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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
三年生の夏休み

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1486/1685

第1486話 姉の諭しと和解

「あのバカデカいドラゴンは、一体何だ!?」


 初めて見る赤紫色のドラゴン―――リンドブルムを見たレオニスが喫驚している。

 ちなみにリンドブルムの背に乗っているライトとラウルとパラスは、レオニス側からはまだ見えていない。

 しかし、ラーデはもちろんサマエルも赤紫色のドラゴンが何者であるかを知っている。

 故に二者がほぼ同時に叫んだ。


『リンドブルム!』

『リン姉様!』


 ラーデは二番目の我が子に会えた喜びに破顔し、サマエルは『何故リン姉様がここに!?』という驚きに満ちていた。

 そしてレオニスも二者の叫びを聞いて、瞬時に凡そのことを察した。

 ラーデの子であるサマエルが『リン姉様』と呼ぶということは、あのドラゴンはサマエルの姉でありラーデの娘である、ということを。


 このリンドブルムというドラゴン、その名をレオニスは聞いたことがある。

 もっともそれはラーデと同じく、他の人族同様に御伽噺の中の伝説の竜として語られているのを知っているだけで、それ以外は殆ど何も知らないに等しいのだが。


 また、リンドブルムの存在に気づきその意味を察したのはレオニスだけではない。

 同じく後ろを振り向いていた光の女王と雷の女王も、それがライト達が連れてきたラーデの子であることを理解していた。


 一対の大きな翼をバッサバッサとはためかせ、ぐんぐんと近づいてくるリンドブルム。

 畑の島からあっという間にレオニス達のいる場所に到着した。

 光の女王と雷の女王の横にいる二羽の神鶏達を大きく上回る巨躯。

 ヴィゾーヴニルやグリンカムビがちょっと大きめのヒヨコに見える。


 するとここで、グリンカムビの背からライト、ラウル、パラスが降りて前に出た。

 ライト達の姿が出てきたことに、レオニスが目を丸くしながら叫んだ。


「え、ちょ、ライト!? ラウル!? 何でリンドブルムに乗ってんだ!?」

「あ、レオ兄ちゃん、ただいまー」

「何でって、そりゃご主人様とラーデの子とのガチ喧嘩を止めるために決まってるだろう? そんなもんがおっ始まってみろ、どっちも後戻りできなくなるだろうが」

「うぐッ、そ、そりゃそうだが……」


 使命を果たしてのんびりと帰還の挨拶をするライトに、ガチ正論でレオニスの疑問を論破するラウル。

 ラウルの言い分は尤も至極なので、レオニスは反論のしようがなく言葉に詰まっていた。

 そして、そんな二人の様子など全くキニシナイ!とばかりに、ライトがリンドブルムの紹介を始めた。


「あ、皆に紹介するね。この赤紫色のドラゴンは、リンドブルムさん。ラーデの二番目の子なんだって」

『父上が認めた者達ならば、私のことを『リンリン』と呼んでいいわよー』

「『『リンリン……』』」


 巨躯に似合わず軽い口調のリンドブルムに、レオニスと二人の女王がぽかーん……としながらリンドブルムの顔を見上げている。

 そしてリンドブルムも、レオニス達の様子など全くキニシナイ!とばかりに、ふい、と視線を前方に遣った。


『ンまぁ、ホントにパパンがいらっしゃるわ。というか、パパンに間違いないけどかなりちっちゃくなっちゃってるわね? とりあえずパパンにご挨拶してこないと』


 リンドブルムはそう言うと、ズイッ、と前に進み出た。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リンドブルムの前方にいたレオニスや二人の女王、そして二羽の神鶏が慌てて左右に退いて彼女に道を譲る。

 そうしてラーデとサマエルの前に立ったリンドブルム。

 巨大な身体から見下ろす山吹色の瞳が、ラーデやサマエルをギラッ!と睨みつけた。


『……パパン、おかえりなさいませ』

『うむ、リンドブルムも息災のようで何よりだ。ここにファフニールがいれば、我が子が全員揃ったのだがな』

『それがですね……ファフ兄は私の親友であるフレジャちゃんと熱愛中でして。いつだったかは思い出せませんが、そりゃもうウッキウキで不思議の森に新婚旅行に出かけました』

