第1476話 天空竜の目的
天空竜の大群の襲来を受け、ライトはラウルとともに天空樹の島に移動した。
ユグドラエルの根元では、ドライアド達が懸命にユグドラエルに向かって話しかけていた。
『エルちゃん様のことは、私達が絶対にお守りするから!』
『そうよそうよ!あの邪竜達だって、皆で力を合わせて退治したんですもの!今回だってきっと大丈夫!』
『天空竜なんて、ヴィーちゃんとグリンちゃんが蹴散らしてくれるわ!』
『だからエルちゃん様も、心配しないでね!』
天空竜襲来なんて事態、本当はドライアド達には相当怖いだろうに。懸命に恐怖を堪え、口々にユグドラエルのことを励ましている。
そんな健気なドライアド達に、ユグドラエルも『皆、ありがとう』『頼りにしてますよ』等々応えている。
ライトとラウルはユグドラエルの根元近くの地面に降り立ち、早速話しかけた。
「エルちゃん!レオ兄ちゃんに、ぼくとラウルはここに避難するよう言われたのでここに来ました!ぼく達もいっしょにいていいですか!?」
『もちろんですとも。貴方達を含めて、皆のことは私が守ります』
「ありがとう、恩に着る。ドライアド達も大丈夫か?」
『大丈夫!ラウル達のことも、私達が守ってあげるからね!』
ライト達の避難を快く受け入れるユグドラエルとドライアド。
ラウル達のことも守ってくれるとは、実に頼もしい限りだ。
するとここで、ラウルがユグドラエルに向かって話しかけた。
「エルちゃん、俺は天空竜のことを全く知らないんで、もし知ってたらどんなやつらか教えてもらえないか?」
『天空竜は、私達がいる島よりはるか南にある天空島にいる竜です。別名『空の覇者』とも言われていて、空で生きる者達の中で彼らに比肩する者はいません。ただし、神殿守護神であるヴィゾーヴニルとグリンカムビは別ですが』
「そんなに強いやつらなのか……」
『ええ。体格で言えばシュマルリの白銀よりも若干小さいくらいですが、それでも先日戦った邪竜達よりはるかに強いことは間違いありません』
ユグドラエルが語る天空竜の情報に、ラウルの顔が険しくなる。
先日の邪竜の島討滅戦では、ラウルは戦闘に参加しなかったがユグドラエルの上でライトとともに遠目から戦いを見守っていた。
邪竜は大小様々な体格だったが、特に大型の邪竜はかなり強くて俊敏性も高く厄介だったと記憶している。
あの強い邪竜達よりもはるかに強い、とユグドラエルに言わしめる天空竜。
もし敵対するとなったら、相当手強い相手となるだろうことは想像に難くない。
しばらく無言で考え込んでいたラウル。ふと視線を横に移し、ライトに話しかけた。
「なぁ、ライト。これ、場合によっては竜騎士団や白銀達にも声をかけなきゃならんかな?」
「うーーーん……さっきレオ兄ちゃんが、向こうの目的を探るために交渉って言ってたから、その交渉結果次第なんじゃないかな?」
「そっか、そうだよな……でも、もし交渉が決裂したら、それから援軍を呼ぶのは遅くないか?」
「確かにそうだよねぇ……」
ラウルの尤もな質問に、ライトも考え込む。
もし万が一、レオニスや二人の女王と天空竜の交渉が上手くいかずに決裂したら、その場で戦闘開始も十分にあり得る。
そうなってから援軍を呼ぶのは遅過ぎる。
しかし、だからといって今すぐに援軍を手配するのも早計過ぎる。もしレオニス達の交渉が上手くいった場合、呼んだ援軍が無駄足になるからだ。
するとここで、ライト達の会話にユグドラエルが入ってきた。
『貴方達の懸念は尤もですが、ここはしばし様子見しましょう。私としても、弟妹達に心配させたくないですし』
「ですよね……きっと他の神樹の皆も、レオ兄ちゃんが着けている分体を通して事の経緯を見守っているでしょうし」
『ええ……ラグスなど、『今すぐに白銀を遣わします!』とか言っていますし』
ユグドラエルの話に、ライトも大きく頷く。
今天空竜と交渉中であろうレオニス。彼が身に着けている装備品類の中には、神樹の分体入りのアクセサリーも多数ある。
その分体を通して、ユグドラエルの弟妹達も天空竜の大群襲来を既に知っているはずだ。
「じゃあ、レオ兄ちゃん達の話し合いがダメになりそうだったら、すぐにでも白銀さんには来てもらえそうですね」
『ええ。ラグスの白銀だけでなく、シアからも八咫烏達を援軍に出すという申し出を受けています』
「そしたらエルちゃんの言う通り、ここはもう少し様子見した方が良さそうですね。エルちゃん、レオ兄ちゃん達の話し合いの様子は見えますか?」
『はい……ですが、これは……』
「「???」」
