第1488話 史上初の壮観な光景と第二回お泊まり会確定
未だ若干の蟠りはあるものの、何とか表面上だけでも和解できた三つの天空島の主達。
北の天空島の二人の女王、中央の天空島のリンドブルム、南の天空島のサマエル。三つの天空島の主が一堂に介するなど、サイサクス世界でも史上初のことではなかろうか。
そしてここに竜の祖であるラーデまで加わった図は、実に壮観だ。
この奇跡の光景に、ライトは内心ドキドキ&興奮しっぱなしだった。
『うわぁーーー……リンドブルムが、リンドブルムが人化しちゃった!しかも、すんげー綺麗なお姉さん!てゆか、リンドブルムって雌だったんだ!』
『しかも、BCOのレイドボスが人化したのって、何気に初めてじゃね? やっぱレイドボスは強大な力を持ってるから、人化するくらい朝飯前なのかもなー……』
『でもって、サマエルもすっごくイケメンじゃないか!BCOでは顔にヴェールがかかっててよく見えなかったけど、人化したリンドブルムとそっくりな顔だな……こりゃ間違いなく姉弟だわ』
リンドブルムとサマエルを交互に見つめては、目を輝かせたり嘆息したり、何かと忙しいライト。
そうしたライトの熱烈な視線に気づいたリンドブルムが、ライトに向かって声をかけた。
『あら、そこの坊や、私達の顔になにかついてるかしら?』
「あ、いいえ!リンドブルムさんもサマエルさんもすっごく綺麗で、つい見惚れてしまっていただけです!ジロジロ見ちゃってごめんなさい!」
『まぁ、口がお上手な坊っちゃんだこと♪』
ライトに容姿を褒められたリンドブルムが、ご機嫌な様子で微笑んでいる。
そしてリンドブルムの横にいるサマエルも、目を閉じうんうん、としたり顔で頷いている。
『私はともかく、リン姉様が綺麗なことは間違いない。審美眼を持つ子蟻とは、実に珍s痛ッ』
『サミー。他の人族はともかく、ここにいる者達を蟻扱いするのは金輪際やめなさい』
『痛てててッ、リン姉様、耳が千切れてしまいますッ』
ライトのことを子蟻扱いしたサマエルに、リンドブルムの容赦ない制裁が発生した。
サマエルの長い耳の先端を、リンドブルムが摘んでギュウギュウに引っ張りだしたのだ。
『サミー、アンタいい加減素直に認めなさい。私達とともにこの場にいられる時点で、ここにいる人族達は只者ではないのだから』
『うぐぐぐぐ……わ、分かりました、リン姉様……』
『分かればよろしい。ほら、あちらをご覧なさい。本当に次はないわよ?』
『………………』
リンドブルムに諭されたサマエル。涙目で擦る耳が真っ赤になっている。
そして耳を引っ張っていた姉の言う『あちら』を見ると、二人の女王達が眉間に皺を寄せながらサマエルのことを思いっきり睨みつけていた。
そう、北の天空島の恩人は何もレオニスだけではない。ライトも歴とした恩人の一人なのだ。
再び空気が悪くなっていきそうな気配に、ライトが慌てて皆に声をかけた。
「あ、えーと、サマエルさんはぼくのことを全然知らないから、とりあえず子蟻って呼んだだけだと思います!だってぼく、まだ自己紹介とか何もしてませんもの!」
「サマエルさん、リンドブルムさん、改めて自己紹介させていただきます。ぼくの名はライト、ここにいるレオ兄ちゃんの弟みたいなもんで、今はラーデともいっしょに暮らしています!」
「リンドブルムさんとサマエルさんのことは、お名前だけは本で読んだりして知っていました。本物のお二人に会えて、すっごく嬉しいです!」
怒っている二人の女王を宥めつつ、ライトが改めて軽く自己紹介をした。
礼儀正しいライトに、リンドブルムがご機嫌な様子で話しかける。
『まぁまぁ、本当に何て賢い子なの!ライト、君も私のことは『リンリン』って呼んでいいわよー』
「ホントですか!? ありがとうございます、リンリンさん!」
『うんうん、人族の子供って久しぶりに見るけど、すーっごく可愛いわねー♪』
リンドブルムから愛称呼びを許されたことに、ライトの目がますます輝く。
そして姉に諌められたサマエルも、渋々ながらライトのことを認めた。
『リン姉様や父上に認められているとあらば、私も認めざるを得まい……ライトとやら、父上の世話役に選ばれしこと、光栄に思い誠心誠意仕えるがよい』
「はい!ラーデが元気を取り戻すまで、ぼくも精一杯お手伝いします!」
『うむ、良い心がけだ』
相変わらず居丈高なサマエルだが、ライトがそれに反発したり不服に思うことなどない。
そもそもサマエルはBCOのレイドボスであり、皇竜メシェ・イラーデの実子。
取るに足らない脆弱な人族など、端から見下していて当然なのだ。
キラッキラの瞳でリンドブルムやサマエルを見ていたライト。
ここではたとした顔でラーデに問うた。
「……あ、ねぇ、ラーデ。リンリンさんが人化できるってことは、もしかしてラーデも人化できるの?」
