第1421話 旅行中の行動と打ち合わせ
ティファレトの貸し切りコテージの庭で、夜のバーベキューを楽しむライト達。
バーベキューができる庭には、夜でもバーベキューを使用できるように魔石ランタンがつけられた柱が何本もあって、ランタンのほんのりとした柔らかな光が辺りを心地良く照らす。
バーベキューコンロの上には、レオニスが購入した虹マス丸ごと一尾を中心として、ラウルがラグナロッツァの屋敷のガラス温室で育てた各種野菜、同じくラウルが各地で買い集めたパイア肉やペリュトン肉、エヴィパ肉などが所狭しと並べられている。
焼き上がった食材を、各々トングで取っては取皿に乗せて頬張る。
「ンーッ!このお肉、美味しーい!ラウルさん、これは何のお肉?」
「これはエヴィパ肉、エヴィルヴァイパーという蛇型魔物から取れる肉で、ケセドの名産品なんだ」
「蛇のお肉なの!? ラグナロッツァでは絶対に食べられないわね!」
「この玉ねぎやピーマンも、すっごく美味しい!これも何か秘訣があるの?」
「これはうちの屋敷のガラス温室で育てたんだ。氷蟹や砂漠蟹の殻を砕いて焼いたものを肥料にしたり、水遣りにエクスポーションやアークエーテルを混ぜたりもしている」
「まぁ、そんなに手間暇をかけて育てたお野菜なのね……道理で美味しい訳だわ」
虹マス以外の食材を提供したラウルが、アイギス三姉妹に囲まれてモテモテである。
ライト達は普段からラウルが作った野菜を食べているが、アイギス三姉妹はこれが初めてのこと。その美味しさに目を見張るのも当然である。
一方ライト達も、野外で食べるバーベキューの美味しさに舌鼓を打っていた。
「アラエルさん、ムニンさん、トリスさん、ミサキちゃん、お腹いっぱい食べてくださいね!」
「ありがとう。どれも八咫烏の里ではお目にかかれない、美味しいものばかりね」
「野菜というのは生でそのまま食べるだけでなく、焼くことでまた新たな美味しさに発展するのですね!」
「さすがに森の中で火を使うのは怖過ぎるし、シア様も怖がられるだろうから絶対にできないけど……人里にいる間だけのご馳走と思って、たくさん食べておかなきゃ!」
「ラウルちゃんの作るお野菜、全部美味ちいー」
十分に焼けた野菜や肉を、主にライトやマキシが懸命に八咫烏達の皿に移してあげている。
さすがに焼き立て熱々は食べられないが、皿の上である程度冷めてぬるいくらいになってから、皆器用に嘴で摘んでヒョイパク、ヒョイパク、とモリモリ食べている。
そうしてある程度皆のお腹が膨れてきたところで、レオニスがカイに話しかけた。
「そういやカイ姉達は、明日明後日はどうするんだ? どこか出かけたりする予定とかあるのか?」
「特には決めてないわ。二日のうち一日はずっとコテージでのんびり過ごして、もう一日はティファレトの街をぶらぶらと歩きたいな、とは思ってるけど。そういうレオ兄ちゃん達は、このティファレトでどこか行きたいところはあるの?」
「ンー、ホントはティファレト遺跡を見に行くつもりだったんだが……少し前に遺跡内部に異変が起きたそうでな、今は立入禁止で中に入れないんだよな」
「え"ッ!? そうなの!?」
レオニスとカイの会話に、何故かライトがびっくりしている。
というのも、ライトはこのティファレト旅行でティファレト遺跡を見に行く気満々だったのだ。
あからさまにしょんぼりとするライトに、レオニスが声をかける。
「そうしょげるなって。ティファレト遺跡は今年の夏か秋に再調査が行われるんだと。それが終われば、また遺跡の一般公開もされるだろうから、それまでの辛抱だ」
「うん……ホントは夏休み中に見に行きたかったんだけど……立入禁止じゃ仕方ないよね……」
「…………」
レオニスの励ましもあまり効かず、意気消沈するライト。
そんなライトの落ち込みように居た堪れなくなったのか、再びレオニスが話しかける。
「ぁー、それでも立入禁止なのは遺跡の中だけで、外から見る分には今も普通に見れるらしいぞ?」
「え!? それ、ホント!?」
「ああ、ホントだとも。ティファレト支部の受付のクレネに聞いたから、間違いない」
「クレネ……もしかして、それ、クレアさんの妹!?」
「そそそ、十二姉妹の六番目な」
外からなら遺跡を見れるという情報に、俯いていたライトの顔がガバッ!と上を向いた。
さらには『ティファレト支部の受付嬢はクレア十二姉妹の一人、クレネ』という初耳情報を得たライトの目がますます輝く。
「レオ兄ちゃん!ぼくもクレネさんに会いたい!」
「ぁー、そういやライトはクレア達のことが大好きだったな……」
「うん!ティファレト遺跡の中を見れないなら、せめてクレネさんに会いたい!」
「そしたら、ティファレト支部に顔を出すか?」
「うん!!」
キラッキラに輝く顔でレオニスを見上げるライトに、レオニスが苦笑いしている。
レオニスにとってクレア十二姉妹は、仕事上切っても切れない腐れ縁的な間柄だが、ライトにとっては違う。
