第1515話 夢物語のような素晴らしい話
ライトからは【炎の乙女の雫】のアンクレットを、マキシからは魔法石ルビーのついたリボンをもらい、左右の足に着けて非常にご機嫌なフラム。
その場にいる全員がフラムを微笑ましく見守っていたが、先に動いたのはラウルだった。
「よし、そしたら次は俺だな」
「何ッ!? ラウル、今度はお前が大トリやってもいいんだぞ!?」
「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、俺が大トリなど務まる訳ねぇだろ。だからとっとと出させてもらうぞ」
「お前、ホンットそういうところだぞ……」
思いっきり先を越されたレオニスが、ジトーッ……と半目でラウルを睨みつける。
そんなレオニスの視線などキニシナイ!とばかりに、ラウルが左手に持っていた小箱の蓋を開けながらフラムに差し出した。
それは、一見して生成色のリボンのようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺からのフラムへのプレゼントは、これだ」
『これは……何? さっきマキシ君がくれたプレゼントと似てるけど……違うんだよね?』
「ああ。これは、俺の出自であるプーリア族だけが作ることができる羽衣なんだ。もっとも、羽衣と呼べるほどの代物でもないがな」
『『……羽衣……』』
ラウルが左手に持つ小箱の至近距離まで顔を近づけて、中身をまじまじと眺めるフラムと炎の女王。
改めてラウルが小箱からリボンを取り出して、両手に持ってフラム達に見せる。
それは幅3cm、長さ約50cmの、本当に普通のリボンにしか見えないもの。
しかしそれは、ただのリボンではない。
プーリア族秘伝の『天舞の羽衣』である。
「これは通称『天舞の羽衣』といって、これを身にまとうと様々な風魔法の恩恵が受けられるんだ」
『ラウル、汝は風属性も持っているのか?』
「ああ、プーリア族自体が風属性持ちが多いからな」
『風魔法の恩恵って、どんなものがあるの?』
「風系攻撃魔法無効や攻撃反射、他には敏捷性が上がったり飛ぶ速度が増したりする」
『『何ソレ、スゴイ!』』
ラウルが語る天舞の羽衣の諸々の効果に、フラムも炎の女王も目を丸くして驚いている。
「もっとも、この大きさじゃ切れ端くらいにしかならんがな……すまんな、フラム。誕生日プレゼントを用意する時間の猶予があまりなかったってのもあるんだが、そもそも俺自身、この羽衣を作るのがあまり得意じゃなくてな……」
『そんなの全然大丈夫だよ!それに、ラウル君にしか作れないなんて、それって何気にスゴいことだよ!』
「ありがとな。そう言ってもらえると助かる」
リボン程度の大きさにしか作れなかったことを謝るラウル。
しかし、フラムはそれを即座に否定する。
天舞の羽衣の凄まじい効果はもとより、羽衣作りがあまり得意でないにも拘わらずそれを懸命に作ってくれたことがフラムには何より嬉しかった。
「今回俺が羽衣を作ったのは、フラムは火属性の塊のようなもんだからってのがある。火属性なら風属性の魔法とも相性はかなりいいはずだし、きっとフラムの能力を底上げできるだろう」
『そうだね!これもマキシ君がくれたプレゼントのように、どこかに結びつけるのがいいかな?』
「ああ、そのつもりで作ったんだが、両足には既にライトとマキシのプレゼントが着けられているし……さて、どこに着ければいいもんか……」
今回ラウルもリボン様のものということで、フラムのどこに着けさせるかを迷っている。
一番手軽なのは足だが、両足とも既にライトとマキシのプレゼントで埋まっている。
となると、候補は四ヶ所。頭の鶏冠、首元、胸元、六本の尾のどれかの先端。
ラウルはフラムの全身をまじまじと眺めつつ、それを伝えた。
「フラム、頭と首元と胸元と尾、この四つのうちのどこに着けたい?」
