第1496話 中央の天空島再び
リンドブルムとサマエルが、カタポレンの森のコテージで二泊目をした翌日の朝。
ライト達はリンドブルムの背に乗り、中央の天空島に向かっていた。
前の日の夜、ライト達は晩御飯を食べた後に『中央の天空島にどうやって行くか』をリビングで話し合った。
最初は北の天空島経由で行くしかないか、とレオニスは考えていたのだが。
リンドブルムが『私の背中に皆で乗っていけばいいじゃなーい』の一言で決まったのだ。
巨大なリンドブルムの背に乗り、カタポレンの森を飛び立ったライト達。
リンドブルムには竜騎士団の飛竜のような鞍などついていないので、青紫色のふさふさの鬣に埋もれつつしっかりと掴まっている。
そして雲を突き抜けあっという間に上空2000メートルに達し、悠々とした空の旅が始まった。
「うわー、すっごーい!」
「おおー、こんなに高い空を飛ぶのは白銀の背中に乗った時以来だな」
「俺達だけじゃ、こんなに高くは飛べんからな。……って、いや、バルトの力を分けてもらった今なら可能かも?」
ドラゴンの背に乗せてもらうのは久しぶりのこと。
思えばちょうど一年前、ライトが二年生の夏休みの時に白銀の君の背に乗って北の天空島を目指した。
あれからちょうど一年経った今、今度はラーデの子リンドブルムの背に乗って中央の天空島に向かうことになるとは、全く予想だにしなかった。
その間にライトはライトで青龍ゼスの力を取り込んで、自力で空を飛べるようになったが。
それでもこの高度まで一気に到達できるかどうかは分からない。やはりそこはリンドブルム、絶大な力を駆るに相応しいと言えよう。
そうして高い空の旅が始まってから約三十分程が経過した。
リンドブルムがライト達に『あ、見えてきたわよー』と告げ、その先に巨大な山の島が遠目にもはっきりと見えた。
「おお……これが、中央の天空島か……」
今回の旅の中で、唯一初めて見るレオニスが感嘆する。
そしてリンドブルムが山の頂上、火口の上からゆっくりと降下していく。
もし前回のように、見えない壁に阻まれるとしたら―――おそらくそれはラウルのみならず、レオニスもともに弾かれることだろう。
しかし、ライト達を背に乗せたリンドブルムは、いとも簡単に火口の中に入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『はーい、到着ぅーーー』
火口の中に入ってすぐに地面に着陸したリンドブルム。
その合図を受けて、ライト達は彼女の背から降り立った。
あまりにもすんなりと中に入れたことに、ラウルが驚きながら呟く。
「おお、本当に俺達でも入れたな。三日前は、何をどうしたってこの火口の中には入れなかったってのに」
「やっぱりそこはリンリンの言う通り、部外者だから入れなかったってことなんだろう」
「だよな……ただし、あの見えない壁もライトにだけは何故か全く通用しなかったようだが」
「それは……まぁ、ここで考えてもしゃあない」
「だな」
降り立った前に現れた、青黒い壁や扉を見ながらレオニスとラウルが小声で会話する。
その間にリンドブルムが身体の大きさをシュルシュルと縮めていた。
今回は人型ではなく、赤紫色のドラゴンの姿のままでの縮小だ。
『この扉の向こうに私の部屋があるから、そこまで行くわよー。……あ、でも多分ちっこい魔物が涌いていると思うから、皆自分の身は自分で守ってねー』
「はーい!」「「おう」」
『あ、パパンと坊やは私の横に来ていいわよー』
『うむ』
リンドブルムが中に入るための注意点?をレオニス達に告げながら、青白く光る線が走る扉を右手で押して開けた。
ちなみにその間、サマエルが『え、リン姉様、私は?』とリンドブルムに尋ねるも、『サミーは強いから大丈夫よー』の一言で済まされてしまい、口を尖らせながら『……はぁーい……』と返事をしていた。
姉に甘えたい弟と、それを軽くあしらう姉の何とも微笑ましいやり取りである。
そうしてリンドブルムが遠慮なくズンズン、と扉の奥に進んでいく。
すると、程なくして鬼火によく似た魔物『プルシャ』や、三つの仮面がくるくると動く『パレルモマスク』が現れた。
それらの魔物が、扉を開けて侵入してきたリンドブルム目がけて襲いかかってきた。
もちろんそれらはリンドブルムの敵ではない。
リンドブルムがフッ……と息を吹きかけただけで、勢いよく後方に吹っ飛びながら霧散していく。
そしてライト達の前に現れたのは、プルシャやパレルモマスクだけではない。
赤と白の炎をまとった細マッチョな魔人型の魔物『ダオ』に、左右に大きな角が生えたトップハットを被った肥満体型の巨人型の魔物『マーリード』、そしてノーヴェ砂漠にいるアビスソルジャーにそっくりな首無しの巨人『ヘカトンケイル・エルトロア』までいる。