何故か戸惑っている様子のユグドラエル。
レオニスの装備品の中にはユグドラエルの枝を使ったものもあるので、それを通してユグドラエルもレオニス達の話し合いをリアルタイムで見ることができる。
レオニス達と天空竜の交渉の場で、何か異変でも起きているのだろうか。
ユグドラエルの様子が何やらおかしいことに、ラウルが心配そうに声をかけた。
「エルちゃん、どうした。何かあったのか?」
『……どうやら天空竜達の目的は、ラーデのようです』
「「『!?!?!?』」」
ユグドラエルの思いがけない答えに、ライトとラウル、そしてラーデが固まった。
しかし、よくよく考えればそれは普通にあり得ることだ。
ラーデは全ての竜の祖であり、天空竜もラーデの子孫の一つ。
皇竜メシェ・イラーデの復活を知った天空竜が、ラーデに会いに来たのだ、と思えば納得である。
「ラーデ、天空竜の知り合いって、いる?」
『うーむ……もちろん天空竜も、わが子孫の一つではあるが……我は邪皇竜に長らく捕らえられていた故、昔の天空竜の知己などもはやほとんど生きてはおらぬと思うのだが……』
「そうなんだ……でも、向こうはラーデに会いたがってるっぽいね」
『うむ……』
天空竜に名指しされたラーデも大いに戸惑っている。
ラーデが邪皇竜メシェ・イラーザに乗っ取られている間に、天空竜の代替わりも相当進んでいるはずだ。
なので、自分の顔を直接知っている天空竜などもはやいないはずだ、とラーデは言う。
しかし、ラーデに心当たりはなくても現に天空竜達はラーデを目当てに大群を率いてここまで来た。この事実は無視できない。
『……我が天空竜達と話をしよう』
「!!! ダメだよ、ラーデ!それは危険過ぎるよ!」
「そうだぞ、ラーデ。向こう側の要求が何なのか、まだ分かっていないうちからラーデが出ていくのは危険だ」
ラーデの決心に、ライトとラウルがすぐに反対した。
いくら天空竜側の目的がラーデだったからといって、すぐにラーデが赴くのは危険過ぎる。
しかし、ラーデの決意が揺らぐことはなかった。
『あちらの目当てが我と分かった以上、ここでこそこそと隠れている訳にはいかぬ。我のせいで、天空島の者達をこれ以上危険に晒すことはできぬ』
「そりゃ、ラーデの気持ちも分かるけど……」
『ならば行かせてくれ。何、天空竜達とて今すぐ我を取って食おうという訳でもあるまい』
「「………………」」
ラーデの言葉に、ライトもラウルも何一つ反論できない。
確かに渦中の当事者であるラーデが話し合いの場に赴けば、それが事件解決の最も早い近道であろう。
そうしたラーデの決意に、ラウルが徐に口を開いた。
「……分かった。なら俺がいっしょについていってやろう」
『うむ。手間を取らせてすまぬな』
「なら!ぼくもラーデといっしょに行く!」
『ライト、其方まで来てくれるのか? 其方はここにいてもいいのだぞ?』
「やだ!絶対にいっしょに行く!」
ラーデを送っていくというラウルの申し出をありがたく受けるラーデ。
そこにライトもいっしょに行く!と言い出したではないか。
天空竜の大群の前などという危険極まりない場所に、子供であるライトを連れていくなど本来ならあり得ないことなのだが。
ラウルもラーデもライトの性格を知っているので、無理に止めることはしなかった。
『フ……ならばともに行こう』
「うん!ラーデのことは、ぼくが守るからね!」
『頼りにしておるぞ』
「任せて!ラウルも護衛をよろしくね!」
「ああ、任せとけ」
皆でともに行く決心をしたラーデが小さく笑いながらライトに手を伸ばす。
ライトはラーデを抱っこし、ふわり、と宙に浮いた。
そしてラウルとともに、天空竜と対峙している最中であろうレオニスのもとに向かって飛んでいった。
前話で襲来してきた天空竜の大群。その目的が判明した回です。
とはいえ、この先戦闘に突入しない保証などまだどこにもなく。余談を許さない緊迫した状況に変わりはありません。
ラーデの決意が、事態を良い方向に導いてくれるといのですが。
そして誰も得しない作者のちょっとした愚痴。
作者の住むド田舎は、今朝結構な雪に見舞われていたんですが。三月に入って二度目の雪って、どゆこと!?
一月二月は一度も降らなかったのに!三月になってからの方が寒いなんて!(`ω´)
そのおかげで、普段座敷で寝ている作者は布団が超底冷えして寒くて寒くて寝れません_| ̄|●
あまりにも足元が冷た過ぎて、一度は仕舞った足元用あんかを引っ張りだす羽目に。
早く暖かくなっておくれよぅぉぅぉぅ(TдT)




