第1482話 火口の奥に潜むもの
時は少し遡る。
ラウル達と分かれて巨大な山の上に向かって飛んだライト。
山頂で、ぽっかりと開いた大きな火口を見つけた。
「うはぁー……何この如何にもラスボスや最奥に続きそうな穴……」
上空をふよふよと飛びながら、山頂の少し上でしばらく火口を眺めるライト。
きっとこの奥にライト達が探すラーデの子、ファフニールとリンドブルムがいるに違いない。
しかし、ライトはまだこの山頂しか見ていない。
一応この天空島の下側も一通り見ておくべきだ、と考えたライト。とりあえずその場を後にして島の下側を見にいった。
そうしてライトは島を縦にぐるりと一周し、再び山頂に戻ってきた。
島の下側には、何かが隠れたり潜んだりできそうな場所は全く見当たらなかった。
ということは、やはりこの山頂にある火口が最も怪しいということになる。
「ンー、どうしよう……ホントはラウルとパラスさんがここに来るのを待つべきなんだろうけど……」
ライトは巨大な火口を見下ろしながら悩む。
山の外周を見て回っているラウル達がこの山頂に着くには、もう少し時間がかかるだろう。
ここでただ無為に過ごすよりは、一分一秒でも早くファフニールとリンドブルムを見つけて外に連れ出したい。
こうしている今も、北側の天空島近くでレオニスとサマエルが激突しているかもしれないのだから。
「…………よし、ひとまず俺が先に入ってみるか。運が良けりゃラウル達がここに来る前に、ファフニールとリンドブルムを外に連れてくることができるかもしれないし」
ラウル達を待たずに火口の中に入ることを決意したライト。
様子を伺うように、直立姿勢でゆっくりと降りていった。
そうして火口の入口にライトが足を踏み入れた、その時。
ライトの身体がまるで火口奥に一気に引き摺り込まれるような感覚に陥った。
「うおッ!?!?!?」
突然のことに、ライトが大きな声で吃驚する。
ジェットコースターのフリーフォールのように、魂まで地底に吸い込まれそうな恐ろしい感覚にライトは思わずギュッ!と目を瞑った。
そして数瞬の後、フッ……と引き摺られる感覚が一気に消えた。
体感の変化にライトがおそるおそる目を開けると―――
薄暗い空間の中に、一枚の扉があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
突如ライトの目の前に現れた扉。
形はアーチ状で3メートルくらいの高さがあり、周囲の青黒い壁と同じ材質でできているようだ。
そして扉には電子回路のような、複雑かつ多数の青白く光る線が引かれていて辺りを薄っすらと照らしている。
扉の周囲の壁には扉を覆うかのようにたくさんの蔦が生えていて、何とも物々しい雰囲気を醸し出していた。
明らかに異質な扉を前に、ライトは呆然としながら扉を見上げる。
どう考えても、これらは火口の中に自然に備わるような代物ではない。
扉という人工物もそうだし、何より山の火口の奥深くに植物の蔦が生い茂るなどということも常識的にあり得ない。
これらのことから、今ライトが立っている場所は異空間である可能性が高いことが窺える。
そして何よりライトには、この扉に見覚えがあった。
「これは……『修験者の迷宮』の扉、か?」
青白く光る扉を前に、ライトがぼそり、と呟く。
BCOの期間限定イベントの一つ、『修験者の迷宮』。
勇者候補生が迷宮の扉を開き、その向こう側にいるモンスターを倒すことで様々なアイテムを拾得する、というイベントだ。
どんなアイテムを拾得できたか、またどんなモンスターが出てきたか等の詳細まではすぐに思い出せないが、それでもこの蔦に覆われた青白く光る青黒い扉が『修験者の迷宮』のトップ画像に使われていたことは間違いなく覚えている。
「くッそー……なんでこんな場所に期間限定イベントが潜んでんだよ……今はこんなことしている場合じゃねぇってのに!」
