第1509話 別荘到着とご近所さんへの挨拶
冒険者ギルドプロステス支部を出て、まずは別荘に向かうライト達。
レオニスは購入や内見、ラウルは別荘で泊まれるよう支度を整えるために通っていたため何度か別荘を訪れているが、ライトとマキシは今日が初めての訪問だ。
レオニスやラウルからは『とにかくすごい豪邸』としか聞いていないので、どんなものなのか想像もつかない。
ライトやマキシが知る豪邸と言えば、せいぜいラグナロッツァのレオニス邸やウォーベック伯爵邸、プロステスのウォーベック侯爵邸くらいしかない。
それとて決して大豪邸という訳でもないし、むしろそれらは大貴族と呼ばれる者達の中では質素な部類に入る方だ。
そうして目的地である別荘に辿り着いたライト達。
見るからに大きな屋敷を前に、ライトもマキシもただただ呆然としながら見上げるばかりだ。
「……何か、思ってた以上にすごいんだけど……」
「おう、中もすごいぞ?」
「これ、ラグナロッツァのお屋敷よりデカくないですか……?」
「三階建てだしな」
門扉から屋敷までの移動の間も、綺麗に整えられた庭園を見てみたい感嘆するライトとマキシ。
この庭園は、ラウルが植物魔法等を用いて手ずから整えたものだ。
さすがにこのプロステスでまで野菜作りをする気はないので、屋敷の前の持ち主が作ったものを適宜整理したのだという。
早速屋敷の中に入るライト達。
外観だけでなく、中の設備や部屋数の多さにも圧倒されっぱなしだ。
一階から三階まで一通りを見終えた後、ライト達は一階の客間で休憩を取ることにした。
ラウルが人数分の飲み物とお茶菓子を出し、四人で一息つく。
「レオ兄ちゃん……このお屋敷が500万Gって、ホント? 安過ぎない?」
「いや、俺もそう思ってアレクシスに何度も聞いたんだがな? あまりに豪華過ぎて平民には買えないっつーか持て余すし、何より場所柄的にも信頼の置けない変な奴には売れないらしくてな。2000万Gの物件だが、500万Gでいいから是非とも俺に購入してほしいって言われたんだ」
「あー、確かにそうだよねぇ……ここから二軒向こうに、領主様のおうちがある訳だし」
「そゆこと」
こんな豪邸を格安で買えた理由に、ライトも得心する。
この一帯はプロステスにおける貴族街であり、身元もろくに分からないような不審者に土地家屋を売り渡す訳にはいかない。
かといって、本来の売値である2000万Gでは到底庶民には手の届かない高値。
売れない間も管理維持費がかかる厄介な大型物件を買えるのは、レオニスを置いて他にはいないというのも納得だ。
「さ、そしたら次はウォーベック家に挨拶に行くぞ」
「はーい!」
お茶を飲み終えて、レオニスの呼びかけに応じるライト達。
別荘を購入後初めてのお泊まりだし、この別荘を購入するに至った縁をもたらしてくれたウォーベック侯爵にも挨拶しておこうというのは当然だ。
ここプロステスでも円満なご近所付き合いを築くのは良いことである。
そうしてライト達は、別荘から二軒隣のウォーベック侯爵邸に向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、レオニス君にラウル君、ライト君にマキシ君もよく来てくれた!」
「仕事中に邪魔して悪いな」
「邪魔だなんてとんでもない!君達ならいつでも大歓迎だと毎回言っているだろう? 何しろ君達は他でもない、このプロステスの救世主なのだからね!」
ライト達の訪問を、満面の笑みで迎え入れるアレクシス。
それまで執務机に座っていたのを、ライト達が入室した途端すぐに立ち上がって出迎える程の熱烈歓迎ぶりだ。
だが、この時期のプロステスは熱晶石の生産が最盛期で、それこそ目が回る程忙しいはずなのに。
その証拠にアレクシスの目の下にうっすらとクマができているのが見える。
連日の激務で疲れが溜まっているのだろう。
しかし、多少の疲労などアレクシスにとっては瑣末なこと。
ライトとレオニスが炎の洞窟問題を解消してくれる以前の、プロステスの街が瀕死の状態だった頃を思えば、今の平和は実にありがたい―――プロステス領主であるアレクシスは、常にそう思いながら領主としての仕事に励んでいた。
「そういやクラウス達はもうこっちに来てるのか?」
「ああ。一昨日から滞在していて、クラウスは今日はプロステスの街の視察に出ている」
「そっか。そしたらライトも後でハリエットちゃんに会えるな」
「そうだね!」
ライト達がアレクシスと和やかに話していると、執務室の扉がコン、コン、と二回ノックされた。
アレクシスが「どうぞ」と声をかけると、扉の向こうからハリエット他ウォーベック家の子供達がいた。
「伯父様のお仕事を邪魔して申し訳ございません。ライトさん達がこちらにいらっしゃったとお聞きしまして……」
「おお、ちょうど今クラウス達の話をしていたところだ。皆、入りたまえ」
ハリエット達の登場に、アレクシスが執務室の中に招き入れる。
そしてハリエットの姿を見たライトが、パァッ!と明るい顔になって早速声をかけた。
「あ、ハリエットさん、こんにちは!」
「ライトさん、こんにちは!お久しぶりですね!」
「そうだね!……といっても、一週間ぶりくらいだけど」
「フフフ、そうですわね。でも、ここプロステスでもライトさんにお会いできてとても嬉しいですわ」
