第1532話 ジャッジ・ガベルの内部探検・その二
階段を上り、二階に着いたライト達。
長い廊下にはいくつもの扉がついていて、中を見ると六畳一間程度の小部屋に質素なテーブルと四脚の椅子が置かれている。
三部屋ほど覗いてみたが、どの部屋も全く同じ作りをしていた。
豪華絢爛かつ社交性の場という色合いが強かった一階に比べて、かなり質素で異質な印象だ。
三部屋を見終えたレオニスが、頭上のさるぼぼガベリーナに問いかけた。
「これらは一体何のための部屋なんだ?」
『一番小さい部屋は『調停室』、他は『事務室』や『待合室』、『記者室』などがある』
「???……小難しい言葉で何だかよく分からんが、一応用途というか何らかの目的があって作られているんだな」
『うむ。ただ、この二階の各部屋が何のためにあるか、私自身全く分かっていないのだがな』
「「「…………」」」
レオニスの質問に、ガベリーナが淀みなく真面目に答える。
しかしその答えは何ともアテにならないもので、レオニスだけでなくライト達も思わず脱力している。
ガベリーナが語った『調停室』『事務室』『待合室』『記者室』、これらは全て現代日本の裁判所に実際にある部屋だ。
このサイサクス世界にも一応裁判はあるが、現代日本とは全く違うシステムなのでレオニスには今いちピンとこない。
ただし、ライトだけは『ぁー、この階は裁判所そのものなのね……』と内心で納得していた。
この二階は、その作りからして『裁判所エリア』とも呼ぶべき場所。
審判者を自負するガベリーナにとって、各部屋の意味は分からずとも全てが不可欠な空間ということなのだ。
そして裁判所に必ずある『法廷』は出てきていない。
これは、先程ガベリーナが言っていた『一部関係者以外立入禁止の場所』に該当するためだ。
ガベリーナは法廷の場所を他者に明かすつもりはないので、最初からその存在すらも言及しないという徹底ぶりである。
二階の半分くらい回ったところで、さるぼぼガベリーナが下にいるレオニスに声をかけた。
『二階で見せられるのはここまでだ』
「ン? 一階の広さの半分くらいしかまだ見てない気がするが…………ああ、他の部分は関係者以外立入禁止ってことか?」
『そうだ』
「なら仕方ないな。次の三階に行くか」
『うむ』
ガベリーナの意図をきちんと汲み取るレオニス。
何故見せられないのかを聞き出すほど、レオニスは野暮ではない。誰にだって触れられたくない部分はある。
そうしたさり気ない気遣いに、さるぼぼガベリーナも満足そうに頷いている。
そうしてライト達は再び階段を上り、三階に移動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……こりゃまた、何つーか……」
「「………………」」
三階に上がって、数歩歩いたレオニスが思わず呟く。
ライトとラウルに至っては、眼前の異様な光景に言葉を失っている。
少し狭い通路の左右には、鉄格子が嵌められた暗くて狭い檻が続く。
それは、紛うことなき囚人用の独房だった。
石造りの壁で窓一つなく、灯りは通路の天井に等間隔で設置されているランタンのみ。
人や生き物の気配は全くないが、地下牢獄のような異様な空間は気味の悪さが際立つ。
カツン、カツン……というライト達の歩く足音が響く中、ライトがおそるおそるガベリーナに問うた。
「ガ、ガベリーナさん……ここは、罪人を捕らえておく檻、ですか?」
『そうだ。ここには私の裁きを待つ囚人が入る』
「ちなみに、実際にここに囚人が入れられたことは……」
『ない』
「ですよねー……」
薄暗い通路を歩きながら小声で会話するライトに、事も無げに答えるガベリーナ。
ライトは本当におそるおそるといった感じだが、ガベリーナは普通に会話しているので声に張りがあって通路内に反響している。
何故裁判所内に監獄があるのか―――甚だ謎ではあるが、弁明の余地もない極悪人を捕らえた場合、速やかに裁判を開いて刑罰に処すためであろうか。
