉体的成長をしない』というのも頷ける。

 流血やそれに伴う激痛、汗などの肉体的反応は一部あるものの、それ以外の大多数の生命維持活動は省かれた領域。

 ライトが最も懸念していた肉体的成長も、BCOのゲームシステムに則り全く考慮されていないのである。


「じゃあ、ぼくが『呪われた聖廟』で一年や十年過ごしても、身体の方は成長しなくて済むんですね!?」

「そゆことだねー。ただし、ライト君がそれら異空間に出かけている間、君はこっちの世界にはいない。異空間に入り浸り過ぎると神隠し状態が続いて、終いには浦島太郎になっちゃうからね? そこは要注意だよ」

「もちろんです!てゆか、そこまで異空間に入り浸るつもりはないですよ。だって異空間で一人きりで過ごすのって、すっごくつまんないですもん」

「ハハハハ、それもそっか!」


 考え得る中で最良の答えを得られたことに、ライトが興奮気味に喜ぶ。

 しかしヴァレリアは、浮かれるライトに釘を刺すことも忘れない。

 そしてライトの方も、釘を刺されるまでもなく頷く。


 ゲームするだけなら都合の良い事象でも、実際に我が身で直接体験すると思ったよりそんな良いものではない。

 コヨルシャウキに拉致られて、星界空間で散々ビースリーの死闘三昧に明け暮れたライト。

 いくら死ななくても、あんな味気ない世界で生き続けるのは御免被りたい―――実体験による、トラウマにも近いライトの決意である。


「ああ、あとね、BCO領域の時間の流れはそれぞれ違う。例えばコヨるんの星界空間はサイサクス世界の約半分で、『呪われた聖廟』は六十分の一だけど。必ずしも異空間の方が時間の流れが早いとは限らない。逆に、異空間の一日がサイサクス世界の一年なんてこともあり得る訳だ」

「それ、洒落になんないヤツですね……リアル浦島太郎になっちゃうじゃないですか」


 ヴァレリアの新たな釘刺しに、ライトの背筋が寒くなる。

 時間の差異が生じる例を、ライトはまだ二つしか知らない。

 しかし、その二つでさえ完全に異なるのだから、まだ見ぬ他の特殊フィールドだってこれまでと全く違う可能性の方が高いだろう。


 特に今までの二例とは逆の、時間の流れがBCO領域の方が遅い時の方が大問題だ。

 特殊フィールドで一日だけ過ごしたつもりが、外に出たら何年も経っていました、などとなったらそれこそ洒落にならない。

 竜宮城で三年過ごした浦島太郎が、陸に戻ったら三百年経ってしまっていたという昔話『浦島太郎』をリアル再現してしまうことになる。


「そそそ。だから、特殊フィールドに突入する際には気をつけること。『呪われた聖廟』に突入する前にしたような検証を、他の場所でも必ずしておくことをオススメするよ」

「分かりました、絶対に事前リサーチを欠かさないことにします……って、ヴァレリアさんに先に教えてもらうことはできないんですか?」

「うん、私も全部の特殊フィールドの仕様を完璧に知り尽くしてる訳じゃないからね。だからライト君に、どこそこのフィールドの時間差異とか聞かれても多分、ぃゃ、絶対分かんない。ゴメンね☆」


 ライトの縋るような眼差しに、ヴァレリアが悪びれもせずテヘペロ顔でいなす。

 確かにヴァレリアから事前に教えてもらうことができれば、ライトにとってそれが一番楽ちんで確実なのだが。

 テヘペロ顔で拒否するあたり、ヴァレリアにはそこまでライトを甘やかす気はないらしい。


 厳しいと言えば厳しいが、これもまた勇者候補生に対する期待の大きさの現れであろう。

 自力で解決できることは、安易に人を頼らず頑張れ☆というヴァレリアなりの応援メッセージなのである。多分。


「分かりました……でも、これで安心して『呪われた聖廟』に挑めます。ヴァレリアさん、教えてくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。勇者候補生の今後の活動を左右する、重大な問題が解決できたんだ。私としても本望だよ」

「まずは『呪われた聖廟』の素材集めを頑張りますね!」

「うんうん、それは良いことだ!」


 質問に真摯に答えてくれたヴァレリアに、改めて礼を言うライト。

 この質問権はヴァレリアがライトに与えた正当な報酬なのだから、聞けて当然!と思うところだ。

 しかしライトは常に謙虚で、行使して当然の権利に対しても礼儀を忘れない。

 そんなライトに、ヴァレリアは満足げにうんうん、と頷いていた。

 前話で出損ねたヴァレリアさんの登場&六回目の質問です。

 この質問権を行使するのも六回目ですか。

 不思議なもので、その時々でライトの聞きたいことや知りたいことがちゃんと出てくるのですよねぇ。


 作者はサイサクス世界の創造神にして、物語の語り部を兼ねているつもりなのですが。

 もしかしたら、作者もまたサイサクス世界の駒の一つなのかもしれません(´^ω^`)

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