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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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1523/1683

第1523話 マキシが学んだこと

 時は少し遡り、レオニスがスペンサー邸に向かっている頃。

 レオニスと分かれたライト達は、ルティエンス商会にいた。

 ルティエンス商会の入口の扉の前で、ラウルがライトとマキシに声をかける。


「俺は今から殻処理依頼をこなしてくるから、俺が迎えに行くまで待っててくれ。何か欲しいもんがあったら、今日は俺が奢ってやろう。あまり高いものじゃなければ、だがな」

「「はーい!」」

「じゃ、いってくる」

「いってらっしゃーい!」

「ラウル、お仕事頑張ってねー!」


 ルティエンス商会の前で踵を返し、颯爽と去っていくラウル。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、ライトが店の扉を開けた。


「こんにちはー。ロレンツォさん、いらっしゃいますかー?」

「………………」


 ルティエンス商会の扉を開くと、扉の内側につけられた鈴が鳴る。

 ここ最近のライトは、マッピング移動で裏口から入ることが増えたので、この軽やかで心地の良い澄んだ音色を聞くのは久しぶりな気がする。

 実際ライトがこの音色を聞くのは、今年の正月に挨拶に訪れて以来半年以上ぶりのことだ。


 店の中に意気揚々と入っていくライトの後ろを、マキシがおずおずとついていく。

 もちろん店内には人っ子一人おらず、鈴の音だけが鳴り響く。

 そしてライトはもう慣れっこだが、店内のあまりの胡散臭さにマキシの顔が青褪めていき、ライトのマントの裾をギュッ……と握りしめていた。


「ラ、ライト君……こ、ここは何のお店なんですか……?」

「えーっとねぇ、一言で言えば雑貨屋さん? 骨董品や珍しい品がたくさんあって面白いし、ペレ鍛冶屋さんでも使っている武器防具の強化素材の取り扱いもあるんだよー」

「そ、そうなんですか……」

「ちなみにラウルもこのお店の常連客でさ、いくつか調理器具を買ってるんだよねー。オーガサイズの巨大お玉とか、芋煮しか美味しくならない呪いの鉄鍋とかね!」

「ぁ、ぁぁ、あの呪いの鉄鍋ですか……ウヒー!」


 ビクビクしながら問いかけるマキシに、ライトはあっけらかんとした明るい声で答え続ける。

 ラウルが贔屓にしている店ならば、きっとこの店は信頼できるとても良い店なのだろう、ということはマキシにも分かる。

 しかし、壁一面にびっしりと掛けられた数多のお面が何しろ怖過ぎる。

 そのお面の中の一つと目がバチッ☆と合ったような気がしたマキシ、思わず小さな悲鳴を上げていた。


 すると、店の奥からロレンツォが出てきた。


「おや、ライトさんではないですか、いらっしゃいませ。ご無沙汰しております」

「ロレンツォさん、こんにちは!こちらこそ、ご無沙汰してます!」

「本日は何かお探しのものでもございますか?」

「いえ、今日はレオ兄ちゃんがツェリザークに行く予定があって、ぼくもついてきたんです」

「そうでしたか。いや何、特に御用などなくても遊びに来てくださるだけで嬉しいので、いつでもお越しください」

「ありがとうございます!」


 ライトの来店を心から歓迎するロレンツォの温かい言葉に、ライトもニコニコ笑顔で礼を言う。

 するとここで、ロレンツォの視線がライトの背後に移った。

 どうやらマキシの存在に気づいたようだ。


「おや、今日は新しいお連れ様とお越しで?」

「はい。こちらはマキシ君といって、ラグナロッツァでぼくやレオ兄ちゃん、ラウルといっしょに暮らしてる家族なんです」

「ほう、ライトさんやラウルさんのご家族様でしたか」


 ライトの解説に、ロレンツォの顔がパッと明るくなる。

 ロレンツォにとってライトはBCO仲間、ラウルはルティエンス商会のお得意様、どちらも大事な存在。

 その二人の家族とあらば、ロレンツォは無条件でマキシのことを受け入れる所存である。


「マキシさん、ようこそお越しくださいました。私の名はロレンツォ、このルティエンス商会の店主にございます」

「ぁ、はい、僕はマキシといいます。今日はライト君の護衛としてついてきました」

「ライトさんやラウルさんには、いつも当店をご贔屓にしていただいております。当店でお役に立てることがあれば、何なりとお申し付けください」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 それまで胡散臭さMAXな店内を見てビビりまくっていたマキシだったが、ロレンツォの紳士的な接し方を受けて態度が軟化していく。

