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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
大魔導師フェネセン

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第154話 一人彷徨う

「……はい、これで10個目。マキシんぐの足輪取り外し完了っ、と」


 八咫烏マキシの穢れを取り除く際に、魔力暴走を抑えるためにその足につけられた10個のヒヒイロカネ製の足輪。その最後の1個が、フェネセンの手によって外された。


「お疲れサマンサねー。マキシんぐもよく頑張ったね、これで君は晴れて自由の身だ」

「……ありがとうございますっ!」

「俺からも礼を言わせてくれ。フェネセン、ありがとう」


 親兄弟どころかマキシ自身も知らぬ間に仕掛けられ、長年苦しめられ続けてきた穢れという呪縛からの解放。

 その奇跡にも近い御技を惜しむことなく齎してくれたフェネセンに、マキシもラウルも心の底から感謝する。


「ううん、吾輩の方こそマキシんぐに感謝だよー。君のおかげで穢れという存在を知ることができた訳だからねー」

「……いや、吾輩が感謝していいことではないな。その穢れのせいで君は、100年以上も苦しみ続けてきたんだから」

「嫌な言い方しちゃってごめんね」

「い、いえ、そんな、その程度のこと気にしないでください」


 軽く言ってしまった己の失言に気づき、マキシに謝るフェネセン。

 その失言を失言とも感じていなかったマキシは、慌ててフェネセンを止める。


「でも、安心してね。君が受け続けてきた苦痛の分の仇は、吾輩が必ず取るよ」

「廃都の魔城の奴等は決して許さない。奴等が世界中から奪い続けている魔力、その供給を吾輩がこの手で全て潰し断ち切る」

「吾輩はきっと……そのために、この世界に生まれてきたんだ、と思う」


 いつになく真剣な眼差しでその決意を語った後、少しだけ―――本当に少しだけ、フェネセンの浅葱色の瞳が翳りを宿す。

 そんなフェネセンを見て、マキシは心配そうに見ている。

 そして、マキシの横にいたラウルはというと―――


あいおふう(なにをする)ーーー」

「うるせー。要らんこと考えてるバカ弟子に喝を入れてやってんだ」

あんえお(なんでよ)ーーー」

「師匠の愛の鞭だ、ありがたいと思え」


 その手を伸ばし、フェネセンのほっぺたを容赦なくムニるラウル。

 一頻りムニられたフェネセン、師匠(ラウル)の愛の鞭により赤くなった頬を両手でさすりながら、涙目で懸命に抗議する。


「ラウルっち師匠しどい!ていうか、ラウルっち師匠が師匠なのは料理のことだけでしょ!魔法や魔術のことなら吾輩の方が断然上なんだからねッ!?」

「うるせー、料理限定だろうと師匠と弟子という上下関係に変わりないだろうが」

「えッ、そなの!?」


 フェネセンがその顔面中に『ガビーン!』と書かれたようなショックな顔で固まる。

 そんなフェネセンの姿など、気にもとめることなくラウルは容赦なく言い放つ。


「そうだ。それに俺は、魔術師としてのお前に弟子入りしたり指導を仰いだ覚えは一度たりとてない。故に、どれほどお前が偉大な大魔導師で俺より魔術の腕が上だとしても、俺には一切関係ないことだ」

「ええええ……そ、そんなぁ……ラウルっち師匠、横暴がしどい上にずるい……」


 フェネセンは『ガビーン!』顔のまま、がっくりと膝を折る。


「……ねぇ、ラウルっち師匠。今から吾輩に魔術の弟子入りしない?」

「しない。そんな必要もない」

「魔術師としての腕が上がれば、料理にも活かせるかもしれないよ?」

「そんなもんなくても、俺にはこの腕ひとつあればいいことだ」


 フェネセンがラウルを弟子入りさせて、ラウルと同じ師匠という立場になろうとあれこれ必死に口説く。

 だが、当然の如くラウルがそれに靡く気配は一向にない。それどころか、徐々にラウルの気配が怪しくなっていく。


「つーか、フェネセン。お前……」

「ン?何ナニなぁに?」

「お前なんぞ魔術に頼らなければ料理の腕を上げられない、お前の料理の腕はその程度のもんだ、と。お前はこの俺に、そう言っているのか?」


 腕組みして仁王立ちするラウル。今にも射殺いころされそうな鋭い視線と『ズンドコズギャゴゴゴ……』という地の底を大いに揺るがす暗黒オーラのあまりにも凄まじい圧に、フェネセンはただただたじろく他ない。


