第1516話 込み上げる熱い思い
炎の洞窟でフラムの誕生日パーティーで、主役のフラムにプレゼントを渡し終えたライト達。
パーティーもそろそろお開きとなり、食器類やテーブルの片付けを始めた。
ライト達が片付けをしている間に、レオニスが最奥の間の中に転移門の設置をしている。
設置場所は、入口から見て中央から右側の壁寄りの一角。
操作用パネルを出す石柱も設置しなければならないので、最奥の間のド真ん中は避けた格好である。
そしてレオニスが転移門を設置している間、炎の女王とフラムがその横でじっと興味深そうに見学していた。
「これでよし、と」
『ほう、これが汝ら人族が扱う転移門なるものか……なかなかに複雑な魔術のようだな』
「ああ。この転移門を使う者の条件に『属性の女王の加護を三つ以上持つ者』というのを加えてある。これならあんた達が知らない余所者が侵入することはない」
『それなら安心だね!』
レオニスの解説に、炎の女王とフラムが都度相槌を打ちながら転移門の魔法陣に見入る。
彼女達はこの手の魔法陣を見る機会が滅多にないので、レオニスの作業の一つ一つ全てが物珍しいようだ。
するとここで、転移門の設置作業を終えたレオニスが炎の女王に声をかけた。
「あ、そういやアレクシスから炎の女王達に伝言を預かってるんだった」
『ン? アレクシスとは、誰ぞ?』
「プロステスという、この炎の洞窟から程近い人里を治める領主だ」
『ああ、要はそのプロステスという街の王か』
「そうそう」
アレクシスのことを知らない炎の女王、レオニスの説明を聞いて得心している。
炎の女王は洞窟の外に出たことは殆どないので、プロステスやアレクシスのことをよく知らないのも無理はない。
いや、炎の女王だって火の精霊の目を通して外界を見ようと思えば見ることもできるのだが。
彼女自身、外の世界にそこまで強い興味がないというのもあるが、それより何より火の精霊があちこち活発に動き回るとそこらじゅうで火災が起きかねない。
それ故に、炎の女王は極力洞窟内に篭り自重しているのである。
『……で、その街の王、アレクシスは何と言っておったのだ?』
「『炎の女王様とフラム様の息災を、心より願っている』と言っていた」
『……そうか……』
『???』
レオニスが伝えたアレクシスの言葉に、炎の女王が目を伏せる。
そんな炎の女王を、フラムが不思議そうな眼差しで見つめている。
炎の女王は人族の営みにもあまり興味はないが、それでも炎の洞窟の異変により最寄りの街プロステスが甚大な被害に遭っていた、というのはレオニス達から話に聞いていた。
灼熱地獄のような猛烈に暑い外気のせいで、何年もの間苦しみ続けてきたプロステスの民。
そしてレオニスがアレクシスの依頼を受けた時には、もはや死の街と化す一歩手前だった。
灼熱化の原因は炎の女王であり、プロステスの民やアレクシスから恨み言の一つや二つぶつけられてもおかしくはない。
だが、アレクシスは怨嗟の声を上げるどころか炎の女王とフラムの息災を願っている、というではないか。
炎の女王にとっては全く予想外の、人族の王の願い。その心遣いに、炎の女王の胸に熱い思いが込み上げてくる。
『……レオニス、一つ頼まれてはくれぬか』
『ン? 何だ?』
『そのアレクシスという者に、妾の勲章を与えたい。今から勲章を作るから、それをアレクシスに渡してほしいのだ』
「承知した」
炎の女王が手のひらを上にし、魔力を集めて『炎の勲章』を作り上げていく。
彼女の右手のひらの上にブワッ!と巨大な紅蓮の炎が湧き上がったかと思うと、その炎が少しづつ収斂していく。
そうして一分が経つ頃には炎は消えて、炎の女王の手のひらの上には炎の勲章が出来上がっていた。
『妾も本意ではなかったとはいえ、洞窟の外の近隣にかけた迷惑は甚大であった……今更この勲章一つ授けたところで、詫びにもならぬことは承知しておる。だが……もし良ければ、妾の気持ちと思って受け取ってくれると嬉しい』
「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、そんなことはないぞ? アレクシスの一族は揃いも揃って炎の洞窟の信奉者だから、こんなすげーもんを受け取らんなんて絶対にあり得ん」
『そ、そうなのか?』
炎の女王からレオニスに手渡された炎の勲章。
この勲章は、属性の女王が認めた者にしか与えられない稀少品。
金を積めば買える物ではないし、ましてや人族が権威を振り翳して得られる物でもない。
そんな貴重な品を炎の女王から下賜されたとアレクシス達が知れば、間違いなく狂喜乱舞するであろう。
ウォーベック一族のそうした反応が、今から目に浮かぶようだ。
「アレクシスのことだ、その場で蹲って感涙に咽び泣きながら「ウォーベック一族の家宝にさせていただく!」とか叫ぶだろうな。……いや、その前に感激のあまり卒倒するかもしれん」
『そ、そんなにか……』
レオニスの脳裏にありありと浮かんでくるアレクシス達の反応。
そうしたレオニスの予想は、炎の女王には大仰過ぎて俄には信じ難く、若干ドン引きしているような気もするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!
