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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
大魔導師フェネセン

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第144話 特殊氷嚢

 店主が店の奥から出してきたそれは、一見何の変哲もない革袋に見えた。その大きさは、前世でいうところの500mlペットボトルくらいのサイズに見える。

 重さはどれくらいか分からないが、見た目だけなら結構な大きさだ。


「これはな、氷の洞窟に棲息するアイスライムの変異体から採取された粘液で作られた、特殊な氷嚢だ」


 店主が革袋の紐を外し、中から金属製?の筒状のものを取り出す。どうやらその金属製の筒の中にアイスライム変異体の粘液が入っていて、凍らせたそれを革袋に包んで使うようだ。


「氷嚢?冷たさを長く保つ、あれ?」

「そうそう、それそれ。つーか、坊主、よくそんなもんまで知ってんな?」

「うん、まぁね。ていうか、そもそも氷嚢自体が結構珍しいものだけど、普通の氷嚢とはまた違うの?」


 ライトが発した疑問は、もっともなものだ。

 冷蔵庫や冷凍庫が普及していないこの世界でも、物を凍らせたり冷蔵保存することは決して不可能なことではない。

 だが、容易なことでもないのが現状だ。氷の魔石はその数が少なく超高級品だし、氷を出せる魔導師も実はほとんどいない。

 水属性の魔法は多々あってもその先の氷魔法、ひいては氷属性という属性そのものが存在しないのだ。


 もっともそれは、魔族を除いた人系種族に限っての話であり、氷の洞窟を見ても分かる通り魔物は氷属性の魔法や氷雪そのものを攻撃手段として使ってくるのだが。

 しかし、現状では氷魔法というものは主に魔物が使うもので人間には使えない、というのがこの世界での常識であった。

 そんな訳で、この世界で氷嚢というものがあっても人族の界隈でそれを使う層は本当に極一部の限られた者のみなのだ。


「まぁこの氷嚢ってのは、実際ここツェリザーク近辺くらいでしか使われないものでな。何でかってーと、氷の洞窟の魔力を含んだ雪や氷があってこその品だからな」

「だから、他所の街や都市なんかでは使えねぇんだ。ラグナロッツァほどの大都市なら、もしかしたら氷魔法を使えるようなとんでもない魔法使いがいるかもしれんが」

「ま、それでも使い手がほとんどいないことに変わりねぇ」


 店主が実に残念そうに、首を横に振る。


「で、だ。さっき坊主が聞いてきた、普通の氷嚢とどう違うのか、だが」

「普通の氷嚢は氷の洞窟周辺の氷雪、上等なものだとアイスライムの粘液が使われている」

「だが、この特殊氷嚢はアイスライムの変異体から採取された粘液だ」

「普通のアイスライムじゃない、わざわざ変異体ってつくくらいだから分かるだろう?その効果は通常のアイスライム粘液を使った上等な氷嚢の10倍以上は軽く超える」

「……10倍以上!……って、それ、すごい、の?」


 店主の物々しい表情と10倍というその数字に、ライトは一瞬驚愕した。

 だが、数字だけすごくても具体的な事例や比較対象話などがないと、どこがどうすごいのか今ひとつピンと来ないのも無理はない。


「おう、そりゃすげーぞ!一度完全に凍らせたら、何もしなくてもその冷たさが最低でも三ヶ月以上は保つんだ」

「ここツェリザークなら余裕で半年以上は保つし、俺の知り合いがラグナロッツァまで行くってんで試しに持たせていったら、ななな何と!」

「「何と!?」」

「あのノーヴェ砂漠を通る最中ですら、完全に溶けきることなくラグナロッツァまで冷たさを保ったそうだ!」

「「何ソレすごい!!」」


 店主の話にフェネセンも俄然興味が湧いたらしく、いつの間にかライトの真横にぴったりとくっついて店主の話を食いつき気味に聞いていた。

 話の中に『アイスライムの粘液』だの『変異体』だの、大魔導師の感性を甚く刺激するようなパワーワードが出てきたせいだろうか?

 兎にも角にもフェネセンはその目をキラッキラに輝かせて、世にも珍しいという特殊な氷嚢のこと興奮気味に聞いていた。


「ライトきゅん!吾輩、その珍しい氷嚢欲しい!絶対に欲しいッ!」

「そうだねぇ。フェネぴょんは大魔導師だから、そういうの絶対に大好物だよねぇ」

「うん!すんげー大好物!いろいろ実験してみたーい!」


 フェネセンは猛烈かつ熱烈なまでに、その珍しい氷嚢が欲しいようだ。

 確かに店主が語るその性能―――かの灼熱のノーヴェ砂漠ですら溶けることなく冷気を保ち続けたという話が本当ならば、それはとんでもなく珍しい逸品であることは間違いない。