『うむ、その話はサマエルからも聞いておる。ファフニールに良き伴侶がてきたこと、我も父として嬉しく思うぞ』

『ファフ兄が帰還したら、それはそれは父上のおかえりを大喜びすることでしょう』


 ラーデの目の前で恭しく傅き、最大級の敬意を表すリンドブルム。

 たった40cm程しかないラーデに向けて、体長20メートルを超すリンドブルムが身体を丸めて敬意を払う様子は何ともちぐはぐで面白い。

 するとここで、リンドブルムの視線がサマエルに移された。

 姉から睨まれたサマエル、ビクンッ!と飛び上がり動揺している。


『サミー……アンタ、パパンを殺す!とか言ってるんですってね?』

『ッ!!そ、それは……父上の尊厳を守るためにですね……』

『黙らっしゃい』

『ッ!!!』


 しどろもどろに言い訳をするサマエルに、リンドブルムがピシャリ!と言い放つ。

 ここでも再びサマエルの身体が跳ね上がり、目をギュッ!と閉じて小刻みに震えている。

 それを見るに、サマエルは本当にリンドブルムに頭が上がらないことがよく分かる。


『アンタね、どうしてそう極端なことしか言わないの。こうしてパパンが無事帰ってきてくださったのだから、まずは普通に喜びなさいよ?』

『も、もちろん!私とて父上のご帰還は大いに喜んでおります!ですが……』

『ですが……何なの?』


 懸命に言い募るサマエルに、リンドブルムが再びギロッ!と鋭い視線を向ける。

 それは『蛇に睨まれた蛙』どころではなく『象に睨まれた蟻』の如き図である。

 もはや言い逃れはできない、と悟ったサマエルは、しおしおと萎れながら本音を漏らし始めた。


『ち、父上は我らの天空島に帰ってきてくださらないではないですか……』

『そりゃ仕方がないでしょう。パパンにはパパンのお考えがあって、そうなさっているのだから』

『リン姉様は、それで良いのですか!?』


 (リンドブルム)の冷徹な言葉に、(サマエル)が思わずガバッ!と顔を上げて猛反発している。

 その赤黒い双眸には、再び大粒の涙が滲んでいた。

 しかし、姉は事も無げに涼しい顔で答える。


『良いも悪いもないわ。全てはパパンの思し召しであり、私達は己の本分を全うしつつ待てばいいの。だってパパンは、必ずや私達のもとに帰ってきてくださるのだから』

『ッ!!!』


 父に全幅の信頼を寄せるリンドブルム。

 父の愛を信じて疑わない様子に、サマエルは雷に打たれたようになっていた。

 またも全身を小刻みに震わせるサマエルに、リンドブルムがハァ……と小さくため息をつきながら顔を近づけて囁いた。


『サマエル……アンタは本当に、昔っからパパンのことが大好き過ぎるくらいに大好きだったわよねぇ』

『……はい……』

『あまりにも大好き過ぎて、よくパパンを困らせていたわよねぇ。今回のもきっとそれなんでしょうけど……』

『………………』

『せっかく帰ってきてくださったパパンを、あまり困らせてはダメよ? こうして再びこの世界に降臨してくれた今、パパンに会いたい時にいつでも会えるのだから』

『……(コクン)……』


 優しく諭すリンドブルムに、サマエルも小さくコクリ、と頷いた。

 父を殺す!と言ったサマエルだが、それは彼ならではの愛情の裏返し。

 父を独占したい!と思う思慕の情がちょっとだけ暴走してしまっただけなのだ。

 もっともその暴走は、周囲からしたら傍迷惑なのだが。


 サマエルの小脇に抱えられていたラーデが、するり、と抜け出してリンドブルムの前に出た。

 それまでサマエルにガッチリとホールドされていて、抜け出そうにも抜け出せなかったのだが。リンドブルムの優しい諭しに、次第にサマエルの身体から力が抜けていったことでラーデのホールドも緩んだのだ。