「ヒョエッ……ララララウルっち師匠?わわわ吾輩、そそそそんなつもりで言った訳ではなくくくく……」

「そうだな、無意識のうちにそう思ってるんだよな?だからつい本音が出ちまっただけ、なんだよな?」


 眼光鋭く全身から黒いオーラを立ち上らせながら、両手をワキャワキャとさせてフェネセンに近づくラウル。

 その手が再びフェネセンの顔に近寄ってくる。

 またムニられる!とフェネセンが目を瞑りながら身構えていると、その手はふいに止まり、フェネセンの肩にポン、と置かれた。


「…………ン?」

「本当に、このバカ弟子は……」


 ムニられることを予想して身構えていたのに、その予想が外れたフェネセンは薄目を開けてラウルを見た。


「レオニスにも言われたろう。『世界の命運を、お前一人が一身に背負うことはないんだ』と」


 ラウルの言葉に、フェネセンはその薄目を次第に大きく見開いていく。


「お前がこの世に生を受けたのは、決して廃都の魔城を根絶させるためだけじゃない。もちろんそれは、お前が背負っていかねばならない宿命かもしれんが」

「それでも、お前の人生はお前だけのものだ。たったひとつのことだけを追いかけ成し遂げる、ただそれだけのためにお前の全てを捧げなければならないものじゃないはずだ」

「目的が完了したら、思いっきり人生を楽しめばいい。……いや、これもレオニスが言ってたように、途中で休憩したっていいんだ」


 先程フェネセンが何気なく呟いた『廃都の魔城を根絶するために生まれてきた』という言葉を、ラウルはどうしても聞き流すことができなかったのだろう。


 廃都の魔城の四帝が、世界中に仕掛けばら撒いたであろう穢れ。その悪辣な罠を看破することができるのも、その穢れを祓うことができるのも、おそらく現時点ではフェネセン唯一人。

 なればこそ、世界を救う手立てを持つ者としてその重責を担うことは当然の流れである。


 だが、ここにいるラウルだけでなく、レオニスもライトも―――この唯一の大魔導師フェネセンをよく知る者こそ、彼を孤独という名の茨の道に追いやるようなことだけはしたくなかった。いや、させたくなかった。

 孤独というものが、どれだけ辛く、寂しく、心細いかを嫌というほど知っているから。


「お前はもともと風来坊であちこちフラフラ渡り歩いてきて、単独行動なんぞお手の物で慣れきっているだろうが」

「一人旅には慣れても、孤独にだけは絶対に慣れるな」


 ラウルが真剣な眼差しでフェネセンに語りかける。


「孤独になんぞ慣れきってしまったら、いつしか他人の存在が目に入らなくなり、終いには誰にも頼れなくなる」

「それとも何か、お前の歩む人生に俺達は不要か?」

「…………!!」


 ラウルの言葉に、思わず首を横にブンブンと思いっきり振り続けるフェネセン。


「そんなことない!吾輩ラウルっち師匠はもちろんレオぽんもライトきゅんも大好きだし、そこにいるマキシんぐとももっと仲良くなりたいし、もっともっとたくさんの友達と出会いたい!」

「だったら必要以上に気負うな。お前の悪い癖だぞ?」


 改めて『もっとたくさんの友達と出会いたい』と口に出したことで、己の内にある願望を自覚できたのだろう。

 ラウルに諭されたフェネセンは、俯きながら静かに頷く。


「……分かった……」

「まぁな、基本一人で何でもできちまうお前だからこその悪い癖なんだろうがな」

「うん、吾輩何でもできちゃうからね!」


 先程まで涙目で頬をさすっていた姿はどこへやら、一転して満面の笑みとともに胸を張りふんぞり返るフェネセン。

 その立ち直りの早さたるや、目を見張る凄まじさである。


「……よし。ではその何でもできちゃう立派な弟子に追い越されないように、俺は師匠としての面子をかけて今晩行われるマキシの全快祝いの準備を今から全力でするので」

「フェネセン、お前は今日一日外で遊んでろ。19時まで戻ってくんなよ?」

「つか、戻ってくんな以前に立ち入り禁止な」


 ふんぞり返るフェネセンの後ろ襟をヒョイ、と摘み、スーン、とした顔つきで階段をすいすいと降り、玄関の扉をババーン!と開け放つラウル。

 次の瞬間、フェネセンはそこからポイー、とまるで猫を追い出すかのように外に放り出されてしまった。


「え、ちょ、待、何ナニ、何事?」


 扉の前でしばし呆然とぺたんこ座りをしていたフェネセン、ハッ!と我に返る。

 慌てて扉を開けようと取手に手をかけガチャガチャと動かしてみるものの、強固な鍵がかかったようにびくともしない。おそらくラウルが封印魔法をかけているのだろう。


「うわぁぁぁぁん!ラウルっち師匠のバカーーー!!」


 近隣に響き渡る大きな声で、フェネセンは大絶叫した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ぬーーーん……」