 店の中の胡散臭さに反して、ロレンツォがものすごくまともな対応をしてきたことがかなり意外だったのだ。

 そして、彼の真摯な姿勢はライトとラウルの信頼を勝ち取るに十分だということをマキシも理解していった。


 店主の人柄が良いと分かると、店の中の怪しい雰囲気も和らいでいくように感じるから不思議なものだ。

 とはいえ、ふと視線を外すと大小様々なお面が自分のことを睨んでいるように見えて、ヒィッ!という声を上げてしまうのだが。


「でしたら本日は、ゆっくりと店内をご覧になっていかれますか?」

「そうですねー。ぼくも今日はラグーン学園の同級生達へのお土産を買いたいし、久しぶりにいろんな品を見せてもらってもいいですか?」

「もちろんですとも。お時間の許す限り、どうぞじっくりとご覧くださいませ」

「ありがとうございます!」


 ロレンツォの気遣いに、ライトが破顔しつつ喜ぶ。

 店主の問いかけには、暗に『今日はお連れ様もいることだし、BCO関連の話や相談は一切無しでいいか?』という確認が含まれていた。

 もちろんそれに気づかないライトではない。

 マキシをここに連れてきた以上、彼の前でBCOの話など迂闊なことはできないしするつもりもない。

 そしてマキシの方に向き直り、声をかけた。


「マキシ君もいっしょに見ようね!ここにはすっごく珍しい品物がたくさんあるから!」

「そうですね、ラグナロッツァでも見ないような品もたくさんありそうですよね」

「あ、そうそう、そういえば去年のマキシ君へのクリスマスプレゼントの(のみ)ね。あれ、このお店で買ったものなんだよ」

「えッ、ホントですか!? あの鑿、すっごく使いやすくてもう二本か三本は欲しいと思ってたんです!」

「ホントホント。じゃあまずは、マキシ君の鑿や道具を見ていこうか」

「はい!」


 ライトの言葉に、マキシが目を大きく見開きながら驚いている。

 ライトは去年のクリスマスプレゼントに、マキシに彫金用の鑿をプレゼントした。

 マキシはアイギスでアクセサリー作りの修行をしていて、ライトがプレゼントしてくれた鑿が実に使いやすくて気に入っていたのだ。


 そのあまりの使いやすさに、マキシは全く同じ物を買い足したい!と本気で考えていた。

 しかし、プレゼントでもらった物の購入店をライトに直接聞くのは憚られた。そんなことをしたら購入値段が分かってしまうし、それでライトの気分を害すようなことになってはならない、とマキシは強く自制していたのである。


 だが、思いがけないところで鑿の購入経路を知ることができた。

 この朗報にマキシの表情が一変し、早速ロレンツォに問うた。


「あの!僕、去年のクリスマスにライト君から鑿をプレゼントしてもらったんですが!店主さんは覚えていらっしゃいますか!?」

「ああ、もちろんよく覚えていますとも。あれはライトさんが、「ご家族の皆様方へのクリスマスプレゼントを購入したい」と当店をご指名くださった、私にとっても記念すべき日……あの栄誉は、生涯忘れることはありません」