『リンよ……其方、少し見ない間にまた立派に成長したなぁ』

『ありがとうございます。このリンリン、パパンのご帰還を首を長くしてお待ち申し上げておりました』

『其方が我が娘であることを、心より誇りに思う』

『私もパパンの娘であることを、心より誇りに思っております』


 超巨大な娘の立派な姿に、ラーデが感無量の面持ちで彼女を讃える。

 暴走した末子を言葉だけで諌められるのだから、親の欲目でなくとも大したものだ。

 しかし、感無量のラーデにあくまでも冷徹なリンドブルムが容赦なく言い放つ。


『……が、パパンの方も、少し見ない間にだいぶ小さくおなりですねぇ?』

『う、うむ……これにはいろいろと事情があってだな……』

『その事情とやらを、後ほどお聞かせしてもらっても?』

『も、もちろんだとも。其方にも、サマエルにも、話したいことが山ほどある』


 ラーデを真っ直ぐ見つめるリンドブルムの視線に、思わずラーデも少しだけ怯んでいる。

 しかし、ここは親としての威厳を保ちたいラーデ。頑張って己を鼓舞しているようだ。


 するとここで、ラーデ達のやり取りをずっと静かに見守っていた雷の女王がラーデに声をかけた。


『ラーデ様、もしよろしければ私達の天空島で休憩なさいませんか?』

『む? いいのか?』

『もちろんですとも』

『ぃゃ、其方は良くとも光の女王の方はそうではないのではないか?』


 雷の女王の申し出に、ラーデはありがたいと思う反面光の女王にも気遣っている。

 そう、先程まで光の女王はサマエルと一触即発だった。

 雷の女王と同じく、彼女もまた北の天空島の主の一人。その彼女の機嫌が悪いままでは、北の天空島での休憩など夢のまた夢である。


 しかし、ラーデの尤もな心配に雷の女王は穏やかな笑みを浮かべながら答えた。


『光の女王なら、もう大丈夫ですよ。……いいえ、正直に言えば、あのサマエルというラーデ様の御子の闇の姉様に対する侮辱発言だけは、ちゃんと撤回してもらわないと厳しいところですが』

『そうよな……』


 少しだけ困ったように微笑む雷の女王に、ラーデも頷いている。

 光の女王の方を見ると、身体の発光がだいぶ収まっているのが分かる。

 その様子から、先程と比べれば怒りもかなり静まってきているようだし、これなら北の天空島での休憩も可能だろう。


 しかしそれは、あくまでもラーデとリンドブルムに対してのみ。

 闇の女王を侮辱したサマエルを、そのまま受け入れることは難しい。

 少なくとも闇の女王への侮辱を完全撤回しない限りは、光の女王はサマエルを許すことは絶対にないであろうことを、この場にいた誰もが理解していた。


 ラーデが後ろを振り返り、サマエルに語りかける。


『サマエル、先程の闇の女王への侮辱を撤回せよ。其方達はまだ知らぬことだし、後できちんと話して聞かせてやるが……此度我がこの現世に戻ってこれたのも、ひとえに闇の女王の多大なる尽力あってこそなのだ』

『そうなのですか!? 父上の大恩人とは知らず、私は闇の女王を貶めていたのですね……斯くなる上は、この腹かっ捌いてお詫びを……』


 再びあらぬ方向に暴走し始めたサマエル。

 またも物騒なことを言う末子に、ラーデが『だ、だから、何故にそうなる!?』と泡を食っている。

 そんなラーデの横で、リンドブルムだけが冷静に動く。


『これ、サミー。アホなこと言ってんじゃありません』

(イテ)ッ!!』


 リンドブルムが右手の爪でサマエルにデコピンをかました。

 巨大なリンドブルムから放たれた爪デコピンの威力は凄まじく、サマエルの身体が後方に100メートルほど吹っ飛んでいってしまったではないか。

 その途中、何体もの天空竜が巻き添えを食らってサマエルとともに吹っ飛んでいった。流れ弾を食らってご愁傷さまである。


 ラーデが呆気にとられていると、はるか遠くに吹っ飛んでいったはずのサマエルが十秒もしないうちにバビュン!と戻ってきた。


『リン姉様のデコピンは、相変わらず痛いです!』

『アンタがアホなこと言うからでしょ。全くもう……』


 フン、と呆れるリンドブルムに、サマエルが己の額にできた巨大なたんこぶを手で擦りながら抗議する。

 しかしサマエルは、にへらー……と嬉しそうに笑っていて、その抗議は本気ではないことが窺える。


『そんなことより。サミー、アンタまた要らん口を利いたようね?』

『ぁー、はい……確かに先程、光の女王と闇の女王をちょーっとだけ貶した覚えはあります』

『アンタのことだから、ちょっとだけどころの話じゃないんでしょう……ていうか、何でここにいない闇の女王まで貶してんのよ』


 侮辱したことをあっけらかんと認めたサマエルに、リンドブルムが目を閉じしかめっ面をしながら苦悶の表情を浮かべている。

 リンドブルムはサマエルの姉だけに、サマエルの性格や言動も知り尽くしている。

 故にサマエルの言う『ちょーっとだけ』が、全く自覚を伴わない過小申告であることも瞬時に見抜いていた。


『いいこと、サマエル? 確かにパパンの大恩人を、そうとは知らずに貶してしまったのは万死に値するわ。でもね、ここで本当に一万回も死んで詫びていたら日が暮れるどころの話じゃないの。分かる?』