『ン? まぁ、やろうと思えばできんこともないとは思うが。これまで人族の姿を借りようとしたことなどないし、魔力の足りない現状ではちと無理だな』
「そっかー。そしたら、元気になってからでいいからさ、いつかラーデが人化したところをぼくにも見せてね!」
『うむ、承知した。だいぶ先のことになるだろうがな』
ライトが気になったのは、『ラーデも人化できるのか?』ということ。
リンドブルムが人化できるのだったら、その父たるラーデも可能なのではないか?というライトの素朴な疑問。その答えは『可能だけど今は不可』であった。
今のラーデの姿からは、人化したところなど全く想像がつかない。
ライト達の目の前にいる姉弟同様のイケメンなのか、それとも竜の祖に相応しいイケオジなのか、はたまた威風堂々としたゴツいイケジジか。
いずれにしても、一日も早くラーデが人化できるようになるくらいに元気になることを応援するのみである。
するとここで、レオニスも気になることがあるのか、リンドブルムに声をかけた。
「リンドブルム、あんた達の兄?のファフニールは不思議の森に出かけているって言ってたよな?」
『ファフ兄? ええ、そうよ、ファフ兄は今新婚旅行で不思議の森にお出かけ中よ』
「その不思議の森への入口は分かるか? ラーデは今日、こうして実の子であるあんた達と何百年ぶりかで会えたことだし、せっかくならそのファフニールとも会わせてやりたいんだが」
『ぁー、確かにねぇ……パパンが復活なさったのだから、一度はファフ兄ともお会いしとくべきよねぇ』
レオニスの話に、リンドブルムも納得したように頷く。
ラーデの実子三体のうち二体に会えたのだから、残る一体であるファフニールとも会わせてやりたいというレオニスの言い分は実に尤もなものだ。
しかし、残念ながらレオニスは不思議の森の入口を知らない。
いや、不思議の森という存在自体は人族の間でもそれなりに知られている。
だが、その名の通り不思議の森は不可思議な存在。
一度入り込んだら出るのは至難とされ、その出入口も神出鬼没で特定の場所を持たずにあちこちを移ろうというのだ。
これでは如何にレオニスと言えども探しようがない。故にその行き方を知っていそうなリンドブルムに尋ねた、という訳だ。
『いいわ、そしたら私が不思議の森に連れていってあげる』
「いいのか? できればラーデの後見人である俺も、ラーデといっしょにファフニールに会って挨拶しときたいんだが」
『いいわよー。パパンがアナタ達に世話になっている以上、ファフ兄にもそこら辺を含めてちゃんと知っておいてもらうべきだし』
「すまんな、そうしてもらえるとこちらとしても助かる」
レオニスの要望に理解を示したリンドブルムに、レオニスが礼を言う。
『そしたらいつ行くー? 私は今からでも構わないけど』
「今から!? いや、そこはせめて明日以降にしてもらえるとありがたい……何せ今日はいろんなことがあり過ぎてな」
『まぁそうよねー。そしたら今日は、パパンの療養先の見学ってことで地上にお邪魔するわねー』
「何ッ!? ……そうだな、そういやさっきサマエルもそんなこと言ってたっけな……」
『そそそ、サミーと同じく私もパパンの療養環境は気になるところだしねー』
リンドブルムの地上降臨宣言に、一瞬慌てふためいたレオニス。
だがリンドブルムの言うことも尤もで、先程のサマエル同様父が今どんな暮らしをしているのか気がかりなのだろう。
それはレオニスにも理解できるので、早速ラウルに声をかけた。
「ラウル、すまんが今日はコテージでこの姉弟を出迎えてやりたいんだが。いいか?」
「もちろん。ラーデの子供達なら大歓迎しよう」
「すまんな。そしたらコテージでの晩飯の支度なんかも頼むわ」
「了解ー」
リンドブルムとサマエルのお泊まり会?決定に、レオニスが早々にその手配を始めた。
幸いにも今のカタポレンの家には、来客に対応できるコテージがある。
リンドブルムとサマエルにはコテージに泊まってもらって、今のラーデが日々過ごしている環境を二者に存分に見てもらえばいいのだ。
レオニス達の配慮に、ラーデが改めて礼を言う。
『レオニス、ラウル、うちの子達がいろいろとすまんな』
「何、気にすんな。ラーデの家族なら、俺達にとっても歓迎すべき客人だ」
『そう言ってもらえると助かる』
礼を言うラーデに、レオニスが微笑みながら応える。
いつものレオニスなら、『ラーデの家族なら俺にとっても家族だ!』とか言いだすところなのだが。
友好的なリンドブルムならともかく、先程までガッツリ敵対していたサマエルまですぐに身内認定する訳にはいかない。
しかし、リンドブルムの適切な躾のおかげでサマエルも無闇矢鱈に牙を剥くことはなくなった。
これなら即時身内認定はできずとも、大事な客人として迎え入れることは可能だ。