あるいは拘置所を兼任しているのかもしれない。
もっとも一階や二階の各部屋同様、この牢獄はこれまで一度も使われたことがないらしいので完全に無用の長物のようだが。
「さて、あとは四階か?」
『すまぬが四階は、階段で屋上に出る以外は全て立入禁止だ』
「そっか、じゃあガベリーナの内部見学ツアーはここまでだな」
『うむ』
最上階の四階は『関係者以外立入禁止』として見ることはおろか立ち入ることさえ一歩も許されなかった。
ガベリーナの話によると、そこは外の砲門他外部への攻撃手段を管理するエリアらしい。
外からも見える、あの大小様々なサイズの砲門や機銃。
その操縦席に相当する箇所となれば、現代日本の自衛隊同様に機密事項扱いも当然である。
「ガベリーナ、いろいろと見せてくれてありがとう」
「ガベリーナさん、ありがとうございました!ジャッジ・ガベルの中を見れるなんて、夢のようですっごく楽しかったです!」
『うむ。大したものでもないと思うが、楽しめたなら重畳だ』
内部見学ツアーの礼を言うライトとレオニスに、さるぼぼガベリーナが右手をピッ!と上げて応える。
城というには特殊過ぎる構造のジャッジ・ガベル。
他の通常の神殿とも全く違う独特な作りに、ライト達はただただ感心するばかりだ。
するとここで、ラウルがレオニスに向けて声をかけた。
「ご主人様にガベリーナ、そしたら今からどこかで休憩しないか?」
「おお、そうだな。ガベリーナに砂の女王もどうだ、今から茶でも飲むか?」
『お茶会? いいわねー、賛成ー♪』
『うむ、私も異論はない』
ラウルの提案に、レオニスだけでなく砂の女王とガベリーナも賛成している。
一階から三階までの探検?でかなり歩いたので、休憩の提案は皆大歓迎だ。
「そしたらどこでお茶にする? 一階のあのホールは、さすがに広過ぎると思うが……」
「俺達が前にここに来た時には、屋上で夜空を見上げながらお茶会をしたが……今は砂の下に潜ってるよな?」
『うむ。私の周囲には常時結界を張っているから、屋上に出れぬこともないが……今外に出たところで、何も見えんぞ?』
「だよな……」
お茶会の開催場所について、レオニスとガベリーナが話し合っている。
前回初めて訪問下時には、ガベリーナが地上に現れたので屋上の展望台のようなところで四人でお茶にした。
ガベリーナの結界は砂埃を通さないので、砂の中に潜っていても屋上展望台は普通に使える。
だが、今は地中深く潜っているので、屋上に出たところで真っ暗闇で何も見えない。
それならまだジャッジ・ガベルの中でお茶をした方がいいように思える。
するとここで、ラウルがさらに提案をしてきた。
「そしたら、さっき見せてもらった給湯室での休憩室はどうだ? 五人程度で茶をするには十分な広さだったろ」
「そうだな……それが一番良さそうだ。砂の女王にガベリーナも、それでいいか?」
『いいわよー♪』
『うむ、私も異論はない』
ラウルのさらなる提案に、皆同意している。
三階の拘置所エリアは論外だし、二階の裁判所エリアもお茶会に適しているとは言い難い。
となると、一階に戻って手頃な広さの給湯室で休憩を取るのが一番手っ取り早いことは間違いない。
「じゃ、皆で給湯室に戻るか」
「『賛成ー♪』」
レオニスの呼びかけに、ライトと砂の女王が両手を上げて賛成している。
一方さるぼぼガベリーナは無言だが、短い両手を真上に上げて賛成の意を示している。
そうしてライト達は、三階から一階まで階段で下りていった。
前話に続き、今回もジャッジ・ガベルの内部探検です。
二階の裁判所エリアについては、リアルでの裁判所の間取りをもとにあれこれと捻り出しています(・∀・)
そのついでに一階は宝塚風、二階は独房、三階は監獄などという、一見とんでもない間取りまで出しちゃったりなんかして。
作者の偏見により、いろんなものが混じるガベリーナ。
間違いなく唯一無二の、喋る神殿さんなのです(`・ω・´)