「うん、ぼくも嬉しい!」
子供同士でキャッキャウフフと挨拶を交わす様子に、レオニス達も和む。
すると、ハリエット以外のウォーベック家の子供達がレオニス達を取り囲んだ。
「レオニスさん、こんにちは!」
「ラウルさんもお久しぶり!」
「マキシ君もプロステスに来てくれたのね!とっても嬉しいわ!」
来客を喜ぶ子供達の歓迎に、レオニス達も「こんにちは。皆元気そうだな」「三ヶ月ぶりくらいか?」「僕まで歓迎してくれて、ありがとうございます!」等々答えている。
レオニスは男の子に、ラウルは女の子に人気で、マキシは小さい子に大人気だ。
それをアレクシスがくつくつと笑いながら見ている。
「子供達が君達にすっかり懐いてしまったな。……そうだ、もし良かったら今日の晩はうちに来てくれないか? ささやかではあるが、君達がプロステスに来てくれたことへの歓迎会を開かせてくれると嬉しいのだが」
「そりゃありがたい。是非とも皆で伺わせていただこう」
「そうこなくっちゃな!」
アレクシスからの今晩の晩餐の誘いに、レオニスが快諾する。
レオニスの快諾を得られたアレクシス、早速自分の子供達に声をかけた。
「エドガー、母さん達にもこのことを伝えておいてくれ」
「はい!」
「フローラは厨房の料理人達に、四人分の料理追加と最上級のもてなしを用意するように伝えてくれ」
「分かりました!」
父の命を受けて、嫡男のエドガーと長女のフローラがすぐに退室していった。
「ところで、レオニス君達はプロステスに何日泊まっていくのだね?」
「別荘に今日明日泊まって、明後日にツェリザークに行く予定だ」
「ツェリザーク……というと、例の件かね?」
「そうそう」
今後の予定を尋ねるアレクシスに、レオニスが素直に答える。
アレクシスが言う『例の件』とは、以前アレクシスから頼まれた『ツェリザーク領主に会いに行く』である。
夏のツェリザークは避暑地として大人気だが、領主としての仕事は冬の冷晶石生産期に比べたらはるかに閑散期。アポ無しで会うなら今のうち!なのである。
「ちなみに今日は、ラウルのリクエストで今から人食いパイアを狩りながら炎の洞窟に行く予定だ」
「ほう、レオニス君の腕前なら人食いパイアなど物の数ではないだろうな。炎の洞窟に行くのは、何か用事があってのことなのか?」
「朱雀がどれくらい成長したか、見てこようと思ってな」
レオニスから今日の予定を聞いたアレクシスの目が、キラーン☆と光る。
プロステス市民が敬愛してやまない、炎の洞窟の主である炎の女王と朱雀。
この話にアレクシスが食いつかない訳がない。
「それはいい!朱雀様の成長の様子を、是非とも私達にも今晩聞かせてくれたまえ!」
「おう、いいぞ。アレクシスから炎の女王達に何か伝言はあるか? あるなら行くついでに伝えておくが」
「伝言!? そそそそんな畏れ多い……でも、そうだな……炎の女王様とフラム様の息災を、心より願っているとだけ伝えておいてくれ」
「承知した」
炎の洞窟の主達への伝言と聞き、アレクシスが一度はびっくりしながらも簡素な伝言をレオニスに託した。
今は特にさしたる危機もなく、喫緊に伝えたいこともない。
このプロステスに安寧と繁栄をもたらすには、ひとえに炎の洞窟の主達の健やかな日々があってこそ。
そんなアレクシスの謙虚な気持ちがひしひしと伝わってくる伝言だった。
「さて、では俺達は今から出かけてくる。今晩は何時頃にここに来ればいい?」
「そうだな、午後の六時頃に来てくれるとゆっくり話もできるからありがたい」
「分かった、午後六時な」
「パイア狩りで成果を上げられることを祈ろう。炎の女王様とフラム様にも、くれぐれもよろしく伝えておいてくれ」
「了解」
レオニスとアレクシスが一通り話し終えたところで、ハリエットもライトに声をかけた。
「ライトさんも、パイア狩りに行くのですか?」
「うん、ぼくももうすぐ冒険者登録できるからね、今からレオ兄ちゃんやラウルについて少しでも勉強しておかなくっちゃ!」
「レオニスさん達がおられるから、大丈夫だとは思いますが……くれぐれもお気をつけていってきてくださいね」
「ありがとう!もし何か良いものが得られたら、ハリエットさんにもお土産として持って帰ってくるね!」
「……はい!」
ライトの身を案じるハリエットに、ライトがペカーッ☆と明るい顔で受け答えしている。
ライトの本当の役割は、レオニスやラウルが狩って仕留めた人食いパイア他魔物を拾い集めてアイテムリュックに入れていく収集係なのだが。
そんな本当のことなど言えないので、とりあえずライトは『冒険者登録前の予習!』ということにしておく。
そんなこととは露知らぬハリエット。ライトの『お土産』という言葉に、嬉しそうに破顔していた。
「ライトさん、レオニスさん、ラウルさん、マキシさん、いってらっしゃい!」
「いってきまーす!」
ハリエットやアレクシスに見送られながら、ライト達はプロステス領主邸執務室を後にした。
うひーん!今日はとうとう朝まで寝落ちしてしまいました><
とりあえず30時までは大丈夫!と思ってたのに、その30時をとっくにすぎてもた件_| ̄|●
作者のダメダメさが近年急加速している気がするぅー(TдT)




