第1461話 究極の選択
豪華報酬獲得を目指し、ひたすらササニシキ村に通い詰めるライト。
朝夕にササニシキ村に通い、日中はラグーン学園で過ごす。
夜はラグーン学園の宿題や勉強、アイギスに納める紐作りなどに勤しみ続けた。
本当は夜中にも笹魔人退治に行きたいところなのだが、さすがにそれはライト自身も無謀だと思うので自制し慎む。
毎日ラグーン学園に通う傍ら、朝夕に二時間以上笹魔人退治をし続けるだけでも結構キツいのに、夜までやり始めたら絶対に身体が保たない。
身体に疲れが溜まり過ぎたら、絶対にラグーン学園での生活に支障が出るだろう。下手をすれば、授業中に居眠りしてしまうかもしれない。
それに、ライトにはラグナロッツァのビースリー勃発未遂事件の時に、黙って家を出てレオニス達に死ぬほど心配をかけた前科がある。
もしまたライトが夜中に黙って外に出かけて、それがレオニスにバレたら―――想像するだけで、ライトは身震いがする。
というか、あの時はライトが自らコヨルシャウキのもとに行かなければ、ラグナロッツァでビースリーが強行されるという事態に直面していたし、黙って家を出たのもやむを得なかった。
しかし、今回は違う。ライトが己の欲望を満たしたいがためにイベント参加しているのであって、決して他者のためなどの大義名分が得られるようなものではない。
故に、万が一にもレオニス達に心配させる訳にはいかない、とライトは自制していた。
七夕イベント開始から二回目の土日、七月一日と二日はそれこそ死に物狂いで短冊集めに奔走した。
お昼ご飯を食べにカタポレンの家に帰る一時間以外は、朝から夕暮れまでひたすら笹魔人を相手にペコペコハンマーを振り回すライト。
この日ばかりは、いつもの素材集めや魔物解体など目もくれずササニシキ村に入り浸り続けた。
「あ"ーーー……期間限定イベントって、いっつもこんな感じだったなぁ。とにかく交換用アイテムを集めて集めて、ただただずーーーっと集め続けて……飽きることすら許されん日々だったわ」
「凶悪パンダももう見飽きた!と言いたいところだが……今はそんなことも言ってられん、兎にも角にも一枚でも多くの短冊を集めなきゃならんのだから」
「てゆか、この凶悪パンダの元凶の非リア充の怨念って、ホンット尽きることを知らんのな……いい加減成仏してくんねぇかな!?」
「もし将来、俺も非リア充となってモテないヤローになったとしても、リア充を妬むようなさもしい男にはならんぞ!」
飽きもせず敵に襲いかかってくる笹魔人を相手に、ライトも適度に毒づきながらペコペコハンマーを振り回し続ける。
傍から見たら、ブツブツと独り言を垂れ流す危ないヤツにしか見えない有り様なのだが。
幸いにもこの時期にササニシキ村に近寄る者はいないので、どれだけ独り言をダダ漏れにしていても全く問題はない。
こうしてライトは、二週間という限られた期間の限定イベントを日々淡々とこなしていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてササニシキ村をこまめに往復する日々が続き、あっという間にイベント最終日を迎えた。
最終日は七夕当日の七月七日、金曜日である。
二週間のイベントを過ごす中で、序盤こそ豪華報酬を目指して「やるぞーーー!」と意気込んでいたものの、中盤から終盤に向かうにつれてライトの顔にも疲労の色が見えてきた。
ラグーン学園での学業の合間を縫いながらのイベント三昧は、如何にライトが複数称号持ちのバケモノキッズであってもかなりキツいようだ。
日に日に少しづつ窶れていくライトに、レオニスやラウル、マキシにラーデまでもが口々に「ライト、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」「なんか、すごく疲れているように見えるが……」「ラグーン学園で何かあったんですか?」『もしや夏風邪でも引いたか?』等々、心配して声をかけてきた。
もちろんライトはその都度「大丈夫だよ!」「梅雨時でジメジメしてるから、それで気が滅入っちゃうのかも?」「ラグーン学園は毎日楽しいよ!」「夏風邪なんて引いてないよ!でも、心配してくれてありがとうね!」等々元気に振る舞う。
間違っても『BCOの七夕イベントを必死こいてやってます!』なんて言えないので、空元気を振り絞って努めて明るく返すしかないのだ。
そうして前日の七月六日までにライトが集めた『神寄の短冊』は、約5600枚。
とりあえず、最低目標の5000枚超えは達成していた。
これは、イベント二日目以降は毎回『幸運のお守り』を使用して笹魔人退治に取り組んだ結果の成果である。
七夕イベントラスト前日の夜、ライトはベッドに寝転びながら交換所の短冊交換ラインナップを眺めていた。
