第1525話 ラウルへの打診とその答え
ルティエンス商会での買い物を終えたライト達。
ロレンツォに別れを告げて店を後にし、冒険者ギルドツェリザーク支部に向かった。
このまま移動すれば、ツェリザーク支部に正午ちょうどくらいに着くはずだ。
お昼ご飯はどこで食べようねー?なんてのんびりとした会話をしながら、冒険者ギルドツェリザーク支部に入るライト達。
レオニスとの待ち合わせ場所であるギルド内売店にいくと、そこには既にレオニスが待っていた。
「あ、レオ兄ちゃんだ。もう来てたの?」
「お、おかえりー」
「何だ、ご主人様、えらく早いお帰りだな。ツェリザークの領主との話はそんなに早くに終了したのか?」
「実はだな―――」
ギルド内売店に入り、レオニスと合流したライト達。
既に買い物=ぬるシャリドリンク一本分の会計を済ませていたレオニスが、ラウルに買ってやったものを早速手渡している。
領主との対談に向かったレオニスの方が、話が弾むなりして時間がかかって後に来ると思っていたのに。意外にも想定以上に早く切り上げたらしいことに、ライト達が驚いている。
そんなライト達に、レオニスがその経緯を話した。
ツェリザーク領主、ジョシュア・スペンサーが氷の洞窟の主達に会いたがっていること、その実現のためにはラウルが仲介した方が早くて確実なこと、今日ラウルとともにツェリザークを訪れていることを話したら、ジョシュアに『ツェリザークの救世主に、是非ともお目にかかりたい!』と言われ、今日の昼食を誘われたこと等々。
レオニスが語るそれらの話を、ラウルは静かに聞いていた。
「―――という訳なんだ。ラウル、一度ツェリザーク領主に会ってくれないか?」
「そりゃご主人様のたっての頼みとあらば、聞かんこともないが……」
レオニスの問いかけに、しばし思案するラウル。
そして徐にその口を開いた。
「今から俺がする質問に、ご主人様の率直かつ忌憚ない意見を聞きたい。その答えによって、俺が出す答えも変わってくる」
「何だ?」
「そのツェリザーク領主、ジョシュア・スペンサーは信頼に値する人物か?」
ラウルが答えを出す前に、レオニスにした質問。
それは『ジョシュア・スペンサーは、本当に信用できる人間なのかどうか』ということ。
氷の洞窟の主達、氷の女王や玄武に会わせるならば、善良であることは当然の大前提で、なおかつ彼女達に引き会わせるだけの価値やメリットはあるのか―――ラウルはレオニスに、暗に問うているのだ。
そうしたラウルの思いに、レオニスは即座に答えた。
「もちろんだ。俺だって、スペンサー侯に会ったのは今日が初めてだが……さっきまで領主邸で話していて、スペンサー侯はこのツェリザークという街を心底愛し、氷の女王達に対してもものすごく敬愛していることがよく伝わってきた」
「それにラウル、お前も知っている通り、今回スペンサー侯に会いに行ったのはプロステス領主のアレクシスからの依頼だ。もしスペンサー侯が会うに足る人物ではないとしたら、アレクシスだって俺に会ってくれなんて頼むはずがないさ。それはお前にも分かるよな?」
「…………そうだな」
レオニスの的確かつ真摯な答えに、ラウルも納得している。
かの領主と実際に会って話をしたばかりのレオニスの様子からすると、決して悪い人物ではないだろうことはラウルにも分かる。
しかし、それはそれとして、ツェリザーク領主の人物評価をレオニスの口から直接聞きたい、とラウルは考えたのだ。
そしてレオニスが口にした答え『アレクシスの紹介なんだから、ジョシュアはちゃんとした人物だ』という評価と考え方は、偶然にもそのままレオニスとラウルの関係にも当てはまっていた。
もしジョシュアがいけ好かない者だったら―――レオニスの性格上、ラウルへの橋渡しなどその場できっぱりと拒絶するはずだからだ。
つまり、レオニスがラウルへの橋渡しを引き受けた時点で、ジョシュア・スペンサーはレオニスの信頼をそれなりに勝ち取ったという証をも得ていた。
「……ま、いいだろう。ご主人様とアレクシスの紹介ならば、悪人ってことはまずないだろうしな」
「じゃあ、今からツェリザーク領主邸での昼食会に付き合ってくれるか? 俺とラウルの二人だけじゃなく、今日ツェリザークに来た全員、ライトとマキシも含めて四人分の食事を用意すると言ってくれていたんだ」
「おお、それなら安心だし是非ともお邪魔しないとな。ツェリザーク領主邸で出す食事なら、昼食でもそれなりに期待ができそうだし」
レオニスの頼みを承諾したラウル。
OKを出した理由の一つに『ツェリザーク領主が用意する食事なら、絶対に美味いもんが出てくるだろ!』という期待感が含まれているのが、実にラウルらしい。
そんな計算高いラウルに、レオニスがさらなるジョシュア・スペンサー情報を伝える。
