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第1539話 新たな懸念

 アクアの背に乗って、目覚めの湖から暗黒の洞窟最奥にある小さな泉にダイレクトに移動したライト達。

 アクアが目覚めの湖の湖面に潜ってから、ほんの数瞬で周囲が暗くなり紫炎が灯る空間に辿り着いた。


『到着したよー』

「「早ッ!」」

『そりゃアクア様の水中移動だもの、早くて当然よ?』


 あっという間もなく目的地に到着してしまったことに、アクアの能力を知っているライトとレオニスですら驚愕してしまう。

 もっとも水の女王だけは、アクアの能力をドヤ顔で誇っているが。

 そんな話をしていると、暗黒神殿からクロエと闇の女王が駆けつけてきた。


『パパ、ライトお兄ちゃん!アクアお兄ちゃんに水の女王さんもいらっしゃい!』

『突然強大な力が現れたと思ったら、アクア様でしたか……水の女王、其の方ともまた会えて嬉しいぞ』


 ライト達の突然の来訪に、嫌な顔一つせず歓迎してくれる闇の女王とクロエ。

 そんな心優しい二人に、ライト達も破顔しつつ応える。


「闇の女王様、ココちゃん、こんにちは!」

「ココ、久しぶりだな。闇の女王も元気そうで何よりだ」

『闇のお姉ちゃーん!レオニス達が闇のお姉ちゃんのところに行くって言うから、私もついてきちゃったー♪』

『ココちゃん、闇の女王、こんにちは』


 ライトとレオニスにガバッ!と抱きつくクロエに、水の女王が闇の女王の胸にバフッ!と飛び込む。

 相変わらず愛情表現がストレートな二人だが、己の気持ちを素直に出せるのは良いことである。


『今日はラウルお兄ちゃんやマキシお兄ちゃんはいないの?』

『二人とも仕事でな。といってもラウルの方は畑弄りで、本業の執事の仕事じゃないがな』

『そっかぁ、お仕事じゃ仕方ないよね。てゆか、畑弄りって執事さんのお仕事の一つじゃないの?』

「ンー、普通なら執事の仕事じゃないな。もっともうちのラウルの場合、もとから普通の執事じゃないがな!」


 クロエの素朴な疑問と質問に、レオニスがニカッ!と笑いながら答える。

 爽やかな笑顔に反して言ってることは何気に失敬だが、クロエの横にいる闇の女王が密かに『この主人にしてあの執事あり、だな』と思っていることはナイショである。


『して、レオニスよ。今日は何用で来たのだ? 水の女王やアクア様とともに来たのならば、何かしら重大な所用があって来たのだろう?』

「ああ、実は今、俺達はまた属性の女王達のもとを訪ねて回っていてな―――」


 ライト達の来訪目的を尋ねる闇の女王に、レオニスが転移門設置計画の話を打ち明ける。


『ふむ……なかなかに良い計画ではないか。我ら属性の女王達のみならず、神殿守護神達の親睦をも得られるというのは実に素晴らしい』

「そうなんだよな。属性の相性によっては、どうしたって会えない相手も中にはいるが……それでも現状よりは、はるかに交流ができるようになる。だから、この暗黒の洞窟の最奥にも転移門を作る許可をもらえるか?」

