第1438話 ウィカの妙案
目覚めの湖の小島に、ライト達が全員降り立った。
クロエは初めて見る大きな湖、そしてその中にぽっかりと浮かぶ小島がとても珍しいようで、ずっとキョロキョロと見回している。
そんな中、ライトが湖面に向かって声をかけた。
「水の女王様ー、アクアー、ウィカー、イードー、こーーーんにーーーちはーーー!ぼくだよー、ライトだよーーー!」
「今日はたくさんの友達と遊びにきたんだーーー!」
ライトが大きな声で話しかけている間に、ふと小島から少し離れた湖面がゆらゆらと波打ったかと思うと、水の女王達が勢いよく飛び出してきた。
水の女王、アクア、ウィカ、イード、勢揃いでのお出ましである。
『ヤッホー♪ えー、何ナニー、ホントにたくさんいるわねー?』
『皆、久しぶりだね』
『あ、八咫烏のお母さん達だー。おひさー☆』
『呼ばれて飛び出てジャンジャカジャーン☆』
湖面から現れた、目覚めの湖の愉快な仲間達。
皆それぞれに挨拶をしながら、スススー……とライト達のもとに近寄ってきた。
そして、会いに来た面々がいつもとはかなり違うことに真っ先に気づいたのは、アクアと水の女王だった。
『ン? そこにいる、蛇の女の子は……』
『ン? 何か、属性のお姉ちゃんの気配がする……?』
アクアはクロエのことをじっと見つめ、水の女王は己の姉妹の気配を察知するも姿が見えないので、不思議そうな顔でずっと周囲をキョロキョロと見回している。
そんな彼ら彼女らのために、ライトとレオニスが早速解説を始めた。
「あ、アクアならすぐ分かっちゃった? この子はね、ココという名前でね、暗黒神殿の守護神だよ!」
『やっぱり!そんな気がしてたんだ!』
「おお、水の女王も何気に感覚鋭いな? 今俺が着けているこのブローチ、黒水晶の中に闇の女王が入ってるんだ」
『え!? この黒い石の中に闇のお姉ちゃんがいるの!?』
ライトとレオニスの話に、アクアと水の女王の顔が驚きに満ちる。
アクアは早速クロエの前に立ち、水の女王はレオニスの真ん前にスススー……と近寄った。
『初めまして、こんにちは。僕は水神アープのアクア、君と同じで湖底神殿守護神をしてるんだ』
『初めまして!私はノワール・メデューサのココ、暗黒の洞窟にある暗黒神殿の守護神よ!』
『ココちゃんか、可愛いお名前だね』
『ありがとう!アクア君のお名前も、とっても素敵よ!』
『フフフ、ありがとう。僕の名前はね、ライト君がつけてくれたんだ』
『そうなんだ!私のココって愛称も、ライトお兄ちゃんがつけてくれたのよ♪』
アクアとクロエ、神殿守護神同士が和やかに自己紹介等会話を交わしている。
その横で、水の女王はレオニスが着けている黒水晶のブローチに向かって声をかけていた。
『闇のお姉ちゃん、そこにいるの?』
『ああ。水の女王とは初めて会うな』
『ホントね!闇のお姉ちゃんが私達に会いに来てくれるなんて、すっごく嬉しいわ!』
『吾もだ。思いがけず其の方と会えて、吾も嬉しいぞ』
水の女王がレオニスの胸元についているブローチの10cm前まで顔を近づけて、闇の女王に話しかけている。
『闇のお姉ちゃん、今日はどうしてこの目覚めの湖に来てくれたの? ライト達のオススメ?』
『それもあるが、実は今日はココ様の初めてのお出かけでな。その付き添いとして吾もついてきたのだ』
『ココ様って、あの蛇の女の子よね? あの子が闇のお姉ちゃんのところの神殿守護神なのね』
『そう。ココ様はノワール・メデューサという種族で、吾が暗黒神殿の守護神であらせられる』
『今はうちのアクア様とお話し中だから、後でまたちゃんとご挨拶させていただくわね!』
『うむ、吾も其の方のアクア様に後ほどご挨拶させていただこう』
今日の来訪目的を尋ねた水の女王に、闇の女王も素直に答えている。
彼女達属性の女王にとって、神殿守護神はなくてはならぬ相棒的な存在。
姉妹ももちろん大事だが、姉妹が大事に思う相棒のことも無条件で尊重するのだ。
そしてここで、水の女王が少しだけ不安そうな顔で闇の女王に問うた。
『てゆか、今は夜じゃなくて普通に朝だけど……闇のお姉ちゃん、夜以外にお出かけして大丈夫なの?』
『うむ、大丈夫じゃないからこうして黒水晶の中に入っておる』
『だよねー』
水の女王の不安、それは『闇のお姉ちゃん、こんな真っ昼間に外に出ていいの?』ということ。
事実闇の女王が存在できるのは闇の中であり、百歩譲っても何かの影にいなければその存在は保てない。
しかしここは、遮るもの一つない小島のど真ん中。