『でも……もしそんなにも喜んでくれるなら、妾も嬉しい』
「間違いない、絶対に大喜びするって。なぁ、ライト?」
「うん!ウォーベックの人達は皆炎の女王様のことが大好きだから、絶対に絶対に大喜びしますよ!ね、ラウル?」
「ああ、俺も大きなご主人様と小さなご主人様の意見に同意する」
『そうか……汝らがそう言うのならば、間違いないだろう』
レオニスからライト、ライトからラウルへ、それぞれ太鼓判を押すリレーが続く。
炎の女王は命の恩人であるライトとレオニスには絶対的な信頼を寄せているし、ラウルのことも『嘘をつけない妖精』として信用している。
その三人が自信満々な顔で保証するならば、それは決して裏切られることなどないことを炎の女王は知っていた。
レオニスが空間魔法陣を開き、炎の女王から受け取った炎の勲章を仕舞い込む。
帰り支度が整ったところで、別れの挨拶を交わす。
「フラム、炎の女王様、今日は楽しい一日をありがとうございました!」
『ボクの方こそ、皆からたくさんのプレゼントをもらえてすっごく嬉しかったよ!ね、炎の女王ちゃん!』
『ええ。フラム様の誕生日をこんなにも盛大に祝ってもらえて、妾もとても誇らしゅうございました』
ライトの挨拶を皮切りに、フラムと炎の女王が皆に声をかける。
フラムとマキシは『マキシ君もまた遊びに来てね!』「はい!何度でもフラム君のお顔を見に来ますね!」と再会の約束をし、炎の女王とレオニスは『くれぐれもアレクシスによろしく伝えておいてくれ』「ああ、さっきの勲章も必ずアレクシスに渡す」と約束している。
ちなみにラウルは、何故か多数の火の精霊にまとわりつかれて埋もれていた。
ラウルの腕や肩どころか、頭や顔にも多数の火の精霊が群がっている。
炎の女王とフラム、そして火の女王からの加護を受けて以来、ラグナロッツァの屋敷の厨房に火の精霊がちょくちょく遊びに来るようになったので、顔見知りの火の精霊が何体もいるらしい。
もっとも精霊達はほぼほぼコピペ状態で、顔や姿形の区別など全くつかないのだが。
ラウルの異変?に気づいたライト達が、慌ててラウルのもとに駆け寄る。
「………………」
「火のおチビちゃん達、すまんな。うちのラウルが埋もれて窒息しちまうから、全部剥ぎ取るぞー」
「火の精霊さん達、ごめんねー」
『『『キャー☆』』』
火の精霊に埋もれて、全く身動きが取れなくなったラウル。ただただその場で棒立ち状態となり、無言のまま立ち尽くす。
そんなラウルを救出すべく、ライトとレオニスが大木に群がる小猿状態の火の精霊を一体づつペリッ☆と剥がしては、空中にポイポイ、ポイー、と放り投げていく。
放り投げられた火の精霊達も、キャーキャーと笑いながら空中を浮遊していて実に楽しそうである。
『これ、火の精霊達よ、妾達の客人に迷惑をかけてはいけないぞ?』
『『『ハーイ☆』』』
『ラウル君、大丈夫? どこか燃えてたりしない?』
「ン、大丈夫だ。何せ俺にはフラムと炎の女王、そして火の女王の加護があるからな」
『なら良かったー』
きゃらきゃらと笑う火の精霊達を窘める炎の女王に、ラウルの体調を気遣うフラム。
今はラウルにも炎の女王達の加護があるので大丈夫だが、もしこれが加護を得る前だったら失神ところでは済まなかっただろう。
何はともあれ、相変わらずラウルは幼女系の精霊達にまでモテモテで羨ましい限りである。
幼女ホイホイ状態のラウルがやっと解放されたところで、再びレオニスが炎の女王達に声をかけた。
「転移門に関しては、全ての属性の女王達の住処に繋げ次第また報告に来る」
『その日を楽しみにしておるぞ』
『レオニス君、あまり無理はしないでね!』
「ああ、ありがとうな。じゃ、またな」
『皆、今日は本当にありがとう!またね!』
炎の女王とフラムの熱い眼差しに見送られながら、ライト達は炎の洞窟を後にした。
フラムの誕生日パーティーを終えた後の諸々です。
つーか、レオニスのプレゼントである転移門の設置を危うく書き忘れたまま、ライト達を帰らせるところだった…( ̄ω ̄)…
フラムへのプレゼントとして、属性の女王&神殿の転移門ネットワークを提唱したんだから、この場で作っておかないとね!(`・ω・´)
そしてリアルではゴールデンウィークに突入しましたね(・∀・)
今年は飛び石状態で、祝日の連結が全く上手くない年ですが。それでも今日も街中を自動車で走っていると、観光名所近くでは道路がいつも以上に渋滞してたりして。
こういう場面に出食わすと、「あー、やっぱゴールデンウィークはどこも混雑すんのねー」と実感する作者。
作者の愛車のドラレコさんにも『車の移動が増える時期です。気をつけて運転しましょう』とか注意されたり。
そんな注意するより先に、運転中に必ず一度はかましてくる冤罪(眠気とよそ見)をいい加減なくせやゴルァ!(`ω´)




