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第1541話 ミーアの疑問と決意

 ディーノ村の父母の家を出て、裏山を駆け登るライト。

 目指すは転職神殿。いつもなら瞬間移動用の魔法陣で移動するところだが、今日は父母の家の手入れに来たので久しぶりに裏山登りに挑むことにしたのだ。


 というか、ここ最近のライトは青龍の鱗のおかげで空まで飛べるようになったので、森や山の中を走る頻度がかなり減った。

 毎朝の日課である魔石回収も、飛行精度を高めるためにカタポレンの木々の間を縫うようにして飛んで移動しているくらいだ。

 しかし、空を飛んで移動するのは楽ちんなことこの上ないが、足腰の鍛錬という面ではあまりよろしくない。

 だからこうして裏山を己の足で登るのも、修行のうちの一つなのである。


 そうして道なき道をしばらく駆け登っていくと、転職神殿に到着した。

 転職神殿の中では、ミーア達がのんびりとお茶を飲んでいた。


「ミーアさん、ミーナ、ルディ、レア、こんにちは!」

『あッ、主様!いらっしゃいませー!』

『パパ様、こんにちはー!』

『パパ、こんにちは♪』


 ライトを見たミーナ達が、嬉しそうな顔で一目散に駆けつけてくる。

 一番小柄なハドリーのレアは、ルディの背中にしがみついていた。


『ライトさん、ようこそいらっしゃいました』

「ミーアさん、お久しぶりです!」

『もうすっかり夏ですねぇ。ライトさんのサイサクス世界での冒険者登録も、もうすぐですか?』

「はい!五日後はぼくの誕生日なので、誕生日の朝イチで冒険者登録するつもりです!」


 ミーアの問いかけに、ライトがはち切れんばかりの笑顔で答える。

 今日は八月七日、ライトの誕生日まであと五日。

 ライトは今からその日が待ち遠しくて、ついつい顔が緩んでしまう。

 そんなニヨニヨ顔のライトに、ミーア達も嬉しそうに微笑む。


『まぁ、あと五日でライトさんの十歳のお誕生日を迎えるのですね』

『主様のお誕生日が近いのですか!? それは是非ともお祝いしなくては!』

『僕もパパ様のお誕生日をお祝いしたいです!パパ様、僕にできることはありますか?』

『パパのお誕生日、とってもお目出度いこと……お祝いするのが楽しみー』


 転職神殿組が挙ってライトの誕生日を祝う旨を口にしている。

 そんな四人に、ライトが申し訳なさそうに話しかける。


「あ、えーと、本当に申し訳ないんだけど、誕生日当日からしばらくはここに来れないと思う……」

『え"。主様、どこかに長期出張なさるのですか?』

「出張じゃないんだけど、冒険者登録したら冒険者ギルドで『冒険者のイロハ講座』を受けなきゃならないんだ」

『パパ様、その『冒険者のイロハ講座』とは、一体何ですか?』

「初心者のための勉強会というか、早い話がチュートリアル?」

『ああ……初心者こそ、チュートリアルは真面目に受けておくべきですねぇ』


 冒険者登録直後はしばらく転職神殿に来れないと言うライト。

 その理由を聞いて、特にミーアが強く頷いている。

 NPCである彼女が属する転職神殿は、チュートリアルを済ませた勇者候補生(BCOユーザー)がその後すぐに訪れる場所。

 チュートリアルをきちんと理解することは、BCOに限らず全てのソシャゲにおいてゲームを楽しむための大事な作業であることを、ミーアは知っているのだ。


『そのチュートリアルは、どれくらい時間がかかるのですか?』

「ディーノ村のクレアさんによると、みっちりやれば一週間だそうです」

『チュートリアルに一週間ですか……それはまた大変ですねぇ』

「はい。でもこのサイサクス世界は、ゲームと違って現実ですから……例え勇者候補生であっても、死んじゃえばそこで終わりなので」

『そうですね……冒険者という仕事は、常に危険と隣り合わせだという話を、ヴァレリアさんから聞いたことがあります』

「はい。だからこそ、冒険者のチュートリアルをしっかりと受けておきたいんです」


 ライトの身を案じるミーア。

 ミーアはかつて、ヴァレリアに『冒険者とは、一体どのようなものなのですか?』と問うたことがある。

 それは、ライトが常々『将来は立派な冒険者になりたい!』と夢を語っていたことに起因していた。



 …………

 ………………

 ……………………



 ミーアがライトと親交を持つようになってから、彼女にはいつも考えていることがあった。



 勇者候補生であるライトさんがなりたい職業『冒険者』とは、一体何なのだろう?

 この転職神殿に『冒険者』という職業はない。

 なのに、何故ライトさんは職業システムには存在しない『冒険者』になりたいのか。

 勇者候補生とは、将来勇者になり世界を救う使命を持つ運命(さだめ)にある者達。

 その運命に唯唯諾諾と従うことなく、勇者となる未来を捨ててまでなりたい未来とは―――



 BCOのNPC、転職神殿の専属巫女であるミーアにとって、勇者候補生とは『己の全てを捧げて尽くす存在』だった。

 ミーアが担う職業システムは、勇者候補生がより強く成長するためになくてはならないコンテンツ。

 彼女のサポート無しには、勇者候補生は転職できないしレベルリセットもできない。

 BCOでのミーアは、とても重要な役割を持っていた。


 だから、サイサクス世界で長い間待ち望んでいた勇者候補生が目の前に現れた時、ミーアは本当に嬉しかった。

 これからは、勇者候補生の手伝いができる!

 未来の勇者様のために、全身全霊全力で尽くそう!