木陰の一つさえないこの場所にいて何事もないはずがないのだ。
闇の女王の身を案じる水の女王に、闇の女王が申し訳なさそうに話しかける。
『顔も見せずに石の中から話すだけで、申し訳ないとは思うのだがな』
『ううん、それは大丈夫よ? だって闇のお姉ちゃんの身体の無事が最優先だもの。でも……闇のお姉ちゃんのお顔を見れないのは、正直とても残念ね……』
謝る闇の女王に、水の女王もしょんぼりとしている。
こうして姉妹同士会えたのは嬉しいことだが、闇の女王からは水の女王の顔が見えるのに水の女王は闇の女王の顔が見れていない。
これでは会えた感動も半減するというものである。
するとここで、それまでずっと水の女王の足元で話を聞いていたウィカが、水の女王の肩にちょこん☆と飛び乗りながら話しかけた。
『ねぇねぇ、水の女王ちゃん。そしたらさ、皆で湖底神殿に移動するのはどうかな?』
『湖底神殿? ……それ、いいわね!湖底神殿なら陽の光もあまり届かなくて暗いから、闇のお姉ちゃんでも石の外に出てこれるわよね!』
『そゆこと☆』
『ウィカちー、頭いーい!』
『ぃゃぁ、それ程でもあるかな?』
ウィカの妙案に、水の女王が大絶賛しつつ頷く。
水の女王からベタ褒めされて、ウィカもまんざらではなさそうにしている。
そうと決まれば善は急げ。水の女王が破顔しつつ、アクアやライト達に声をかけた。
『ねぇ、そしたら今から皆で湖底神殿に行きましょ!』
「あ、そしたら水の女王様、ココちゃんとマキシ君のお母さん達に加護を与えてあげてくれませんか? でないと皆、水の中までついていくのは無理なので……」
『マキシのお母さん達? あ、そこにいる八咫烏ちゃん達のことね!いいわよー、皆でいっしょに湖底神殿に行きましょ!……あ、せっかくだからココ様にはアクア様からご加護をいただいた方がいいと思うわ。神殿守護神同士、仲良くしてくださるのが一番だものね!』
「そうですね。アクア、ココちゃんに加護を与えてあげてくれる?」
『はーい』
ライトが咄嗟に出した要望に、水の女王とアクアが快く応じる。
マキシも既に目覚めの湖の愉快な仲間達と懇意にしているので、その家族なら信に足る者だと分かっているのだ。
まず水の女王が八咫烏母娘達のもとに行き、八咫烏達の頬や頭を優しく撫で撫でする。
他愛ない仕草だが、これで水の女王の加護が八咫烏母娘達に付与された。
目には見えない大きな力を授けられたことに、アラエル達が「私達にも、このような御力を授けていただけるなんて……」「水の女王様、ありがとうございます!」「この御恩、いつか必ずお返しいたします!」「水の女王ちゃん、本当にありがとう!」等々、それぞれ礼を言っていた。
そしてアクアの方も、それまで仲良く話していたクロエの額に右前肢をそっと添えて加護を与えた。
こうして準備万端整ったところで、水の女王がご機嫌な様子で気勢を上げる。
『よーし!じゃあ今から皆で湖底神殿に行きましょーーー!』
「「「おーーー!」」」
『水の中を泳いでもいいし、イーちゃんやアクア様の背中に乗せてもらってもいいからねー♪』
「はーい!」
ノリノリで陣頭指揮を取る水の女王に、ライト達もニコニコ笑顔で従う。
アクアの背にはライトと水の女王、ウィカ、そしてクロエが乗り、イードには五羽の八咫烏が乗り込んだ。
八咫烏達には、アクアの背に乗るのは畏れ多くてとても無理!ということのようだ。
ちなみにラーデはクロエがずっと抱っこしたままである。
そうしてライト達一行は、親睦を深めるための場所を変えるべく水の中に飛び込み、湖底神殿に向かっていった。
うひょーん、今日も0時過ぎてしまいましたー><
ここ最近特に冷え込んでて、どーーーしてもコタツで寝てしまう……身体には良くないって分かってるんですけどねぇ、暖房費節約にはコタツは欠かせないマストアイテムですしおすし。
この悪循環を何とかして改善せねば_| ̄|●
さて作中では、クロエと闇の女王を連れたライト達と目覚めの湖の愉快な仲間達のご対面です。
本当はそのまま小島で親睦を深めてもよかったんですが。やはり闇の女王本体と直接会えないのは、水の女王にとっても寂しいだろうなぁ……と作者は思うのですよ。
なので、対談場所を湖底神殿に移動することに。
湖底神殿は滅多に出てこないというか、大昔の第439話でレオニス達が訪問して以来、超絶久しぶりの登場かも?
まぁね、いつもは湖中央の小島でお茶会とかピクニックしてますからね。普段のお茶会でわざわざ湖底神殿まで行く理由がないので、滅多に出番がないのも仕方がないのですが。