 ラグナロッツァの屋敷を放り出されたフェネセン、ひとまずカイ達のもとに行って愚痴ろうかと思いアイギスまで歩いていったのだが。

 店の扉には『本日買い出しのため臨時休店』と書かれた札が下げられていた。


「カイにゃん達、出かけてていないのかぁ……ンじゃ、クレアどんとこ行こっかな」


 フェネセンは気を取り直し、ディーノ村の冒険者ギルドの転移門目掛けて飛んだ。

 そして冒険者ギルドでいつもクレアが座っている、定位置の受付窓口に行く。だが、どういう訳かそこにいつもいるはずのクレアの姿が今日は見当たらないのだ。


「クレアどん、トイレ休憩でもしてんのかなぁ……ン?」


 主が不在の受付窓口カウンターをふと見ると、何やら置き型の小さな立て札が置かれている。

 何ぞ?と思いながらその札を見ると『本日クー太ちゃんのトリミング出張のため、この窓口は臨時休止中』と書かれていた。


「ええええ……ドラゴンって、トリミングするもんなの??」


 呆然としたフェネセンが思わず零した、果たしてドラゴンにトリミングなるものは必要なのか?という疑問は大いに頷けるところである。

 だが、トリミングという行為にはシャンプー・爪切り・カット・耳掃除なども含まれるらしい。ペット用エステと考えれば、ドラゴンがその世話になっていても不思議はない。


 とはいえ、不在の空間でいつまでも一人愚痴っていても仕方がない。


「んんんん……あッ、そうだ、ぐりゃいふのとこ行こう!」


 グライフもフェネセンにとっては以前からの知り合いであり、心許せる数少ない友達でもある。

 だが、今回レオニス達のもとを訪ねて以来、グライフにはまだ一度も会っていなかった。

 旅に出る前に、ぐりゃいふにも一目会っておこう。フェネセンがそう考えるのも当然のことである。


 さぁ、善は急げ!とばかりにディーノ村の冒険者ギルドの転移門は使わずに、そのままラグナロッツァの冒険者ギルド総本部の転移門に飛ぶフェネセン。

 ここでフェネセンは、ラグナロッツァの屋敷の転移門に飛ぼうと思えば飛ぶこともできた。だが、屋敷をポイーと追い出された以上、無理にこじ開けてまで屋敷に入るつもりはなかった。


 そもそも今頃ラウルの方も、マキシの全快祝いのごちそうを頑張って用意いることだろう。

 その作業をサポートできるほど、フェネセンの料理の腕も上達していない。師匠の頑張りを邪魔したり、足を引っ張るような無様な弟子にはなりたくなかったのだ。


 そんな思いを抱えながら、冒険者ギルド総本部からスレイド書肆に向かうフェネセン。

 久しぶりに訪ねるスレイド書肆。ぐりゃいふ、元気にしてるかな?相変わらず本まみれののんびり穏やか生活送ってんのかな?

 ワクテカ顔で軽やかなスキップで歩くフェネセン、目的地のスレイド書肆の前に辿り着く。


 久しぶりに訪れたスレイド書肆、歴史を感じさせる風格のある建物に重厚な扉。その扉には、一枚の札が掛けられていた。


『本日店休日』


 目を大きく見開き、顎が地面につきそうなくらいに口を開いたまま愕然と扉の前で立ち尽くすフェネセン。

 がっくりと膝を折り、地に崩れ落ちていく。

 フェネセンの身体は次第に小刻みに震え、俯き地面を眺めていた顔をガバッ!と上げて天を仰いだかと思うと、渾身の力で叫んだ。


「ぐりゃいふの、バカーーーッ!!!!!」

 作者自身ペットを飼ったことは一度もないので、トリミングのことについて今回初めてあれこれと調べてみました。

 トリミングというと、毛のカットとかのお手入れくらいしか思い浮かばなかったのですが、それ以外にもいろいろとお手入れしてくれるものなんですねぇ。

 今やペットも家族として大事に慈しまれる時代、そういう付加価値を求め高める産業が育つのも納得というものです。


 そして、各方面でフラれ続けるフェネセンの運命や如何に?

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