 ライトは少し考え、店主に改めて問うた。


「ねぇねぇおじさん、そのアイスライム変異体の粘液の氷嚢ってひとつしかないの?」

「ああ、俺が持ってるのはひとつだけだが、中身を二つに分けてもそこそこ効果はあると思うぞ?」

「そっかぁ、ひとつだけかぁ……うーん、できればレオ兄ちゃんにもお土産に欲しいところだけど……」

「それなら、もしかしたら大通りにある『ルティエンス商会』にも売ってるかもしれんぞ?」

「ホント!?」


 ライトは店主から聞いた貴重な情報に、パアッ、と顔を輝かせた。


「おじさん、ありがとう!そしたらさっきの話通りここにある氷蟹、85000Gで全部ちょうだい!あと、オマケの氷嚢もね!」

「おう、毎度あり!……って、どうやって持ち帰るんだ?」

「あ、それはこのフェネぴょんが持ってってくれるから大丈夫!」


 ライトと氷蟹売りの店主の商談は、見事綺麗にまとまった。

 こんなに大量の氷蟹、買ってくれたはいいがどうやって持ち帰るのかさっぱり分からない店主が不思議そうに尋ねる。

 その店主の疑問は、目の前にいたフェネセンによってすぐに解消されることになる。


「はいはーい、おじさーん、氷蟹を全部吾輩の空間魔法陣に入れてー♪」

「うおっ!お前さん、空間魔法陣持ちなのか!こりゃすげぇや、俺空間魔法陣なんて初めて見たわ!」

「さっきのあのオマケの氷嚢、絶ッ対に入れてね!つか、今すぐ入れてねッ!」

「お、おう、分かってるさ。ほらよ!」


 フェネセンはご機嫌になりながらも、最も欲しいオマケの特殊氷嚢が入れ忘れられないようにしっかりと目を光らせながら釘を刺す。

 そのあまりにも強い期待の込められた圧とギラつく眼差しに、氷蟹売りの店主の顔は若干ビビりながらも健気に応え、その大きなオマケをフェネセンに手渡した。


「ライトきゅん、おじさん、ありがッとーう♪吾輩、すんげー嬉しいー♪」

「……って、吾輩が独り占めしちゃって、ごめんね?」


 思いがけず珍しい品を手に入れることのできたフェネセン、特殊氷嚢に頬ずりしながら高速でクネクネしながら全身で喜びを表す。

 いつものように喜びの舞で文字通り舞い上がっていたフェネセンだったが、はたと止まりライトの方に身体を向き直し申し訳なさそうな顔になる。

 この、世にも珍しい特殊氷嚢という激レア品を自分が独り占めしてしまったことに、ようやく気がついたらしい。


「ううん、いいよ、気にしないで。それと同じものがルティエンス商会ってところで売ってるかもしれないって、店主さんも言ってたし」

「じゃあさ、じゃあさ、今すぐそのルティ何とかってお店に行こう!」

「うん、でも……」

「ン?ライトきゅん、どしたの?」


 急に立ち止まり、俯いて黙り込んでしまったライト。フェネセンは、そんな様子のライトを心配そうに覗き込む。


「さっきの氷蟹の買い占めで、今日のお土産代ほぼ使い切っちゃった……」

「ルティエンス商会の特殊氷嚢がいくらするか分かんないけど、多分もう手持ちのお金じゃ絶対に足りないと思う……」

「だから、また次にツェリザークに来た時に見に行こうかなー、と思……」

「ダメッ!!」


 そう、よくよく考えたら先程の氷蟹の買い占めで85000G、その前にアイギス三姉妹向けに購入した狗狼の毛皮と凍砕蟲の織物生地で15000G、計10万Gを既に使ってしまっている。

 その他にも、ラウル向けの細々とした調味料等をいくつか買っており、ライトがレオニスからもらってあった小遣いはそろそろ本当に底を尽きそうだった。

 それが分かっていたから、ライトはもう今日の買い物は終わり、と諦めたのだ。


 その諦めかけたライトの消え入りそうな声を、フェネセンが大きな声で遮る。

 その剣幕にびっくりしたライト、何事かとフェネセンの顔を見つめた。


「もともとは吾輩が我儘言って特殊氷嚢込みで氷蟹買ってもらったのに、吾輩だけが得をしてライトきゅんが我慢しなきゃならないだなんて、そんなの絶対に吾輩が許さない!」

「さっき買った氷蟹はラウルっち師匠へのお土産なんだから、吾輩も半分費用出すの!それが当然なの!だって吾輩、ラウルっち師匠の料理の弟子なんだから!」

「そうすれば、もしルティ何とかってお店に同じものがあったら買えるんだから!」


 ライトの顔面から数cmという至近距離まで顔をズイッ、と近づけて力説するフェネセン。


「(……Σハッ!)もしとんでもないお値段だったらアレだけど……ン、いや、そこは吾輩の邪龍の残穢討伐報奨金収入があるし!」

「(……Σハッ!)そもそもそのお店で売ってなかったら……ン、いや、そこはおじさんが言ったように二つに分ければええやろがえ!」


 ところどころで『もし超高額商品だったら?』とか『そもそも売ってなかったら?』などの疑問点が湧いては、都度セルフツッコミで解決するという達人技まで披露しているが。


「とにかく!そのルティ何とかってお店に行くの!そして絶対にライトきゅんも特殊氷嚢を買うの!」

「わわっ!ちょ、フェネぴょん、待って、そんな引っ張らなくても行くから!」


 フェネセンはライトの手をむんず!と掴み、ルティエンス商会があるという大通りに向かって歩き出す。

 ライトはフェネセンに引っ張られて転びそうになりながら、懸命についていく。

 そんな二人の後ろ姿を、微笑ましく眺めながらライトの少し後ろをゆっくりとついていくクレアとクレハとクー太であった。

―――フェネセンが氷蟹を空間魔法陣に仕舞っている間の、ライトと店主の会話―――


ラ「おじさん、そんな珍しいものをオマケにつけてもらっちゃっていいの?」

店「ああ、大丈夫だ。もともと誰も使わないもんだったしな」

ラ「使わないの?どうして?」

店「ツェリザークは寒冷地だしな。夏でも涼しくて普通の氷嚢で足りるし、そもそも氷嚢自体が他所の土地じゃ使えねぇし」

店「ぶっちゃけ売りたくても売れねぇんだよ、誰も要らんからな!ガハハハハ!」

ラ「そうなのね……」

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