『はい、分かります』

『だったら一万回も死んで詫びる前に、一回でいいから光の女王達に謝罪しなさい。本当の本当に、誠心誠意心から彼女達に謝るのよ。分かった?』

『分かりました!』


 幼子に向けて諭すように、逐一丁寧にサマエルを説得するリンドブルム。

 その言葉に、サマエルは全て頷き了承している。

 ラーデが言っていたように、弟の扱い方を熟知している姉は実に頼もしい。


 そうして姉から諭されたサマエルは、二人の女王の前に進み出て深々と頭を下げた。


『光の女王、雷の女王、先程は無礼を働きすまなかった。其方達と闇の女王への侮辱は撤回し、以後二度と其方達を貶める発言はしないとここに誓おう』

『…………分かったわ。本当なら絶対に許さないところだけど、貴方はラーデ様の御子。ラーデ様に免じて、今回だけは許しましょう』

『ありがとう!』


 光の女王は渋い顔をしながらも、サマエルの謝罪を受け入れた。

 彼女の許しを得たサマエルは、深々と下げていた頭をガバッ!と上げて破顔した。

 だが、そんな彼を待ち受けていたのは、再び身体が強く光り始めた光の女王の厳しい言葉だった。


『でも、次はないわよ? もし万が一、再び私達の恩人に悪意を以って貶したら……その時は、南の天空島を全て討ち滅ぼす』

『ぁー……こうなった光の女王は私でも止められないからね? これは脅しでも冗談でもなく、本当に本気の警告よ』

『承知している。皇竜メシェ・イラーデの末子、サマエルの名にかけて先程の誓いを全うしよう』

『是非ともそうしてちょうだい……』


 光の女王のものすごい圧を含んだ警告に、雷の女王が懸命にサポートに回っている。

 今回は徹頭徹尾いつもと立場が逆転しているが、たまにはこういうこともあるだろう。


 二人の女王とサマエルの和解が、ここに無事成立した。

 それを見届けたリンドブルムが、改めて二人の女王やサマエルに声をかけた。


『光の女王、雷の女王、うちの弟が迷惑をかけたようでごめんなさい。私からもこの通り謝ります』

『いいえ、貴女が謝ることではございませんわ。あのサマエルという者が、この先二度と同じ過ちを繰り返さなければいいのですし』

『理解いただけて感謝するわ。弟には後でまたキツく言っておきます』

『是非ともそうしてください』


 二人の女王とリンドブルムの和やかな会話に、周囲で見守っていたライト達も安堵する。

 これでようやく南北の天空島同士の衝突は避けられそうだ。

 そして雷の女王が先陣を切って皆に声をかける。


『さぁさぁ、そしたら皆でうちに寄っていってちょうだい!……あ、あの後ろに控えている天空竜達はどうしましょ?』

『天空竜達は南の天空島に帰るよう、私から言っておこう』

『そうしてもらえると助かるわ。さすがにあの数の天空竜全部を受け入れるのは無理だし』

『では、私達は一足先に畑の島に行くわね。もちろんレオニス達も、ラーデ様やリンリン様とともに休憩しに来るでしょう?』

「ぉ、ぉぅ、もちろんだ」


 有無を言わさぬ光の女王の圧に、思わずレオニスが後退りながらその誘いを承諾する。

 一方ライトは「わーい!光の女王様、ありがとうございますー♪」と純粋に大喜びし、ラウルは「休憩するなら茶菓子も必要だな」とやる気満々である。


 その後サマエルは天空竜達に帰還の指示を出し、二人の女王は相棒の神鶏達とともに畑の島に移動し、ライト達も二人の女王の後を追うように畑の島に移動していった。

 リンドブルムの見事な仲裁により、何とか無事和解できました。

 リンドブルムは言動こそ軽めですが、そこはやはり皇竜の子だけあって頭脳明晰・弟の手綱の扱いも天下一品です。

 ホントにねぇ、一週間もかけてライト達をお使いに出してリンリン姉ちゃんを呼びに行かせた甲斐があったってもんです(^ω^)

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