「ンーーー……何とか5000枚は突破できたけど、さすがに7000枚には届きそうにないか……」
「そうすると、何と交換するのがいいかな……5000枚でグロスを取って、残りの約1000枚で好きなものを選ぶか……」
ライトが気分転換のために始めた七夕イベントも、残りあと一日。
終わりが近づくにつれて、集めた短冊をどの報酬と交換するかを考えておかなければならない。
あと一日あれば、何とか6000枚は超えられるだろう。
そんな中、ライトが最も頭を悩ませているのは、5000枚の交換で『エネルギードリンク1グロス』と『エリクシル3個セット』のどちらを選択するか、であった。
ライトの職業システムにおける習熟度上げには、AP回復剤であるエネルギードリンクが欠かせない。
また、コヨルシャウキとのビースリーバトル修行では転職神殿によるレベルリセットが使えないので、AP回復にはエネルギードリンクに頼らざるを得ない。
そんなライトにとって、エネルギードリンク1グロス=144本はものすごく魅力的で、まさに喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。
しかし、もう一つの『エリクシル3個セット』も捨て難い。
これまでライトは、幾度となくエリクシルに助けられてきた。
オーガの里で襲撃事件が起きた時に族長ラキの生命を救い、ラウルが下水道清掃でポイズンスライム変異体に襲われた時にも瀕死の重傷を負ったラウルを助けることができた。
そして神樹ユグドラツィが謎の黒い炎に包まれた時にも、残りのエリクシル全てを費やすことでユグドラツィの復活を手助けすることができた。
これらの実績を考えると、今後もエリクシルは常時1個は持ち続けておきたい。
しかし、ここでエネルギードリンク1グロスを選択すると、エリクシルは入手不可になる。
エリクシルは、1個の交換だけでも2000枚の短冊を要するからだ。
なのでライトは、最も理想的な選択『エネルギードリンク1グロス+エリクシル1個』の交換を目指して、短冊7000枚を目標にしていたのだが。
二週間という限られた時間のなかでは、懸命にやりくりし続けてようやく5000枚を超えはしても、さすがに7000枚には到達できなかった。
ライトはマイページとにらめっこしつつ、うんうんと唸り悩み続けた。
日々の修行に役立つエネルギードリンク1グロスを取るか、それとも究極の回復剤エリクシルを取るか。
今イベントで最も良い報酬、5000枚で選べるのはどちらか一つのみ。
「…………ンーーー、やっぱまだ決められん!とりあえず、明日の最終日の短冊集めを終えてから考えるか!」
それまで目を閉じしかめっ面をしていたライト、目をパッ!と開いてササッ!とマイページを閉じた。
あまりに悩み過ぎて、この場では決められなかったのだ。
この手のBCOイベントでは、アイテムの交換期限はイベント最終日の二週間後までと決められている。
さすがにイベント終了と同時にイベント報酬交換まで締め切るほど、BCO運営も鬼畜ではないらしい。
もしそんなことをしたら、勇者候補生達に『テメー!イベントと同時に交換も終了なんて、そんな馬鹿な話があるか!』『そんなことしたら、イベントに集中できねぇじゃねぇか!』『報酬くらい、イベント終了後にゆっくり選ばせろや!』等々罵られて大炎上必至である。
ちなみにこの交換期限については、交換所店主であるロレンツォにも確認を取ってある。
ロレンツォの話によると『神寄の短冊の有効期限は、七月二十一日までとなっております』とのこと。
ここら辺はちゃんとBCOでのルールと同じようで、それをロレンツォから聞いた時のライトは心底安堵していた。
七夕イベントの報酬を選ぶ猶予は、あと二週間先まである。
まずは翌日の最終日に一枚でも多くの短冊を集めて、それからまたじっくりと吟味すればいいのだ。
長いようで短かった、季節限定七夕イベント。
ライトがサイサクス世界で初めて挑んだアイテム収集系イベントも、あと一日で終わりを迎える。
ライトは明日の朝に向けて、早々に布団に潜り込むのだった。
ライトの七夕イベントの二週間の様子です。
短冊の獲得数約5600枚というのは、前話で出てきた幸運のお守り効果を加味した数字『平日一日平均350枚(30分70枚を一日5回)×11日』『土日11時間稼働=770枚×2日』に、初日の189枚=200枚弱を加算した数字から出しています。
ここら辺、大雑把ではあるけど一応数値化できる公式もどき?があるので、なるべく計算するようにしています。
非常にささいなことではあるんですけどね、そうすることで作者の中では『少しでも話にリアリティを持たせることができる、かも!』と思ってますので(´^ω^`)