前世時代から大好きだったゲームキャラだけに、それはまるでアイドルか世界的大スターの如き尊い存在なのだ。
ライトの機嫌が直り、安心したレオニスが今度はラウルに声をかける。
「ラウル、お前はどこか行きたいところはあるか?」
「そうだな……虹マスやそれ以外の物を買える市場に行きたいかな」
「ぁー、お前もご当地グルメには目がないもんな」
「そゆこと」
ラウルの即答に、レオニスも頷きつつ納得している。
ラウルは初めて立ち寄る街では、必ずその地の特産品を買い漁るのが常となっている。
ラグナロッツァでは買えない様々な食べ物や飲み物、調味料などを探して買うのがラウルの楽しみの一つなのだ。
「よし、そしたらカイ姉達が出かけない日には、俺達は冒険者ギルドのティファレト支部や遺跡の外を観てくるか。で、カイ姉達が街を散策する時には俺達も同行しよう」
「分かったわ。なら、ティファレト散策は明日皆で行きましょうか。そして明後日の最終日は、私達はコテージで一日中のんびり過ごしながらアラエルさん達の人化の術の修行のお手伝いをするわ」
レオニスの提案に、カイも微笑みながら承諾する。
今回の温泉旅行は、いつもの旅行とは訳が違う。アラエル達に人族の女性の裸をつぶさに観察させて、彼女達の人化の術をより完璧なものにする、という大きな目的があるのだ。
カイの心遣いに、アラエル達八咫烏女性陣が改めて礼を言う。
「カイさん、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます!」」」
「うふふ、そんな畏まらないで? 私達は皆と旅行できてとても嬉しいし、アラエルさん達のお洋服のフィッティングや着せ替えだってとても楽しみにしてるんだから」
「ええ!そのために、レオには昨日のうちにたくさんの服を預かってもらってあるものね!」
「四人の美女をより美しく、凛々しく、そして可愛らしく着付けるお手伝いができるなんて、これ以上の楽しみなんてないわ!」
カイの言葉に、セイとメイも大いに賛同している。
今回カイ達の荷物はほぼ手ぶらだが、それは既にまとめてあった荷物を前の日の晩にレオニスに預けていたからだ。
しかもレオニスに預けたのは旅行の荷物だけでなく、大量の女物の衣服もあった。
それは売り物私物問わず、三姉妹が持っているほぼ全ての衣服。
それらは全てこの旅行中に泊まるコテージで、アラエル達四羽に着せるためのものである。
その数何と百着は優に超える。
しかし、レオニスがそれを厭うことなどない。
荷物持ち程度でカイ達が喜んでくれるなら、むしろいくらでも荷物を預かるだろう。
そうして皆満腹になったところで、レオニスがラウルに声をかけた。
「バーベキューも存分に楽しんだことだし、そろそろ片付けるか」
「そうだな。コンロの上にまだ残っているやつは、ご主人様が全部片付けてくれ」
「おう、任せとけ」
阿吽の呼吸でバーベキューの片付けを始めるレオニスとラウル。
ラウルがまだバーベキューコンロの上にある野菜や肉を一つの皿にまとめ、その皿をレオニスに渡す。
レオニスがガツガツと食べている間に、ラウルは未使用の食材をパパッと空間魔法陣に仕舞い、全員が使った皿や箸などの食器類もまとめて空間魔法陣に放り込む。
「ラウルさん、私もお片付けを手伝うわよ…………って、あら、もう片付いちゃったわね…………」
「この旅行中、カイさん達は何一つ働かなくていいぞ。そのためのバカンス旅行なんだからな」
「キャーーー!ラウルさんってば、ホント素敵ーーー!」
「レオんちの執事じゃなければ、絶対にうちに引き抜くのにーーー!」
カイがラウルの手伝いをしようとするも、言い終わる頃には全てラウルが片付け終えてしまっていた。
片付けの所要時間一分未満、さすがは万能執事である。
そして、アイギス三姉妹に対し下にも置かない恭しい態度で接するラウルに、セイとメイが思わず黄色い声を上げていた。
このモテ男ぶりに、ライト達もくすくすと笑う。
「ラウルは今日もモテモテだねぇ」
「お褒めに与り光栄だ」
「さ、そしたら中で少し一休みしてから風呂に行くか。ラウル、皆の分のタオルをよろしくな」
「了解」
旅先での楽しい晩餐を終えて、ライト達はコテージの中に入っていった。
拙作の誕生日祝いのSSも無事に終わり、今日からまた本編に戻りました。
というか、ここ数日SSを書き上げるのに必死過ぎて、本編がどこら辺で何を書いていたか半分忘れかけていたことはナイショの秘密( ̄m ̄)
作者は温泉旅行は年に一回行くか行かないかの頻度ですが、やはり旅先でのお風呂ってのは格別ですよねぇ( ´ω` )
一方で、地震が多い国は温泉も多い、という話をよく聞きますが。あれってどうなんでしょうね?(゜ω゜)
ggrksすると、火山活動とかプレートの断層がどうとか小難しいことが書いてあって、作者の貧弱な頭では理解しきれんのですが。
地震はともかく、せっかく温泉に恵まれた国に生まれたならば、その恩恵を存分に受けて楽しまなければもったいないですよね!(`・ω・´)




