第1518話 忘れ得ぬ思い出
レオニスが新たに購入したプロステスの別荘でのお泊まり二日目。
この日ライトは、ハリエットとともに市場に買い物に出かけていた。
前の日の晩の食事会で、ライトとハリエットは隣同士に座り話が大いに盛り上がった。
その際に、ハリエットが「ライトさん、もしよろしければ明日いっしょに市場に買い物に出かけませんか?」と誘ったのだ。
その話を切り出す時のハリエットの、ちょっとだけもじもじしながら話す仕草の何と愛らしいことよ。
もちろんライトに否やなどない。その場で速攻で「うん!」と元気よく承諾していた。
プロステスの市場の近くまでは、ウォーベック侯爵家の馬車で移動する。
今日の買い物ツアー?のメンバーは、ライトとハリエットの他にハリエットの兄ウィルフレッド、アレクシスの長女オリヴィア、そして護衛にラウルとウォーベック侯爵家直属の騎士三人。
ラウルはもともとライトの連れだからいいとして、騎士然とした護衛が三人もいてはさすがに目立ち過ぎるので、三人は私服に着替えて二十メートル程離れたところからさり気なく周囲を監視し警戒していた。
ちなみにレオニスは『ヘルワームをもっと狩っておきたい』ということで、今日はマキシとともにプロステス郊外で魔物狩りをしている。
生きた魔物ホイホイであるライトとは別行動なので、狩りの成果がどれほど出せるかは分からないが。
ヘルワームもラグナロッツァのビッグワーム同様、害獣として冒険者ギルドプロステス支部で討伐の常時依頼が出されているくらいには出没頻度が高い。
ヘルワームを素材として欲しいレオニスと、害獣駆除してほしい冒険者ギルドプロステス支部。その利害が完全に一致していて、まさに両者Win-Winである。
そしてこの日のハリエット達は、町娘達が着るようなシンプル(でも服の生地は超高級)な洋服に身を包んでいる。
ハリエットやオリヴィア曰く『下町にお忍びで出かける時の正装』なのだそうだ。
そうしてプロステスの繁華街に着いたライト達。
大通りにはたくさんの人がいて、それはもう賑やかだった。
「うわぁ……去年の夏休みに来た時よりも、すっごくたくさんの人がいるね」
「ええ。プロステスの長年の問題だった灼熱化が収まったことで、他の街に出ていった人達がかなり戻ってきてるの」
「そうなんだ……それは良かったですね!」
「それもこれも、全てレオニスさんとライト君、貴方達のおかげよ。本当にありがとう」
たくさんの店と行き交う人々の多さに、ライトがずっとキョロキョロと周囲を見回している。
夏の厚さとは違う、人々のエネルギッシュな熱さは去年訪ねた時と比べ物にならない。
プロステスの二つ名『商業都市』は伊達ではないことがよく分かる。
そんなお上りさん丸出しのライトに、プロステスの街の案内役を買って出てくれたオリヴィアが活気の理由を明かす。
一時は故郷を泣く泣く離れた人々が、故郷の問題が完全解決されたと聞き戻ってきたのも頷ける。
一度流出した人口が回復するには、それなりの月日が要るだろうに。
プロステスの街に再び活気が戻ってきたのは、ライト達にとっても朗報で何よりである。
その後ライト達は、様々なお店でいろんな品を購入した。
ライトとハリエットはイヴリンやリリィ達へのお土産、ラグーン学園高等部に進学したウィルフレッドも新しい友達達へのお土産、そしてラウルはプロステスの隠れた名産品『灼熱のぬるぬるソース』を爆買いしていた。
ラウル曰く「パイア肉は魔物狩りで手に入るが、調味料はそうはいかん」とのこと。
確かにそうだよなー、とライトも思うので、灼熱のぬるぬるソースを五十本も買うラウルを温かく見守っていた。
そしてライト達は最後に雑貨屋に入った。
ここには女の子達が大好きな、プロステスのご当地キャラクター『迷える小ブタ』グッズがたくさんあった。
「うわぁ……どれも可愛くて、何を買うか迷ってしまいますぅー!」
「ホントだね!ぼくも皆へのお土産だけでなく、自分やレオ兄ちゃん達へのお土産も買おうっと!」