「でも……ぱっと見、この扉以外には何も見当たらないし……この先に進むしかねぇのか?」
「……いや、この扉を開ける前に、天井や周辺を探索してみるか……」
ファフニールとリンドブルムを探すつもりで突入した山の火口の中に、まさかこんなもの=BCO由来のイベントの舞台が出てくるとは予想だにしなかったライト。
思わずブチブチと愚痴るものの、このまますぐに扉を開けて奥に入るのは性急だと判断し、気を取り直して周辺の探索を開始した。
まず、ライトは自分が来た方向である上を見た。
本来なら上空に広がる青空が見えるはずなのだが、上部はどこを見ても真っ暗闇だ。
ライトには闇の女王とクロエの加護があるので、真っ暗闇でもある程度ははっきりと物が見えるのだが、そのライトの目を以ってしても上部は黒一色で何も見えない。
しかし、それでも一縷の望みをかけてライトは上に飛んでみた。
もし再び火口の外に出られるようなら、今度こそラウル達と合流して改めて作戦会議をしよう、と考えたのだ。
しかし、高さ5メートルほどのところで天井に阻まれて、頭をぶつけてしまった。
幸いにも勢いをつけて飛んではいなかったが、それでもおでこの辺りを思いっきり天井の壁にぶつけてしまったライト。
ゴチン!という鈍い音とともに、ライトが「痛ッ!」と小さく叫んだ。
ライトは少し涙目になりながら、ぶつけたおでこを右手で擦りつつ一旦下に戻り地面に降り立つ。
そして扉の周辺をしばらく歩いてみたが、どの方向でも10メートルほど進んだところで青黒い壁にぶつかってしまった。
扉以外の進路は全く存在せず、後戻りもできない状況にあることが分かり、ライトが再び歯ぎしりする。
「くッそー、結局扉の先に進む以外の選択肢はねぇってことかよ!何なんだよ、この超悪質なトラップは!」
「…………しゃあない。他に道がない以上、扉を開けて中に入るしかないか。どの道ここがBCOイベントの異空間なら、ラウルやパラスさんは絶対に入れないだろうし……」
退路を完全に断たれたライト、再び盛大に愚痴りながらマイページを開いてイノセントポーションやセラフィックエーテルをぐびぐびと飲み続ける。
この中央の天空島に辿り着くまでにもHPやMPを消耗したし、何より今から修験者の迷宮の扉の先に進むなら、その前にHPMPだけでも全回復しておかなければ!という訳だ。
イノセントポーションを一本半、セラフィックエーテルを二本弱、それぞれ「おごッ」と喉に詰まるまで飲んでHPMPを全回復させたライト。
飲みかけの瓶に蓋をしてアイテムリュックに放り込み、両手で自分の頬をパン、パン!と軽く叩き気合いを入れる。
「……よし、行きますか!」
意を決したライトが青白く光る青黒い扉の前に立ち、右手でそっと扉に触れる。
すると、ライトは全く力を入れていないのに分厚い扉がギギギ……という軋むような音とともにゆっくりと開いていく。
扉の先には、まるでブラックホールのような真っ暗闇の空間が広がっていて、奥に何があるのか全く分からない。
しかし、先に進まないという選択肢はない。
ここがBCOイベント由来の異空間なら、ライト以外の誰にも攻略などできないのだから。
ラウルやパラスの助力が得られない以上、この先はライト一人で進まなければならない。
この奥にファフニールやリンドブルムがいるかどうかも不明だが、それでも二体がいることを信じて前に突き進むしかない。
そうして目の前に広がる解放された未知の空間に、ライトは勢いよく駆け出していった。
前話でラウル達と離れ離れになったライトのその後の様子です。
ただの死火山の火口だと思って、斥候よろしくちょっとだけ様子見のつもりだったのに。どっこいBCOイベント由来の異空間でした☆とは、ライトに『悪質トラップ』呼ばわりされても仕方ないですよねぇ(´^ω^`) ←悪質トラップを仕掛けた張本人
でもまぁね、ライト君は拙作の主人公ですのでね。
たまには冒険面でも活躍してもらわないとね!(º∀º) ←鬼+悪魔