この先サマエルとも良い関係が築けていけるといいな、とライトは心の中で願う。
「……さて、そしたら向こうの家にもどるついでに、エルちゃんにも挨拶していくか」
「そうだね!エルちゃんやドライアドさん達も、ずっと不安だっただろうし」
リンドブルム達との話がある程度まとまったところで、レオニスが帰宅の徒に就くことを宣言する。
カタポレンの家に帰るには、天空樹の島にある転移門を使う必要がある。
その際に、天空樹のユグドラエルにもきちんと挨拶をしていこう、というのは当然の配慮である。
「光の女王、雷の女王、今日はすまなかったな。ヴィーちゃんやグリンちゃんの羽根をもらいに来ただけのつもりだったのに、こんな大事になっちまった」
『いいえ、貴方が謝ることではないわ。ラーデ様の御身を考えれば、遅かれ早かれ起きたことだったでしょうし』
『そうね。それに、貴方達がいてくれたおかげで戦争突入も回避できたのだもの。だから気にしないで!』
「光の女王様、雷の女王様、本当にありがとうございます!」
真摯に謝るレオニスに、二人の女王が嫋かな笑みを浮かべつつ快く許す。
確かに光の女王の言う通りで、サマエルがラーデの復活を知ってラーデに会いたいと願うあまり北の天空島を監視し続けていたなら、今日の襲来は必然の成り行きである。
レオニスの謝罪を快く受け入れる二人の女王に、ライトが感激の面持ちで深々と頭を下げた。
『エルちゃん様には、さっきグリンちゃんやヴィーちゃんを送っていった際に軽く話はしておいたけど。レオニス達からも声をかけて差し上げれば、きっとエルちゃん様も喜んでくださると思うわ』
「そうだな……エルちゃんも、天空竜やサマエルとのやり取りはずっと見ていただろうが、俺達からもきちんと話をしとかないとな」
『ええ、よろしく頼むわね』
「承知した」
地上への帰還が決まり、レオニス達を始めとして話し合いの席に着いていた者達が次々と席から立ち上がる。
お茶や茶菓子などで使った食器類をラウルが回収し、テーブルや椅子はレオニスがパラスに譲渡してパラスが空間魔法陣に収納していく。
ライト達が撤収作業をしている間に、ラーデがリンドブルムとサマエルに話しかけていた。
『リンドブルム、サマエル。これから地上に向かうが、その前にこの北の天空島の主の一柱であるユグドラエルにも挨拶したいくぞ』
『ユグドラエル……天空樹と呼ばれる、世界最古の神樹ですね』
『うむ。此度の件は、ユグドラエルにも多大な心配をかけさせただろうからな』
『分かりました。サミー、アンタもちゃんとご挨拶するのよ?』
『はい』
ラーデの言葉に素直に従うリンドブルムとサマエル。
そしてラーデは、最後に二人の女王に声をかけた。
『光の女王、雷の女王、其方達の寛大さに心より感謝する。本当にありがとう』
『ラーデ様も、御子様達に会えて本当にようございましたね』
『なかなかに元気いっぱいな御子でしたわね!』
『うむ……元気が有り余り過ぎてな、親である我もいつも振り回されておる』
ラーデの礼の言葉に、光の女王は心から祝福し、雷の女王はいたずらっぽい笑顔で軽く揶揄う。
今日のラーデは何を言われても反論できないので、雷の女王の揶揄いに対してもぐうの音も出ない。
『ラーデ様、これに懲りずにまたいつでも天空島に遊びに来てくださいましね』
『ええ、私達はいつでもラーデ様を歓迎いたしますわ!』
『うむ、我もまた其方達の顔を見に来たいからな。また会おう』
ラーデがいろいろと話している間に、あっという間に撤収作業を終えたライト達が声をかける。
「ラーデ、お待たせー!リンリンさん、サマエルさん、エルちゃんのところに行きましょう!」
『うむ』
『はーい♪』
『…………』
ライトの呼びかけに、ラーデを抱っこしたリンドブルムはいそいそとライト達のもとに移動し、サマエルは無言でリンドブルムの後ろをついていく。
そうしてライト達は畑の島から天空樹の島に飛んで移動し、二人の女王とパラスは天空樹の島に飛び立つライト達に向かって手を振りながら見送っていた。
ギスギスしがちな話し合いの場も何とかまとまり、そろそろおうちに帰る時間となりました。
帰宅する前に皆それぞれに挨拶をしているのですが。はて、そもそもライト達は何で天空島に来たんだっけ?と本来の目的をスッカラカンに忘れてしまった作者は、慌てて過去回をサルベージ。
そして第1473話を読み返して思い出しました。そう、何をしに天空島に行ったかって、ヴィーちゃんグリンちゃんの羽根を分け与えてもらいに来たんだったわ!(º∀º) ←思い出してスッキリした人
ぃゃー、天空島来訪から15話もかかってしまいましたよ。
二週間も経ったらね、そりゃ物忘れクイーンな作者じゃ来訪理由も忘れちゃうってもんよね!(º∀º) ←開き直り