『ンーーー、迷うなぁ……炎の女王ちゃん、どこがいいと思う?』
『そうですねぇ……フラム様でしたら、どこに着けても似合うかとは思いますが……強いて挙げるとしたら、尾、でしょうか?』
『炎の女王ちゃんは尾がいいんだね!ならボクもそれがいいな!ラウル君、六つの尾のうちのどれかに着けてくれる?』
「了解」
フラムの要請に、ラウルが快く応じる。
フラムの六本ある尾のうち、一番長いと思われる中央の尾の先端に天舞の羽衣を蝶々結びで結んだ。
すると、その瞬間からフラムの中に更なる力が湧いてきたのを感じた。
それは、焚き火が風を受けてより大きな炎となって燃え盛るかのような感覚。
まさに先程ラウルが言っていたように、風魔法による火属性への増幅効果と言えよう。
『うわッ……これ、すっごい……身体の中から力が溢れてくる!』
「さっきのライトやマキシのプレゼントも効いてると思うがな」
『それをマシマシにしてくれるのが、ホンットスゴいよ!あの細めのリボンで、こんなにスゴい効果を生み出せるなんて……ラウル君、実は天才なんじゃない!?』
「お褒めに与り光栄だ」
これまた手放しで大絶賛するフラムに、ラウルは事も無げにクールに応える。
50cm程度のリボンですらこの効果だ、もし本当に羽衣サイズの品物が出来上がったらさぞかしスゴいことになるだろう。
そうしてラウルのプレゼント渡しが無事終わったところで、レオニスが徐に口を開いた。
「……さ、そしたら最後は俺か」
『レオニス君は、ボクに何をくれるの?』
「俺のはライト達のような物じゃないし、今すぐ用意できるものでもないんだが……」
『『???』』
レオニスの要領を得ない言い回しに、フラムと炎の女王が小首を傾げている。
「炎の女王よ、一つ頼みがある」
『何だ?』
「ここに転移門を作りたい」
『転移門とは、何ぞ?』
転移門が何かまったく分からない炎の女王。
転移門とは人族が編み出した叡智なので、基本炎の洞窟に篭りっきりの彼女が知らないのも無理はない。
そんな炎の女王に、レオニスが丁寧に説明していった。
『ほう……例えば妾が炎を通してエリトナ山に行くように、人族にも瞬間移動する術があるのか』
「ああ。それは俺達人族の間では『転移門』と呼ばれている。瞬間移動用の魔法陣が世界各地にあって、条件を満たしていれば魔法陣から別の魔法陣へ一瞬で移動できるんだ」
『それを、この炎の洞窟内に作りたいというのは何故だ? 』
転移門が何なのかを理解した炎の女王だが、レオニスがそれをここに作りたいという意図が分からない。
しかし、その答えこそがレオニスがフラムのために用意した『誕生日プレゼント』であった。
「これから俺は、この転移門を属性の女王達が住む全ての場所に設置する予定だ」
『……と、いうことは……』
「そう、ここから他の女王や神殿守護神達がいる場所に、いつでも一瞬で行き来できるようになるってことだ」
『『!!!!!』』
レオニスが告げたその意図に、フラムと炎の女王の目が大きく見開かれる。
レオニスが語るそれは、言わば『属性の女王と神殿守護神を繋ぐネットワーク計画』。何という壮大な計画だろう。
ちなみにこのネットワーク計画は冒険者ギルドにも相談済みで、総本部マスターのパレンの了承も得ている。
かつてレオニスは、廃都の魔城の四帝に付け狙われているエリトナ山のことをパレンに相談し、エリトナ山山頂に転移門を設置することを正式に認められた。
それを皮切りに、他の属性の女王や神殿守護神達のバックアップ目的で全ての属性の女王達のもとに転移門を作ることも認めさせたのだ。
この、まるで夢物語のような素晴らしい話にフラムの顔がみるみるうちに輝いていく。
今フラムが気軽に会いに行ける神殿守護神仲間は、エリトナ山にいるガンヅェラ、タロンのみ。他の神殿守護神に会ったことはまだ一度もない。
しかし、フラムだって他の属性の女王や神殿守護神達に会えるものならば、是非とも会いたいと思っている。