もちろんライトはこれら全ての魔物を知っている。どれも『修験者の迷宮』イベントで散々散々倒しまくった魔物達だ。
プルシャはHP200、パレルモマスクはHP500の雑魚魔物。
ダオはHP1100、マーリードはHP2500と中級雑魚だが、何故かヘカトンケイル・エルトロアだけはHP24000と一気に跳ね上がる。
それでも、レベル7のレイドボスであるリンドブルムの敵ではない。
ダオもマーリードもリンドブルムの息一つで吹っ飛ばされ、ヘカトンケイル・エルトロアですらも彼女の尻尾の一薙ぎで霧散していく。
『修験者の迷宮』の固有魔物を、リンドブルムが片っ端から容赦なく吹っ飛ばす横で、ラーデを抱っこしながら歩くライトは思案する。
『やっぱりこいつらいるんじゃん!前回俺がここに入った時には、一匹も出てこなかったのに!』
『昨日リンリンさんが言ってたように、リンリンさんがこの迷宮内にいるとこいつらは表に出てこれなくなるんだろうな……迷宮が雑魚魔物を生むためのエネルギーを、リンリンさんが全部吸収しちゃってるんだろうか?』
『てことは、こいつらを間近で見れるのも今のうちだけってことか……ま、ここで採らなきゃならない素材もないし、別にいいけども』
リンドブルムの圧倒的な強さにライト達が守られている後ろで、レオニスとラウル、そしてサマエルも雑魚魔物達相手に奮戦している。
もっとも、出てくる魔物の半数くらいは先頭を歩いているリンドブルムが露払いしてくれているので、そこまで苦戦している訳ではないのだが。
そうして程なくして、二枚目の青白い扉が見えてきた。
ここでもリンドブルムは、事も無げに扉を開けてズンズンと先に進んでいく。
ここは、リンドブルムがいつも寝床にしている場所。ライトが初めてリンドブルムを見つけた場所でもある。
リンドブルムは最奥の間に入った途端、身体の大きさを元のサイズに戻した。
この広々とした空間なら、リンドブルムの本来の姿に戻っても全く問題ない。
そしてこの最奥の部屋の中にも、修験者の迷宮の固有魔物がうじゃうじゃといた。
しかしそれはらあっという間にリンドブルムに倒されて、一匹も出てこなくなった。
雑魚魔物を一掃したリンドブルムが、ため息混じりに愚痴る。
『はー、やーっぱり雑魚が涌きまくってたわねー。ちょーっと留守しただけなのに、油断も隙もあったもんじゃないわ』
「リンリンさん、お疲れさまです!」
『うむ、リンドブルムは相変わらず強くて凛々しいな。娘の頼もしい姿を見ることができて、父は嬉しいぞ』
『あらヤダ、坊や、労いの言葉をありがとうねぇ♪ パパンにも、愛娘の頼もしさを知ってもらえたようで良かったわぁー♪』
プンスコと怒るリンドブルムに、ライトとラーデが労いの言葉をかける。
彼らの心遣いに、リンドブルムがウッキウキに弾む声で喜んでいる。槍働きをちゃんと認められたのが嬉しいようだ。
そしてその後すぐに、リンドブルムがとある方向に歩き始めた。
『えーっと、どこだっけ……確かここら辺に……あ、あったあった』
『ぬ? ここだけ床の色が他と少しだけ違うな』
『さすがパパン、お目が高いわね。そうよー、ここが不思議の森へ行ける裏門なのよー』
『ほう、ここから行けるのか』
リンドブルムが地面を見ながら探していたのは、不思議の森へ通じる秘密の扉。
扉といってもそれは普通の扉ではなく、床にあるらしい。
床には無数の蔦が這っていて分かり難いが、確かによく見るとそこだけ床の色が違い、ここまでの入口の扉と同じく青白い線が数本走っているのが分かる。
『私がこの床を踏むと、不思議の森へ行けるのよー。そしたら皆、私の背中に乗ってー』
「はーい」
「「おう」」
『うむ』
リンドブルムの呼びかけに応じ、全員が彼女の背中に乗り込んだ。
『皆、乗ったー? 大丈夫ー?』
「はい、大丈夫です!」
『そしたら行くわよー。皆、私にしっかり掴まっててねぇー』
「はい!」
背後が見えないリンドブルムに、ライトが全員乗ったことを告げる。
そしてリンドブルムは、青白く光る床を右足でポチッ☆と踏みつけた。
その瞬間に青白い床が消えて、リンドブルム達は一気に下に落ちていった。
ライトの夏休み三日目、二度目の中央の天空島訪問の回です。
前回ライトが入った時には出てこなかった、修験者の迷宮の固有魔物達も初お目見えです♪(・∀・)
……って、全部リンドブルムに蹴散らされちゃうんですけど(´^ω^`)
てゆか。ライトの夏休みはまだ三日目だってのに、既に25話もかかっている件…( ̄ω ̄)…
第1463話後書きで『きっと今回の夏休みは100話くらいで収まるんじゃないかしら?と作者は予想しています。』とか書いていたのに。もう既に予想が外れそうな悪寒がヒシヒシとするぅー_| ̄|●