「そういやスペンサー侯が、お前のことを『殻処理貴公子様』と呼んでいて、それはもう尊敬している様子だったぞ?」
「何ッ……?」
「さらにはこうも言っていたぞ。『我がツェリザークの大恩人!』『ツェリザークの救世主に、心から感謝しているのだ!』ってな。でもって、ラウルの様々な業績を讃えるために、お前の銅像を建てる計画を立ててたらしい。さすがに銅像は大袈裟だし、税金の無駄遣いになってもいけんから俺が止めておいたがな」
「……そいつ、大丈夫か? 本当に信用していいヤツなのか?」
ジョシュアのなかなかにトンチキな言動に、ラウルがかなりドン引きしている。
ラウルが各街で時折こなしている殻処理依頼は、確かに多大な貢献だろう。
しかし、面白二つ名ならともかく銅像建立はさすがに大袈裟過ぎる。
というか、ラウル自身行く先々で自分の銅像がお出迎えしてくれるなんて状況に陥りたくない。その図を想像しただけで寒気が走る。
しかめっ面で訝しがっているラウルに、レオニスがラウルの背中をバンバン!と叩きながら高笑いする。
「大丈夫、大丈夫!お前の仕事がそれだけ高く評価されて、皆から感謝されてるってことだ!」
「うぬぅ……それならいいが……銅像だけは勘弁だぞ? そんなもんが作られたら、俺は一生その街には行かんからな?」
「それこそスペンサー侯に直接言ってやれ。今からちょうど会いに行くことだしな!」
「それもそうだ。直接文句を言ってやろう」
笑いながら励ましの言葉をかけるレオニスに、ラウルが渋い顔のまま応じる。
ツェリザーク領主邸へ四人全員で出向くことがほぼ確定となり、ライトやマキシもラウルに声をかけた。
「ラウル、ツェリザークの人達にそんなに尊敬されてるなんて、ホントにスゴいね!」
「まぁな……つーか、そもそも殻集めは俺の畑作りのためだから、そこまで尊敬されることでもないんだがな」
「人々のためになる仕事ができるというのは、本当にすごいことだよ!ていうか、ラウルの銅像なら僕も見てみたい!きっとすっごく格好いいよね!」
大好きなラウルが高い評価を得ていることに、ライトとマキシの顔がキラッキラに輝く。
そしてラウルの銅像を見たい!というマキシの言葉に、ラウルは再び渋い顔で呟く。
「ぉぃ、マキシ、それはヤメロ……建てるならご主人様の銅像の方が先だろ」
「ぉぃ、ラウル、お前こそヤメロ……俺の銅像とか、何でそんな要らんもんを建てられなきゃならんのだ」
「えー、何でー!? ぼくもレオ兄ちゃんやラウルの銅像を見たーい!」
「僕もライト君と同じ意見です!レオニスさんとラウルの銅像なら、絶対に格好いいはず!ですよね、ライト君!」
「うん!」
「「………………」」
苦虫を噛み潰したようなラウルからの流れ弾に、レオニスがギョッとしながら反論する。
しかし、ライトとマキシは敬愛する二人の銅像を見たい!と心から望んでいるようだ。
如何に日頃から可愛がっているライト達の願いであっても、こればかりはハイ、ソウデスカ、喜ンデ!と頷く訳にはいかない。
レオニスとラウルは、口にこそ出さないが内心で『こりゃ絶対に、何が何でもツェリザーク領主を止めなきゃならんな……』と同じことを考えていた。
「……さ、与太話はそろそろ終いにして。これからツェリザーク領主邸に行くぞ」
「「はーい!」」
「おう」
ギルド内売店を出る前に、ライトとラウルとマキシがそれぞれぬるシャリドリンク一本を購入し、その全てがラウルに手渡される。
そしてこのぬるシャリドリンク、未だにお一人様一方でまでの個数制限がかかっているが、それだけ大人気で品薄状態が続いているのだろう。
ツェリザークに出かけたら、ぬるシャリドリンクを買うのはもはやお約束である。
そうしてライト達は冒険者ギルドツェリザーク支部を出て、四人揃ってツェリザーク領主邸に向かっていった。
ツェリザークで別行動を取り続けていた四人の合流です。
ツェリザーク領主に会うにつき、レオニスはラウルに強要するつもりは全くありません。
ラウルの意思を尊重し、もし彼が会いたくないと言えば無理に会わせることなく三人を先にラグナロッツァに帰してから一人だけで領主邸に向かい、再度ジョシュアに会って詫びるのがレオニスの役割。
そのために、まずはラウルの意思確認を取った訳ですね(・∀・)
後半の方ではラウルの銅像建立話に再び花が咲いてしまいましたがwww
てゆか、最後の最後に突然ぬるシャリドリンクが生えてきた件…( ̄ω ̄)…
何でしょう、ラウルだけでなく作者まで『ツェリザークに出かけたら、必ずぬるシャリドリンクを買わなきゃね!』という妙ちきりんな思考に染まっている気がするんですけど。気のせいですかね?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄) ←結構本気で焦ってる