レオニスからのプレゼントは、フラムのそうした願いを叶えてくれるものだった。
『じゃあ、その転移門?ってのを作ってもらえば……ボクも他の神殿守護神や女王ちゃん達に会いに行けるの?』
「ああ。ただし、ここに転移門を作ったからといって今すぐ全員に会いに行けるってもんじゃないがな。他の女王や神殿守護神達がいる場所にも同じ物、つまり向こう側にも転移門を作ってからでないと移動できんし」
『まだ他の神殿には転移門を作ってないの?』
「一応二ヶ所だけ、ここより先に転移門を作った場所はある。光の女王と雷の女王がいる天空島と、火の女王がいるエリトナ山山頂だ。他の神殿にはまだ設置できていない」
『全部の場所に出来上がるのは、いつ頃になるの?』
「何日後、という具体的な数字は出せん。何しろ属性の女王は十一種類いるからな、それらの場所を今から全部回って訪ねていかなきゃならんし」
『そっか、そうだよね……』
今すぐに他の神殿守護神に会える訳ではないと知り、フラムが少しだけしょんぼりしている。
しかし、フラムがしょんぼりとしていたのはほんの一瞬だけ。
フラムはすぐにバッ!と顔を上げて、レオニスに話しかけた。
『ボク、いつまででも待つよ!だって、他の守護神の皆に会いたいもん!』
「すまんな、誕生日プレゼントと言いながらすぐに使えるもんじゃないし、結構先まで待たせちまうかもしれん」
『レオニス君が謝ることなんかないよ!こんなに素敵な贈り物に文句を言ったら、それこそボクの方に罰が当たるよ!』
ネットワーク完成までに時間がかかることを謝るレオニス。
実際他の女王達のところで転移門が設置してあるのは、今のところ北の天空島とエリトナ山山頂のみ。
他の場所は、これから逐一回らなければならない。
水の女王の目覚めの湖や闇の女王の暗黒の洞窟、ここらはカタポレンの森のご近所さんなので楽勝だが、他はそうはいかない。
地の女王の地底世界は、冥界樹ユグドランガのもとにある転移門があるから問題ないが、海の女王の海底神殿や風の女王の辻風神殿は行くだけで結構時間がかかる。
他にも氷の女王がいるツェリザーク郊外の氷の洞窟や、砂の女王がいるノーヴェ砂漠等々、あちこちに出かけなければネットワークは完成しない。
故に、何日後に完成するかはレオニスにも予測できないし、いつ出来上がるかも断言はできなかった。
だが、フラムがそれに文句を言うことなどない。
おとなしく待っていさえすれば、必ずやレオニスが道を拓いてくれるのだから。
「なるべく早く実現できるよう、俺も転移門の設置を頑張るから待っててな」
『うん!!すっごく楽しみにしてるね!』
嬉しさのあまり、ガバッ!とレオニスに抱きつき頬ずりするフラム。
それは、普通の人間なら瞬時に丸焦げになる超危険な抱擁。
だがしかし、レオニスやライト、ラウルなら全く問題はない。
この三人は、炎の女王やフラムだけでなく火の女王からも加護を授かっているのだから。
全身全霊で喜びを表すフラムの愛らしさに、レオニスも思わず微笑みながらフラムの頭を優しく撫でていた。
フラムの誕生日パーティー、プレゼントお披露目後半戦です。
前話後書きにも書いた通り、脳筋&料理バカのプレゼント捻り出しに戦々恐々としていた作者。
今回は間違いなくラウルが一番の難産でした_| ̄|●
てゆか、今回は脳筋の方が先にプレゼントが浮かんできて、見事作者に採用されてまして。
そのせいか、料理バカの方が超難産でした_| ̄|●
もういっそのこと『干し肉食べ比べセット』にでもするか……と諦めかけていたんですが。それだと炎の洞窟の熱気ですーぐカピカピに乾いちゃうし。
散々散々苦心しましたが、第356話で出したプーリア族の特産品を思い出し、急いで書き上げた作者。
何とかフラムにも気に入ってもらえたようで良かったですぅぅぅ(TдT)