 そう思い張り切っていたのに。

 当の勇者候補生(ライト)は、勇者になるつもりはさらさらないと言うではないか。


 アテが外れた、とまでは思わないが、ミーアは不思議で仕方がなかった。

 勇者候補生としての記憶があるにも拘らず、勇者にはならないとは一体どういうことなのか。

 BCOのNPCであるには、いくら考えても分からなかった。


 だから、ミーアはヴァレリアに『冒険者とは何ぞや?』と聞いてみたのだ。

 そしてその質問に対するヴァレリアの答えと説明は、次のようなものだった。



『基本的に何でも屋』

『魔物の討伐を請け負うなど、BCOの勇者候補生と似ているところもある』

『ただし、強大な魔物と戦って死ぬなんてこともザラにある』

『故に冒険者とは、常に死と隣り合わせの危険な稼業』



 これを聞いた時、ミーアは目の前が真っ暗になった気がした。

 勇者だって魔物と戦いまくり、何度も強大なボス戦をこなさなければならない。

 危険度が大差ないなら、何も冒険者になどならず世界を救う勇者になってもいいだろうに……

 何故ライトさんは、BCOとは全く違う道を歩もうとしているのだろうか———


 そんなことを考えていたミーアは、余程絶望的な顔をしていたのだろう。

 ヴァレリアがミーアに、こうも付け加えた。


『「ライト君の場合、実の父親と育ての親がどちらも冒険者らしいね。親の背を見て育った子が、その後を追っていくのは自然なことなんじゃないかな?」

「ていうか、ライト君は魂こそ埒外の者だけど、魂の器たる肉体は埒内だからね。勇者にならない未来だって、選ぼうと思えば選べるのさ」

「もっとも? 勇者にならない道だって、きっと茨の道に違いないだろうけど」


 その言葉を聞いた時のミーアは、頭を殴られたような衝撃を受けた。

 ライトは勇者候補生であって勇者候補生ではない。

 サイサクス世界で生を受けた埒内の身体に、BCOの記憶を持つ埒外の魂が収まった稀有な人物。

 他者が型に当てはめることなど到底できない存在なのだ。


 この事実に気づいた時、ミーアは決心した。

 例えこの先ライトが勇者にならずとも、私は勇者候補生の魂を持つライトの力になり続けよう。

 それこそが、転職神殿の巫女に課せられた使命なのだから―――と。



 ……………………

 ………………

 …………



『冒険者のイロハ講座』をチュートリアルに例えたライト。

 その『チュートリアル』という言葉が引鉄となり、ミーアの中に様々な思いが浮かぶ。

 そんなミーアの様子に気づくことなく、ミーナやルディ、レアがライトを取り囲む。


『主様、一週間のチュートリアルってどんなことをするんですか?』

「それはまだぼくにも分かんないんだ。レオ兄ちゃんは、クレアさんに講座を受け直すよう度々言われてるようなんだけど。すっごく渋っててさ? どんな講座なのか、聞いても教えてくれないんだよねー」