『もちろん良いとも。これはきっと吾だけでなく、ココ様にも利があるだろうからな』

「ありがとう!じゃ、早速転移門を作らせてもらうから、闇の女王達はライトやアクア達とお茶でも飲んで待っててくれ」

『承知した』


 闇の女王との交渉も無事進み、早速レオニスが転移門設置に取りかかる。

 その間ライトは闇の女王やクロエとお茶をするべく、テーブルや食べ物の支度をし始めた。


『ライトお兄ちゃん、今日はどんなお菓子があるの?』

「えーとねぇ、ぼく達まだお昼ご飯を食べてないから、何かお腹に溜まるようなものを出すつもりなんだ。ココちゃん達は甘い物の方がいい?」

『ライトお兄ちゃんが出してくれるものなら、何でもいい!甘いのもしょっぱいのも、全部美味しいもん♪』


 お茶の支度を進めるライトの後ろで、クロエがワクテカ顔で待っている。

 すると、ライトの話を聞いた水の女王が話に入ってきた。


『あ、ねぇ、ライト、そしたらうちの湖で獲った魚や貝を焼いて食べない? ほら、こないだ湖底神殿で闇のお姉ちゃん達にご馳走したみたいに』

『あッ、それ嬉しいー!ママともよくお話ししてたの、目覚めの湖で食べたお魚がすーっごく美味しかったから、また食べたいねって!ねー、ママ?』

『ええ、先日馳走になった魚介類は実に美味でしたな』


 水の女王の提案に、クロエが顔を綻ばせながら喜んでいる。

 水の女王やクロエ達が言うこないだとは、今年の黄金週間中のクロエの初めてのお泊まり会の時のこと。

 クロエ達は、一泊二泊の二日目に目覚めの湖を訪れた。

 その時に受けたもてなし、初めて食べる目覚めの湖産の魚介類の美味しさは、今でも彼女達の心に強く残っていた。


『あら、それは嬉しいわね!ちょうどいいお土産になったようで良かったわ。そしたらライト、魚を焼く手伝いをしてくれる?』

「分かりました!じゃあ、テーブルから少し離れたところで焼きましょう」


 水の女王とともに、いそいそとテーブルから離れるライト。

 火を使っても大丈夫なように、暗黒神殿前の庭園や草木から離れた場所を選んでアイテムリュックからバーベキュー台を取り出した。

 一方で水の女王は、自分のお腹に右手を入れて何かを取り出した。

 それは、目覚めの湖産の串打ち済みの魚。

 いつか再び闇の女王やクロエに会えた時のために、水の女王がラウルに頼んで下準備してもらっておいたものだ。


 バーベキュー台に炭を入れ、火魔法で着火する。

 本来バーベキュー台の炭への着火は時間がかかるものだが、火の姉妹の加護を得ているライトならお手の物だ。

 バーベキュー台の網の上に串打ち済みの魚を置き、時折上下をひっくり返しながら焼く。

 ついでに余ったスペースに貝も置いた。これも水の女王の手土産の一つである。


 そうした一連の作業を、クロエやアクアが興味深そうに見ている。


『うわぁ……何か、すっごい良い匂いがしてきたぁー』

『今の目覚めの湖は、水の女王だけでなく僕の魔力にも満ちているからね。目覚めの湖で獲れる魚や貝は、魔力と栄養たっぷりでとても美味しいんだ』

『アクアお兄ちゃんって、本当にスゴいのね!』

『フフフ、だって僕はココちゃんのお兄ちゃんだもの』


 魚介類が美味しく焼けていくのを見守りながら、仲睦まじい会話をするアクアとクロエ。

 二者は神殿守護神なので、実の兄妹という訳ではないのだが。

 自分より数ヶ月先にこの世に生まれたアクアをクロエは兄と慕い、クロエから兄と慕われるアクアもまた妹分の存在がこの上なく可愛いようだ。


 ライトの周りでキャッキャウフフ☆な光景が繰り広げられる中、闇の女王は転移門を設置中のレオニスの方にいた。


『ほう……人族は存外難しい魔法陣を使いこなしておるのだな』

「まぁな。人族ってのは基本的に魔力が乏しい種族だからな。魔力が少ない者でも魔法や魔術が使えるよう、様々な趣向を凝らして日々努力してるのさ」

『弛まぬ努力の賜物か。そういう其の方も、これまで血の滲むような研鑽を続けてきたのであろう』

「……まぁな」


 闇の女王の何気ない言葉に、レオニスが少しだけ照れ臭そうに笑う。

 レオニスは生来の魔力量の多さもあり、確かに天賦の才に恵まれた方ではある。

 しかしそれに胡座をかくことなく、ただひたすらに強さを求めて日々努力し続けてきた。

 そのことに理解を示してくれる者は、思いの外少ない。

 故にこうした言葉をかけられるのは、珍しくもあり嬉しくもあるのだ。


 レオニスが転移用の魔法陣を敷き、操作用石柱を設置しながら闇の女王に説明をする。


「これの使い方は、また後日教える。転移門の運用開始は、全ての女王達のもとに転移門を設置し終えてからを予定している」

『おお、それは楽しみだな』

「転移門の動力源は、ここに置いてある魔石を使用している。この魔石というのは、基本的には水晶に魔力を溜め込んだものでな。溜めた魔力を使い切るとただの水晶に戻るから、魔力がなくなったら補充してやってくれ」