筆箱やノートなどの文房具、キーホルダーやポーチなどの雑貨、そして大中小たくさんのサイズのぬいぐるみ等々、ここプロステスでしか買えない逸品にハリエットの目がキラキラと輝く。
ハリエットは新作アイテムの着せ替えぬいぐるみを手に取り、ライトは主に文房具をいくつか買い物カゴに入れていく。
ちなみにラウルは、以前ライトにプロステス土産としてもらった前掛けタイプのエプロン(小ブタの大きなポケット付き)の色違いを見比べていた。
青色と緑色、どちらを買うか悩んでいるようだ。
「そういえば、オリヴィアお姉様も迷える小ブタが大好きでしたよね?」
「ええ!私もフローラも小ブタシリーズが大好きだし、お母様なんて小ブタの童話作家の支援活動をなさっているくらいよ!」
「ヴァネッサ伯母様、そんな素敵な活動をなさっておられるなんて尊敬しますわぁ……」
ハリエットだけでなく、ウォーベック侯爵の女性陣も皆揃って小ブタが大好きらしい。
確かに迷える小ブタはプロステスが誇る人気キャラクターなので、侯爵夫人が率先して商品展開を担うのはアリだ。
しかし、小ブタ推しは何も女性陣だけではなかった。
オリヴィアがウフフ、と笑いながらライト達にこっそりと教える。
「実はお父様の執務室にもね、小ブタがいくつか飾られているのよ? あまり目立たない小さなものばかりだから、一見分かり難いけど」
「ホントですか!? そしたらぼく、ラグナロッツァに帰る前に改めて侯爵様の執務室を見せてもらいたいです!」
「私もライトさんといっしょに、アレクシス伯父様の執務室を拝見したいです!」
オリヴィアからもたらされた魅惑の情報に、ハリエットだけでなくライトも速攻で食いつく。
領主邸の執務室に小ブタアイテムがあるなど、ライトは一度も気づかなかった。
しかし、少し考えれば領主邸の中、それも一見かなり場違いに思える領主の執務室にも小ブタアイテムが潜んでいて当然だ。何しろ小ブタは全国区レベルの人気キャラクターなのだから。
これはラグナロッツァに帰る前に、是非とも領主執務室に潜む小ブタを拝まなくては!と張り切るライトとハリエットに、オリヴィアがアドバイスを送る。
「お父様がお仕事中はさすがに無理だけど、お仕事前の朝やお昼ご飯を食べておられる時なら大丈夫じゃないかしら?」
「朝か昼ですか……ちょうど今お昼時ですが、ライトさん、どうなさいますか?」
「朝早くにお邪魔するのは申し訳ないし、そしたら今から急いで帰れば少しだけ執務室を見せてもらえる、かも?」
「そうですわね。では、ここでの買い物を素早く済ませて帰りましょうか」
「うん!」
プロステス領主邸での新たなミッション『執務室にいる小ブタを探せ!』を実行すべく、小ブタアイテム購入に素早く移るライト達。
ラウル、ライト、ハリエット、オリヴィアの順で会計を済ませていく。
結局ラウルは青色と緑色、両方のエプロンを購入したようだ。
たくさんの買い物を済ませて、雑貨屋を出たライト達。
本来なら荷物がものすごく嵩張るところだが、買い物は全てラウルの空間魔法陣に入れてもらってあるので問題ない。
「じゃ、今から急いでおうちに帰りましょうか」
「「はい!」」
町娘に扮したハリエットの手を、ライトが握って仲良く駆け出していく。
この日のお忍びでのお出かけは、ハリエットにとって一生忘れられない思い出となった。
うふふ、二回目の『朝まで寝落ち』でございましてよ(;ω;)
……って、作者のダメダメ情報なんざどーでもいいんですよ。
何せ今回はライトとハリエットのおデート回なんですもの!゜.+(・∀・)+.゜……二人っきりのおデートではないですけども(´^ω^`)
ハリエットイチ押しの小ブタが出てきたのが第294話で、ラウルがライトにエプロンのお土産をもらったのは第302話ですか(゜ω゜)
作中では約一年前ですが、作者時間では三年と七ヶ月も経過してるジャマイカΣ( ゜д゜)
でもいいの。ライトとハリエットが仲良くお買い物するプチおデート回を書けて、作者は満足してるので!( ´ω` )