『もしかして、すっごく厳しいとかですかね……?』

「クレアさんが講師の講座なら、ぼくはいくらでも受けられるけどね!」

『パパ、一週間の間に一度も来れないの……?』

「ンーーー、講座の開催時間にもよるかなぁ……朝から昼くらいまでなら、ここにも来れると思うけど……夕方ギリギリとか、日中目一杯だったら無理だろうなー」


 ミーナ達の矢継ぎ早の質問に、ライトが淀みなく答える。

 実際ライトがレオニスに、冒険者のイロハ講座がどんなものなのかを尋ねても答えてくれないのだ。

 半目でスーン……と表情が抜け落ちかけているレオニスに、ライトはそれ以上追撃をかけることもできなかった。


 しかし、冒険者のイロハ講座の内容が事前に分からずとも然程問題ではない。

 ライトはクレアのことが大好きなので、どんな講座であろうとも楽しく学ぶ自信があるからだ。


「でも!一週間の冒険者のイロハ講座が終了したら、すぐに皆に会いに来るよ!だから皆も待っててね!」

『はい!主様のお誕生日をお祝いできる日を、心待ちにしています!』

『ミーナ姉様、それまでにお使いをガンガンこなして、パパ様にプレゼントできる良いアイテムを探しましょう!』

『ああ、それはいいわね!十日もあれば、絶対に良いアイテムが得られるわよね!』

『私も、ミーナお姉様やルディ兄様といっしょに、パパへのプレゼントを探しにいきます!』


 ルディの提案に、ミーナとレアが大賛成している。

 ミーナとルディ、そしてレアはライトを主とする使い魔。

 使い魔の本分は『どこかを旅して有用なアイテムを拾ってくる』こと。

 五日後の誕生日の後に、冒険者講座で一週間。つまり十日もの猶予があれば、その間に何かしら良いアイテムが得られるに違いない。

 使い魔三体がフル稼働で動けば、どうにかなるさ!という訳である。


 そして、ライトと使い魔三体の仲睦まじい会話を、ミーアが眩しいものを見つめるかのような眼差しで見守っている。

 勇者候補生でありながら、勇者以外の道を目指すライト。

 無限の可能性を持つライトさんの行く末を、ずっと見守りながら支え続けていこう―――それは、転職神殿の専属巫女ミーアが生まれて初めて持つ個人的な願いと決意。

 世界唯一の勇者候補生を温かく見守りつつ、ミーアが心の中で強く誓った瞬間だった。

 前話で訪れたディーノ村の父母の家から、転職神殿に移動したライト。

 父母の家を訪ねたら、当然その後に転職神殿にも行くわよね!゜.+(・∀・)+.゜


 転職神殿組が話に出てくるのは、第1374話以来ですか(゜ω゜)

 作中時間で四ヶ月、作者時間では半年ぶりの登場です(・∀・)

 今話は何気ない会話に終始してしまいましたが、次話以降で本来の目的をこなす予定。

 えぇえぇ、作者の脳内では早くもあの御方が出番のスタンバイをしておりますとも(´^ω^`)

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