『承知した』


 簡単ではあるが、転移門の説明をするレオニスの話を闇の女王が真剣に聞き入っている。

 するとここで、闇の女王がはたとした顔でレオニスに話しかけた。


『……ああ、そういえば其の方に伝えておきたいことがあった』

「ン? 何だ?」

『ココ様の配下のマードンだが……奴を覚えているか?』

「覚えているも何も、アレをここに持ち込んだのは俺だし……つーか、そもそもアレを忘れる方が難しいだろう……」

『うむ……まぁな』


 闇の女王の問いかけに、レオニスがスーン……とした顔になりながら答える。

 マードンとは、かつて屍鬼将ゾルディスの配下として扱き使われいた暗黒蝙蝠の変異種。

 その独特な口調と煩さで、一度会えば絶対に忘れられないことこの上ない魔物である。


「……で? 奴がどうかしたのか?」

『先日カタポレンの森の東の方で、何か変なものを見つけたらしい』

「変なもの? 一体どんなものを見つけたんだ?」

『それがよく分からんのだ。吾もココ様からそれを聞いて、闇の精霊を遣わしてその目を通して見てみたのだが……一見ただの小さな洞窟なのだが、そこから異質な空気が漏れていることは分かる。ただし、それ以外は全く分からんのだ。闇の女王としての全ての記憶を辿っても、それに該当する事象がないのでな』

「闇の女王でも分からんことか……」


 顔を曇らせつつ語る闇の女王。

 ほんのりと不穏さが漂う話に、レオニスの顔も曇る。


 闇の女王の知識の豊富さは随一であり、かつて天空島が邪竜に襲われて邪皇竜メシェ・イラーザが出現した時にも臨機応変に対応策を出せた。

 そんな彼女でも心当たりがない異質なものとは、話を聞くだけで不安になる。


 ちなみにその異質な洞窟に、マードンに中に入って探索するよう命じたのだが。マードンは大号泣して使い物にならないのだという。

「コレに入ッたーら、我、絶対()んじゃうロースぅぅぅぅ!」

「い、いえッ、ココしゃまと闇の女王しゃまのご命令とあらァば、この命を賭し賭し賭し賭し……やッぱ無理ィーーー!」

「コレ、我のちッちゃなお手ェ手ェには、到底負えまッしぇーーーん!」

 等々、ずーっと泣き喚いてどうにもならなかったのだとか。

 そのあまりの煩さにクロエも闇の女王も閉口し、それ以上無理強いするのは諦めたらしい。

 本当に使い物にならない奴である。


「俺の方でも警戒はしておこう。その異質な小洞窟ってのは、どの辺りにあるんだ?」

『ここからかなり遠い東の方、としか言いようがないが……ああ、そこからもう少し先にいくと鬼人の里があったな』

「何? 鬼人族の東の里か?」

『そうだ。それくらいしか目安のない場所でな』


 闇の女王がもたらした追加情報に、レオニスの顔がますます険しくなる。

 カタポレンの森の安寧は、レオニスに課せられた重大な使命。

 この森に異変が起きれば、アクシーディア公国のみならずサイサクス大陸全土に異変が起きかねない。

 それを未然に防ぐには、レオニスが動くしかない。


「闇の女王、明日明後日のうちに東の警邏に出る。もし可能なら、闇の精霊にその小洞窟まで案内してもらいたいんだが……昼間でも頼めるか?」

『其の方が身に着けている黒水晶の中に、闇の精霊を入れば可能だ。今晩のうちに闇の上級精霊を遣わそう』

「そうしてもらえるとありがたい」

『何、その程度のこと造作もない。この森の安寧は、ココ様と吾の安寧にも繋がること故な。助力は惜しまぬ』


 闇の女王の協力を得られることに、レオニスは安堵する。

 するとここで、クロエがレオニス達のもとにやってきた。


『パパー、ママー、お仕事の方はどうー?』

「おう、もうすぐ終わるぞー」

『そしたら皆でお昼ご飯にしよー!水の女王さんがくれたお魚と貝を、ライトお兄ちゃんが焼いてくれたのー!』

『ああ、確かに芳ばしい香りが先程からしますな』


 背中に生えた黒い翼をパタパタと動かしながら、笑顔で父母のもとに駆け寄るクロエ。

 先程まで険しい顔をしていたレオニスと闇の女王の表情も瞬時に和らぐ。


「……よし、転移門の方はこれでもう大丈夫。そしたらココといっしょに、目覚めの湖の魚介類をご馳走になりに行くか」

『うむ。先程の件もよしなに頼む』

「おう、任せとけ」


 小声で手短に会話を交わしたレオニスと闇の女王。

 その後クロエに手を引っ張られながら、ライト達のいるテーブルの方に移動していった。

 舞台は目覚めの湖から移動し、暗黒の洞窟最奥でクロエと闇の女王との再会です。

 作者的には、この二人も久しぶりー!とか思うのですが。クロエのお泊まり会で会ってて、第1442話まで出てきてるんですよねぇ( ̄ω ̄)

 故に実際には前回登場から100話弱の再登場なんですけど、作者の時間的感覚が本当にバグってきてんのかしら?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)

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