 弾む声でロレンツォに問いかけるマキシ。

 その問いに対し、ロレンツォが目を閉じ胸に手を当てながらうっとりとした表情で微笑む。

 かなり大仰な仕草だが、あの日のことはロレンツォにとって本当に、心底嬉しかったのだろう。

 そんなうっとりロレンツォに、マキシがなおも食い気味に質問を続ける。


「でしたら、あの鑿と同じ物はありますか!? あれば是非とも買いたいんですが!!」

「あの時の鑿というと、オリハルコンゴーレムの鑿ですね。多分在庫は複数あると思いますが、奥で確認してまいりますので少々お待ちくださいませ」

「はい!よろしくお願いします!」


 新たな鑿が手に入れられそうな様子に、マキシの顔はますます輝く。

 新たな客の要望に応えるべく、ロレンツォが店の奥に入っていった。

 鑿の在庫確認を待つ間に、ライトがマキシに声をかけた。


「マキシ君、あの鑿、そんなに気に入ってくれてたんだ?」

「はい!あの鑿は、ただ単に切れ味が鋭いだけでなく、どれだけ酷使しても切れ味が衰えないんです」

「そうだったんだねー。やっぱオリハルコンゴーレム製だから、品質もすっごく良いのかな?」

「多分そうだと思います。カイさんやセイさんも、あの鑿を一目見ただけで『ものすごく良い物ね』『これ程の業物は、なかなかお目にかかれないわよ?』と仰っていたんです」

「え、カイさん達までそんなベタ褒めだったの?」

「はい!お二人とも『私も同じ物を欲しいくらいよ』とまで言っていました!」

「そっか……うん、マキシ君にそんなに気に入ってもらえて良かった!」


 ライトにもらった鑿が如何に高品質で素晴らしいものかを、興奮気味に語るマキシ。

 マキシがここまで何かを熱く語ることは何気に珍しい。

 そして、クリスマスプレゼントで送った品がマキシやアイギス三姉妹からそんなにも高評価を受けていたことに、ライトの顔は思わずにやける。


「ンもー……マキシ君ってばー、そんなに気に入ってくれてたならちゃんと教えてくれればいいのにー。そしたらもう一本くらい、追加でプレゼントしたのにー」

「それはさすがに申し訳ないですよ。それに、僕はまだ修業中の身で……自分の仕事の成果を語るには、まだまだ未熟ですから」


 ニヤニヤしながらマキシを肘でツンツン、と軽く突つくライトに、マキシが照れ臭そうに言い訳をしている。

 確かにマキシは、普段の会話や食事中の雑談などでもアイギスでの仕事のことに自ら触れることはほとんどない。

 それはアイギスでの仕事に関する守秘義務もあるだろうが、マキシ自身が己の成果を大々的に誇示する性格ではないので、ただ単に鑿の良さを周りに語るつもりがなかっただけのようだ。

 しかし、ライトの笑顔を見たマキシは自らの姿勢を省みて思い直した。


「でも……そうですね、ライト君の言う通り、あの鑿がとっても良い物でものすごく気に入って使っていることをちゃんと言えば良かったですね」

「そうだよ!嬉しいことも悲しいことも、嫌なことも楽しいことも、全部言葉にして表さないと相手に伝わらないんだよ!」

「ええ、本当にそうですね。ライト君、あんなにも素晴らしい鑿を僕にくれて、本当にありがとう」

「どういたしまして!あの鑿がマキシ君の修業の役に立っているなら、ぼくもすっごく嬉しい!」


 マキシが鑿を愛用していると知ったライトが、思いの外嬉しそうな反応をしているのを見たマキシは、もっと早くにそれを伝えて改めて礼を言えば良かったな、と心底思う。

 この時マキシは『言葉に出さなければ、何も伝わらない』ということを、ライトから教えられ身を以って学んだのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二人してしばらくキャッキャウフフ☆していると、店の奥からロレンツォが戻ってきた。

 その手には大きなトレイを持っていて、トレイの上には鑿だけでなく鉄ヤスリや糸鋸、ニッパーや芯金棒等々様々な彫金道具が乗せられていた。


「お待たせいたしました。現在当店で扱っている彫金道具の一部をお持ちしました」

「うわぁ、こんなにたくさんあるんですね……どれも全部欲しくなってきちゃいます!」

「お客様のご予算次第ですが、他にも様々な道具をお取り寄せすることも可能でごさいます」

「そうなんですね!今日はあまりお金を持ってきていないので、鑿を最優先に買いたいですが……次に来る時のために、どれがいくらなのかを聞いておいてもいいですか!?」

「もちろんですとも」


 ロレンツォが持ってきた様々な道具類に、マキシの目は終始輝きっぱなしだ。

 彫金専門店でもないのに、どうしてそんなに彫金向けの道具類が揃っているんだろ?という素朴な疑問が湧くのはライトだけで、マキシの中では全く思い浮かばないらしい。

 もっとも、こうした素朴な疑問が湧いた当のライトでさえ、次の瞬間には『……ま、ルティエンス商会はBCOの交換所だからね!基本何でもアリだし、何が出てきてもおかしくないよね!』と思い直して即終了☆だったりする。


 嬉々としてロレンツォと商談を交わすマキシ。

 思いの外良い巡り合いとなったことに『今日はマキシ君といっしょに来て良かったな!』と心の中で喜ぶライトだった。

 舞台は変わり、ルティエンス商会でのライトとマキシの様子です。

 ライトがルティエンス商会の表側から入るのは半年以上ぶりですが、BCO関連ではちょくちょくというかそこそこ頻繁に会っていたりします。

 直近では第1456話から始まったBCOイベント『七夕・笹魔人を倒して神寄の短冊を集めよう!』の情報収集や短冊交換のために交換所店主として登場しています。


 交換所=ルティエンス商会は、BCOイベントでアイテム交換の役割があったり武器防具の強化素材の取り扱いがあるため、何気に出番は結構あるのですよね(゜ω゜)

 うん、同じNPCでもヴァレリアさんより余程出番が多いよね!(º∀º)

 ……って、こんなことを考えると作者の脳内にヴァレリアさんが降臨して『早よ私の出番作れ!』と催促されそう…(´^ω^`)…


 でもって、ルティエンス商会に初めて入ったマキシが思いの外ロレンツォとすぐに仲良くなっていった件。

 第1059話でライトがマキシにプレゼントした『彫金用の鑿』が、464話=一年と五ヶ月半の時を経て役に立ちました!゜.+(・∀・)+.゜

 ぃゃー、やはりルティエンス商会はプレゼント選びにも最適なお店だということが今話で証明されましたね!(`・ω・´) ←絶対に違う

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